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アウターヘイヴン  作者: 黒百合
6/16

6.『知りたい』

私は白羽を探して校内を走り回るが、白羽は見つからない。焦りがどんどんと大きくなってくるのを感じる。

「(白羽....どこ...!?)」

私は校内を一周するが白羽が見つからず一度冷静になって思考を巡らせる。

「(落ち着け...焦ったら手がかりを見落とす...くっ、何でこんな時に限って誰もいないのよ...!!聞き込みもできな――)」

頭の中で思考を巡らせていた私はハッと気づく。そういえば、時間的にはまだ早いはずなのに、いつもなら運動場から聞こえてくる運動部の声が聞こえない。となれば――何かあれば運動場...!!

私は運動場に走る。でも、これだけじゃまだ手がかりが足りない。早く白羽を見つけないと...もしかしたらもう拐われて、手の届かない場所へ連れて行かれたのかもしれない...そんな嫌な想像を振り払い駆ける。

私はとりあえず運動場を一回りしようとしたが

「(....ん?今、何か...)」

私は怒鳴り声のようなものが聞こえて足を止める。『アウター』である私の耳は常人よりも良い、耳を済ませば『化物』、それに『アウター』という言葉が聞こえてきた。

「(学校に『アウター』が...!?いや、今はそれよりも...!!)」

私は声の聞こえた方へ走る。白羽に関係があるかは分からない、でも今はこれだけが手がかりだ。私は全速力で声の聞こえた方へ走る。声が近づいてくるにつれて、一人が感情を露に怒鳴っているのと...聞き間違えるはずのない、白羽の声が微かに聞こえてきた。

「(白羽の声....っ!!あそこ...体育倉庫かっ!!)」

私は体育倉庫へ辿り着き、開けようとするが鍵が閉まっているのか開かない。

「今は非常時だから手段は選ばないわよ!!」

私は炎を剣の形にすると、それで体育倉庫の扉を焼き切って、中へ突入する!

「白羽ーーーー!!」

中には知らない緑髪の子、それに....トゲのあるつたに全身を締め付けられ、全身血まみれになってぐったりとしている白羽がいた。しかも、白羽の足元には決して少なくない血だまりができている。私はそれを見た瞬間、血の気が引くのを感じたと同時に、燃えたぎるような怒りを感じた。

「お前が......やったのかっ!!」

私は怒りのまま炎を緑髪に放つ。緑髪は「ちっ!」と舌打ちをしながら、壁をつたでぶち抜き回避した。私は炎で白羽を縛っていたつたを燃やし、宙吊りにされていた白羽の身体が落ちてくる。私はそれを優しく抱き止めて、白羽を倉庫にあったマットに下ろした。

