第8話「異世界でボーカリストをスカウトする方法」
異世界でアイドルのプロデュースをすることになった枡戸匠悟は、作曲家のエルフ、ソフィアをレオナに紹介される。だが彼女は作曲を引き受ける代わりに、匠悟に難易度鬼レベルの条件を突き付けてきたのだった……!
「じょ、条件とは……?」
俺がおそるおそるソフィアに尋ねると、
彼女は真剣な眼差しで俺を見つめて言う。
「私の曲は最高の歌い手に歌ってほしい……それが絶対条件よ」
「……!」
ソフィアの視線に、有無を言わさぬ気迫を感じた。
すると、それをとなりで聞いていたレオナが言う。
「あ、歌なら私が……」
「わー!わー!わー!!」
俺は、あわててレオナのセリフをさえぎったが、
ソフィアは俺をにらみつけた。
「……冗談でしょ?」
「えっと、いや、その……」
「私は幼少時から知っているけど、こいつの歌は……地獄」
「ちょ、ちょっと向こうで二人きりで話しましょう!」
キョトン?としているレオナを残して、
おれはソフィアと一緒に、部屋の隅に移動した。
俺はレオナに聞こえないボリュームでソフィアに言う。
「……レオナさんが地獄レベルの音痴であることは承知しております」
「なら一体、どういうこと? あなた私の曲を台無しにするつもり?」
「これにはちょっと事情がありまして」
俺は、レオナをメンバーに入れた事情を説明した。
彼女がすでに兵隊を持っていること。
軍を率いているのでリーダーとして最適なこと。
そして、セキュリティのコストがかからないこと。
などなど。
歌以外のあらゆるメリットをプレゼンしてみた。
だが、当然ながらソフィアはまったく納得いかない様子だ。
「そんな事情、私は知ったこっちゃないわ!」
「ですよね……」
「とにかく、あのクソ音痴のレオナに歌わせるのだけは……!」
「ちょ! 声が大きいですってっ!」
すると突如、レオナが背後から俺に声をかけた。
「……なあ、ちょっといいか?」
「!?」
俺があわてて振り向くと、
レオナは申し訳なさそうな顔で言う。
「すまん、私は……ちょっと抜けるわ」
「ええっ!? 『抜ける』!?」
しまった! ……さっきまでの話を聞かれてしまったか。
まずい。客を持っている彼女に抜けられるのはプロデューサーとして困る!
俺は焦って説得する。
「ま、待って! アイドルのメンバーには君が必要なんだ」
「だけど……」
「大丈夫! もっと練習すればレオナの歌だって……!」
「え?……私の歌がなんだって?」
「……あれ?」
ん?何だこの反応……俺とソフィアの話を聞いてたんじゃなかったのか?
レオナの話をよくよく聞いてみると違っていた。
「実は、町で大声で騒いでいるやつがいるらしくて。さっき部下が知らせに来たんだ。だから、今から町へ行こうと思って……」
なんだ。メンバーじゃなくてこの場を抜けたいってことだったのか。
俺たちの話も聞かれてなかったようで、よかった……。
「そういうことなら、遠慮せず行ってきて!!」
「そうか、悪いな!」
そう言って、レオナはソフィアの家を出ようとしたが、
出る直前にふと思い出したように、俺の方を振り返って尋ねる。
「……ところで、さっき私の歌がなんとかって……?」
「いや、気にしないで! 行ってらっしゃーい!!」
俺が笑顔で手を振ると、レオナは出て行った。
ふう。……やれやれ。危うく組織票を失うところだった。
だが安堵している俺を、ソフィアが冷ややかな目で見ていた。
「……誰にでもいい顔をするのね?」
「皆に笑顔になってもらうのがプロデューサーの仕事ですから」
「今の私、笑顔に見える?」
「今は見えませんが、いつかきっとあなたも笑顔にしてみせます」
「……『いつかきっと』ねえ」
ソフィアは呆れたように俺に尋ねた。
「レオナの歌も練習すれば『いつかきっと』、うまくなるって本気で思う?」
「まあ、時間はかかるでしょうけど……」
「そうね。私が曲を書いてもいいって思えるくらいになるには、百年くらいかかりそう」
「そ、そんなに待てません!!」
「だったら。他の歌い手を見つけて連れてきて。今日中に」
「きょ、今日中うう?!」
「それも神レベルの歌い手よ。でなきゃ私の曲はあきらめて」
「わ、わかりました! 探してきます!!」
と、勢いで言ってソフィアの家を後にし、
町に来たものの……。
―――数時間後。
俺は、町の隅の公園のベンチに座って頭を抱えることになった。
……無理だ。見つかるわけがない。
そりゃそうだ。俺みたいな怪しげな男が突然、街行く人に
「すいません、ちょっと歌ってもらっていいですか?」
なんて声かけて、立ち止まってくれるわけがない。
たとえ、歌ってくれる奇特な人がいたとしても、
その人の歌が神レベルにうまい可能性がどのくらいあるだろうか。
そもそも現実世界ならまだしも、異世界で天才ボーカリストを
スカウトするなんて難易度が高すぎる。
もう日が暮れかかっている。なんとか今日中に探さないと……!
……これまでプロデューサーとして数々の苦難を乗り越えてはきたが。
これは俺史上最大のピンチかもしれない。
―――ソフィアの提示した期限まで、残り、数時間!
【登場人物】
枡戸匠悟
この物語の主人公。地下アイドルのプロデューサーだったが異世界に転移した。
レオナ・グランツ
リーダー気質の女騎士。だが壊滅的な音痴。
ソフィア・フォレ
作曲家のエルフ。レオナの幼馴染で気難しい。