#03
第1章「華の宴 編」第3話です。
衣装のことはヒメリに任せることとなった。
「ああ、フェルア様。注意してほしいことがあったの。毎年起こることなのだけど」
フェルアは用が終わってヒメリの私室から出ようとすると、思い出したように声をかけられた。
「何でしょう?」
「『華の宴』は王族や貴族連中が集まる会よ。決して安全とは言えないわ。そこで、兄と一緒に行動しなさい。……でもあなたの兄は、アクロ様よね。アクロ様じゃ無理があると思うから、セイン様と一緒に行動したらどうかしら? でもセイン様、スラミント王国の次代国王で色々な王族連中に声をかけられるでしょうね……。やはり、アクロ様とラノアと一緒に部屋の端っこでじっとしてるのが一番いいと思うわ」
要は、『華の宴』は様々な国の王家、及び貴族が参加する。その貴族の爵位は、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵である。
お偉いさんたちがたくさん集まるため、他の者に媚びを売る者が出てくるのだ。
そういう厄介者に捕まらないようにの、ヒメリなりの配慮なのだろう。
「ご忠告ありがとうございます、ヒメリ様。暴君な輩に捕まらないよう気をつけます」
「ええ、気を付けて。『華の宴』には全ての国の王族が参加予定よ」
(え、全ての国ってことは……。開催国のセルテやスラミント以外の国の王族も参加するってこと!?)
「色々教えてくださりありがとうございます、ヒメリ様! では私はこれにて失礼します」
そう言い、フェルアはヒメリの私室から退出した。
☆ ☆ ☆
ヒメリの私室から出ると、ばったりカルノと出くわした。
「あっ、カルノ!」
「終わった?」
「うん、終わった! カルノはどう?」
「いや……アクロ様が、俺に似合う衣装はどんなのかって言うのをめっちゃ熱弁しててさ。フェルアの隣りにいるならとびっきりのものじゃないとだめだって。ほらあの人シスコンだから……」
「あ、ああ……」
(兄様は私を溺愛してるからね……)
「ちょっと、疲れた。けど、フェルア見たら、疲れ吹っ飛んだ」
(私はカルノの何なんだ? 婚約者だよね?)
「……お疲れ、カルノ」
フェルアがニッコリ笑うと、何故かカルノの顔が赤くなった。
(……?)
「……ねぎらい、ありがと」
ぷいっとと顔をそらしてボソッと言った。
見える耳は赤く染まっている。
「じゃあ、俺、行くから……」
「あ、うん。またね、カルノ!」
フェルアは見送りの言葉をかけたが、カルノが立ち去る気配はない。
「……」
「……ん? どしたの、カルノ?」
「……フェルア。“フェル”って呼んでいいか?」
(──!! 私の、愛称!)
そう。フェルア・ノエスト・スラミントは、小さい頃から“フェル”という愛称で呼ばれていた。
「──いいよ。だってカルノは、私の婚約者だもん!」
にこっとフェルアが笑うと、彼は目を見開いた。
そして──
「……ありがと。“フェル”」
カルノはフェルアのことを愛称呼びになった。
これが二人が結婚したあとも続くことになるとは、まだ誰も知らないのであった。