15.『私達と何も変わらない』
その声は私と白羽の背後からかけられた。私は声がした方へ振り向く。そこには...学校の生徒や先生達が恐る恐ると言った様子で私達の元に集まりつつあった。クラスメイト達の姿も見える。学校でアレだけ派手に戦えば、こうなるのは分かっていた。...私が『アウター』だということも当然、バレてしまうだろうことも。
私は一瞬、身体を緊張に強張らせながらも...それでも、まだ、遅くはない、皆と話したいと思った。話して、分かってほしい、そのためにもまずは、自分から踏み込まないといけないのだと...そう思えるようになったのは間違いなく白羽のおかげだ。
クラスメイト達...美海や舞桜の姿は他の生徒に遮られて見えない。だけど私は、勇気を振り絞って周りの皆に言葉を掛ける。
「...私は確かに『アウター』...『O.P.O』のエージェントよ」
周りがざわめく。さっきの戦闘を見ていれば察しはつくだろう。だが、それでも私本人の口からそうだと認めれば、それはもう誤魔化しも嘘も効かない。私は続けて言葉を続けようとするがーー
『ば...化物...!!』
生徒の一人が発した言葉に続けようとした言葉がーー唇が動かなくなった。周りに見える生徒達は皆一様に恐怖の表情を浮かべている。私は一瞬、怯んで動かなくなった唇をどうにか動かして、皆に言葉を続ける。
「待って...!!話を聞いてーー」
『よ、寄るな!!化物っ!!』
『私達を殺す気!?』
私が近づこうとすると周りの生徒達はパニックになって私から距離を取ろうとする。それを見た白羽も思わずと言った様子で声を上げた。
「皆...!!朱音ちゃんは化物なんかじゃーー」
『あんたは確か...水月白羽...!!やっぱりあんたも『アウター』だったの!?』
『その髪色、おかしいと思ったんだ!!今まで大人しくしてたのは本性を隠すためか!!』
「違うっ!!白羽は『アウター』じゃ...っ!!」
白羽までにも矛先を向ける皆に思わず声を荒げて一歩、近づこうとすると、周りはますます恐慌の表情を浮かべる。
『ひいいっ!?こ、殺される...!?』
『それ以上近づくな化物っ!!』
『お前らが殺る気ならこっちだって...!!』
『や、殺られる前に...殺るしか...っ!!』
そして、その表情が徐々に剣呑な物に変わっていく。そして、誰かが発したその言葉で火が着いたように周りからの声がどんどんと大きくなっていく。
『...殺せっ!!』
『殺せっ!!』
『殺してやるっ!!』
『お前達を...殺してやるっ!!』
周りから私と白羽に注がれる殺意の奔流に、私は言葉を詰まらせる。
「.....ぁ.....」
私は...何を勘違いしていたのだろう。過ごしてきた場所があまりにも温かくてーー忘れていたんだ。『アウター』が人々からどんな目で見られているのかを。そして、過去に『アウター』や、それに関わってきた人がどんな目にあってきたのかを。そんな私の思い違いが、今、私の大事な人を窮地に陥れている。それは...私が一番恐れていたことなのに。
その隣があまりにも温かくて...居心地が良くて、失いたくないとーー私が、そんな願いを抱いてしまったから。
周りの声はどんどんと大きく、そして増えていく。白羽が必死に呼び掛けても...一部の冷静な生徒や先生達が声をかけても、その声はもう届かない。近くにいる生徒達は今にも私と白羽に飛び掛かってきそうだ。
「(...白羽だけは...守らなきゃ...)」
そのためにはどうするべきか。...簡単なことだ、こうなっている原因がいなくなれば良い。私はもう答えを出していた。そして...それは大事な人との別れを意味することも。
私は一瞬だけ目を閉じる。脳裏に白羽と出会ってからの色々な思い出が浮かんでくる。...白羽は私に今まで色んな温かさを教えてくれた。誰かの作った料理を食べることの温かさ、誰かのために何かをしてあげたいと思う温かさ、誰かと冗談を言い合ったり、遊びに行ったり...誰かと一緒に過ごして笑い合う温かさ...。
「(今まで本当に楽しかった...まるで、夢みたいに...)」
そう、今までのは夢。神様が私に少しだけかけてくれた慈悲。ーーそれで十分じゃないか。『アウター』の...“化物”の私には。
私は少し目を閉じてから...行動に移った。
