8.『ごめんなさい』
突発キャラ紹介
※ここに書いてある内容は作中で出てきたものを開示しています。作中の展開によっては、今後、内容が変更される可能性があるかもしれません。
名前:水月 白羽
読み:みなつき しろは
外見:白髪 青目 ロングヘアー
身長:150cm 体重:38kg
スリーサイズ:B.82 W.65 H.87
好き(得意)なもの:花を育てる 料理(朱音が来てから楽しくなりつつある) シチュー
嫌い(苦手)なもの:運動
趣味:家庭菜園 掃除
メモ:この作品での主人公の一人。メンタル強い。でも、受けに回ると弱い。
名前:赤坂 朱音
読み:あかさか あかね
外見:赤髪 ツインテール
身長:158cm 体重:48kg
スリーサイズ:B.68 W.55 H.77
好き(得意)なもの:ミートスパゲッティ 絵を描く
嫌い(苦手)なもの:トマト
趣味:絵を描く 能力の練習
メモ:この作品での主人公の一人。メンタルは弱いが、戦闘的な部分の担当。たまに白羽に仕返しするが、自身もダメージを負う諸刃の剣。
お休みが明けて学校の日。私はいつもより早起きをして、朝食と、それと今日は校外実習...という名の遠足があるので、二人分のお弁当を作っていた。
「(朱音ちゃんはこれが好きだったよね...あ、これも入れちゃおう)」
私は頭の中でバランスを考えつつ、なるべく朱音ちゃんの好きな物が入るように調整していく。
おかずを入れながら私は炊いていたご飯を確かめる。ある程度冷めたのを確認して、私はおにぎりを握り始めた。
「(昆布と梅と...あと塩も好きだって言ってたよね)」
なるべく飽きないように、味を分けて作り、お弁当に入れやすいように俵の形にして詰めていく。
「(もちろん、これも忘れずに...よし、完成!)」
私は周りが汚れないようにしながらミートスパゲッティを入れて、完成を確かめた。
「(朱音ちゃん、喜んでくれると良いな)」
私は次に朝食の準備を進める。今日は鯖の塩焼きに、味噌汁、ほうれん草のお浸しにスクランブルエッグだ。鯖が焼けるのを見ていると、階段から足音が聞こえてきた。朱音ちゃんが起きたみたいだ。
「おは....よう...しろは...」
「おはよう、朱音ちゃん。ごめんね、朝ごはんまだだから、お顔洗ってきてもうちょっと待っててね」
「うん...」
朱音ちゃんが洗面台に行くのを見送りつつ、私は焼けた鯖をお皿に乗せて、今度はスクランブルエッグを作ろうかと思っていると、顔を洗って目が覚めた朱音ちゃんが少し慌てた様子で戻ってきた。
「ま、間に合った...!白羽、今日は私も手伝うわ。何かすることある?」
「朱音ちゃん...ありがとう。それじゃあ、スクランブルエッグをお願いしても良いかな?」
「ま、任せなさい」
少し緊張した様子の朱音ちゃんが、フライパンを持つ。そして、朱音ちゃんは自分の炎でフライパンを熱し始めた。ガスの火を調節するよりこっちの方が細かに調節できるから、みたい。私は溶いた卵をフライパンに流し入れる。
「最初は中火くらいで少し弱めて...ゆっくり、大きくかき混ぜながら...」
「こ、こう?」
「そうそう!上手だよ朱音ちゃん!」
朱音ちゃんは真剣な表情で卵をかき混ぜる。火の調節も完璧だ。
「固まってきたら火を止めて...」
「お、お皿に乗せるのね」
「あ、ま、待って」
私は焦ってお皿に乗せようとした朱音ちゃんの手に、そっと手を重ねて止める。
「し、白羽?」
「まだだよ、朱音ちゃん。余熱でもう少し卵を固めるの。そうしたらふんわりと仕上がるから」
「わ、分かったわ...」
朱音ちゃんが頷いたのを見て、私は手を離す。
そして、卵が固まった時に朱音ちゃんは慎重にお皿に乗せた。
「で、できたわ...!」
「朱音ちゃん、凄いよ!おめでとう!」
朱音ちゃんが作ったスクランブルエッグは、ふんわりとした仕上がりになって完璧だった。一番はやっぱり朱音ちゃんの火加減が上手だったからだろう。
朱音ちゃんがスクランブルエッグを作ってくれていた合間に、私は作り終えた朝食をテーブルに並べていく。そして、朱音ちゃんは自分の作ったスクランブルエッグをテーブルに並べた。
