13.『もっと仲良くなりたいから』
お休みの日、私はお出掛けの準備を整えていた。
「うん...これで良いかな」
私は自分の格好を確かめる。今日の私はせっかくなのでこの前、朱音ちゃんに買ってもらった服を着ていた。私は髪を整えてから玄関の方へ向かう。
玄関の方では、朱音ちゃんがこの前私が買った服を着て、そわそわとした表情で、何度も自分の髪や、服をチェックしていた。
「朱音ちゃん、待たせちゃってごめんね」
と私が声をかけると、朱音ちゃんはハッとした表情をしてから私の方を振り向いて
「ん...ごほん、だ、大丈夫よ」
「...朱音ちゃん、緊張してる?」
「そ、そんなわけ...」
と朱音ちゃんは言いかけるが、その後に
「...うん、ちょ、ちょっとね」
と、期待と不安が入り交じった表情をしながら答えた。
「何か心配ごとでもあるの?良かったら聞かせて欲しいな」
「た、大したことじゃないから...」
「例え大したことじゃなかったとしても...朱音ちゃんが不安に思ってるなら私は聞きたい。朱音ちゃんにも今日は楽しんで欲しいから」
「白羽...」
私が朱音ちゃんの目をじっと見つめていると、朱音ちゃんは少し迷ってからおずおずと口を開いた。
「その...今日は白羽の友達も来るから...私なんかがいて邪魔にならないか...とか、私、他の人が知ってるようなこと全然知らないし...」
そう私に言う朱音ちゃんの表情はとても不安そうで。
「朱音ちゃん」
「あっ...ご、ごめん。今から遊びに行くのにこんなこと言って...」
「ううん。朱音ちゃんが不安に思っていること、聞かせてくれてありがとう。それとね...」
私は朱音ちゃんの目を真っ直ぐに見ながら
「朱音ちゃんが邪魔になるだなんて、そんなことないよ。美海ちゃんも舞桜ちゃんも、朱音ちゃんと遊びたいから――朱音ちゃんのことをもっと知りたくて、仲良くなりたいから、だから誘ってくれたんだよ」
「そう...かしら」
「うん、だからそんなに不安にならないで。それに...」
私は不安そうな表情の朱音ちゃんの手をそっと優しく握る。
「私もいるから。分からないことがあったら遠慮なく聞いて。...私も流行りの物とか全然分からないんだけどね」
私が苦笑しながら言うと、朱音ちゃんもつられて笑ってくれた。
「...そこは『私に任せて』ぐらい言ってよね」
「ご、ごめんね」
「...でも...あ、ありが――」
朱音ちゃんが何かを言いかけた時
~♪
「あ、美海ちゃんだ」
私の携帯が鳴り響き、画面を確認すると、美海ちゃんからの連絡だった。私は携帯を操作して電話に出ようとするが、ふと朱音ちゃんが少し憮然とした表情をしているのに気づいた。
「朱音ちゃん、どうしたの?」
「...何でもない」
そんな朱音ちゃんに首をかしげながら電話に出ると
『白羽ーーーー!赤坂さんーーー!起きてるーーー!?』
と、美海ちゃんの声が聞こえてきて、耳元に当てていた私は美海ちゃんの元気一杯な声を耳の間近くで聞いてしまう。
「み、美海ちゃん...おはよう...」
私は頭がぐわんぐわんと揺れているのを感じつつ、美海ちゃんに何とか返事をする。
『あ、白羽、ちゃんと起きてるね!えらいえらい!』
『...私に起こされといて偉そうに言うんじゃない』
画面の向こうからもう一人の声が聞こえる。どうやら舞桜ちゃんが美海ちゃんを起こしてあげたみたいだった。
『赤坂さんもおはよう!今日楽しみにしてるからね!』
「え、ええ...」
『...美海、そろそろ行かないと私達が遅刻するよ』
『やば、もうそんな時間!?じゃ、また後でね、二人とも!』
通話が切れる。私と朱音ちゃんは、一瞬の出来事に顔を見合わせて、二人同時に苦笑する。
「...ほら、朱音ちゃん。心配なかったでしょ」
「え?」
「美海ちゃん達も、朱音ちゃんが来るのをすごく楽しみにしてるよ」
「.....そう、ね」
朱音ちゃんは私の言葉にようやく緊張が解けた表情をする。そんな朱音ちゃんの方に私は身体を回して振り向く。戸惑う朱音ちゃんに、私はにっこりと笑いかけながら
