第4話「いきなり先にライバル様のご登場」
地下アイドルのプロデュースをしていた枡戸匠悟は、初のワンマンライブ直前にトラブル続きのストレスで気絶し、目覚めると異世界の王国にいた。魔界との戦争のさなかにあった王国で、何の役にもたたない匠悟は追放されそうになるが……。果たして匠悟は、唯一のスキル、アイドルプロデュースを使って、王国に勝利をもたらすことができるのか……!?
アイドルについて熱く語った俺に、
アメリア姫も熱い視線を向けている。
……だが、俺は少し後悔していた。
―――やっちまった。悪いクセが出ちまった。
話を盛るのはプロデューサーの職業病みたいなものではあるが、
アイドルのこととなるとつい熱くなって大口をたたいてしまう。
しかし……とりあえず追放は免れそうでよかった。
と、俺が安堵していると、
冷ややかな声が聞こえた。
「おそれながら姫……少しよろしいでしょうか?」
「……?」
声のした方を見ると一人の女性が現れた。
「どうした? セシル」
「先ほどから、この者の話に少し疑問を抱きまして」
そう言って彼女は俺の方を見た。
ショートカットの青い髪、透き通るような肌に、
端正な顔立ち。
「初めまして。セシル・フォン・エルクラインと申します。よろしく」
挨拶は丁寧だったが、なぜか彼女は俺に敵意を含んだ眼差しを送っている。
その理由は、姫からの紹介で何となくわかった。
「セシルは宮廷声楽舞踏団『ノーブル・コンソート』のリーダーだ」
「……『声楽舞踏団』?」
俺はイヤな予感がした。そしてその予感は後々的中することになった。
「で、セシル。疑問というのは?」
「ぜひ彼に伺いたいのですが……その『アイドル』とやらは一体、何をする者達なのですか?」
セシルは冷ややかな目で俺を見ながらそう尋ねた。
「えっと、主にステージで、歌やダンスを披露……」
「『歌やダンス』!!」
セシルは俺の言葉にかぶせるように笑いながら言った。
「であれば、もうすでにこの王国にはおりますわ……。至高にして極上の『歌とダンス』を披露するグループが……」
するとセシルの背後にもう二人女性が現れた。
二人ともかなりの美女だが、セシルと同じくどこか
冷たい表情だ。二人はセシルをセンターにして、
三角形のフォーメーションを組んだ。
「そう……私達『ノーブル・コンソート』です」
メンバーが揃ったのを見て、姫の側近たちが騒ぎ始めた。
きっとこの王国ではスターなのだろう。
グループを従えたセシルは俺を見下ろすような笑みを浮かべていた。
「『アイドル』とやらがどんなものか知りませんけど、私達を超えるパフォーマンスを見せられるとは、到底思えませんわ……なんでしたら、ここで一曲披露いたしましょうか?」
それを聞いて姫は手を打って喜んだ。
「それはよい。厳しい戦況報告ばかりでちょうど気晴らしが欲しかったところだ。ぜひ頼む!」
「では、謹んで……」
セシルはそう言って一礼すると、他のメンバーと
ともに立ち位置についた。やがて、後ろに控えてい
た管弦楽団がイントロを奏で始めた。
俺はセシルに偉そうな態度をとられたので、
「どれほどのもんよ」と、斜に構えて見始めたが、
パフォーマンスが始まったとたん、
思わず息をのんだ。
―――美しい。
彼女たち自身のビジュもそうだが、
清らかな歌声と、静と動の調和が織りなす舞踏。
歌もダンスも洗練されていて研ぎ澄まされている。
まさに幻想的なファンタジーの世界を旅するような
ショーだ。姫やその側近たちも、彼女達のパフォー
マンスに魅了され、うっとりと見とれている。
……だが。俺は思った。
なんていうか、ライブを見ている気がしない。
たとえるなら、美術館でガラスケースの中に展示さ
れている名画を眺めているような、そんな感覚だ。
やがて、曲が終わり、彼女たちが頭を下げると、
姫の拍手を皮切りに、大喝采が沸き起こった。
「素晴らしい。さすがは『ノーブル・コンソート』。我が王国一の声楽舞踏団だ」
「お褒めにあずかり光栄でございます、殿下」
姫に礼を言うと、
セシルは勝ち誇ったかのような顔で俺に尋ねる。
「さて。あなたの感想も聞きたいですわ」
「……とても美しく、歌もダンスも完璧でした」
俺が素直に答えると、自慢げにセシルは答える。
「当然です。舞台に立つものは何もかもが完璧でなくては」
すると、姫が俺に訊く。
「で? ショーゴとやら。そなたの作る『アイドル』は、これを超えるものを見せられるのか?」
「いえ。おそらく、無理です」
俺が即答すると、姫は顔をしかめる。
「無理、だと?」
「……はい」
「なんだ。情けない。戦う前から敗北宣言か」
姫はがっかりしたような顔を見せ、
セシルは冷笑を浮かべた。
だが俺は答える。
「ですが、だからこそ勝てると思いました」
「……!?」
俺の答えに、姫もセシルも驚いた表情を見せた。
「……私達に、『勝てる』ですって?」
「はい」
俺は二人を見て、はっきり答えた。
「アイドルなら……勝てます!」
登場人物
升戸匠悟
この物語の主人公。地下アイドルのプロデューサーだったが異世界に転移した。
レオナ・グランツ
リーダー気質の女騎士。だが壊滅的な音痴。
アメリア・ヴィルフェルト姫
ヴィルフェルト王国の後継者であり、王国軍の司令官でもある。
セシル・フォン・エルクライン
宮廷声楽舞踏団「ノーブルコンソート」のリーダー。プライドが高い。