「「頂きます」」
二人手を合わせて、朝食を食べ始める。私は最初に朱音ちゃんが作ってくれたスクランブルエッグを食べた。そんな私を朱音ちゃんは緊張した面持ちで見守る。
「...うん、卵ふわふわで、美味しいよ朱音ちゃん!」
私が笑顔で朱音ちゃんにそう言うと、朱音ちゃんはホッとした表情を見せた。
「ま、まあほとんど白羽の言う通りに作っただけだし、できて当たり前よね...」
「そんなことないよ。朱音ちゃんがちゃんと自分で作った物なんだから。私も助かったよ、ありがとうね」
「わ、私だっていつも作ってもらってるし、今日なんかお弁当まで...私こそ、あ、ありがとう白羽」
「ううん、どういたしまして。朱音ちゃんの好きな物、たくさん入れたからね」
食べ終えた後、私がお皿を洗うと言うと朱音ちゃんはお皿を拭いてくれた。朝ごはんのお手伝いもしてくれたし、今日ぐらいは私がやると言ったのだけど、朱音ちゃんはせめて拭くか洗うかはやると頑として譲らなかった。
食器を片付けて歯を磨いた後、また新しくなった制服に身体を通す。流石に二回目となれば、申し訳なさが沸き立ってしまう。
「(洲藤さんに二回も買ってもらっちゃった...今度、何かお礼しないと...)」
今度洲藤さんに会う時は、お菓子でも持っていこうと考えながら下に降りると、朱音ちゃんが玄関の前に立っているところだった。
「あ、朱音ちゃん。待って、一緒に行こう?」
「え...」
「だってもう友達なの隠す必要ないんだよ?私、朱音ちゃんと一緒に行きたい」
「いや...それ以外の問題もあるし...」
「朱音ちゃん....ダメ...?」
「うっ....」
何かゴニョゴニョと言いかけていた朱音ちゃんだったけど、私が少し悲しそうな表情をしながら聴くと、言葉を詰まらせて
「(その顔は反則だってば...!ああ、もう!別々に出れば大丈夫よね...?)」
「....はあ、分かったわよ。ただし、出る時は別々で少し時間を空けてから!良いわね?」
と、よく分からない条件で了承してくれた。それを聞いた私が笑顔になると、朱音ちゃんは『しょうがないな』と呆れつつも、穏やかな表情をしていたのだった。
―――――――――
そんなこんなで私と朱音ちゃんは並んで通学路を歩いていた。私はと言うと、初めて朱音ちゃんと一緒に学校へ行けることもあって上機嫌で歩いていた。
「~♪」
「まったく...どうせ、学校で会えるんだから...」
「それでも嬉しいものは嬉しいよ。せっかく同じ家に住んで――」
「ちょっ...!?し、白羽、喜んでくれるのは嬉しいんだけど、その話を外でするのやめなさい...!」
私の口を朱音ちゃんが塞ぐ。
「一緒に...その、アレしてるの、誰かに聞かれでもしたら大変なんだから、気をつけなさいよ」
「(私は別にバレても良いんだけどなぁ...)」
私の両親がいないことはもうクラスメイト達は知っているし、こっちに来て一時的に暮らしているとか説明すれば分かってくれると思うし...漫画とかアニメでもよくあることだし、女の子同士なんだからそこまでおかしいことではないと思うけど...と私は思っていたが、このままだと朱音ちゃんが手を離してくれそうになかったので、こくこくと頷く。
「分かってくれた?それじゃあ今後はそういうことは言わないように――」
「そういうことって何のこと?」
「だから私達が一緒に――」
朱音ちゃんが説明しようと振り向いた先には美海ちゃんがいた。
「わー!!」
「う、うわっ!?な、なに!?タヌキ!?クマ!?」
「い、いいい今!聞いた!?」
「え、いや、今の大声で忘れちゃった...」
美海ちゃんが引きながら言うと、朱音ちゃんはホッとした表情をしていた。
「むー、むむー」
「おはよ、白羽!今日は二人仲良く一緒に登校してるの?」
「あ、口を塞いだままだった...」
朱音ちゃんが口から手を離してくれる。
「美海ちゃん、今日は朝の部活ないの?」
「うん!それで、自主的にこの辺走ってから学校行こうかと思って!」
「すごいね...」
