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アウターヘイヴン  作者: 黒百合
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3.『ミートスパゲッティ』

「し、白羽~!!よかった、目が覚めたんだね!!」

「....大丈夫なの!?」

病室の扉を開けて入ってきた美海ちゃんと舞桜ちゃんは、今にも泣き出しそうな顔だった。

「うん....ごめんね、心配かけて...」

「本当だよ!ぐすっ、白羽が大怪我して入院したって聞いた時、本当にビックリしたんだからね...!」

「...ほんと、心配かけるんだからこの子は....!」

美海ちゃんと舞桜ちゃんは元気そうな私の姿を見て、ホッとした様子だ。

「...起きてても大丈夫なの?」

「うん、もう怪我はほとんど治ってるから。今週には退院できそうだって」

「そうなんだ。良かったよ、本当に...」

美海ちゃんと舞桜ちゃんは、私に持ってきてくれたお見舞いの品を見せてくれる。

「じゃーん!私のはこれ!美味しそうでしょ!」

「私はこれ。白羽、病室だと退屈だと思って。それと...これは私達二人から」

「選んだのは舞桜だけどね!」

「二人とも...ありがとう」

美海ちゃんはフルーツ、舞桜ちゃんは私の好きそうな本を、そして綺麗なお花を持ってきてくれた。

美海ちゃんと舞桜ちゃんはお見舞いの品を置こうとして――

「...なんか、ずいぶん多いね?」

「...クラスの皆でも来た?でも、一人ずつ持ってくるわけないし...」

「えっと....そ、それは...」

私の周りにたくさんあるお見舞いの品に怪訝な顔をした。私がどう説明したものかと口ごもっていると

「....まさか!?男!?」

「....はあっ!?」

美海ちゃんの言葉に舞桜ちゃんが、今まで聞いたことのない声と表情で驚いていた。

「怪我で弱った白羽を落とそうと、男がアプローチしてるんじゃ...!」

「そうなの!?白羽!?」

舞桜ちゃんは私の肩をガシッと掴む。

「お、落ち着いて舞桜ちゃん...男の人からの物は...あるには、ある、けど...」

私は否定しようとするがふと洲藤さんのことを思い出す。

それを聞いて美海ちゃんは好奇心に目を輝かせ、舞桜ちゃんは目を据わらせ、私をガクガクと揺さぶりながらさらに質問する。

「どこ!?どこのクラスの奴なの!?」

「白羽マジ!?本当に男の人から貰ってたなんて!」

「ち、違う...よぉ...お、男の人でもクラスの子じゃなくて、お、大人の人で...」

「ロリコン!?ロリコンが白羽を狙ってるの!?」

「なになに!?もしかして爛れた秘密の恋ってやつなの!?」

洲藤さんのことを、知り合いの男の人だと説明して納得してくれるまで、二人の興奮は収まることがなかった――。

――――――――

「白羽、これ、ここに置くねー」

「うん、ありがとう...あっ、良かったら私剥くから一緒に食べよう?」

私は美海ちゃんが持ってきてくれた果物を一つ取る。

「これ白羽に持ってきたものなんだけど...」

「...相変わらずね白羽は」

美海ちゃんと舞桜ちゃんは笑う。

「な、なんで笑うの?どっちにしても私一人じゃ食べ切れないし...」

「あー、確かに。量のことは考えてなかった!」

「そうよね、白羽は美海ほど食べないんだから」

「まるで私が大食いみたいな言い方はヤメロ!」

二人のやり取りを見て思わず私は笑ってしまい、美海ちゃんに「あー!白羽まで笑った!ふーんだ!」と拗ねられてしまう。

「ご、ごめんね、美海ちゃん。えっと....ほ、ほら、これ食べよ?」

