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アウターヘイヴン  作者: 黒百合
7/18

7.『デートだろ?』

今回、私はそれほど時間がかかることなく退院できた。『O.P.O』所属の医師の人が『アウター』としての力を使ってくれたそうだ。前回、私が傷痕や後遺症も残らず退院できたのもその人のおかげとか...。

「(エージェントでもこんなに短期間に入院することはない、って呆れられちゃったけど...)」

退院する時にお礼のお菓子を贈ったら喜んでくれたみたいで良かった。甘いものが好きみたいだった。...お世話にならないに越したことはないけども、覚えておこう。

ちなみに今回も洲藤さんが入院費と、あと...また穴だらけになってダメになった制服を買ってくれた。本当にありがたいし申し訳ないけど...でも、どんどん洲藤さんにお世話になっているお金が増えて私は内心、返しきれるか不安になっていた。洲藤さんは前のように『いつか返してもらうさ』と言っていたけど...。

それはともかく、退院した後、私はまた抜けてしまった授業についていくのがそろそろ大変になっていたけど、美海ちゃんや舞桜ちゃん、朱音ちゃんがノートを見せてくれたり、退院中に勉強を教えてくれたおかげで何とかついていけていた。本当に支えてくれる皆には感謝してもし足りないぐらいだ。

そして迎えた休日。いつも通り朝御飯の支度をして、私は朱音ちゃんを待つ。そして、朱音ちゃんと分担して家事を片付けてお互いに一息ついてから、私は朱音ちゃんに話を切り出した。

「朱音ちゃん、今日良かったら一緒にお買い物行こう?」

「え?買い物?」

「うん。私、買いたい物があって...ダメかな?」

「まあ別にかまわないわよ。...流石に奴等も街中では仕掛けてこないでしょうし、私が白羽を護るから」

「ありがとう...朱音ちゃん。ごめんね」

「謝らなくて良いのよ。巻き込んだのは私だし...白羽には不自由な思いをさせたくないから」

そして、私達はお互いに準備をして一緒に家を出た。そして、街中にある目的地へ向かって歩き出す。

「朱音ちゃんはもうこの辺には慣れた?」

「うーん...家と学校の往復と病院に行くぐらいしか出てないわね...」

朱音ちゃんは私が入院している間も、どこかへお出掛けしたりはしていないようだ。

「(考えてみれば入院中、毎日お見舞いに来てたよね...)」

最初に私が入院した時は、ずっと病院に泊まって私の傍にいると言っていた、と洲藤さんから聞いた。(朱音ちゃんには内緒で)流石に洲藤さんや病院の方から、家に帰らされたと聞いたけど、だとすれば私のせいで朱音ちゃんは、まだこの街のことを知らない、ということになる。