私がそんなことをしたら学校に行く前に疲れて動けなくなりそう...と思っていると美海ちゃんは何かを思いついたかのように目を輝かせた。
「そうだ!良かったら二人も一緒に走る?」
「は?」
「...え」
「特に白羽!最近、怪我多いし、いざって時に逃げれるように身体鍛えて損はないよ!」
「み、美海ちゃん、わ、私は...」
美海ちゃんが言うことにも一理あると思った私は反論が弱くなってしまう。
その隙に美海ちゃんはガシッと私の腕を掴んだ。
「よーし、それじゃとりあえずここから走ってみよー!」
「こ、ここからってまだ何百メートルもあるよ...!?」
「大丈夫大丈夫!白羽に合わせてゆっくり行くから!」
「そ、そういう問題じゃなくて...きゃあっ!?」
美海ちゃんが勢いよく走り出し、それに引かれて私も美海ちゃんについていく。
「とりあえず、目標は学校まで10分でつけるようにしよー!」
「さ、さっきと言ってることが違うよ...!?む、無理だよ~美海ちゃん、ま、待って~!」
「さあ、赤坂さんも!!1、2!1、2!」
「....はっ、つい流されたけど何で私まで...?」
結局、テンションの上がった美海ちゃんに付き合って学校まで走った私は、着いた頃にはヘロヘロになってしまった。
――――――――
「......」
「...で、今、白羽がぐったりと息を切らしながら、机に突っ伏してるのはそういう理由?」
「うん!」
美海ちゃんが頷くと同時に、舞桜ちゃんのチョップが美海ちゃんの頭に垂直に入った。
「いったあ~!?」
「美海の体力に白羽がついていけるわけないでしょ!白羽は美海と違って貧弱なんだから!」
「あんたはあんたで割と酷いこと言ってると思うんだけど...」
「ま、舞桜ちゃん...あんまり...怒らないであげて...。美海ちゃんは...私のためを...思って...」
「そんな死にそうな顔しながら言われても説得力ないわよ白羽」
朱音ちゃんは私の背中を優しく擦りながら、息を整えるのを手伝ってくれる。深呼吸を何回かして落ち着いた私はようやく顔をあげた。
「し、しろは~。舞桜が苛める~」
「よしよし...でも、美海ちゃん。今度は私の話もちゃんと聞いてくれると嬉しいな...」
「うん、ごめんね...白羽が私より身体が何倍も貧弱だってこと忘れてたよ...」
「そうよ、白羽は貧弱なんだから、美海のペースに合わせたらダメでしょ」
「......」
今度から時間を見つけて運動しようかな...。
「(あ、白羽がちょっと悲しそうな顔してる...)」
「あ...えっと...ご、ごほん!青谷さんは、走るの速いのね?な、何かやってるの?」
朱音ちゃんは話題を変えるように美海ちゃんに聴く。
「うん、私、陸上部なんだよ!そう言えば、赤坂さんも走るの速かったよね?どう?陸上部はいつでも新人歓迎だよ?」
「いや...私は...」
朱音ちゃんは美海ちゃんから目を背けるように顔を逸らす。
「(私を護らないといけないからだよね...)」
そのせいで朱音ちゃんには本当に負担をかけていると思う。
「...まあ、無理強いはしないけど。でも、もし、入りたくなったらいつでも声かけてね!」
「ええ」
美海ちゃんは微妙な空気を察してか、特にそれ以上は何も言わなかった。そして、そのタイミングで久部先生が入ってきて、二人は席に戻っていく。
「今日の連絡事項は...あー、今日は校外実習あったか。ダルいな...中止にするか」
「「「いやいやいやいや!?」」」
久部先生が言った一言に、クラスメイト達がツッコミを入れる。相変わらずだなぁ久部先生...。
「ちっ、まあ良い。お前ら、今日は給食ないからな。ちゃんと弁当持ってきたろうな」
「はい!先生は奥さんの愛妻弁当ですか!」
「青谷、今日の課題は三倍だ」
「ええっ!?なんで!?」
「じゃあ、今から三十分後に校門の前集合、遅れたやつは寂しく教室で飯食えよ」
「ねえ、待って先生!本気なの!?本当に課題増やされるの!?ねえってば!?」