私は取った果物の皮を手早く剥く。そうして剥き終わった果物の一つを美海ちゃんに差し出した。

「美海ちゃん、はい、あーん」

「...むう、『あーん』をまったく恥ずかしげもなくするとは白羽、やるな...」

「え?」

「仕方ないなぁ...白羽のあーんに免じて許してあげよう」

美海ちゃんは差し出された果物を食べてくれた。

「...白羽、それ絶対に男にやったらダメだからね。分かった?」

「....ま、舞桜ちゃん...?こ、怖いよ...?」

そして私は何故か舞桜ちゃんに怖い顔で怒られた。

美海ちゃんはと言うと、果物を口に入れた瞬間、目を輝かせていた。

「あ、これ美味しい!我ながら良いチョイス!」

「...そういうのは普通、自分で言わないんじゃないの?」

「いや、ほんとこれめっちゃ美味しいって!二人も食べてみてよ!ほらほら!」

「わ、分かったから口の中に無理やりねじ込まないで美海ちゃ....むぐぅ!」

口の中に果物を突っ込まれ、詰まりそうになる私。確かに美味しい...けど、今は咀嚼するのに精一杯だ。

果物を頑張って口の中で小さくしながら、美海ちゃんの攻撃を何とか避けている舞桜ちゃんを見ていると――

ガラッ

「あっ....」

病室の扉を開けて赤坂さんが入ってきた。赤坂さんは病室にいる美海ちゃんと舞桜ちゃんを見て、入ろうとした足を止めた。

「あれ...赤坂...さん?」

「何でここに...?」

美海ちゃんと舞桜ちゃんが怪訝な顔を向けると、赤坂さんは無言で踵を返して病室を去っていった。

「ビックリしたぁ、まさか赤坂さんがここに来るなんて...」

「...手に何か持ってたけど...まさか、お見舞い?」

美海ちゃんと舞桜ちゃんが口々にそう言うのを聞いて、そういえば二人にはまだ、赤坂さんとのことを話してないことを思い出した。

もちろん、赤坂さんが『アウター』であることは言えないけど...赤坂さんと友達になったことを私は二人に伝えようとするが...

「んん!んー!んー!」

「あはは、白羽、まだ食べてたの?」

「...あんたがあんな大きいの白羽の口に入れるからでしょ...」

口の中にある果物がまだ食べきれなくて、私は声を出せなかった。

二人は時間を見て「白羽の元気な顔も見れたしそろそろ帰りますか」「そうね、あんまり長居したら白羽も休めないだろうし」と立ち上がってしまう。

私は手を伸ばして二人を制止しようとするも「そんな寂しがらなくてもまた来るから」「...お大事にね、白羽」と二人は病室を出ていった。

「.....」

残された私はモグモグと果物をとりあえず飲み込むことにしたのだった....。

―――――――――

二人が出ていって時間が少し経った頃、ガラッと病室の扉を開き、赤坂さんが入ってきた。その顔はどこかばつの悪そうな顔をしていた。

「じゃ、邪魔したわね...」

「そんなことないよ。赤坂さんも二人とお話しすれば良かったのに」

「.....」

赤坂さんは顔を背けた。一瞬、その顔が後ろめたさを感じているように見えたけど...それを聴こうか迷っていると、赤坂さんの方から話を切り替えるように咳払いをした。

「ごほん、それより白羽、今日は良いもの見つけたのよ」

「赤坂さん...毎日お見舞い持ってこなくても良いんだよ...?」

美海ちゃんと舞桜ちゃんが驚いていたお見舞いの9割ぐらいは赤坂さんが持ってきたお見舞い品だった。気持ちは嬉しいけど...こんなに貰ったら申し訳ないし、それに...果物や食べ物のお土産を無くなる度に補充されると、そろそろ私の胃が限界を迎えそう...。今でも、傷まない内に食べるのがけっこうギリギリだった。

