第5話「100日後に死ぬかもしれない俺」
地下アイドルのプロデュースをしていた枡戸匠悟は、初のワンマンライブ直前にトラブル続きのストレスで気絶し、目覚めると異世界の王国にいた。魔界との戦争のさなかにあった王国で、何の役にもたたない匠悟は追放されそうになるが……。果たして匠悟は、唯一のスキル、アイドルプロデュースを使って、王国に勝利をもたらすことができるのか……!?
「私たちに……勝てるですって?」
そうつぶやいたセシルの笑顔は引きつっていた。
俺は落ち着いて説明する。
「たしかに『ノーブル・コンソート』のパフォーマンスは、非の打ちどころがありません。ですが、そこが弱点でもあります」
「妙な事を。『非の打ちどころがない』ところが弱点?」
「はい。完成されすぎているというか……」
俺の言葉を聞いて、セシルは驚いたように尋ねる。
「では逆に聞きますが『アイドル』というのは、まだ『完成していないもの』を世に見せるのですか?」
「まさしくその通りです」
「お話になりませんわね」
セシルは呆れたように言った。だが俺は続ける。
「ましてや、あれほどまでに高度な歌やダンスでは、大衆には真似することができません」
「『大衆が真似できない』ですって?」
セシルは鼻で笑って言う。
「真似などされてたまるものですか。人前で歌ってよいのは、才能とチャンスにめぐまれた者だけ。大衆は黙って聞いておけばよいのです」
「『アイドル』は違います」
俺はセシルの言葉を遮って言った。
「『アイドル』は常に、ファンと『ともにあるもの』なのです」
「……?」
俺の言葉が理解できなかったのか、セシルはメンバーと顔を見合わせた。
俺は一呼吸入れてから話す。
「『アイドル』の歌は、誰もが歌えて、踊れて、ともに楽しめるものでなくてはなりません……。歌だけじゃない。彼女達の夢に至る道や逆境でさえも、アイドルはファンとともに歩き、乗り越えていくのです」
それから俺は、姫の後ろにいた騎士たちにも聞こえるように言う。
「きっと皆さんも『ノーブル・コンソート』のパフォーマンスと同じく、常日頃から完璧さを求められ、ミスが許されない世界に生きている……。だからこそ、道につまづき、壁にぶち当たり、それでも夢に向かって頑張ろうとする、『完璧じゃない』彼女達の姿に心を揺さぶられ、応援したくなるはずです」
そう。……かつての俺もそうだった。
俺は、アイドルプロデュースをやる前、ブラック企業のサラリーマンだった時のことを思い出した。姫の背後から、レオナや、騎士たちの熱い眼差しが俺に注がれているのがわかった。逆にセシルは俺から目をそらした。
「……やがて彼女たちの歌声は、戦いに疲れた兵士の癒しや気晴らしだけではなく、いつもそばにいて『ともに戦うものの歌』として、兵士たちの耳に残ることでしょう」
姫が再び俺に好奇心の目を向けているのを感じた。
「それが、私の作ろうとしている『アイドル』です」
「……」
俺が言葉を締めくくると、姫はしばらく無言の間を
挟んでから、いきなり大声で笑い始めた。
「気に入ったぞ! 我が将兵の目の色まで変えるとは」
すると、姫は不敵な笑みを浮かべて言う。
「だが口では何とでも言えるものだ。……私が戦いを好むのは、どちらが正しいかを勝敗で決められる点だ」
それから姫は、俺とセシルの二人に告げる。
「そこで!どちらのパフォーマンスが民の心を捕らえられるのか。そなたたち二人で勝負をするがよい」
「ええっ!?」
驚く俺を無視して、姫は続ける。
「勝負は今日から100日後―――。この城の広場で、演奏会を行え。勝敗はその時の聴衆の投票で決める。勝った方には褒美を授けるが、負けた方は国外追放。どうかな?」
「望むところですわ」
セシルは余裕の笑みでそう答えたが、俺は焦った。
「ま、待ってください! まだこっちはメンバーもこれから集めるので……」
俺は慌てて言ったが、
姫は俺をにらみつけ、低い声で告げる。
「……勝負から逃げる気なら、今ここで追放だ」
姫の気迫に俺は冷汗をかいた。
「……わ……わかりました」
「では、二人とも。楽しみにしておるぞ」
そう言うと姫はマントを翻し、
側近たちに囲まれて奥の部屋に消えた。
「……本当に楽しみだわ」
姫が去ってからセシルは俺の方を振り返って、
ニヤリと笑みを浮かべる。
「あなたがブザマに負けて、追放される日が」
捨て台詞を吐くと、セシルも他のメンバーを連れ、
靴の音を響かせて去っていった。
部屋に残された俺は、再び後悔していた。
―――ああ、またやっちまった。
またまた大口をたたいてしまった。
しかも、よりによってデビューライブが
あの最強のグループと対バンとは……!
やばい。すぐにでもメンバーを集めないと……!
俺が焦って城を出ようとした時、
背後から声がした。
「おい!」
「……!?」
声の主はレオナだった。
さっきの俺のスピーチに感化されたのか、
レオナはなにやら熱い眼差しを俺に向けている。
「私を入れろ!!」
「……は?」
「私を入れるんだ!!」
レオナは興奮したように俺に叫んだ。
「あの……ごめんなさい、『入れる』って……何に?」
俺が苦笑いして尋ねると、レオナは鼻息を荒くして言う。
「お前が作る、『アイドル』とかいう軍団に!」
「……ぐ、『軍団』!?」
―――デビューライブまであと100日!
【登場人物】
枡戸匠悟
この物語の主人公。地下アイドルのプロデューサーだったが異世界に転移した。
吉野結月
匠悟のアシスタント。元気だが騒がしい。
レオナ・グランツ
リーダー気質の女騎士。だが壊滅的な音痴。
アメリア・ヴィルフェルト姫。
ヴィルフェルト王国の後継者であり、王国軍の司令官でもある。
セシル・フォン・エルクライン
『ノーブルコンソート』のリーダー。プライドが高く、須郷たちを見下している。