「....うっ....朱音...ちゃん...」

「ごめん、白羽。遅くなった」

白羽は幸い、命には別状はなさそうだった。でも、全身傷だらけの白羽を見ると、守れなかった自分と、白羽を傷つけたあの緑髪に底知れない怒りが湧いてくるのを感じる。

と、私と白羽に目掛けて何かが飛んでくる。私はそれを炎で焼き払った。どうやら、向こうはやる気みたいだ。

「少し待ってて...すぐ、片づけてくるから」

「朱...音...ちゃん....」

私は荒い息を吐く白羽の頭を優しく撫でて、緑髪が出た穴から奴を追う。

「あなたは確か『O.P.O』のエージェント...赤坂朱音だったわね」

緑髪は余裕の表情で私を待ち構えていた。その顔には私に対する若干の嘲りの表情が浮かんでいる。

「『ドクター』のお人形相手に手も足も出ずにやられそうになってた雑魚じゃない。死にたくなかったらそこを退きなさい。私、これでも“同族”には慈悲深いの」

『ドクター』の名前を出した。こいつは『リベレーター』の一員だ。なら....いつものようにやるだけだ。

「言っておくけど私は強いわよ?『O.P.O』のエージェントだって何人も返り討ちに――」

「黙りなさい」

私は緑髪を黙らせるために火を放つと同時に駆け出す。それが開戦の合図となった。

「あはは!お友達を傷つけられて怒っちゃったの!?」

緑髪は私の炎をつたで防ぐ。つたは炎に包まれて灰と化す。

「(とは言え...あの赤髪の炎は私の能力と相性が悪い...でも、炎使いも私は何人も倒してきたわ)」

「(ここはいつもの...アレで行こうかしら)」

私は緑髪へ炎で逃げ道を塞ぎながら迫る。緑髪の動きは決して俊敏とは言えない。『アウター』は常人よりも身体能力が高いが、その幅は広い。身体能力なら私の方が上のようだ。

「(なら、油断している内に接近して一気に叩く!)」

緑髪はつたを地面からせり出し、私の進路を妨害してくるが私はそれを炎を纏った拳で焼き、叩き壊しながらあともう数秒で緑髪に到達する距離まで行くが――

「は~い、引っ掛かった」

緑髪がそう言うと同時に、私の周囲につたが私を取り囲むようにせり上がってくる。そのつたはさっきまでのつたと違った。

「(花...!?)」

そして

「チェックメイト」

パチンッと緑髪が指を鳴らすと、花から何かが撒き散らされる。それは私の逃げ道を塞ぎながら、まるで津波のように呑み込もうと迫りくる。

「安心しなさい、ただの痺れ粉よ。まあ、あなたのお友達の安全は保証しないけど」

「そんなこと――させないっ!!」

私は全身から炎を噴き出し、そのまま炎を全周囲へ勢いよく放つ。

私を呑み込もうとした粉は、炎に焼かれ、つたごとそのまま吹き飛ばされた。

「なっ...!?なんてデタラメな出力なの...!?」

驚く緑髪の隙をついて距離を詰める。緑髪は勝利を確信していたのか、その身体は無防備だった。

「はああっ!!」

「くっ.....!?」

私は拳を緑髪に叩き込む。全力のパンチを受けて、緑髪は吹き飛ぶが

「(浅い....ちっ、やるわね...)」

私の腕には伸びたつたが絡み付いていた。私が殴る瞬間、地中から伸びたつたが私の腕を引き、拳の威力を殺した。あの一瞬で良い判断と、素早く、正確な能力の展開だ。私が緑髪の方を見ると、草をクッションにして、緑髪は地面に降り立つ。だが、一瞬ふらっとふらつくのが見えた。

「(ダメージは入ってる...このまま押し切る!)」

私は緑髪へ駆け出す。

「こ...の....っ!!調子に、乗るなぁぁぁっ!!」

緑髪は迫る私を迎え撃つように花がついたつたを出し、そこから何かを私に放つ。

それは植物の種子のような物で、バスケットボール大ぐらいの大きさだった。それがプロ野球選手の投球の如き高速で飛来してくる。

「(種...!?皮は分厚そう...火に耐性があるか...!?)」

私は種に火を放ちながら逸れるように回避しようとする。だが、予想に反して種はあっさりと燃える。

「(....思ったより呆気なく燃えた...?)」

だが、次の瞬間

バアンッ!!と、音と共に種が破裂し、そこから大量の小さい何かが放たれる。私は炎を放つが、迎撃しきれず四方八方に散るそれの内の何本かが、私の身体に突き刺さった。

「(これは...トゲ!?あの種の中に仕込んでたの!?)」

さらに私は一瞬、ぐらっ...と意識が遠退くのを感じる。何とか意識を繋ぎ止めるが、頭は依然としてぐらぐらと揺れている。

「くっ...毒...!?」

「ご名答。常人なら一本刺さるだけであの世行きなんだけど『アウター』にはやっぱりちょっと物足りないみたいね。だけど...」

緑髪は花がついたつたを数本出して、私に照準を向ける。まさか...!?