「お金の心配してるの?大丈夫よ、私はエージェントとしてけっこうな給料貰ってるから」

「そ、それもだけどね....」

「それより、ほら!これ、美味しそうでしょ?来る途中にある店で見つけたんだけど、白羽、絶対に気に入るとおもっ――」

「あっ....」

赤坂さんは果物の入った籠を見せるが、ふと私のベッドのそばに置いてある物を見て言葉を止める。

それは美海ちゃんが持ってきた物と同じ物だった。

「...こんなにあっても食べきれないわよね...」

「赤坂さん....」

赤坂さんがせっかく持ってきた物を無駄にしたくない...でも、私一人じゃ絶対に食べきれない...。

ふと、私はさっきのことを思い出して赤坂さんに言った。

「赤坂さん」

「さ...流石は白羽の友達よね。白羽の好きそうな物、分かってて――」

「これ、貰うね」

「え、な、なに?」

私は果物を一つ取ってさっきと同じように皮を手早く剥いていく。

「...無理して食べなくて良いわよ。これは私が持って帰るから――」

「赤坂さん、はい、あーん」

「......は?」

私が果物を差し出すと赤坂さんは固まった。私は固まったのを良いことに果物を一つ、そのまま赤坂さんの口に入れた。

赤坂さんは無意識に口を閉じてそれを咀嚼し、飲み込んだ。

「って......!!い、今.....っ!!」

見る見る内に赤くなっていく赤坂さんに私は言う。

「私一人じゃ食べきれないから...赤坂さんも一緒に食べよ?」

「...え...」

「それに、一人で食べるより誰かと食べた方が美味しいから」

そう言いながら私も果物を口に運ぶ。そして、今度はまたそれを赤坂さんに差し出した。

「はい、赤坂さん、あー...」

「....~っ!!あ、あんたにばっかり好きにさせるもんですか!」

赤坂さんは私から果物を奪い取ると、仕返しのつもりか私に差し出そうとする。

「ほ、ほら、今度はあたしの番よ。口を開けなさい」

赤坂さんの言う通りに私は口を開く。

「あー....」

「あ....あ、あ、あー....」

「.......」

「...って、できるわけないじゃない!こんな恥ずかしいことっ!!」

赤坂さんは私に差し出した果物を自分の口へ運んだ。私が少し悲しそうな表情をすると「うっ....」と罪悪感を感じた顔をした。そして、少し悩んだ後に私に声をかける。

「あの....白羽....せめて...その、目を閉じて...私の顔、見ないで...」

「赤坂さん....うん、わかった」

私は赤坂さんの言う通りに目を閉じる。大丈夫、あとは赤坂さんに任せれば良い、赤坂さんを信じてるから。

「そ、それじゃあ....あ、あーん...」

赤坂さんの言葉に合わせて私は口を開ける。口の中に優しく果物が入れられたのを感じて、私は口を閉じる。それから目を開けると、赤坂さんは私に背中を向けていた。

「赤坂さん、ありがとう、美味しいよ」

「.......」

「それじゃ、今度は...これを食べよう」

「えっ!?」

「だってまだあるし...」

まだまだ果物は残っている。せめてもう少し減らさないと、食べきれずに傷んでしまう。

「ちょ、ちょっと待っ...」

振り向いて制止する赤坂さんの前で、私は手早く果物の皮を剥いた。

そして果物を取り、赤坂さんに笑顔で差し出す。

「はい、赤坂さん、あーん」

「.......」

その日を境に、赤坂さんは何故か食べ物のお見舞いをあまり持ってこなくなった。

――――――――

退院の日。手続きを済ませて病院を出た私を洲藤さんと、赤坂さんが出迎えてくれた。私は赤坂さんがいることに驚く。何故なら今日は平日の昼間、学校の授業があるはず...

「赤坂さん....授業は?」

「そんなもの、どうでも良いの」

「よ、良くはないよ...?」

「よぉ嬢ちゃん、無事に退院できて何よりだ」

洲藤さんは前と変わらずにサングラスにスーツ姿だった。周りの人が私達を避けて通ってるのはたぶん、気のせいじゃない。

「洲藤さん...本当にありがとうございました」

「元気そうで何よりだ。でもまあ...これで嬢ちゃんは俺にでっかい貸しができたわけだ...なあ?」

「うう....」

私は前に見た入院費を思い出して思わず呻く。

「まあ“今は”気にすんな。いつか返してもらうからよ」

「は、はい...」

「....言っておくけど、白羽に変なことしようとしたら、あんた消し炭にするわよ」

「ん?変なことってなんだ?俺が嬢ちゃんに何をすると思ってんだ赤坂は?」

「そ、それは....」

「変なこと....?」

「し、白羽は気にしなくて良いから!!」

「ええ...?わ、私のことじゃないの...?」

そんな私達を見て洲藤さんはゲラゲラと笑っていた。

「まあ、仲が良くてけっこうなことだ...今日から一緒に暮らすんだからな」

「「......」」

それを聞いた私達はお互いの顔をチラッと見る。

そう、私達は今日から一緒に暮らすことになるのだった...私の家で。

「あの...やっぱり一緒に暮らした方が良いですか...?」

「まあ、俺も強引なこと言ってる自覚はあるんだけどな。実際、嬢ちゃんが『リベレーター』どもに拐われると困るんだよ。嬢ちゃんのこと、上に伝えてねえからさ。後でそのことバレると俺、めっちゃ怒られちゃうんだよ」

洲藤さんはあえて冗談めかして言っているが、実際はもっと深刻な問題になるのだろう。

「でもかと言って、嬢ちゃんを上に渡すとどんな目にあうか分からねえし、俺もそれは寝覚めが悪い。だが、『O.P.O』の戦力は割けねぇ――」

洲藤さんはそう言いながらチラッと赤坂さんを見る。

「元々、遊撃の役割を担っていた、こいつ以外はな」

「...それは...そうだけど...」

「それに...ほら」

洲藤さんはニヤッと笑って続ける。

「やる気のある奴にやらせるのが一番だろ。『白羽は私が守――』」

「燃やすっ!!!」

赤坂さんが能力を使いそうな気配を感じたので、私は必死に止める。

「落ち着いて赤坂さん!ここでそれはダメだよ!?」

「離して白羽!こいつの口が未来永劫開かないように口を焼き切るから!」

「おーこわ。そんじゃ、赤坂の荷物は後日に送るからよ。嬢ちゃん、あとは案内がてら赤坂と一緒に帰ってくれ。よろしく頼むな」

暴れる赤坂さんを抑えていると、洲藤さんは車に乗り込み、そのまま逃げるように去っていった。赤坂さんなら追えるかもしれないが、洲藤さんが去ると落ち着きを取り戻したのか赤坂さんは深呼吸をする。