「行こ、朱音ちゃん」
と、朱音ちゃんを遊びに誘うように言う。朱音ちゃんは一瞬、躊躇った後に恐る恐る手を伸ばして私の手をそっと掴んで頷いた。
「...うん」
―――――――――――
「二人ともーーー!こっちこっちーーー!!」
待ち合わせの場所に行くと、美海ちゃんがぶんぶんと手を振りながら私達を呼ぶ。周りの人達が何事かと私達を見てきて、ちょっぴり恥ずかしい――あ、舞桜ちゃんが美海ちゃんの頭にチョップした。
二人の元に行くと美海ちゃんが涙目で頭を押さえながら、舞桜ちゃんを恨めしげに見ながら
「...いつか私の頭割れそう」
「...良かったじゃない、割れたら思考も分けて考えられるようになるでしょ」
「確かに!...ってそんなわけあるかーい!」
「の、ノリツッコミ...」
朱音ちゃんがボソッと呟く。二人のやり取りも微笑ましいけど、周囲の人がクスクスと笑いながら美海ちゃん達を見ている。あまり騒ぐと他の人達の迷惑になりそうだ。
「み、美海ちゃん、舞桜ちゃん。他の人もいるからそのぐらいで...」
「む、そうだね。遊ぶ時間がなくなっちゃう」
私が止まると美海ちゃんはハッとして言い争うのをやめて、改めて私達の方へ向き直る。
「ごほん、改めて来てくれてありがとう、白羽、赤坂さん」
美海ちゃんの言葉に、私は笑顔で頷き、朱音ちゃんは
「わ、私も...楽しみにしてた」
と答える。少しの緊張と、期待をしている表情をしながら答えるその姿に、私達は顔を見合わせて微笑んだ。
「な、なによ...?」
「ううん、赤坂さんの服、可愛いな~って」
「こ、これは...その...白羽が買ってくれて...」
朱音ちゃんは少し顔を赤らめながら答える。
「へえ~白羽が...良いセンスだ!」
「...と言っても選んでくれたのは店員さんだよ」
「でも服贈るって...赤坂さんってあんまり服持ってないの?」
「...それもあるけど、私、朱音ちゃんに感謝を伝えたくて」
「「...感謝?」」
美海ちゃんと舞桜ちゃんが首を傾げる。
「うん。私、朱音ちゃんが家に来てから色々と助けてもらってるし、それに朱音ちゃんが来てからご飯を作るのが楽しくなったりとか、朱音ちゃんが家にいてくれるおかげで、家がとても温かく感じられて...朱音ちゃんにそういう気持ちを伝えたかったの」
私一人では決して気づけなかった温かさに朱音ちゃんは気づかせてくれた。その「ありがとう」の気持ちを少しでも伝えたくて、あの日私は、朱音ちゃんに服をプレゼントしたのだった。
私の言葉を聞いた朱音ちゃんは恥ずかしそうに顔を赤らめながら「...そんなの...私の方が白羽に何倍も...」何かボソボソと呟いていたけど、小声すぎて聞き取れなかった。
「朱音ちゃん?今、何か言った?」
「い、言ってない!というか!こんなところで、そんな恥ずかしいこと言わないでよ...!!」
「え?ご、ごめんね...?」
何故か怒って顔をぷいっと背けた朱音ちゃんに慌てて謝る。そんな私達の様子を美海ちゃんは、からかい混じりの笑みを浮かべながら「うーん、ごちそうさまって感じだね~」と言ってから
「...でも、白羽が家でも寂しい想いをしなくなったのは、私も嬉しいな」と優しく微笑みながら言った。美海ちゃんの言葉に舞桜ちゃんも頷く。
「...私達だけじゃ、どうにもならないこともあったからね。私は白羽のためなら荷物持って何日でも泊まりたいんだけど」
「だから、舞桜が神社の仕事から抜けたらおばさんとおじさんが困るでしょ~」
「...むぅ...」
舞桜ちゃんは本気で悔しそうな表情をする。そんな舞桜ちゃんを見て、私と美海ちゃん、そして朱音ちゃんも苦笑混じりに笑い合う。
「さてさて!こんなところで立ち話もなんだし、カラオケの予約時間まで何しよっか?」
美海ちゃんの言葉に私達は各々考え始める。この辺は様々なお店が並んでいるから、行くところには困らない。と言っても、そこまで長い時間は滞在できないから...