「全身に突き刺されば流石に死ぬでしょ!...あなたが抵抗するのが悪いのよ。人の慈悲を無下にするなら――殺しても文句ないわよねぇ!?」

つたから次々と種が放たれる。私はぐらぐらする頭と吐き気を、気合で持ち直させ回避する。

「(迎撃しなくても近づいたら破裂するかもしれない...!!)」

私は種から大きく離れるように回避をする。だが、そのせいで緑髪とどんどん距離が離れてしまう。遠距離ではあちらに分がある、このままではじり貧だ。

「あははははっ!!いつまで避けられるかしらっ!?」

緑髪は笑いながら必死に回避する私を楽しそうに見ている。

「(出しているつたは5本...あれ以上増やさないところを見るに、このつたはそれが限界みたいね...)」

このつたが特殊だからなのか何かは分からないが、殺す気できているなら手を抜いているわけではないだろう。仮に手を抜いているなら今の内にどうにかしないと、今でも限界ギリギリな私は詰みだ。

「(早くしないと私の炎の射程から外れてしまう...!!)」

かと言って種ごと焼こうとするのは自殺行為だ。となるとあとは――

「(種を出してるつただけを狙撃するしかない!!)」

だが、それは一か八かの賭けになる。失敗すれば全身をトゲに射抜かれ、それで生き残っても毒で死ぬだろう。

「(かと言ってこのままじゃ同じこと――なら、やるしかない!!)」

私は一瞬で意識を集中させる。迫る種の間を縫って、つただけを射抜く――それを成すには炎を極限まで細く、薄くしなければならない。

「(イメージは矢――隙間ができる一瞬を射抜く!!)」

私は種を避けながら求める炎の形をイメージする。

「くっ...しぶとい...!!もうそろそろ飽きたんだけど!さっさと死んでくれる!?」

緑髪は苛立った声で言い、種の弾幕の範囲を広げる。それは、私の逃げ道を塞ぐものだったが――

「(隙間が広がった...!!)」

私にとってはチャンスであると同時にもう後がない状態だった。

私は迫りくる弾幕を見据える。

「....今っ!!」

そして同時に5つの炎の矢を放つ。それは弾幕の隙間を縫い、そして、後ろにあるつたに同時に到達した。つたは炎の矢に射抜かれ、消滅する。

「.....は?」

緑髪は何が起きたか分からない、と言った表情で動きが止まる。

そして続く種の弾丸はなくなり、緑髪との間に道が開けた。

「(またつたを出される前に――倒すっ!!)」

ドンッ!!

私は足から炎を噴き出し、地面を蹴ると同時に爆発させる。緑髪との距離が一瞬で詰まる。

「なっ...くっ....!!」

緑髪はつたを出して迎撃しようとするが、私はもう懐まで距離を詰めていた。

「これは――白羽の分よっ!!」

私は拳を上から打ち下ろし、緑髪の頭部を捉える。緑髪は咄嗟に腕でガードしようとするが、パワーは私の方が上だった。ガードを弾き、緑髪は地面に叩きつけられた。

「が....はっ...」

緑髪は叩きつけられた衝撃で、息を詰まらせるも、腕を動かし反撃しようとする。――前に、私はさらに零距離で緑髪の身体へ炎を叩きつけ爆発させる。

緑髪は動かそうとしていた腕を――力なく倒した。

「ふ....ふふ...やる...じゃない...。まさか、あんな緻密なコントロールが...ごほっ!ごほっ!できるとはね...」

「一応聴くけど『リベレーター』に関する情報を吐く気はある?」

「ふふ...知らないわ」

「そ、じゃあ、ここでお別れね」

私は炎の剣を作り、緑髪の急所を貫いてトドメを刺そうとした。『アウター』同士の戦闘では油断が命取りになることがある。だから処理するなら、迅速に的確に――これまでと同様にそうするつもりだった。