「ふー....ほんと、余計な口がよく回るんだから...!!」

「赤坂さん、大丈夫?」

「ええ...」

赤坂さんが落ち着いたのを見て、私は意を決して声をかける。

「そ、それじゃあ....か、帰ろう?」

「....え、ええ...」

私と赤坂さんは並んで一緒の道を帰る。私の家はここからそう遠くはない。

「.....」

「.....」

私と赤坂さんはお互いにしばらく無言で帰る。なんだか、一緒に同じ方向へ帰っているというのが、これから同じ家に住むんだ、ということを認識させて妙に緊張してしまう。

「(夕御飯、赤坂さん何か食べたい物あるかな...?)」

私はこの後のことを考えていて、ふと思い出す。

「あっ、そういえば...」

「な、なに?どうしたの白羽?」

不意に声を出した私に、赤坂さんが少し驚きながら聞き返してくる。

「ご、ごめんなさい。あの...帰りにスーパーに寄っても良い?そういえば家に食材がなくて...」

「あ、そ、そういうことね。もちろん、かまわないわよ」

赤坂さんの了承を得て、私達は途中でスーパーに立ち寄る。帰り道にスーパーがあって本当に良かった。

私は買う物を思い浮かべるが、冷蔵庫には確かほとんど残っていなかったはず。残っている物も、もう期限が切れていて食べられないだろう。

何を買おうかな...あ、そうだ。

「赤坂さんは何か食べたい物ある?」

「え?わ、私?」

「うん、今日はせっかくだから赤坂さんの食べたい物を作りたいなって...」

「い、良いわよ、別に気を使わなくても...というか、白羽は病み上がりなんだし、私が作るわよ?」

赤坂さんはそう言ってくれたけど、私は首を横に振った。

「良かったら...だけど、私に作らせて。ううん、作らせてほしいの」

「でも...」

「....私ね、今までは自分が食べるためにしかご飯を作ったことなかったの。でも、今日は誰かのためにご飯を作ることができる――それが、なんだか嬉しいの」

「.....」

「だから、赤坂さんのために、私にご飯を作らせてほしい...ダメ...?」

赤坂さんはしばらく黙っていたけど

「....パゲティ」

「....?」

ポツリと呟く。聞き取れなかった私が首を傾げると

「み、ミートスパゲッティ!私の好物なの!悪い!?子供っぽいって笑いたければ笑いなさいよ!」

赤坂さんは顔を赤くしながら繰り返した。私はそんな赤坂さんの手を取って

「笑わないよ。...教えてくれてありがとう、赤坂さん。私、頑張って美味しく作るから!」

「う、うん...」

赤坂さんに感謝と、気合いを伝えるようにぎゅっと手を握る。赤坂さんは、顔を少し俯かせながら私に返事をするが...突然、ハッとした表情になり

「し、白羽。わ、分かったから手...はな――」

「それじゃまずはこっちからだね、それから――」

「ちょ、ちょっと!話を聞きなさいよ!?」

私は赤坂さんの手を握ったままスーパーの中へ入る。既に頭の中が赤坂さんに喜んでもらえるように美味しいものを作ることにいっぱいになっていた私は――周りからの微笑ましいものを見るかのような視線に気づいていなかった。

――――――――

スーパーで買い物を済ませた私達は、買った物を持って帰り道を歩いていた。と言っても、ほとんどは赤坂さんが持ってくれている。

私も持とうとすると「このぐらいはやらせなさいよ。それに、この程度、私一人でも余裕よ」と言って、私に荷物を持たせなかった。それに実際、赤坂さんは荷物を持っていても全く苦のない表情をしていて、私が持っている荷物も私が流石に全部持たせるのは気が引ける、と半ばワガママを言って持ってるようなものだった。たぶん、私が持っている荷物を持っても赤坂さんは余裕だろう。

「赤坂さん、ごめんね、荷物ほとんど持ってもらって...」

「大丈夫って言ってるでしょ。何なら白羽ごと運んであげましょうか?」

「は、恥ずかしいからそれはやめて...」

流石にこんな人目のある所で抱えられるのは私だって恥ずかしい。

「...白羽だって私の言うこと聞いてくれなかったし、本当に抱えてやろうかしら」

「....え?あ、赤坂さん?」

赤坂さんは最初は冗談交じりだったが、急に本気の表情になってジリジリと私との距離を詰め始めた。

「わ、私....何かした....?そ、そうだったらごめんね...?」

「....無自覚なの?一回あんたも私と同じ気持ちを味わった方が良いと思うわ」

さらにジリジリと距離を詰めてくる赤坂さん。それと同時に私もジリジリと距離を取ろうとする。だけど、赤坂さんが本気になったら私は逃げられないだろう。逃げ道を探すように後ろを見た私は、見覚えのある家を見つけた。

「あ、赤坂さん!ほ、ほら、あそこが私の家だよ!」

「....ちっ」

家の方を指すと赤坂さんは諦めたのか距離を詰めるのをやめてくれた。私はホッと息を吐く。

...そんなやり取りがあったが、私と赤坂さんは家の前に着いた。私は、久しぶりに帰ってきた我が家を改めて見る。

私の家は、お父さんがお母さんと結婚した時に建てた家で、そこそこ広い家だった。三人一緒に暮らす分には少し広いぐらいだけど...今は私一人で暮らすには広すぎる家だった。