「...ゲーセンとか良いんじゃない?」
「そうだね」
舞桜ちゃんの提案に私も頷く。そこまで距離もなくて、時間を潰すのにちょうど良い。
「ゲーセンね!久々に腕が鳴るね!」
「美海ちゃん、朱音ちゃんゲームすごく上手なんだよ」
「へえ~、せっかくだから対戦する?あ、協力プレイも良いかも」
「の、望むところよ」
「...熱中しすぎて時間忘れないようにね」
私達は話しながら近くのゲームセンターへ向かう。ここのゲームセンターは小さいながらも、最新機器からちょっと昔のものまで揃えてあって、大人から子供まで楽しめる場所として人気の場所だ。今日も多くの人がゲームセンターを訪れていた。
「よーし、じゃあ何やろうか?」
「うーん、この間やったのは太鼓のゲームとか、銃のゲームだったなぁ」
「じゃあ...あ、レースゲーム空いてる!四人座れるし、せっかくだから白羽達もやろ!」
「う、うん」
「...私も?良いけど...赤坂さん、私、下手だからね、お手柔らかに」
「わ、私も初めてだから...」
私達は各々席に座って、レースゲームを始める。...朱音ちゃん、たぶんビックリするだろうなぁ。
見ると美海ちゃんも、私の方を見て苦笑していた。考えることは同じようだ。
カウントダウンが始まり、一斉にスタートする私達。しかし、次の瞬間、唸りをあげて1台の車が猛スピードで加速する。
「邪魔よ、どきなさい」
「なっ...!?はやっ...!?」
普段のクールな表情からは想像もできないギラギラした目をしながら運転をする舞桜ちゃんだった。舞桜ちゃんは後ろにいた朱音ちゃん弾き飛ばし、その勢いでさらに前へ走る。コースアウトする朱音ちゃん。
「相変わらずだね舞桜...!!」
そう言いながら美海ちゃんが巧みな運転技術で、舞桜ちゃんを抜かせまいとするが
「甘い!」
「なあーーー!?」
舞桜ちゃんは車を曲がりながら滑らせ、美海ちゃんの車に体当たりして、そのまま美海ちゃんの車を弾き飛ばす。そして、それも計算していたが如く、弾き飛ばされた衝撃で最小限の動きでコースを曲がる。
「私が今求めてるのは速さだけ...!!」
舞桜ちゃんはドリフト等を駆使しながらコースを最速で走る。だけど、トップの成績に追いつくにはこのまま走っていたら間に合わない。
「だったら――ここっ!!」
それを悟った舞桜ちゃんはアクセル全開で、真っ直ぐ前を走る。
『なっ...!?あの先はコース外だぞ!?』
『いや、見ろ!!あの子が狙っているのは――!!』
周囲の人達がざわめきを漏らす。舞桜ちゃんはコースを外れ、そのままコース外へ――だが、舞桜ちゃんは車を捻りながらその先へ――そして、舞桜ちゃんの車はコース外ではなく、その先のゴール手前のコースへと降り立ち、そのままゴールを決めた。
『『『うおおおおおっ!!』』』
周りの人達が感動して拍手を送る。舞桜ちゃんのスコアは、前の一位の人を抜いて見事トップを刻んだのだった。
舞桜ちゃんが誇らしげな表情で、見ていた人達に手を振って、辺りは歓声に包まれる。
「...舞桜は絶対将来、車を運転しない方が良いと思う」
美海ちゃんが舞桜ちゃんの運転を見てボソッと呟く。
「.......」
朱音ちゃんはそんな舞桜ちゃんをぽかーんとした表情で見つめている。私はぽかーんとしたままの朱音ちゃんに声をかける。
「朱音ちゃん、ビックリしたでしょ?」
「え、あ、え、ええ。ちょ、ちょっとね...」
朱音ちゃんは私の声で呆然とした表情から立ち直って、返事をした。
「...ふう、まあまあね」
「いや、あんた誰よりも楽しんでたじゃん!?」