「朱音ちゃん」

「なに?白羽?」

「朱音ちゃんは、何か食べたい物とか、行きたい所ある?私、案内するよ!」

「え、う~ん...特に行きたい所と言われても...」

「(...白羽と一緒にお出掛けするならどこだって良いし...)」

「(...やっぱり朱音ちゃんは、今まで任務とかで忙しくて遊びに行ったこととかあんまりないのかな...?)」

朱音ちゃんは私の友達、だから、ただ護ってもらうだけじゃなくて、私も朱音ちゃんに色々なことを与えられるようになりたい。今日お出掛けに誘ったのもその第一歩だから。

「じゃあ朱音ちゃん。今日は、私が行くところ決めても良い?」

「ま、まあ白羽が決めるなら...」

朱音ちゃんの了承を得て、私は密かに決意していた。

「(今日は絶対、朱音ちゃんに楽しんでもらって――朱音ちゃんのやりたいこと、楽しめることを一つでも見つけてもらおう!)」

――――――――

まず私は服屋に向かった。

「服屋?白羽、何か服でも買うの?」

「どっちかと言うと、朱音ちゃんのかな」

「...え?私?」

「うん、だって朱音ちゃん...」

私は朱音ちゃんの方を振り向く。朱音ちゃんは無地のTシャツに動きやすいショートパンツを履いていた。私は朱音ちゃんと暮らし始めて色違いのそれしか見ていない。

「服...それしかないよね?」

「え、うん、まあ...動きやすいし...」

「朱音ちゃん、可愛いのにお洒落しないの勿体ないよ」

「か、かわっ...!?わ、私なんかお洒落しても...」

私は赤くなって後ずさる朱音ちゃんの手を握って、真っ直ぐ顔を見つめる。

「ううん、朱音ちゃんは可愛い!お洒落したら絶対にもっと可愛くなるから!」

「し、白羽....!!人が、人が見てる....!!」

「朱音ちゃんはもっと自分に自信を持って。私が保証するから」

「....~っ!!分かった!分かったから、は、早く中に...!!」

「え、あ、朱音ちゃん...?」

私は何故か顔を赤くした朱音ちゃんに、お店の中に引っ張られながら入っていくのだった。

――――――――

「朱音ちゃん、この服はどう?」

「こ、これ?スカートはちょっと...動く時に邪魔だし...」

「...制服もスカートだよね?」

「アレは下にスパッツ履いてるから...」

私はまず朱音ちゃんの好みを把握しようと、服を手に持ちながら朱音ちゃんと会話して、反応を見ながら服を選んでいた。

「(朱音ちゃんは動きやすい服が好きみたい...)」

私は、まずは自分の好みの服の系統から選んでもらうと思っていた。朱音ちゃんの色んな服も見てみたいけど...無理強いは良くないし、お洒落してみて、他の服に興味を持ってくれた時に、改めて勧めてみれば良いから。

朱音ちゃんの好みをだいたい把握した私は、朱音ちゃんを案内する。

「朱音ちゃん、この辺りで気になる服とかある?」

「う~ん....」

朱音ちゃんは服を手に取りながら、悩んでいた。と、そこへ店員の人が話しかけてくる。

「いらっしゃいませ。お客様、服をお悩みですか?」

「え、あ、えっと...」

朱音ちゃんは話しかけられた途端に、助けを求めるような目で私の方を見てくる。その様子がまるで子犬みたいで...

