表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/9

第5話「100日後に死ぬかもしれない俺」

地下アイドルのプロデュースをしていた枡戸匠悟ますとしょうごは、初のワンマンライブ直前にトラブル続きのストレスで気絶し、目覚めると異世界の王国にいた。魔界との戦争のさなかにあった王国で、何の役にもたたない匠悟は追放されそうになるが……。果たして匠悟は、唯一のスキル、アイドルプロデュースを使って、王国に勝利をもたらすことができるのか……!?

「私たちに……勝てるですって?」


 そうつぶやいたセシルの笑顔は引きつっていた。

 俺は落ち着いて説明する。


「たしかに『ノーブル・コンソート』のパフォーマンスは、非の打ちどころがありません。ですが、そこが弱点でもあります」

「妙な事を。『非の打ちどころがない』ところが弱点?」

「はい。完成されすぎているというか……」


 俺の言葉を聞いて、セシルは驚いたように尋ねる。


「では逆に聞きますが『アイドル』というのは、まだ『完成していないもの』を世に見せるのですか?」

「まさしくその通りです」

「お話になりませんわね」


 セシルは呆れたように言った。だが俺は続ける。


「ましてや、あれほどまでに高度な歌やダンスでは、大衆には真似することができません」

「『大衆が真似できない』ですって?」


 セシルは鼻で笑って言う。


「真似などされてたまるものですか。人前で歌ってよいのは、才能とチャンスにめぐまれた者だけ。大衆は黙って聞いておけばよいのです」

「『アイドル』は違います」


 俺はセシルの言葉を遮って言った。


「『アイドル』は常に、ファンと『ともにあるもの』なのです」

「……?」


 俺の言葉が理解できなかったのか、セシルはメンバーと顔を見合わせた。

 俺は一呼吸入れてから話す。


「『アイドル』の歌は、誰もが歌えて、踊れて、ともに楽しめるものでなくてはなりません……。歌だけじゃない。彼女達の夢に至る道や逆境でさえも、アイドルはファンとともに歩き、乗り越えていくのです」


 それから俺は、姫の後ろにいた騎士たちにも聞こえるように言う。


「きっと皆さんも『ノーブル・コンソート』のパフォーマンスと同じく、常日頃から完璧さを求められ、ミスが許されない世界に生きている……。だからこそ、道につまづき、壁にぶち当たり、それでも夢に向かって頑張ろうとする、『完璧じゃない』彼女達の姿に心を揺さぶられ、応援したくなるはずです」


 そう。……かつての俺もそうだった。

 俺は、アイドルプロデュースをやる前、ブラック企業のサラリーマンだった時のことを思い出した。姫の背後から、レオナや、騎士たちの熱い眼差しが俺に注がれているのがわかった。逆にセシルは俺から目をそらした。


「……やがて彼女たちの歌声は、戦いに疲れた兵士の癒しや気晴らしだけではなく、いつもそばにいて『ともに戦うものの歌』として、兵士たちの耳に残ることでしょう」


 姫が再び俺に好奇心の目を向けているのを感じた。


「それが、私の作ろうとしている『アイドル』です」

「……」


 俺が言葉を締めくくると、姫はしばらく無言の間を 

 挟んでから、いきなり大声で笑い始めた。


「気に入ったぞ! 我が将兵の目の色まで変えるとは」


 すると、姫は不敵な笑みを浮かべて言う。


「だが口では何とでも言えるものだ。……私が戦いを好むのは、どちらが正しいかを勝敗で決められる点だ」


 それから姫は、俺とセシルの二人に告げる。


「そこで!どちらのパフォーマンスが民の心を捕らえられるのか。そなたたち二人で勝負をするがよい」

「ええっ!?」


 驚く俺を無視して、姫は続ける。


「勝負は今日から100日後―――。この城の広場で、演奏会を行え。勝敗はその時の聴衆の投票で決める。勝った方には褒美を授けるが、負けた方は国外追放。どうかな?」

「望むところですわ」


 セシルは余裕の笑みでそう答えたが、俺は焦った。


「ま、待ってください! まだこっちはメンバーもこれから集めるので……」


 俺は慌てて言ったが、

 姫は俺をにらみつけ、低い声で告げる。


「……勝負から逃げる気なら、今ここで追放だ」


 姫の気迫に俺は冷汗をかいた。


「……わ……わかりました」

「では、二人とも。楽しみにしておるぞ」


 そう言うと姫はマントを翻し、

 側近たちに囲まれて奥の部屋に消えた。


「……本当に楽しみだわ」


 姫が去ってからセシルは俺の方を振り返って、

 ニヤリと笑みを浮かべる。


「あなたがブザマに負けて、追放される日が」


 捨て台詞を吐くと、セシルも他のメンバーを連れ、 

 靴の音を響かせて去っていった。

 部屋に残された俺は、再び後悔していた。

 ―――ああ、またやっちまった。

 またまた大口をたたいてしまった。

 しかも、よりによってデビューライブが

 あの最強のグループと対バンとは……!

 やばい。すぐにでもメンバーを集めないと……!

 俺が焦って城を出ようとした時、

 背後から声がした。


「おい!」

「……!?」


 声の主はレオナだった。

 さっきの俺のスピーチに感化されたのか、

 レオナはなにやら熱い眼差しを俺に向けている。


「私を入れろ!!」

「……は?」

「私を入れるんだ!!」


 レオナは興奮したように俺に叫んだ。


「あの……ごめんなさい、『入れる』って……何に?」


 俺が苦笑いして尋ねると、レオナは鼻息を荒くして言う。


「お前が作る、『アイドル』とかいう軍団に!」

「……ぐ、『軍団』!?」


―――デビューライブまであと100日!

【登場人物】


枡戸匠悟ますとしょうご

この物語の主人公。地下アイドルのプロデューサーだったが異世界に転移した。


吉野結月よしのゆづき

匠悟のアシスタント。元気だが騒がしい。


レオナ・グランツ

リーダー気質の女騎士。だが壊滅的な音痴。


アメリア・ヴィルフェルト姫。

ヴィルフェルト王国の後継者であり、王国軍の司令官でもある。


セシル・フォン・エルクライン

『ノーブルコンソート』のリーダー。プライドが高く、須郷たちを見下している。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