「あは...あはは...“友達”...ね...。もし、私が『アウター』じゃなければ...もしかして...」

だが、緑髪が放った独り言のような言葉を私は聞いてしまった。

友達、そんなことを言うのは――『アウター』である私達に言うのは、一人しかいない。

「....っ!!」

私は炎の剣を突き刺した。だが、それは緑髪の急所ではなく、何もない地面を貫いていた。

「....なあに?もしかして...お友達の復讐になぶろうって言うの...?好きにしなさい....」

緑髪は諦めた表情で私を見る。私はその表情に見覚えがあった。

「(アレは...前の“私”だ...白羽に出逢う前の...)」

『アウター』だから、いつ死んでも良い、そんな気持ちで生きている、そんな表情だ。白羽がそう言ったのなら...ここで私がこいつを殺せば、私は自分で白羽との出会いを――白羽の想いを否定してしまう。

正直に言えばこいつはここで殺すべきだ。『O.P.O』のエージェントとして、危険な『リベレーター』の一人を排除するべきだ。何より、白羽を傷つけたこいつには今も煮えたぎるような怒りを覚えている。今すぐこいつの身体を燃やし尽くしてやりたいぐらいだ。

でも、それをすればきっと白羽は悲しむだろう。あの子の悲しむ表情を想像するだけで胸が張り裂けそうになる。私は――あの子の悲しむ顔は見たくない。

「(ああ....本当に私、あの子の悲しむ顔に弱い...)」

私は諦めた表情で身を投げ出している緑髪の前で、炎の剣を消した。

「....今回は見逃してあげる。さっさと何処へなりとも逃げなさい」

そして、背を向けて歩き始める。

「はっ....?」

緑髪は訳が分からないといった表情で最初呆けていたが、状況を理解したのか私に話しかける。

「まさか...見逃すつもり?エージェントの貴方が?」

「勘違いしないで」

私は緑髪の方は振り向かず、冷たい声で答える。

「あんたに慈悲をかけたわけじゃない。でも、あんたを殺したら白羽が悲しむから...ただ、それだけよ」

「....」

黙る緑髪を置いて私は体育倉庫へ向かう。緑髪が攻撃してきたら殺すつもりで警戒はしていたが、緑髪は何もしてこなかった。

私は緑髪への警戒を切って、白羽のもとへ急ぐ。

「(前みたいな致命傷ではないけど...血をいっぱい流してた。早く病院に連れていかないと...!!)」

私は白羽のもとに辿り着く。そして、息を呑む。白羽を寝かせたマットは血で真っ赤に染まっていた。

「白羽!白羽!?返事しなさい!!」

私は必死に白羽に呼び掛ける。

「あ....かね...ちゃん...?」

「白羽、良かった...。もうすぐ病院に連れていくから!もう少し頑張って!!」

「....ごめん....ね...あり...が...とう...」

違う、謝らなければいけないのは....私は奥歯を噛み締める。

後悔は後!今は、白羽を助けないと!!

私は白羽を背負い、前に白羽が入院した『O.P.O』管轄の病院へできる限りの全速力で向かった。

―――――――――

白羽は命に別状はなかった。それでも全身のトゲによる傷、骨が折れている箇所も何ヵ所かあって、何日か入院することになった。

「エージェントの子でもここまで短期間に入院する子はあんまりいないわね~」

白羽は『O.P.O』所属の医師に呆れた表情をされていた。

今はまだ、眠っている。私は、白羽の顔を見ながら後悔に苛まれていた。

「(校内に『アウター』がいるなんて....私が白羽の側を離れなければ....っ!!)」

『アウター』は特徴的な髪色をしていることが多い。校内にいれば絶対に噂になる。だから、校内にはいないものとして見ていたのだが――まさか、白昼堂々と校内に潜り込む奴がいるとは思わなかった。あの後、昏睡させられた先生や生徒達が見つかった。恐らく、あの緑髪の能力で校内に潜り込んでいたのだろう。私が外からの侵入を警戒していたのは既に手遅れだったということだ。