美海ちゃんの声とクラスメイト達の笑い声が響く中、久部先生は出て行き、美海ちゃんはがっくりと項垂れる。皆、仲の良いグループで固まりながら、各々準備を始める。
「うう...最悪だ...」
「...余計なこと言うからでしょ」
「だって気になったんだもん...」
「美海ちゃん、後で久部先生に謝ろう?私も一緒に謝るから...」
「うう...白羽~」
「...美海の自業自得なんだから、あんまり甘やかさない方が良いわよ白羽。...赤坂さんもそう思うでしょ?」
「え...いや、まあ...」
「赤坂さんまで~」
私達は自然と集まってグループになる。今日の校外実習も皆で一緒に楽しく過ごせそう――そう私が考えていた時だった。
「ちょっと良いかしら?」
移動を始めようとした私達に声をかけてくる人がいた。私達が振り向くとそこには
「えっと、榊原さん?」
そこにはクラスメイトの榊原さんがいた。長い黒髪を丁寧にハーフアップにまとめ、サイドからねじりを加えたツイストスタイルの髪型をしている。お父さんは『榊原グループ』という、大きな会社の社長さんで、榊原さんはそのことを事あるごとに持ち出して、クラスの皆に自分の意見を通すことがある、クラスの中心的な人だった。それと...初日の朱音ちゃんの言動に最も不快感を示していた一人だ。自分に対しての無礼な物言いが気に入らなかったとか...。
その榊原さんは、私達...いや、朱音ちゃんに好意的でない視線を向けている。
「赤坂さん...でしたか。ちょっとお話良いかしら?」
「...なに?」
「私、まどろっこしいの好きじゃありませんので、単刀直入に言わせてもらいますが...赤坂さん、今日の校外実習、ここに残ってもらえませんこと?」
「....っ!!」
榊原さんの言葉に朱音ちゃんが目を伏せる。榊原さんに何か言いかけようとした美海ちゃんと、舞桜ちゃんより先に、私は榊原さんと朱音ちゃんを遮るように前に出る。
「...そんなこと言っちゃダメだよ、榊原さん。朱音ちゃん、傷ついちゃうよ」
「...水月さん、私はクラスの皆さんのためも思って言っているのですわよ。ハッキリ言って、赤坂さんのような不快な言動をされる方がいると、クラスの皆の和を乱しますわ。そうですわね、皆さん?」
榊原さんはクラスの皆に振り向く。クラスの皆は、榊原さんから視線を逸らすように「まあ...」「うん...」と同調する。朱音ちゃんをあまり快くは思ってはないけど、榊原さんの言い方には同調しきれない、そんな感じだった。
それでも同調を得られた榊原さんは得意気な表情になって、私を見返す。
「ほら、クラスの皆さんも同じ意見ですわ。それに、水月さん、私は貴方のためも思って言っているのですよ?赤坂さんのような品のない方と付き合っていると、貴方まで同じような目で――」
「私は、朱音ちゃんと友達になってから毎日楽しいよ。朱音ちゃんと友達になって本当に良かったって...そう思ってるよ」
私は榊原さんの言葉を遮るように言う。榊原さんは一瞬、言葉を詰まらせるも続けて言った。
「なっ...!こ、こほん。貴方、榊原グループの令嬢であるこの私の忠告を――」
「それに...私が誰と友達になるのかは私が決めることだよ。榊原さんに勝手に決められることじゃない。少なくとも――朱音ちゃんのことをよく知らない榊原さんに言われたくない」
「なっ...!!」
私の言葉に榊原さんは言いかけた言葉が出てこなくなって、口をパクパクさせて絶句した。
「うっわ...白羽、怒ってるわ、これ...」
「...白羽もこうなると頑固だから...」
榊原さんはハッと我に返ると
「――この、幽霊女の分際でっ!!」
「―――っ!!」
激昂して私に手を振りかぶる。私は言い過ぎたこともあり、甘んじて受けようと衝撃に備えて目をぎゅっと瞑る――
「...待って!!」
でも、榊原さんの手は振り下ろされることはなかった。声を上げて榊原さんを止めたのは
「朱音ちゃん...?」
「な、なんですの!?というかそもそも、貴方が...っ!!」
「....ごめんなさいっ!!」
「え...?」
朱音ちゃんは榊原さんに向かって――いや、クラスの皆に向かって頭を下げる。