私は鍵を開け、扉を開いた。そして、赤坂さんを迎える。

「ど、どうぞっ」

「お、お邪魔します...」

赤坂さんも私も、緊張しながら家へと入る。

久しぶりに帰った我が家は変わりはないように見えたが...私はふと思い出す。

そういえば...あの日、私は家に帰る前だった。ということは――

私は慌てて台所、それに洗濯や風呂場等諸々を確認する。長い間空けていた代償に、それはもう――大変なことになっていた。

「.....」

「白羽?どうしたの、家に帰るなり慌てて――」

荷物を置いた赤坂さんが、戻ってきた私を怪訝な顔で見る。私は赤坂さんの方へ振り返ると

「ごめん、赤坂さん!私の部屋で待ってて!」

「....え?」

「なるべく早く終わらせるから!!」

「ちょ、ちょっと――!?」

赤坂さんにこの惨状を見せるわけにはいかない。私は戸惑う赤坂さんの手を引き、半ば強引に私の部屋へと案内する。

「本当にごめんなさい、ここで少し待っててね」

「な、なに?もしかして掃除?それなら私も――」

「だ、大丈夫!だから――下には絶対、降りてこないでね!おトイレもそこにあるから!」

私は部屋の扉を閉めると、下に降りて改めて惨状と対峙する。

「こんなこと――赤坂さんにさせられない」

私は掃除用具を取り出し、髪を束ね、汚れないように頭に布を巻く。

そして、深呼吸をして気持ちを整えると――戦いへと足を踏み出した。

――――――――――

「.....」

半ば強引に白羽の部屋へと案内された私は、少しの間呆然としていたが

「(いや....でも....手伝った方が良いわよね...?)」

白羽の気迫に押されてしまったが、白羽が入院していてその間、家に帰れてないのは知っていたし、白羽が今、独り暮らしなのも知っていた。掃除する人間が長期間いなかったのだから、汚れるのは当たり前だし。白羽が友人や知人にでも頼んでいれば別だろうが...。

「(...まあ、あの子はそういうこと頼むタイプじゃないわよね)」

そもそも思いつきもしなかったに違いない。仮に友人達が言っていても断っていただろう。そのぐらいは、普段の白羽を見ていれば分かる。まあ、そもそも今回は本当に忘れていたみたいだが...。

「白羽は病み上がりだし...」

白羽にはああ言われたがやっぱり手伝おう。そう思って扉に近づくと

ガチャッ!と扉が開いて白羽が何かを持って入ってきた。

「ご、ごめんね...何も出さないで...」

「え、いや...」

「これ、飲物とお菓子持ってきたから、食べて待ってて」

「白羽、私も――」

「あともう少しで終わるから!だから――お願い、もうちょっとだけここで待っててくれる..?」

「うっ....」

泣きそうな顔で懇願する白羽に何も言えなくなってしまう。

「(...私、この子の泣き顔に弱いみたい...)」

どうしようもないほどに。結局、私は白羽の言葉に頷くしかなかった。

「そっちに本もあるから、読んで良いからね。...あ、横になりたくなったら、私のベッド使ってね」

白羽は私が頷いたのを見て、ホッとした表情で扉を閉めて戻っていった。

「はぁ.....」

私はため息をつく。白羽の手伝いができない自分が情けなかったが、今は待つしかなさそうだ。

「白羽の部屋だからあまり物をいじるわけにもいかない...し...」

私はそこまで言って改めて今、白羽の部屋にいることを認識する。

「(そ、そうよね....私、今、白羽の部屋に....!!)」

ダメだとは分かっているが、どうしても気になって部屋の中を観察してしまう。

丁寧に揃えられた本棚、大小様々なぬいぐるみ、そして

「あっ....これ、あの二人と...」

白羽の友達二人と一緒に写っている写真があった。この頃から白羽の髪は白かったようだ。やっぱり、生来持って生まれたものなのか...。

「(白羽....ちっちゃいわね...)」

小学生の頃の写真なので当たり前だが、写真に写っている白羽は小さかった。笑顔で写っている白羽を見ていると思わず頬が緩んでいるのに気づく。

「(...って、何でにやけてるの私!?気持ち悪いわよ!)」

私は頬を叩き、写真から目を逸らす。あの写真は危険だ、別の写真を...。

視線を移していた私はあることに気づく。

「家族の写真が....?」

あの友達二人との写真や、クラスメイト達との写真はあるのに、何故か家族が写っている写真が一枚もない。

「(片付ける暇はなかったから...元からなかったってことよね...?)」

私は少し疑問に感じたが

「(まあでも...こんなものなのかも。別の部屋に飾ってるかもしれないし)」

一般的な家庭と言うものを知らない私には、これがおかしいことなのかどうか判断できなかった。私が『アウター』として覚醒したのは物心つく前で、その時に家族とは縁が切れている。

私は写真については深く考えず、視線を移していき、その目は白羽のベッドに止まる。

「(し、白羽が使ってるベッド...よね...)」

それを意識すると鼓動が早くなるのを感じる。

「(何をドキドキしてるの私...!!これじゃまるで...!)」

白羽のベッドに興味があるみたいじゃない...!!