「(か、可愛い....って、ダメダメ、朱音ちゃん困ってるから...)」

私はつい眺めそうになった自分を叱咤して、店員さんと朱音ちゃんの所に近づいていく。

「あの、朱音ちゃん――その子は、服をあまり選んだことなくて。良かったらおすすめを教えてもらえませんか?」

「なるほど。それでしたら...こちらとこちらの服はいかがでしょう?お客様にお似合いかと思うのですが」

「そ、そう、かしら...?...よく、分からないわね...」

「朱音ちゃん、着てみたらどうかな?」

「えっ!?ここで!?」

「あそこに服を試着できるところがあるんだよ。ほら、あそこ」

私は試着室を指差す。店員さんも

「はい。まずは着てみてはいかがでしょう。着心地なども着てみないと分かりませんからね」

「で、でも、着るって、ここで、服を脱ぐってこと!?」

「....?」

「仕切りで外からは見えないし、ここは女の人ばかりだから大丈夫だよ」

朱音ちゃんの言葉を聞いて少し訝しげにする店員さんに誤魔化すように、私は恥ずかしがる朱音ちゃんをグイグイと試着室に押していく。

「ちょ、ちょっと待って、心の準備が....!!」

「私待ってるから、ゆっくりで大丈夫だからね~」

私は試着室のカーテンを閉めた。

――――――――

あまり離れると朱音ちゃんが不安がるかもしれないから、試着室の近くで待っていると

「し、白羽....」

「あ、朱音ちゃん、お着替え終わった?」

朱音ちゃんの声に振り向くと、朱音ちゃんは試着室のカーテンから顔だけ出していた。

「これ...やっぱり私には似合わないと思う...」

「と言われても...私には見えないんだけど...」

「うっ....」

「朱音ちゃん。私、朱音ちゃんの着替えた姿見たいな。大丈夫、朱音ちゃんなら絶対に似合ってないことないよ」

「ううっ....」

朱音ちゃんは迷った表情をしていたけど

「わ、笑わないでよ...?」

「絶対、笑わないよ」

私の言葉を聞いて意を決した朱音ちゃんは試着室のカーテンを開けた。

「ど、どう...?」

「...朱音ちゃん――」

「や、やっぱり似合わない...?私なんかにはこんな服勿体ないし――」

私は言いかけた朱音ちゃんの言葉を遮るように声を出した。

「可愛いっ!」

「えっ....」

「本当に、お客様よくお似合いですよ」

「ですよね!」

私は改めて朱音ちゃんの着ている服を見た。

トップスは白いブラウスに、ふんわりとしたレースのフリルが襟元と袖口にあしらわれており、ボトムスはダークなスキニーパンツを合わせたシンプルだけど、朱音ちゃんの好みの動きやすい服装だ。これなら朱音ちゃんの好みにもピッタリだし、朱音ちゃんのビシッとした格好良さと、所々に感じる可愛さが感じられる。

「朱音ちゃんはどう?」

「.....こういう服、着たことないからよく分からないけど...白羽が似合うって言うなら...」

「うん!朱音ちゃんとっても似合ってる!」

私が自信なさげな朱音ちゃんにもう一度言うと、朱音ちゃんは「...じゃあ、これで良い」と言ってくれた。

「それじゃ、これお願いします」

「え、ちょっと白羽...!?」

私は朱音ちゃんの服の代金を支払った。

「わ、私が払うわよ!前にも言ったけど私はお金には余裕が...」

「ううん、私に払わせて。これは...私からのプレゼント、だと思って」

「プ、プレゼント...?」

「うん。朱音ちゃんが家に来てから、私、本当に毎日が楽しくなって...それに家事とかもお手伝いしてくれるからすごく助かってるし、それに...この前助けてもらったから。そのお礼だと思って」

「.....」

朱音ちゃんは少し黙って

「あ、ありがとう...」

と、少し顔を赤くしながら言った。

「それじゃ、朱音ちゃんの服も買ったし次に――」

次のお店に行こうとした私の肩を朱音ちゃんが掴んだ。

「待ちなさい、まだ終わってないわ」

「え?」

な、なんだか雰囲気が...?

「白羽」

「な、なに?朱音ちゃん?まだ買いたい服があったの?」

「白羽の想いは伝わったわ。でも、それなら今度は――私のお礼を受けとる番よね?」

「.....え」

朱音ちゃんは店員さんに声をかける。

「ま、待って、私は別に――」

「私、されっぱなしは性に合わないって、前に言ったわよね」

「.....」

た、確かに言ってたけど...。

「お客様、どうされましたか?」

「この子に似合う服をお願い。お金に糸目はつけないから」

「つけて!?だ、ダメダメ!!そんな高いの受け取れないよ!?」

「じゃあ、高くなければ良いのね?」

「そ、それは....」

私は朱音ちゃんのニヤリとした笑顔に、自身の敗北を悟ったのだった。

――――――――

「(な、なんかドキドキするわね...)」

朱音は白羽が着替えるのを何となく落ち着かない気分で待っていた。それは、慣れない服を着ていることもあるし、彼女にとっては今この瞬間が初めての経験だからだ。それが何だか彼女をそわそわとした気分にさせてしまっていた。

「あ、朱音ちゃん...お、お待たせ...」

「っ!ぜ、全然、待ってなんか――」

そう言いかけながら振り向いた朱音は言葉を詰まらせた。

「ど、どうかな...?」

白羽は少し頬を赤らめながら、朱音におずおずと聞く。

「――――」

白羽は、トップスは淡いピンクのレースがあしらわれたニット、ボトムスはふんわりとしたクリーム色のフレアスカートを着ていた。それは白羽の柔らかい雰囲気にマッチして、とても可愛らしい雰囲気を醸し出している。