「私が――私の最初の態度が、皆に不快な思いをさせたこと――本当にごめんなさい」
「なっ...えっ...?」
「最初の私は友達なんかいらないって――いいえ、人との関わり自体、避けてた...そんな私の身勝手な理由で、あんな態度を取って、クラスの皆に不快な思いをさせてしまって...本当にごめんなさい」
「え...それは...」
朱音ちゃんの謝罪に、クラスの皆の視線が集中する。そして、榊原さんは戸惑いながらおろおろしていたけど
「ご、ごほん!み、自ら謝るとは殊勝な態度ですわね。でも、水月白羽が私に逆らった罪はべ――」
「でも」
朱音ちゃんは榊原さんに顔を向ける。
「こんな私に...私がどれだけ冷たい言葉で傷つけても、私に手を差しのべてくれた白羽に...私の大事な友達に手を出すなら――私はあんたを許さない」
「なっ...!?」
朱音ちゃんが睨むと榊原さんは、一瞬怯えたように後ろに下がるも、それに気づいて誤魔化すように声を張り上げた。
「こ、この!!クラスの皆さん、今の聞きまして!?こともあろうにこの私を脅すなどと...っ!!」
「いや...でも、謝ってくれたし...」
「赤坂さん、確かに最初の頃と雰囲気違うよね」
「というか、榊原さんも...い、言い過ぎだよね...」
「水月さんに『幽霊女』は酷いよな...手を上げようとしてたし...」
クラスの皆は朱音ちゃんの謝罪で、少しだけ朱音ちゃんへの気持ちが和らいだようだった。代わりに、榊原さんのやり過ぎな発言や行動に非難が集まり始める。
「なっ....!!こ、この...っ!!貴方達!この私に逆らうとどうなるか...っ!!」
「榊原さん」
「水月...白羽...っ!!」
「...私も言い過ぎた、ごめんなさい。でも...そうやって自分の地位を利用して他の人を無理やり自分の言う通りにしようとしても、そのうち誰もついてこなくなっちゃうよ。それに私は...『榊原グループ』の令嬢の榊原さんじゃなくて、クラスメイトとしての榊原さんとして...お話ししたいな」
「くっ...!!」
榊原さんは私を睨むも、クラスの皆の視線に耐えきれなくなったように
「もう良いですわっ!!」
と、肩を怒らせながら教室を出ていった。
私が手を伸ばして引き止めようとするも、舞桜ちゃんがその手をそっと掴んで下ろした。
「...今は頭に血が上ってるだろうから、そっとしておきな白羽」
「うん...」
「...正直、私も一発ぶん殴ってやりたかったんだけど」
「今度は舞桜が切れるの!?まあ、私も白羽の悪口言ったのには腹立ったけど!」
「二人とも、ありがとう...。でも、暴力はダメだよ...?」
私が舞桜ちゃんを宥めていると、何人かが朱音ちゃんに近づいて
「赤坂さん、さっきのカッコ良かったよ!」
「え...」
「最初は言葉は刺々しいし、正直なんだこいつ、って思ってたけど...あんな真剣に謝れると思ってなかった」
「あの榊原さんにあそこまで堂々と言えるのはすごかったよ!」
朱音ちゃんを囲んでさっきのことを口々に言う。朱音ちゃんは、戸惑いながらしどろもどろに返していたけど
「それに...赤坂さんが水月さんを本当に大事に思ってるの伝わってきた」
「は...はあっ!?」
「ああ、それ俺も思ったわ。『白羽に手を出すならあんたを許さない』って、めっちゃカッコ良かった!」
「なんか水月さんの彼氏みたいだったよねー」
「か、かかかかれっ!?」
「あ、顔真っ赤だー。赤坂さんってけっこう可愛いところあるんだね」
「うん、朱音ちゃんはかわ――」
「白羽は黙ってて!!」
朱音ちゃんが私の口を塞ぐのを、クラスの皆は笑いながら見ていた。朱音ちゃんに対する嫌な気持ちはすっかり消えたようだった。
「(良かった...朱音ちゃんがクラスの皆に受け入れられて...)」
そのことに私は内心嬉しくなるも、同時に
「(榊原さん...もう一度、お話ししたいな...)」
榊原さんのクラスメイトの一人として、あんな形で別れたままになるのは嫌だ。会って、もう一度お話ししたい。私はそう思いながら榊原さんが出ていった教室の扉を見つめるのだった。