舞桜ちゃんはレースが終わるといつものクールな顔で私達の方に戻ってきた。美海ちゃんがそんな舞桜ちゃんにツッコミを入れつつも、私達は次のゲームを探して店内を歩く。
「あ、ガンシューティングだ。確か、白羽が赤坂さん、これめっちゃうまいって言ってたよね。赤坂さん、やろ!」
「そ、そんなに期待しないでよ」
朱音ちゃんは、美海ちゃん誘われて一緒に銃のゲームを始める。
前と一緒で朱音ちゃんは素早い反応速度と正確な射撃で次々と敵を倒していく。でも、美海ちゃんも負けてない。楽しそうにしながらも、素早い動きで敵を倒していく。いつしか二人は競い合うようにして、敵を倒していた。
「そこ!」
「よ!赤坂さん、うまいね!」
「青谷さんもね!」
危なげなく敵を倒していく二人。
「ふふ、やっぱり、美海ちゃんと朱音ちゃん、こういうゲームの相性良いと思った」
「...美海はともかく、赤坂さんも運動神経良いとは思っていたけど...これは凄いわ」
私は仲が良さそうな二人を見ながら、舞桜ちゃんと一緒に二人の戦いを見守っていた。
「これで!」
「ラスト!」
そして、敵のボスも二人の連続攻撃を叩き込まれ、あっという間に倒れてしまう。
「ふー...」
「いやー、赤坂さんとやってるとすっごく敵が倒しやすいな!白羽も舞桜もこういうゲーム苦手だからね~」
「そうなの?」
朱音ちゃんが意外そうな表情で舞桜ちゃんを見る。舞桜ちゃんも運動神経は悪くない、さっきのレースゲームだけを見てる朱音ちゃんにはピンと来ないかもしれない。
朱音ちゃんの視線に舞桜ちゃんは珍しく、ちょっと恥ずかしそうな表情をしながら
「...操作が」
「...え?」
「リロードとか、その辺の操作がよく分からなくて...」
朱音ちゃんが驚いた表情をする。舞桜ちゃんは何でもそつなくこなす印象があったからだろう。でも、こう見えて舞桜ちゃんは...
「舞桜は機械系はだいたいダメなんだよね~」
「...ハッキリ言わないでくれる?」
「ごめんごめん...って、照れ隠しに私にチョップしようとするのはやめてよ!?」
舞桜ちゃんが振り上げた手から逃れるように、美海ちゃんは朱音ちゃんの後ろに隠れる。
「...赤坂さんも笑ってない?」
「え、いや、そんなことないわよ?ただ、意外だっただけで...」
「...本当に?」
舞桜ちゃんがじーと朱音ちゃんを見つめる。朱音ちゃんは戸惑いながらも、舞桜ちゃんの視線を真っ直ぐ見つめ返す。
「じー...」
「あの.....」
「じー......」
「いや、そんなに見つめられても困るから...!?」
「...よし」
「どこで納得したのよ!?」
舞桜ちゃんはしばらく朱音ちゃんの顔を見つめて、一人納得したように視線をそらした。しかし、今度は朱音ちゃんが、納得できない表情でツッコミを入れるのだった。
「あっはっはっ、いやー、ほんと赤坂さんって面白いねー」
「褒められてる気がしない...」
「それだけ朱音ちゃんが可愛いってことだよ。だから、そんなに拗ねないで、ね?」
憮然とした表情の朱音ちゃんは私の言葉に「...まあ、悪い気はしないけど」と少し表情を和らげる。
「(朱音ちゃんも楽しそうで良かった)」
やっぱり二人と会って少し緊張ぎみだった朱音ちゃんも、すっかりそれはなくなっていたみたいだった。朱音ちゃんもすっかり、舞桜ちゃんや美海ちゃん達と打ち解けたようで私はそれがすごく嬉しかった。
その後、私達は少し休憩をしようと休憩スペースに座る。
「ごめん、私ちょっとおトイレに行ってくるね」
「あいよー」
私は美海ちゃん達に断りを入れてからトイレへと向かう。トイレで用を済ませて出てくると、自販機が私の目に入った。
「ついでに皆の飲み物買って行こうかな」