「(そのせいで...白羽がこんなに傷を....)」

私はそっと白羽の手を握る。服に隠れて見えないが、全身に包帯が巻かれ、服の隙間から見える白羽の身体は痛々しかった。

「(ごめん、白羽...痛かったよね...怖かったよね...)」

『アウター』でない者が、一方的に『アウター』にいたぶられるのは、どれだけの恐怖だったか...そして、白羽にそんな想いをさせたの私のせいなのだ。

「あっ、赤坂さん!?白羽は!?大丈夫なの!?」

「....白羽が事故に巻き込まれたって...!!」

その時、病室の扉が開き白羽の友達二人が入ってきた。確か、ポニーテールの方が青谷で、黒髪の方が神奈崎...だったか。その顔は心配そうな表情でいっぱいだったが、穏やかに寝息をたてる白羽を見ると、幾分か和らいだ。

「(また....白羽を守れなかった...)」

私は二人の顔を直視できなかった。私のせいで二回も白羽をこんな目にあわせてしまったから。二人の白羽を心配している表情を見るとズキッと胸が痛む。

「ごめんなさい...」

だからだろうか、私はつい、二人に対し謝罪の言葉を口にする。

「え?どうして赤坂さんが謝るの?」

「...そうよ、今回のは事故だったんでしょ?」

「でも...私のせいで...私は傍にいたのに、白羽を守れなかったから...」

「そんなこと――」

「今回だけじゃない。前に白羽が入院した時だって、私のせいで――私を助けるために白羽は大怪我をしたの。だから、今回のことも、前回のことも...両方とも私のせいなの」

「「.....」」

二人は黙り込む。私は、どんな罵詈雑言も、暴力も受ける覚悟で二人を待つ。白羽の友達の二人にはその権利があるから。

「赤坂さん」

「.....っ!」

青谷さんの言葉に身体を震わせる。

「....知ってたよ」

「え....?」

だが、青谷さんから出た言葉は、私の想像とは違う、優しい声だった。

「いや、もちろん、何であんな大怪我したのか、とかは分からないけど...何となく赤坂さんが関わってるっていうのは...薄々感じてたよ」

「...それならどうして...」

どうして、私なんかが傍にいるのを許しているのだろう。

「...最初に言ったでしょ」

神奈崎さんが私の目を真っ直ぐ見ながら言う。

「白羽が信じてるからよ」

「....っ!」

「それに白羽が無茶する子だって言うのは知ってるからね~。そりゃ心配だし、大怪我するのは嫌だけど...白羽が決めたことなら、私達は見守るだけ。あの子が頼ってきたなら力にはなりたいけど...今の問題には私達はあまり力になれそうにないから」

「青谷さん....」

たぶん二人は薄々気づいている。私は自身がアウターだと二人に告げようとして――青谷さんに止められた。

「だから、赤坂さんだけを責めるつもりはないよ。何もできないのは私達だって一緒なんだから」

「...赤坂さんが後悔しているのは分かってる。私達も同じ気持ちを感じたこともある。でも...そんな顔してたらそれこそあの子に心配かけるわよ。これは経験者からのアドバイス」