―――――――
「皆して私をバカにして...っ!!私は榊原グループの一人娘なんですのよ....っ!!」
榊原李奈は一人、教室から出て歩いていた。もうすぐ集合時間だから、校門前に行かなければならないが、そうなるとあの腹立たしい庶民達と顔を合わせるのが嫌だった。
特に――
「それと言うのも、あの子が...水月白羽が口答えするからですわ!そのせいで私が非難を受けることに...っ!!」
榊原グループの令嬢である彼女は、今まで望んだことは全て叶ってきた。クラスメイト達も、家の名前を出せばすぐに黙った。榊原グループの傘下で働いている親も多いからだ。自分はクラスの、いや、学校で一番偉い存在だと疑ってなかった彼女は、反論を受けたのも、逆に自分が悪いと非難されることにも全く慣れていなかった。
だから、最初に難癖をつけた『気に入らない』朱音よりも、彼女にとって白羽は『自分に歯向かった敵』となった。
「見てなさい...!!庶民がこの私に逆らうとどうなるのか...思い知らせてやりますわ...!!」
――――――――
「...まさか全員遅れて来るとはな。俺が集合時間か場所を言い間違えたのかと思ったぞ」
「「「ごめんなさい...」」」
「まあ、本来なら校外実習を中止にしてやりたいところだが...」
「「「....」」」
私達がビクビクしながら言葉を待つ中、久部先生はチラッとクラスを一瞥して
「...まあ、遊んでたわけじゃなさそうだから今回は許してやる。だが...次からは学校でひたすら小テストにするからな」
「「「はい....」」」
久部先生に許してもらえて私達はホッと胸を撫で下ろした。
「目的地は事前に言った通り、近くの蓮董山だ。まずはそこまでこれで行くぞ」
久部先生はマイクロバスを指差した。ちなみにバスは二台で一台は久部先生、もう一台は生活指導の安藤先生が運転するようだ。席に余裕があることもあり、私達は各々自由にバスに乗り込む。
「全員乗ったな?...安藤先生、遅れてすみませんが、よろしくお願いします」
「ははは、気にすんな。それより、お互い安全運転で行こうぜ。生徒達を無事に送り届けなきゃな」
私達が全員乗り込んだのを確認して、久部先生は安藤先生と少し話してからバスを出発させた。私達は久部先生のバスに乗ったけど「ガキが多いとうるせえからあっち行け」と、安藤先生のバスへ追い払っていたから、久部先生のバスは空いていた。ちなみに...榊原さんは私が声をかけようとすると、一睨みして安藤先生のバスに乗り移っていった。やっぱりまだ怒ってるみたい...。
「今日は軽い登山だったよね。昼食は山頂で食べる予定なんだって!」
「...こういうことには、あんたは元気よね」
「だってワクワクするじゃん!ね、赤坂さんもそう思うでしょ?」
「ま、まあ...(こういう学校行事初めてだし...)」
「ほらほら、赤坂さんもそう言ってるし!」
「...ま、こっちは死にそうな顔してるけど」
舞桜ちゃんは私の方を見た。私は苦笑いで返した。
「私、登りきれるかな...」
「大丈夫、いざとなったら私が抱えてあげるから」
「そ、それは恥ずかしいから...な、なるべく頑張るね...」
朱音ちゃんはその言葉を聞いて、私にニヤリ、と笑って「そう?まあ頑張りなさい」と言う。
「あ、朱音ちゃん...?ちなみに今の、冗談、だよね...?」
「さあ、どうかしらね」
「(...いつも白羽に私だけ恥ずかしい思いさせられてるから、もし途中で白羽が歩けそうになかったら、その時は――)」
「(朱音ちゃん...あの目は私が歩けなくなったら、本当に抱えて行こうって思ってる目だ...!?)」
「...ん?どうしたの白羽?赤坂さん?」
「何でもないわ」
「う、うん...な、何でもないよ...」
「?」
美海ちゃんはどこか納得してない表情ながらもそれ以上は特に何も言わなかった。私達を乗せたバスは順調に進んでいく。
天気は良好で、クラスの皆とも打ち解け始めた朱音。順風な校外実習となるはずだった。
ただ一人の怒りと復讐心を除いては―――。