ーーーーーーーー
「皆っ!!お願いだから...話を聞いて...っ!!」
私は周りの生徒達に必死に呼び掛ける。だけど、皆は恐怖と殺意で耳を塞いでいて私の声に耳を傾けない。後ろで美海ちゃんや舞桜ちゃん、クラスメイト達も必死に宥めようとしてくれている、だけど、その声はあまりにも小さくて...皆には届かない。
「.....っ!!」
私は唇を噛む。皆から感じる恐怖と殺意の感情がどんどん大きくなっている。今は皆、不意に現れた『アウター』...朱音ちゃんの存在、それに目の前でアウター同士の戦闘を見せられたことでパニック状態になっていて、とても話を聞いてくれる状態じゃない。
それでもなお、私は皆に想いが届くように、敵意がないことを伝えるために皆に声をかけ続けようとーー
「...そう、バレちゃったなら仕方ないわね」
不意に後ろから声が聞こえた。その声はとても冷たくてーー私が振り向くより早く、後ろからドンッ、と誰かにーーいや、私の後ろにいるのは一人しかいない。私は...朱音ちゃんに突き飛ばされた。
「え...?」
私はバランスを崩しながらも体勢を立て直して、朱音ちゃんの方を振り返る。少し私と距離が離れた朱音ちゃんは..最初に会った頃のような冷たい視線を私と、背後にいる生徒達へ注いでいる。
「朱音ちゃん...?」
「...ほんと、つくづくあんたも甘ちゃんよね。利用されていることにも気づかないで」
「朱音ちゃん...何を...」
「まだ分からないの?」
突然のことに、私の後ろで皆が戸惑いの声をあげるのが聞こえてくる。でも、私にはそれを気にする余裕はなかった。
「あんたは利用されていたのよ。『アウター』である私に好意的に接してくれるし、家まで貸してくれるんだから。良かったわね、私があんたを殺そうと思えばーー『アウター』じゃないあんたは今頃、消し炭よ」
朱音ちゃんが炎を威嚇するように殺気と共に出す。そんな朱音ちゃんに周囲の生徒が怯えて一歩後ずさる。
「...利用されていた?」
「そうよ。お人好しのあんたを私が利用していたの」
「.....」
私は黙り込む。それは裏切られたショックからじゃない。...朱音ちゃんは裏切ってなんかない。だって、そう冷たく私に言い放つ朱音ちゃんの目はーーとても悲しそうで、泣きそうな目をしていたから。
「...でも、こうしてバレた以上、もうあんたに用はないわ。だからーーここでお別れよ」
「っ!!朱音ちゃんーー!!」
朱音ちゃんが私に背を向ける。朱音ちゃんが何をしようとしているのかーーそれに気づいた私は思わず朱音ちゃんの元へ駆け出した。
「来るなっ!!」
朱音ちゃんは炎を私の目の前で爆発させて足を止めさせようとする。周りから悲鳴が上がり土煙が私達を覆い隠す中、私は足を止めずに爆発の中を通り抜けて朱音ちゃんに向かって走る。そして、私に背を向けている朱音ちゃんの手を掴んだ。
「...やっぱりあんたは、あのぐらいじゃ止まらないわよね...」
朱音ちゃんは一瞬だけ、優しくて...悲しい笑みを浮かべた。
「朱音ちゃん...待って...」
私は呼吸を整えながら朱音ちゃんに話しかける。ここで手を離したら朱音ちゃんがどこかに行ってしまうーーだから、私は手を離さないように力いっぱい朱音ちゃんの手を握る。
朱音ちゃんは少しだけ私に顔を向ける。私は朱音ちゃんを説得しようと口を開こうとするが、朱音ちゃんがそれより先に口を動かした。周りが悲鳴と怒号で溢れる中でも、その言葉は私の耳にハッキリと聞こえた。
『今までありがとうーーさようなら』
「っ!!ダメっーー」
私は朱音ちゃんを離さまいと手に力を込めるーーだけど、朱音ちゃんはそれをいとも容易く振り払った。私は振り払われた勢いで、地面に後ろから座り込んでしまう。それでも私は、すぐに立ち上がってなりふりかまわずに、朱音ちゃんに手を伸ばそうとするがーー
「さようなら」
朱音ちゃんはそれより一瞬早く、地面を蹴って跳躍する。そして、伸ばした私の手は虚しく空を切ってーー私は地面に倒れ込んだ。
「...あ...ああ...」
掴んでいた手の温もりがなくなり、朱音ちゃんの姿が見えなくなると同時に、私は喪失感に見舞われる。『さようなら』。その言葉は否が応にも決別を感じさせて、朱音ちゃんがいなくなった、という事実を私に突きつけてくる。