「赤坂さん...神奈崎さん...」

なんて...なんて、厚く、そして温かい信頼なんだろう。二人が白羽のことを本当に想っているのが伝わってくる。

「だから赤坂さんも気にしないで。私達、赤坂さんのせいだなんて思ってないから」

「....ありがとう、青谷さん、神奈崎さん」

「...でも言っておくけど――白羽を泣かせるようなことだけは、絶対に許さないから」

「あ、じゃあ私も約束して欲しいな。赤坂さん、白羽は強い子だけど、優しい子だから...白羽が悲しむようなことは絶対にしないでね?この意味、分かるよね?」

「....分かったわ。私も、あの子の泣く顔は――見たくないもの」

私が頷くと、二人は優しく微笑んでくれた。

「というか、そもそもいつも白羽が無茶しすぎなんだよー。私達が昔からどれだけ心配かけられてるか」

「そ、そうなの?」

「そうだよ、聴いてよ、赤坂さん。白羽ってば、クラスメイトの子が階段から落ちた時にも、下敷きになったりとかね―」

「...小さい子が川で溺れてた時も、橋から飛び降りたりとかもしたわね。数mの高さからね」

「....」

私は少し二人に同情した。

青谷さんは当時のことを思い出してか「まったく...思い出したら腹立ってきたぞこやつめ~」と寝ている白羽の頬を引っ張っていた。白羽は「う....うう....」と少し痛そうな表情と申し訳なさそうな表情をした。起きている様子はないが、何かの夢でも見ているんだろうか。

「ふう....でもまあ、さっき看護師さんに聴いたけど今回はすぐに退院できそうで良かった。それじゃ、時間も遅いから私達はもう帰るね。赤坂さんも、またね」

「...赤坂さんも心配かもだけど、あんまり遅くならない内に帰りなさいよ」

二人は前と変わらない様子で、私に手を振って病室を出ていく。

「(強いな....)」

白羽への信頼、白羽のへの想い、どれもあの二人からはとても強いものを感じた。でも同時に...

「(『今の問題には力になれそうにない』――そう言った時の顔、とても悔しそうだった)」

それは青谷さんだけじゃなく、神奈崎さんもだった。本当は二人とも、白羽に事情を聴いて力になってあげたいのだろう。でも、白羽から話さないということは、今の自分達では力になれないと分かっているから...ただ、黙って無事を祈るしかできないんだ。

「(でも私には...力がある)」

白羽を護れる力が。だったら、私がすべきことは――

「朱音...ちゃん...?」

――――――――――

私が目を覚ますと、そこは病室だった。ぼんやりと、朱音ちゃんが私を抱えてずっと声をかけてくれていたのを覚えてる。

少し視線を移せば、固い表情をしている朱音ちゃんがいた。

「朱音...ちゃん...?」

私が声をかけると、朱音ちゃんはハッとした表情をして私の顔をグッと覗き込んだ。もうちょっとでも近づいたら顔と顔が触れそうだ。

「白羽!?目を覚ましたの!?」

「う、うん...えっと、ちょっと近い...かな...」

私が気圧されながら言うと、朱音ちゃんは「...あっ。ご、ごめん」と顔を赤くしながら距離を離した。

ふと横を見ると、お見舞いの品が置いてあった。そこには美海ちゃんと、舞桜ちゃんの名前とメッセージカードが一緒に置いてあった。

「あ、青谷さんと神奈崎さんもさっきまでいて...」

私の視線を追った朱音ちゃんが説明してくれる。

「そうなんだ...また二人に心配かけちゃったな...。昔から私、二人に心配かけて怒られてばっかりなんだよね...」

「....」

「朱音ちゃんも、今回も迷惑かけちゃってごめんね」

「そ、そんなの!私の方こそ...!!」

「ううん...私朱音ちゃんに謝らないと、って思ってたんだ」

「え...?」

私は朱音ちゃんの目を真っ直ぐ見つめる。

「朱音ちゃん...私、『アウター』のこと、何にも知らないんだって――月香ちゃんに言われて気づいたんだ」

「月香って...あの緑髪の...?」

「うん...世間知らずだって、『アウター』のこと何も知らないくせに勝手なことを言うな...って怒られちゃった...」

「そ、そんなの気にしないで良いわよ!白羽は今まで『アウター』と関わることなかったんだから...」

「でも、私は友達だと言ってたのに...友達のことを、朱音ちゃんのことを知ろうとしなかった...」

「それは...私も、白羽に『アウター』のこと...私の昔の話を聴かせるの嫌だったからで...」

朱音ちゃんは目を背ける。その顔からは私を心配する表情が見てとれた。きっと、話を聞いた私が傷つくと思ってるのだろう。そんな朱音ちゃんの手を私はそっと握った。

「白羽...」

「朱音ちゃん...私に『アウター』のこと、教えて。もちろん、朱音ちゃんが嫌なことは聴かないよ。でも、『アウター』にどんな人達がいて、今『アウター』の人達がどんな生活をしているのか...私はそこから目をそらさずに知りたい。月香ちゃんに今度はちゃんと、『アウター』のことを知って、傷つけないように。そして...朱音ちゃんの友達だって胸を張って言えるように」