だが、白羽は返事がない朱音にだんだんと不安げな表情になる。

「あの、朱音ちゃん...?」

「――かわいい」

「え...?」

ボソリと呟いた朱音の言葉が聞こえず聞き返した白羽だが、朱音は白羽に目を奪われたまま

「か、可愛いわ!白羽!いつもの服も可愛いけど...その服とても似合ってる!!」

そしてなんと勢いのまま白羽に抱きついた。普段の彼女なら恥ずかしくて絶対にしないがテンションが上がっていたのだろう。

「あ、朱音ちゃん...!?」

「ああ!何て可愛いの!あ、そうだ!写真!ねえ、写真撮らせて!」

「ひ、人が見てるから...!落ち着いて、朱音ちゃん...!」

スマホでパシャパシャ写真を撮り始めた朱音を白羽は恥ずかしさで顔を真っ赤にしつつも、懸命に止めるのだった。

――――――――

「そ、そろそろお昼ご飯の時間だね。きょ、今日はどこに行こうかな~」

「......」

「...あの、朱音ちゃん」

「.....~っ、わ、私は何て、何て恥ずかしいことを...!」

私は朱音ちゃんに声をかけるも、朱音ちゃんは顔を真っ赤にしてさっきのことを思い出しては、悶えていた。

「(私もビックリはしたけど...)」

普段の朱音ちゃんからは想像もつかない行動に、私も内心は心臓がドキドキしてはいたけど、朱音ちゃんがそれ以上に恥ずかしがっているから逆に冷静になっていた。ちなみに朱音ちゃんは本当に私の服の代金を支払ってくれた。恥ずかしいこともあったけど、お互いにプレゼントを贈りあったような感じになって、これはこれで嬉しくて私は頬をつい緩めるのだった。

「ほら、朱音ちゃん。そろそろお昼決めないと入れなくなっちゃうよ?」

「むぐぐ...白羽って本当にメンタル強いわね...」

朱音ちゃんが何かボソッと呟いたけど、周りの音にかき消されてよく聞こえなかった。

私が聞き返す前に朱音ちゃんは深呼吸して気持ちを切り替えたようだ。

「....ふう、ごめんなさい。もう大丈夫よ。それで、どこに食べに行くかだっけ?」

「うん。今ならどこでも入れそうだけど...」

今はまだ少し早いが、じきに混むだろう。

この辺には色々なお店がある。レストランにハンバーガー店に、中華料理店等々...選べるところは多いが、その分迷ってしまう。

朱音ちゃんは少し迷っていたけど

「...まあ、ファミレスで良いんじゃない?お互いに好きなの頼めば良いし」

「そうだね。それじゃあ、あそこに行こっか」

私達はファミリー向けのレストランに向かった。店内はまだ人が少なくて、すぐに座れた私達はそれぞれ好きなメニュー頼む。

「私、あんまり外食したことないからちょっと楽しみだな~」

「そうなの?私は逆に今までほとんど外食か、コンビニ弁当ね...」

「そうなんだ。じゃあ、こことかもよく来てたりしてたの?」

「ええ、まあ転校も多かったから、その場所その場所でお気に入りのお店違ったけど。でも、良いお店見つけられると嬉しくて何回も通ってたりしてたわね」

そんな話をしていると、私達の頼んだメニューが同時に来た。私はカルボナーラ、朱音ちゃんはハンバーグ定食だった。

店員さんから受け取って、私達は手を合わせる。

「「頂きます」」

私はカルボナーラをフォークでくるくると巻いて口に運ぶ。その瞬間、口の中に濃厚な卵とチーズのソースの味が広がって、思わず口元が緩む。

「...なるほど、白羽の美味しそうな表情はそんな感じなのね。覚えとこう...」

「ん?朱音ちゃん、何か言った?」

「い、いえ、何でもないわよ」

朱音ちゃんと私はその後も、世間話をしながら食べ進めていくが、朱音ちゃんはサラダを手に取った瞬間「うっ」と苦い表情をした。

「どうしたの朱音ちゃん?野菜嫌いなの?」

「いや...サラダは良いんだけど...」

「?」

朱音ちゃんのサラダを見ると、何の変哲もない普通のサラダだ。何かあるとすれば...