「(そんなことはない...決して、そんなことは...!)」

そう自分に言い聞かせながらも、その足はふらふらと白羽のベッドに近づいていく。

「そ、そうよ。べ、別にそんなことはない...し、白羽だって使って良いって言ったし...ちょ、ちょっと、横になりたいだけなんだから...。ベッドに横になるのはあ、当たり前なんだから...」

私は言い訳をするかのように呟きながら、白羽のベッドの前まで――。

「ごめんね!赤坂さん!!お待たせ――」

「きゃあああああ!!」

「えっ、な、なに!?どうしたの!?」

突然扉が開けられ、かけられた声に驚いて思わず悲鳴を出してしまう。そんな私に白羽は驚いた顔をしていた。

白羽はベッドの近くに立っている私を見て

「あ、もしかして休むところだった?ごめんね、もう少し時間を置いて――」

「や、やや、休んでない!!や、休むわけないでしょっ!!」

「....??」

「そ、それより!掃除終わったんでしょ!?早く下に行きましょ!」

私は戸惑う白羽を置き去りに、下へと降りる。この部屋は...危険だ。早く出なければ....!!

「ま、待って、赤坂さん!」

逃げるように階段を降りる私を慌てて白羽が追ったのだった。

―――――――――

掃除したかいあって、下は綺麗になっていた。

「(後で上もお掃除しないと...)」

下よりはマシだろうが、上も長い間掃除してないから汚れているだろう。でもとりあえず、そろそろ夕御飯の時間だ。私だけなら遅れても良いけど、赤坂さんを待たせるわけにはいかない。

私はエプロンを着け、キッチンに立つ。さっきの掃除の時に使う食材はもう出してある。

「(.....よし!)」

私は髪を結び直し、気合いを入れる。私から言った以上、絶対美味しいものを赤坂さんに食べさせてあげたい。それに...赤坂さんは私を信頼して、自分の好きな物を私に伝えてくれたんだ。その信頼に応えたい。その想いを込めて調理に取りかかった。

―――――――

「で、できたよ、赤坂さん」

私は作ったミートスパゲッティをテーブルに並べる。

赤坂さんは「あ、ありがとう」とお礼を言いながら席に座った。

「......」

「......」

お互いに向い合わせで席に座る。

「そ、それじゃ...ど、どうぞ...」

「え、ええ...い、頂きます」

赤坂さんは手を合わせ、ミートスパゲッティを取って――口に運んだ。私は赤坂さんの反応をドキドキしながら見守る。

「....っ!!」

赤坂さんが目を丸くする。私はそれを見て、口に合わなかったのかもと心配するが――

「お、美味しい...!すごく、美味しい...!!」

と言って、ミートスパゲッティをさらに口に運んだ。その様子を見て私はホッとして「よかった...」と呟く。

「白羽、これ、本当にすごく美味しい!」

目を輝かせながら私に言う赤坂さんは、普段の雰囲気とは違って幼い子供のようだった。

「(赤坂さん、本当にミートスパゲッティ好きなんだ...)」

私はそんな赤坂さんが可愛くてつい、ニコニコと見つめていた。

そんな私の視線に気づいたのか、赤坂さんはハッとした顔をして、見る見るうちに顔を赤くした。

「ひ、人の食べてるところじろじろ見ないでよ!?」

「ご、ごめんね。赤坂さんが可愛くて、つい...」

「か、かか、かわっ!?」

赤坂さんの顔が真っ赤になり、その手からフォークが滑り落ちそうになるが、赤坂さんはすんでのところでフォークを掴み直した。そして、深呼吸して気持ちを落ち着かせると私に言った。