「朱音ちゃん...っ!!」
私の目から涙が溢れる。様々な感情が胸の中に押し寄せてきて、頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなる。私は地面に倒れ込んだまま、止めどなく溢れてくる涙を抑えられなかった。
「朱音ちゃん...う...あああああ....!!」
私の泣き声が周囲に木霊する。土煙が晴れて、地面に倒れ泣きじゃくる私を見て、殺気立っていた周りの生徒達が困惑する。
『水月さん...は騙されていたのか?』
『見捨てて逃げたってことは仲間じゃなかったの?』
『あの赤髪...何て酷い奴だ!!やっぱりアウターってのはロクな奴等じゃないな!!』
そして、徐々に私には同情的な視線が集まり、朱音ちゃんに批判の矛先が変わる。朱音ちゃんは、自分の身を犠牲にして私を守ってくれたんだーーなのに、私は朱音ちゃんを止めることも、周りの生徒達を止めることもできなかった。
何も...できなかった。
「約束したのに...私も、守れるようにって...朱音ちゃんを守るって...約束...した...のに...!!」
月香ちゃんの言う通りだ。私は口だけで、何もできていない。私が無力なせいで、朱音ちゃんを傷つけて、そして大事な友達を失ってしまった。
去り際に見た朱音ちゃんの表情が脳裏によぎる。朱音ちゃんの目は、とても悲しそうでーーその目じりには涙が浮かんでいた。私のせいで、朱音ちゃんにあんな顔をさせてしまったんだ。
これでもうお別れ...?朱音ちゃんにあんな顔で『さようなら』と言わせてしまって...このままもう会えないだなんてーー
「...いや...だ...」
そう思った時、私の口からは自然とその言葉が漏れていた。
「このまま...お別れなんて...絶対に嫌だ...っ!!」
そしてゆっくりと立ち上がる。私の周りに集まっていた生徒達が驚きの表情で私を見る。
「追いかけなくちゃ...!!」
ふらつく足に力を込めて、走り出そうとする。そんな私を周りの人達が慌てて止めようとする。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。あなた、どこへ行くつもり?」
「...友達を、探しに行きます」
「はあ?」
周りの人達は...たぶん上級生の人...は呆れと同情の視線を私に向ける。
「あなたね...さっきの聞いたでしょ?あなたはあのアウターに利用されていたのよ?」
「そうだ、裏切られてショックなのは分かるが...ちゃんと現実を見ろ」
「アウターと友達になんてなれるわけないんだよ。所詮、あいつらは化物ーー」
「違います」
私はキッパリと言い切った。私を説得しようとしていた上級生の人達の言葉が止まる。
「朱音ちゃんは...アウターの人は化物じゃありません。...私達と同じように、好きなものがあってーー」
朱音ちゃんが私の作ったミートスパゲッティを美味しそうに、恥ずかしそうに食べている姿を思い出す。
「嫌いなものもあってーー」
朱音ちゃんがトマトを苦い顔で食べていたのを思い出す。
「遊びに夢中になったりーー」
ゲームセンターで朱音ちゃんと協力して敵を倒したり、上手にゲームができて喜んでいた姿を思い出す。そしてーー友達になってから、朱音ちゃんが見せてくれた色んな笑顔を思い出す。
「...嬉しいことがあれば笑顔になるーー私達と変わらない、普通の女の子です」
私は止めてきた上級生の人の目を真っ直ぐ見ながら言う。私の決意と想いを伝えるように。
上級生の人は一瞬、たじろいだ様子だったけど、すぐにその表情はさっきの表情にーーいや、その表情には苛立ちと怒りが混じり始めた。
「あなた...人の話を聞きなさいーー」
「私の...私の話も聞いてください!!」
「っ!?」
上級生の人は驚いた表情をする。大人しそうな白羽が大声を出したのが意外だったのか、続けようとした言葉を止める。白羽は言葉を続ける。
「あなたは...アウターの人と実際に話したことはありますか?」
「そ、そんなわけないでしょ...危ないし...」
「だったら...何故、危ないと...化物だと思うのですか?」
「それは...テレビとかでもアウターが暴れてるってやってるし...それに、あいつらは炎を出したり...人間にはできないことを平然とできるのよ?そんな恐ろしい力を持ってるものなんて...怖いに決まってるでしょ」