「もしかして...トマト嫌いなの?」

「......ええ」

朱音ちゃんは苦々しげな表情のまま頷く。

「どうにも味と言うか、食感というか...その辺が...」

「誰にも嫌いはものはあるよね...」

朱音ちゃんはトマトを一つ食べたけど、物凄く顔をしかめる。明らかに嫌そうな表情なのが分かるけど、サラダに乗っているトマトはまだ数個ある。

「(うーん...無理してまで食べるほどじゃないよね...)」

かと言って、代わりに食べようか?と聞いても朱音ちゃんは『大丈夫』と言うだろう。私は少し考えて

「朱音ちゃん」

「....うう...なに、白羽...」

「はい、あーん」

「...え?」

私は開いた朱音ちゃんの口に自分のカルボナーラを入れる。反射的に朱音ちゃんは口を閉じて食べる。

「じゃあ、私これ貰うね」

そして私は朱音ちゃんのトマトを取って、モグモグと食べた。うん、これも美味しい。かかっているソースがさっぱりしていてカルボナーラの口直しにちょうど良かった。

「......あ、ありがとう...じゃなくて!い、今また...!!」

「ごめんなさい。余計なお世話だったかもだけど、でも、朱音ちゃん辛そうに食べるからつい...」

「そ、そっちじゃなくて!というかい、今のか、かか、かん――

「か?」

「...や、やっぱり何でもない!!あんたは本当にもう...!!」

勝手に食べたことを怒ってるのかと思ったけど、そうじゃないみたい。何に怒ってるのかさっぱり分からない私は首をかしげ、朱音ちゃんは顔を真っ赤にしながら、残りのご飯を食べ終えたのだった。

――――――――――

あの後、私が改めて謝ると朱音ちゃんは

「....わ、私こそ食べてくれてありがとう...。でも、外で急にああいうことするのやめて...。わ、私にも心の準備が...(ゴニョゴニョ)」と、機嫌を直してくれた。(後半は小声だったから聞き取れなかったけど)。確かにちょっと強引だったかもしれない、今度からはちゃんと一声かけてからするように気をつけよう。

お昼ご飯を食べた私達は、今回の目的地の一つであるインテリアショップに向かう。私も見てみたい物はあるけど、どちらかと言うと朱音ちゃんの持ち物があまりにも少ないから、何か気に入った物があれば良いな、という感じで寄ってみた。

朱音ちゃんは物珍しそうに辺りを見回す。

「へえ....色々あるのね」

「うん。朱音ちゃん、何か欲しい物ある?」

興味を持ってくれた様子だったから聴いてみたら、朱音ちゃんは迷っている表情をした。

「...でも、白羽のお父さんとお母さんの部屋だし...」

「朱音ちゃん、遠慮しないで良いんだよ。朱音ちゃんは今、家族みたいな...ううん、もう、私にとっては家族同然だから。自分の部屋だと思って使って良いんだよ」

「か、家族...」

私の言葉に何故か顔を赤くする朱音ちゃん。私はそれを不思議に思いつつも、店内を朱音ちゃんと見て回る。

今、お父さんとお母さんの寝室――朱音ちゃんが使っている部屋は、お父さんが海外へ転勤する時に荷物を片付けたからほぼ何もない。朱音ちゃんが持ってきた荷物は着替えとそれを収納する衣装棚、それとベッドぐらいだから、今本当にあの部屋は何もない。ここで朱音ちゃんが気に入る物が見つかれば良いな。

そう思いながら私は朱音ちゃんと店内を見て回る。

「これとかどうかな?」

「良いわね。買うわ」

「これはどう?」

「買うわ」

....。

「朱音ちゃん、これは?」

「よし、買う――」

「ちょ、ちょっと待って、朱音ちゃん」

「なに?」

私は商品をカゴに入れようとしている朱音ちゃんを慌てて止めた。

「朱音ちゃん、私が勧めた商品を全部入れようとしてるよね...?」

「?ええ、白羽が勧めてくれるなら買おうかなって」

「も、もうちょっと自分でもいるかいらないか、考えてみようよ」

「う~ん...でも、何がいるとかよく分からないし...」

朱音ちゃんの言葉に私も考えてみる。朱音ちゃんが必要そうな物、もしくは好きな物...