「ひ、人のこと見てないで白羽も食べなさいよ!冷めるわよ!?」

「ご、ごめんなさい」

赤坂さんの言う通りだ。私もミートスパゲッティを食べ始める。

申し訳ないと思いつつも、チラッと赤坂さんの方を見ると、赤坂さんは本当に美味しそうな表情を浮かべて食べていた。

「(誰かにご飯を作って「美味しい」って言ってもらえるのって、こんなに嬉しいんだ...)」

赤坂さんの顔を見ていると、温かくて幸せな気持ちになる。だからか、ついつい私は赤坂さんの顔を見すぎて、赤坂さんに気づかれてしまった。

「....だから見ないでって言ってるでしょーー!?」

――――――――

「ご馳走さまでした」

「お粗末様でした」

私と赤坂さんはお互いに手を合わせる。私が食器を片付けようとすると赤坂さんは私の手を掴んだ。

「待って、それは私がやるわ」

「大丈夫だよ、赤坂さんはゆっくりして――」

「.....はぁ。結局、こうするしかないわけね」

「え?」

赤坂さんは私の言葉にため息をつくと――掴んだ私の手を自分の方へ引き、そのまま、ひょいっと私の身体を抱き抱えた。これはいわゆる――『お姫様抱っこ』だ。

「え、ええっ!?あ、赤坂さん――」

赤坂さんは私を抱き抱えたまま、リビングのソファまで近づくと、私をソファに下ろした。そして、私に顔をグッと近づける。

「白羽。私もここに住む以上、お客さんじゃなくて、同じ家の住人よ。だから、そんなに気を使わないで。それに――私はされっぱなしは性に合わないの、何事においても、ね。分かった?」

そう言うと赤坂さんは私の髪に触れ、優しく撫でた。

「.....わ、わかり...ました...」

私は恥ずかしさのあまり、思わず敬語になりながら小さく頷く。それを見て赤坂さんは満足そうな表情を浮かべて食器を片付けて洗い始める。

「(び、ビックリした....)」

突然、お姫様抱っこされたこと、顔を近づけられたこと、髪を撫でられたこと...どれか一つでも私の心臓をドキドキさせるのには十分なのに、それがいっぺんに来たのだから私の心臓はもう、大変なことになっていた。私は何とか深呼吸をして気持ちを少しは落ち着かせることができた。

「(すー...はー...。考えてみると、赤坂さんの言う通りだよね...)」

私は赤坂さんの言う通り、赤坂さんをお客さんとして見ていて――そして、私は赤坂さんに守ってもらうしかできないことに罪悪感を感じていて、だからできる限り赤坂さんにはここでは、何の気兼ねなく過ごして欲しいと思っていて...でも、それは赤坂さんにとっても失礼なことだったかもしれない。

「(今度は...私も赤坂さんを頼るようにならないと...)」

そして、赤坂さんにも頼ってもらう。お互いにお互いを助け合う、それが一緒に暮らすということ...そういうことだろう。

でも....

「(うう~....でも、でも...!さっきのはやり過ぎだと思うよ赤坂さん...!)」

私はさっきの光景がフラッシュバックし、赤坂さんに赤くなった顔を見られないよう、ソファにあったクッションに顔を埋める。

チラッと赤坂さんの方を見ると、赤坂さんは平静を保って食器を洗っている。そんな赤坂さんの顔がちょっとだけ恨めしかった。

「(な、なな、何やってるの私ーー!?いくら何でもやりすぎでしょ!?し、白羽の顔近かったし、髪さらさらだった....あああああああ!!考えるな私ーーー!?)」

なお、本人は全然、まったく、平静ではなかった。赤坂は赤坂で炎が噴き出しそうなほど(比喩ではない)恥ずかしい気持ちを抑えながら食器を何とか洗い終えるのだった。

―――――――

あの後、何とか平静を取り戻した私は、赤坂さんと順番にお風呂に入った。一緒に入っても良かったのだけど、赤坂さんにすごい勢いで断られてしまった。

その間に私の部屋のお掃除ができたから良かったのは良かったのだけど...。

そうして、テレビを見ながらお話をしたりしていると

「そういえば....」

私はふと気がついたことがあった。

「どうしたの?白羽」

「赤坂さん、私のこといつの間にか“白羽”って呼んでくれるようになったよね」

「ゴホッ!」

赤坂さんは飲んでいた飲み物を噴き出しそうになり、むせる。

「あ、赤坂さん!?大丈夫!?」

「ゴホッ!ゲホッ!ゴホッ!」

私は慌てて赤坂さんの背中をさする。赤坂さんはしばらく咳き込み、ようやく落ち着いた。

私は赤坂さんに謝る。

「きゅ、急に変なこと私が言っちゃったからだよね、ごめんなさい...」

「き、気にしないで...というか、私も言われてから気づいたわ...。きゅ、急に名前を呼び捨てするなんて、今思えば馴れ馴れしいわよね...?」

赤坂さんが悩み始めたので私は慌てて否定する。

「そ、そんなことないよ。ただ、私の名前、呼んでくれるようになったのが嬉しくて...」

赤坂さんは最初、私を名前はおろか名字でさえ呼んでくれなかった。それが今は、私の名前は赤坂さん本人も無意識に、当たり前のように呼んでくれている。赤坂さんが心を打ち解けてくれた気がして、私はそれが嬉しかった。