上級生の人は肩を震わせる。周りの人達の表情も似たようなものだ。それは当然の反応なのだろう、だって、私も前まではそうだったから。
「...そう、ですよね。私も前まではそう思っていました。『アウター』は何となく危ないって...でも、私達とは関わりがない、どこか遠い国のような出来事で...でも」
私はそんな過去の自分と決別するように言う。
「朱音ちゃんと出会って...朱音ちゃんと友達になって実際に話して、色んなことを一緒に経験して...アウターの人だって、私達と何も変わらないんだって...気づけたから。私は...朱音ちゃんのおかげでそれを知れたんです」
だから
「朱音ちゃんに...大切な友達にあんな悲しそうな顔をさせたままで、このままお別れなんて絶対に嫌だからーー私は朱音ちゃんを探しに行きます」
私がキッパリと言い放つと上級生の人は一瞬たじろいだ様子を見せたが
「このーー訳の分からないことを!!人が親切で言ってるのよ!?良いからーー止まりなさい!!」
自分が親切心でやっているーーいや実際に、そうなのだろう。アウターに裏切られた後輩を諭すためにやっていることを正面から否定され、苛立った表情を見せる。そして、感情のままに上級生の人は私に手を振り上げた。
「.....っ!!」
私は受ける衝撃に備えて、ぎゅっと目を瞑るーー
「ーー流石に暴力を振るうのは見過ごせねえな」
ーーだけど、その手が振り下ろされる前に誰かが掴んだ。
「あ、安藤先生!?」
上級生の人が驚いた表情で、自分の手を掴んでいる安藤先生の名前を呼んだ。
「ったく、後輩に暴力を振るったらダメだろ、阪口」
安藤先生はそう言って生徒を嗜めた後、周りを見回す。
「...この様子だとやっぱり間に合わなかったか。でもーー」
安藤先生は私を真っ直ぐに見据える。
「...お前はもう、やることを決めたんだろ?」
「...はい」
「ならーーここは任せろ。お前はお前のやるべきことをーー友達を迎えに行ってやれ」
「...!はい!!」
背を押してくれた安藤先生の言葉を受けて、私は走り出した。
「朱音ちゃん...!!」
当ては...ない。だけど、ここで諦めたらもう二度と朱音ちゃんに会えなくなってしまう。
「絶対に...このままお別れなんて嫌だから...っ!!」
私は朱音ちゃんが去った方向に、その後を追って全力で駆ける。
ーーーーーーーーー
「安藤先生!?今までどこに...」
「というか腕、怪我してますよ!?」
「あー...この腕の怪我は、まあ気にするな。それよりも...」
安藤は走り去った白羽から視線を生徒達に戻した。生徒達の顔には一様に不安と恐怖の表情がこびりついている。それもそうだ、学校にアウターが現れて暴れたということだけでも、今までアウターという存在に触れてこなかった者にとってはトラウマになるほどの恐怖だっただろう。そして、そんなアウターの一人が自分達の中に紛れていた...ということがどんなことをもたらしたのか、今までのアウターに関する歴史を考えれば想像に難くない。
「(...やっぱり間に合わなかったか。すまねえ...赤坂、水月...)」
安藤は白羽達に心中で謝罪をすると、腕を掴んでいた生徒の手を離して、その頭に手を置いた。
「阪口。お前は後輩に暴力を振るうような奴じゃないだろ?」
「わ、私は...」
「分かってる。...心配だったんだよな。お前も突然のことで怖い中、後輩のために止めようとしてたんだよな」
そう言いながら安藤は生徒の頭を撫でる。生徒の顔が少し和らいだ。
その時、列の後ろから二人の生徒が飛び出してくる。
「お前らは...青谷と神奈月だったか」
「安藤先生!!白羽と朱音は...!?」
「二人の姿が見えないけど...どこに...」
「水月は赤坂を追いかけていった」
安藤は誤魔化すでもなくハッキリと言った。二人の顔色が変わる。
そして、そのまま二人は白羽達の後を追うようにして追いかけようとし、それを周りの生徒が止めようとする。
『お、おい!お前らまで行く気か!?』
『まさかあんた達も知って...!?』
「ううん、知らないよ」
「私達も朱音がアウターだって初めて知った」
周りの生徒達がざわめく。
『じゃ、じゃあ何で追いかけようとしてるんだ!?』