「あっ、そうだ、朱音ちゃん。勉強用の机は?」

「え?あ、ああ~...そ、そういえばなかったわね...」

私の言葉に朱音ちゃんは少し目を逸らしながら答える。

「...?それに...朱音ちゃんって絵を描くの好き?」

「...まあ、前は特にやることもなかったし、暇潰しで時々描くぐらいだけど...」

「机買ったら絵も描けるし、ちょっとした作業する時にも便利だよ。どうかな?」

「...まあ、悪くないわね」

朱音ちゃんの返事を聴いて、私は朱音ちゃんを机があるコーナーへと案内する。そこで机や椅子を選んだり、私の目当てだった食器を買い揃えたり、朱音ちゃんの部屋に敷くマット等を購入した。朱音ちゃんの机は後日、送ってもらうことにして私達はインテリアショップを出たのだった。

――――――――

次に私達はゲームセンターへと向かった。私自身、美海ちゃんや舞桜ちゃんとたまに来るぐらいであんまり詳しくはないけど、朱音ちゃんはゲームセンターを興味津々な様子で見回している。

「す、スゴいわね...」

「朱音ちゃんは身体動かすの好きそうだから...ダンスゲームとか、この太鼓のゲームとかどうかな?」

「人前で踊るのもちょっと恥ずかしいわね...」

「じゃあこっちにしてみる?」

「ま、まあやってみようかしら」

朱音ちゃんは太鼓のゲームをすることにしたようだ。真剣な目でバチを持ち、画面を見つめる朱音ちゃん。そして、曲と共に譜面が流れ始める。

朱音ちゃんは最初はぎこちなかったけど、すぐに慣れて

「や、やった!白羽!全部叩けたわよ!」

「凄いよ朱音ちゃん!」

難しい曲もあっさりマスターできるようになった。嬉しそうな笑顔で私に報告する朱音ちゃんが可愛くて、私も笑顔で手を叩く。

「ゲームって面白いわね!他にはどんなゲームがあるの?」

「レースのゲームとか、銃で敵を倒すゲームとか...色々あるよ~」

「へぇ...あ、これ二人一緒にできるのね。白羽、一緒にやらない?」

「わ、私も?う、うん...」

朱音ちゃんが次に興味を持ったのはホラー系のシューティングゲームだった。私はおずおずと銃を模したコントローラーを取る。

「(うう...こういうゲーム苦手なんだよね...)」

ゲームが得意ではないのもそうだけど、単純にこういうゲームは怖いから苦手だった。

そして、画面に出てくるコントローラーの使い方を覚えている内にゲームが始まってしまう。次々と現れるゾンビやゾンビになった生き物達。

『グオオオオオ!!』

「こ、来ないで....っ!」

私は迫り来るゾンビ達に怯えながら銃を撃つ。しかし、手が震えて照準がブレブレな私の攻撃はまったく当たらず、私は攻撃を次々と受けて瀕死に追い込まれてしまう。

「白羽....っ!!」

朱音ちゃんはそんな私を見て、私のフォローをする。瞬く間に私に迫っていたゾンビ三体に弾丸が叩き込まれ、私は窮地を脱した。

「あ、ありがとう...あっ!朱音ちゃん!」

「....っ!!」

しかし、私に気を取られている間に朱音ちゃんの背後に、強いゾンビ熊が迫っていた。私は咄嗟に銃弾を放つ。それは奇跡的にゾンビ熊の弱点である鼻に当たり、ゾンビ熊はのけ反って怯んだ。

