第6話「一人目は斬りこみ隊長」
地下アイドルのプロデュースをしていた須郷祥真は、初のワンマンライブ直前にトラブル続きのストレスで気絶し、目覚めると異世界の王国にいた。魔界との戦争のさなかにあった王国で、何の役にもたたない須郷は追放されそうになるが……。果たして須郷は、唯一のスキル、アイドルプロデュースを使って、王国に勝利をもたらすことができるのか……!?
レオナは妙にキラキラした目で俺を見ている。
「さっきのお前の話を聞いて思ったのだ。兵たちの力になれるのであれば……私もその『アイドル』という軍団に入りたいと!」
「いや、あのぐ、軍団って……」
「そしてできれば、この私を隊長に! 斬り込み隊長にしてくれ!」
「ちょ、ちょっと待って……!」
勢い込んで言うレオナを俺は制止した。
「勘違いしているみたいだけど、『アイドル』てのは別に、敵と戦うわけではなくて、歌やダンスを見せるんであって……」
「ああ、それはさっきの話でだいたいわかった。任せろ。歌なら得意だ」
レオナは笑顔でそう答えたが、俺は疑いの目を向ける。
「……本当に?」
「疑うのなら、一曲ここで披露してやろう。我が王国軍の軍歌だ」
レオナはそう言うと咳ばらいをひとつしてから、歌い始めた。
「♪すすめ~ おうこくの~ つわ~もの~どもよ~おおお♪」
こ、これは……!?
レオナの歌を聞いて、俺は衝撃をうけた。
……ひどい!
……音痴にもほどがある!!
音を外しすぎてて、もはや原型の曲がわからん!!
ずっと聞いていると、なんだか目が回ってくる。
うう。酔いそうだ。気持ち悪い……。
ようやく曲が終わるころには俺は倒れる寸前だった。
歌い終わって、レオナは満足げな笑顔を見せた。
「どうだ? 私の歌は!?」
信じられないことに彼女は自信満々だった。
吐き気のせいで返事ができなかった俺の代わりに、
レオナの部下の兵士たちが拍手喝采する。
「さすが隊長! 剣だけでなく歌もうまいとは!」
「聞きほれましたよ!!」
「いやー、それほどでも!!」
部下の兵士たちにほめ称えられて、
レオナは嬉しそうに頭をかいている。
俺は青ざめた顔でその様子を見た。
……いやいや、ウソだろ。
オーディションなら即落ちだぞ。
こいつら、レオナが上官だから気を使っているのか、
そもそも歌のウマいヘタの区別がつかないのか……。
いずれにせよ、今の歌を絶賛できるなんて、
かなりのレオナ推しだな……。
……ん?
そこまで考えてから俺はふと思った。
いや……まてよ。
レオナの部下は、見渡すと20人ほどいた。
他にももっといるかもしれない。
地下アイドルだと、
立ち上げから数十人もファンがいれば上出来だ。
「ノーブル・コンソート」との対バン勝負は観客投票だ。
ならば、最初から組織票があることはかなりありがたい。
それに……。
俺はレオナが、今着ている重そうな鎧ではなく
アイドルの衣裳を着ているところを想像してみた。
……うむ。悪くないかもしれん。
気は強そうだが、美人ではあるし、
プロデュース次第でファンはつきそうだ。
なにより、彼女自身が剣の達人なので、
セキュリティにかかるコストも節約できる……!
すると、俺がレオナを見ながら難しい顔で
脳内のそろばんを弾いていたからか、
レオナが不安げに俺に尋ねる。
「……もしや、私は、不合格なのか?」
「……!?」
レオナだけでなく、レオナの部下たちまで
心配そうに俺の顔をうかがってきた。
俺はハッとして、すぐに笑顔でごまかした。
「あー、いや……じゃ、まあ、合格で!」
俺があわててそう言うと、レオナの顔がパッと明るくなった。
「そうか! やったぞ!!」
レオナがガッツポーズをすると部下たちも歓喜した。
「やりましたね! きっと隊長の歌が認められたんですよ!」
「……えっと。それはどうだろう……ははは」
部下たちの言葉に俺が苦笑いしていると、
レオナは真剣な表情で言った。
「……しかし、剣術と同じく、きっと歌も鍛錬が必要だろう。どんなトレーニングでも頑張るから、大いに鍛えてくれ!」
「……!!」
それを聞いて、少し俺は安堵した。
この熱量でトレーニングすれば、
もしかすると少しは聞ける歌になるかもしれない。
すると、ふと気づいたようにレオナが俺に訊く。
「ところで、ショーマ。お前のねぐらはどこなんだ?」
「ね、ねぐら……?」
そういえば、どこで寝泊まりするのかまで考えてなかった。
夜になるとまたあんなモンスターが現れるんだとしたら、
野宿は無理だ。俺は、事情をレオナに話すと、
レオナはこともなげに言う。
「ならば、しばらくは兵舎で寝泊まりするといい。私の部下たちも異論はないだろう」
「はい! 隊長の歌を認めてくれた方ですから! 大歓迎です!」
それは違うが、ともあれ助かった。
そこで俺はレオナと隊と一緒に兵舎で夜を過ごすことになった。
夜になると酒盛りが始まり、そこでレオナが部下たちに最悪の提案をした。
「では、合格祝いに、もう一曲歌うとするか!」
「よっ!! お願いします隊長!!」
「では、軍歌の二番! ♪ひ~る~むな~ああ すすめ~よ~おお! いさ~ましくううううううう~♪」
俺は疲れたからと、さきにベッドで休むことにした。
だがレオナの歌声は兵舎中に響き渡っている。
……やれやれ。とりあえずメンバーの一人目は決まったものの、
長い戦いになりそうだ。
俺は耳をふさぎ、ぎゅっと目を閉じた。
―――デビューライブまで、あと99日!
登場人物
須郷翔馬
この物語の主人公。地下アイドルのプロデューサーだったが異世界に転移した。
レオナ・グランツ
リーダー気質の女騎士。だが壊滅的な音痴。
アメリア・ヴィルフェルト姫
ヴィルフェルト王国の後継者であり、王国軍の司令官でもある。
セシル・フォン・エルクライン
宮廷声楽舞踏団「ノーブルコンソート」のリーダー。プライドが高い。