「それでね...私も赤坂さんを名前で呼びたいの」

「な、名前で...?」

「うん、ダメ...?」

赤坂さんは少し悩んだ顔をしたけど

「べ、別に呼び方ぐらい好きに呼べば良いじゃない。私だって呼んでるし...」

「...うん、分かった!ありがとう、『朱音』ちゃん」

「.....な、なんかそう、改まって言われると恥ずかしいわね...」

赤坂さん――朱音ちゃんは顔を赤くしながら呟く。

私はその後も朱音ちゃんと色んな話をした。私が朱音ちゃんの名前を呼ぶ度に、朱音ちゃんは少し恥ずかしそうだったけど。

そして、そろそろ寝る時間になったので寝る支度をしようとしたところで――大事なことに気がついた。

「そういえば...朱音ちゃんの荷物、まだ届いてないね...」

須藤さんは“後日”送ると言っていたから少なくとも今日はもう来ないだろう。そうなると、朱音ちゃんの布団がない。服などバッグに入るものは持ってきているけど、流石に寝具は朱音ちゃんでも持ち運ぶのは邪魔だろうし...。

「ええ、そうね」

でも当の朱音ちゃんは焦った様子もなく

「白羽、そこのソファ借りて良いかしら?」

「え.....?」

当たり前のように言うから私は思わず聞き返した。

「あ、朱音ちゃん、ソファって...」

「ダメ?何なら床でも良いわよ」

「そ、そういうことじゃなくて...」

「大丈夫よ、私、外で寝たこともあるもの。だから、雨風さえ凌げればコンクリートの床でだって寝れるわ」

「......」

私は思わず言葉を失った。朱音ちゃんの言葉は、本当にそれが当たり前のように出ていて、それはつまり朱音ちゃんはそういうことを今まで体験してきたということだから。

「(朱音ちゃん...『アウター』の人にとっては....)」

私は...朱音ちゃんに返事をする代わりにその手を取った。

「なに?どうし――」

「朱音ちゃん、一緒に寝よう」

「........は?」

―――――――――

真っ暗になった部屋の中、私は――白羽と同じベッドで横になっていた。

「(....なんで!?どうして!?何でこんなことに!?)」

私は混乱していた。私は家の中でなら正直、床でもまったく問題なく寝れる。その言葉に嘘はない。『アウター』に覚醒して、家を追い出されてから『O.P.O』、洲藤に拾われるまでは外で寝泊まりをしていたのだ。だから、別に寝具が届くまではその辺で寝るつもりだったのだが

『ダメ!』

と白羽に半ば強引に連れられ、今、同じベッドに入っている。あの時の白羽には有無を言わせない迫力があった。

「お休みなさい、朱音ちゃん」

「お、お休み...」

「(って、こんな状況で寝られるわけないでしょーー!?)」

いくら女同士とは言え、流石にこの状況で平然と寝れるはずが...そう思っていた私の横で白羽が静かに寝息をたて始めた。

「ほ、本当に、こ、この子は....!!」

人が緊張していると言うのに...!それは帰ってすぐに大掃除をしたり、食事を作ったりで疲れてるのは分かるけど...!この状況でも平然と寝られる白羽の頬を引っ張りたい衝動に駆られるが、何とかこらえる。

...もちろん、白羽が好意でやってくれたのは分かっている、だけど...この子は自分がそうされるのは弱いくせに、自分がする分にはまったく、微塵も、恥ずかしいだとか躊躇いだとかを一切感じていないのか。

「まあでも...先に寝てくれて良かったわ」

白羽には悪いが、抜け出させてもらおう...そこの床で良いだろう。寝相が悪くて転がったとでも言えば――

ぎゅっ

そう考えていた私は、服が何かに掴まれるのを感じた。

「し、白羽...?」

「すう...すう...」

見ると、白羽が私の服を掴んでいた。私は起きているのかと思い、小声で白羽に呼び掛けるも白羽は寝息をたてて起きている様子はない。

しかし、これで抜け出すこともできなくなった。私はついに諦めて起こそうとしていた身体を横にした。

「っていうかこれじゃ反対にも向けないじゃない...!!」

せめて身体を反対にして寝ようと思ったが、白羽に服を掴まれているせいでそれもできなくなった。こっそり抜け出そうとした罰かのような状況に私は思わず頭を抱えそうになった。

ふと目の前には意識を向ければ、そこには白羽の寝顔、そして、身体はお互いの体温を感じられるほど近くて、もう少し近づけばお互いの吐息が触れそうだ。

「(っ~~!!もう寝る寝る!目を閉じれば見えないんだから!)」

私は目を閉じる。しかし、閉じたら閉じたらで、白羽の寝息、白羽から伝わる体温、触れそうになる身体、そして、目の前にいる白羽からは良い匂いが――

「(ああああああ!?それ以上考えるな私――!?というか、それ、変態っぽいから―――!?)」

おかしなことを考えそうになる頭を必死に抑えながら、心の中で素数を数えていると――その数がそろそろ四桁に届きそうになる頃に、ようやく眠りについたのだった。

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