「白羽....」

朱音ちゃんは私を見つめて、そっと私の手を握り返した。

「私も...約束する。白羽にどんな危険が迫っても、白羽がどんな存在に脅かされても...必ず私が護るから」

「朱音ちゃん...」

「だから、どんな状況になっても私を――信じて。絶対に一人で無茶しないこと。分かった?」

朱音ちゃんの言葉に、私は頷く。

「うん...でも、朱音ちゃんも無茶したら嫌だよ」

「何言ってるの。白羽の方が私より何倍も無茶してるでしょ。あの二人から聞いたわよ」

「うっ....ち、ちなみにどんな話...聞いたの...?」

私がおずおずと朱音ちゃんに聴くと、朱音ちゃんは悪戯っぽく指を唇に当てて言った。

「それは――内緒よ」

――――――――――

「ぐっ....はあ....はあ...」

「あれ?月っち、そんなにボロボロになってどうしたの?まさか、負けた?月っちが?ウケるー」

「うる...さい...」

「でも、月っちが負けるなんて珍しいじゃーん。『O.P.O』のエージェントだって何人も殺してきたのに。ていうか、そんなボロボロでよく生きて帰ってこれたね?」

「.....」

私は黙った。私が今生きてるのは、赤坂朱音の言葉を信じるなら――水月白羽のおかげだ。私は、大嫌いなあの子の甘い理想で生かされたのだ。これ以上、屈辱的なことがあるものか。

「(...何が“友達”よ...)」

『アウター』、化物である自分にそんなことをのたまうなど、あの子は頭のネジがどっかぶっ飛んでるんじゃなかろうか。

「(でも....何かしら、この気持ちは...)」

私は胸に手を当てる。あの子のことを考えるだけで胸がムカムカする。でも同時に――何故だか少し胸が温かいような...そんな気持ちも同時に感じているのだ。

「....手酷くやられたようだな」

「っ!?」

私は聞こえてきた低い声に思わず身体を震わせた。その声は――ここで聞くはずのない声だったからだ。

「え~!?ちょ、“マスター”が来るなんて聞いてないんですけど!?」

私に声をかけてきたギャル風の子も驚きの声をあげる。

それもそのはず、私に声をかけてきたのは――

「おや?君は黒影君じゃないか。どうしてこんなところに?」

そこにドクターがふらりと現れた。緊張の様子もなく話しかけるドクターに“マスター”は淡々と返す。

「...作戦の重要度が上がった。俺の部隊も今回の作戦に加わる」

「マジで!?“マスター”とその部隊が加われば百人力じゃーん!」

ギャル風の子が興奮した様子で話す。それもそのはず、“マスター”の肩書きを持つのは、世界的に活動し、数多くの構成員を持つ『リベレーター』の中でも四人だけ。そして、その四人は『リベレーター』の指針を決める権限を持つ、いわば『リベレーター』のトップ達。そして、その戦闘能力は『O.P.O』のトップクラスのエージェントと互角の力を持ち、さらに『リベレーター』の中でも戦闘に秀でた者を集めた戦闘部隊をそれぞれ率いる、まさに『リベレーター』の中核的存在なのだ。

「(そんな存在がまさかここに来るなんて...)」

ここでの作戦はとても大きく、そして激しいものになるだろう。それはもう疑いようのなかった。

「水月、白羽...」

私は自分でも無意識に、その名前を...色々な感情が混ざった声で呟いていた。

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