「白羽!ナイスよ!」

朱音ちゃんにはその一瞬で十分だった、ゾンビ熊が怯んだ隙に、弾丸を数発、連続で弱点に撃ち込みゾンビ熊は倒れた。それと同時に流れるステージクリアの文字。

「「や、やったぁ!」」

私達はお互いに手を合わせて喜ぶ。ちなみに敵は全て朱音ちゃんが倒していた。

「朱音ちゃん、足引っ張ってごめんね」

「何言ってるの、良い援護だったわよ」

私の頭を朱音ちゃんが撫でる。いきなりで少し驚き、私が顔を上げると朱音ちゃんはハッとした表情で手を引っ込めた。

「あ、ご、ごめん。つい...」

「う、ううん」

朱音ちゃんも無意識だったようで、その顔が少し赤くなっていた。

「ちょ、ちょっと疲れたわね。ゲームって意外と体力使うのね」

「そ、そうだね。あそこに休憩できるところあるからちょっと休む?」

私は休憩スペースを指した。朱音ちゃんは頷き、私達は休憩スペースで少し休むことにした。

「白羽、その、今日はありがとう」

「ん?」

「今までこんな風にその...友達と遊びに行ったことなかったから...。今、とっても楽しいわ」

私はその言葉を聞いて、朱音ちゃんに楽しんでもらえているとホッと胸を撫で下ろした。

「良かった...朱音ちゃんに楽しんでもらえて私も嬉しい」

「本当にあんたは...」

私の言葉を聞いた朱音ちゃんは、呆れたような、でも柔らかい笑顔を見せてくれた。その笑顔を見て私は、朱音ちゃんと友達になれて――その笑顔が見れるようになれて本当に良かったと思うのだった。

――――――――――

その後も私達は色々なゲームを楽しんで、今は話をしながら並んで帰り道を歩いていた。

「はー...遊んだわね」

「うん。朱音ちゃん本当に運動神経良いんだね。ダンスゲームの時とか、周りの人も拍手してたよ」

「アレは....恥ずかしいから思い出させないでよ」

朱音ちゃんはそう言いながらも、その顔は緩んでいた。(ちなみに白羽は朱音に誘われてやったが、途中で転けそうになり朱音に抱き止められ、周りから温かい眼差しを向けられていた)。

「(こんなに気に入ってもらえるなんて...今度は美海ちゃんと舞桜ちゃんも一緒に誘ってみようかな)」

美海ちゃんも身体を動かすゲームが得意だからきっと朱音ちゃんと良いコンビになるだろう、私と舞桜ちゃんは二人を応援して...等とそんなことを考えながら、私は朱音ちゃんが楽しげに今日のことを話すのをニコニコと聴いていた。

そんな私の様子に気づいた朱音ちゃんは、夢中で話していた自分を誤魔化すようにこほんっと咳払いをした。

「そ、そういえば今日の夕御飯はどうする?白羽も疲れてるでしょ?」

「私は大丈夫だよ」

「...白羽の『大丈夫』は大丈夫じゃない時も言うって、白羽の友達も言ってたわよね」

「ほ、本当に大丈夫だよ~」

「...まあ、私も手伝い...になるか分からないけど、手伝うから」

「うん、本当に助かるよ。ありがとうね、朱音ちゃん」

そんなことを話しながら、冷蔵庫にあるメニューを思い出して、今日は何にしようか考えていると、朱音ちゃんが耳元を押さえた。洲藤さんかな?

『よう、赤坂。今日のデートは楽しかったか?』

「で.......っ!?そ、そんなんじゃないわよ!」

「あ、朱音ちゃん?」

急に大声を出した朱音ちゃんに驚きながら声をかけるも、朱音ちゃんは聞こえてないようだった。

『ん?違ったか?嬢ちゃんがお前を楽しませるために、色々と計画して、連れてってくれて...しかも二人っきりで。こりゃデートだろ?』

「ち、違うって言ってんでしょ!?消し炭にするわよ!?」

『わははは!!そう照れんなよ。でも、お前の方からもたまにはリードしてやれよ?最後は夜景の見えるレストランで食事でも誘ったらどう――』

朱音ちゃんは耳から通信機を外した。力を込めて握り潰そうとして、ギリギリで止まって気持ちを落ち着かせるようにすーはー、と深呼吸をしている。その顔は怒っているのか真っ赤に染まっていた。

「朱音ちゃん、洲藤さんと何のお話してたの?」

その様子に気になった私が朱音ちゃんの顔を見ながら聴くと、朱音ちゃんは私の顔を見て何故かますます顔を赤くする。

「し、白羽は気にしなくて良いの!大した話じゃないから!」

「そうなの?でも朱音ちゃんのお顔真っ赤だけど...」

「ほんっとうに大した話じゃないから!ほ、ほら!早く帰らないと夕飯ますます遅くなるわよ!」

そう言うと朱音ちゃんはスタスタと早歩きで歩き始めた。私との距離が見る間に遠ざかっていく。私の小走りぐらいのスピードだった。

「ま、待って朱音ちゃん!」

私は追いつけなくなる前に慌ててその背中を追ったのだった。

朱音ちゃん、洲藤さんと何のお話してたんだろう...?

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