『そうだ!怖くないのか!?』
美海と舞桜はその問いに即答した。
「だって朱音も白羽も私達の友達だもん」
「アウターだったとか、そんなの関係ない。白羽も朱音も大切な友達だから。友達が悲しい想いをしてて、助けが必要なら手を差し伸べる...それだけ」
そう言って二人は校門を抜け、白羽達の後を追った。残された生徒や教師達は口々に不安や疑問を口にしている。
『あ、アウターが友達...?』
『あいつら気が触れてるんじゃないか...?』
『と、とりあえず、警察に連絡して...』
様々な声が響く中、さらに列の後ろから一人の生徒が出てきた。
『アレは...榊原さん?』
『榊原グループの...』
榊原グループの令嬢の名前は、他学年でも知られていた。注目を浴びると同時に、この場を収めてくれるのではないか、そんな期待の眼差しが彼女に注がれる。
だが、彼女は朱音が去った方角を苦い顔で見つめていた。
「...勝ち逃げだなんて、そんなの許しませんわよ」
そして小さな声で何かを呟くと、校門へ向け歩を進めようとする。そんな榊原に周囲の生徒達が慌てて止める。
『さ、榊原...さん!どこへ!?』
『も、もしかして...?』
流石に白羽達の時のように強く止めることができず、遠慮がちに声をかけてくる生徒達に榊原は鬱陶しそうな目線を向けた。
「...そこをどいてくださらない?」
『榊原さんまで...?』
『アウターなんかと友達だと...?』
「勘違いなさらぬよう」
周囲の疑問の声に榊原はピシャリと言い放った。
「元より私は赤坂朱音がアウターだと知っていましたし」
さらりと、とんでもないことを言う榊原に周囲はざわめくが、彼女はそれを気にした様子もなく言葉を続ける。
「赤坂朱音は私のライバル...勝ち逃げは許さないと言うだけですわ。...あの子には借りがありますし。何よりーー私の嫁にあんな顔をさせた者には一言文句を言ってやらなければ気が済みませんわ」
『何を言って...?』
『嫁...?』
こんな時でも変わらない榊原に、周囲の生徒達は戸惑う。白羽達との経緯を知らない彼等に理解できないのは無理もないのだが、榊原に説明する気はないようだった。かまわずにその場を離れようとした榊原に、思わずと言った様子で一人の生徒が声を上げる。
『何で...何で貴方達はアウターなんかと一緒にいられるの!?あいつが怖くないの!?』
それはここにいる大部分の声を代弁したものだった。『アウターが怖い』ーー人とは違う力を持つから。その気になれば、人一人を殺すのなんて簡単にできるから。私達“人”とは違う生き物だからーーそんな声が聞こえてくるようだった。
榊原はその声に...一瞬だけ足を止めた。『アウターが怖い』ーーそれは彼女だってそうだ。実際に赤坂朱音がアウターだと分かった時には彼女も恐怖でいっぱいだったのだから。あの時の赤坂朱音は怒っていたのだからなおさらだ。
「(でも...あの時の赤坂朱音は...)」
彼女はあの時のことを思い返す。あの時の赤坂朱音は怒っていながらも...水月白羽への温かい優しさを感じた。そんな彼女が、世間一般で言われているような恐ろしいアウター達と一緒だと、彼女にはどうしても思えなかった。
「(それに...アウターだからと言って引くつもりもありませんし!)」
相手がアウターだからと言って、水月白羽を諦めるつもりもない。だから...こんな形での決着なんて認めない。相手がアウターだったから...なんてのは。自分の好きな人は正々堂々、自分の力で振り向かせて見せる。彼女は改めて決意を新たにし、生徒達の方へ振り向く。
「アウターが怖くないか...そんなものは関係ありません。私と赤坂朱音は恋のライバル...それ以上でもそれ以下でもありませんわ!」
堂々と宣言する。そして、戸惑う生徒達を置いてその場を立ち去ったのだった。
『榊原さんまで...』
『...あそこまで信頼される理由が...あのアウターにあるって言うのか...?』
生徒達は戸惑いながらお互いに顔を見合わせる。冷静になった生徒達は自分達がどうするべきか、迷い始めた。それは、白羽達の行動が、言葉が、間違いなく彼等に影響を与えていた。
それまで黙っていた安藤は、ざわめく生徒達に声をかける。
「なあ皆。...俺の話を少し、聞いてくれねえか?」