皆の好みは大体分かる。朱音ちゃん達は動き回って、喉が渇いているだろうし、ちょうど良いと思った私は自販機の前でジュースを買い始める。最後に、私の分を買って、皆の所へ戻ろうとした時
「ねえ、君、ちょっと良いかな~?」
「え?」
数人の男の人達が私に声をかけてきた。男の人達は、ニコニコと笑みを浮かべながら、私に近づいてきた。男の人達は明らかに大人の人達で、もちろん、私の知り合いじゃない。
「あの...」
「君、可愛いね~。俺達とさ、ちょっと遊んで行かない?」
「わ、私、友達を待たせてるので...ごめんなさい」
私は笑顔を浮かべながら声をかけてきた男の人達に、頭を下げてその場を離れようとする。だが、そんな私の行く手を阻むように、男の人達は私の前に立ち塞がった。
「そんな冷たいこと言わずにさ~」
「あの...本当に、困ります...」
白羽は気づいていなかった。男達は、白羽達が店に入ってきてから目をつけていて、白羽が一番大人しそうで、引っ掛けやすいと思って声をかけてきたこと、そしてこの男達は、怯える白羽を見て楽しんでいたことに。
「君、名前なんて言うの?どこの学校の子?」
「...それは...」
「んだよ、名前ぐらい教えてくれても良いじゃんか、なあ?」
「きゃっ...!?」
男の一人が白羽の腕を掴む。それに驚いた白羽は短く悲鳴をあげ、持っていたジュースを落としてしまう。ジュースは音を立てて転がるが、周りに人はいなく、そして、大声を出しても騒がしいゲームセンター内では異変に気づく人間はいないだろう。
「や、やめてください...!」
「俺ら遊びに誘ってるだけじゃねーか、それなのに何だその態度は?ああん?」
「おいおい、あんまりビビらせてやるなよ。すまねーな、お嬢ちゃん。でもこいつ、キレたら何するか分かんないよ?君のお友達がどうなっても良いのかな?」
「それ、は...」
動きを止めた白羽を見て男達は、互いに顔を見合わせて下卑た笑みを浮かべる。
「君が大人しくしててくれれば、他の子達には手を出さないからさ。だからほら、大人しくついて――」
男は白羽の手を引っ張ってどこかへ連れて行こうとする。抵抗をやめた――いや、友達の身の安全を盾に脅され、抵抗ができなくなった白羽は、男達に連れて行かれようとするが――
「.....気になって来てみれば...ネズミどころかハエがたかってるとはね」
「「「ああん!?」」」
いきなりの罵倒に男達は殺気だつ。しかし、声の主は既に男達の懐に飛び込んでいた。
「なっ...!?」
「大事な友達に...白羽に手を出してんじゃないわよ!」
一瞬赤髪が見えたと思った瞬間、男は地面に叩きつけられていた。
「なっ...!?」
「...あんた達、同じことしか言えないの?」
そして、流れるように白羽の手を掴んでいた男の手を握る。あまりの痛みに男は白羽から手を離す。それと同時に朱音は、男の手を捻りあげる。
「ぎゃあああああっ!?」
「うるさいわね、折らないだけマシと思いなさい」
そのまま背中を蹴って男を地面に蹴り倒す。そして、白羽の手を取って庇うように自分の後ろへと移動させた。
「なんだこいつ...!?武術でもやってんのか!?」
「そんな漫画みたいな奴いるわけねーだろ!」
男の一人が朱音に突進する。身体を押さえ身動きを封じようとする狙いのようだ。だが、朱音は男が掴もうと伸ばした腕を片手で掴んで、あっさりと押し勝ち始める。
「はぇ.....?」
男が信じられないものを見る目で朱音を見る。普通に考えれば中学生の女子が成人男性に勝てるわけがない、それは当たり前の反応だった。
「も、もしかしてお前...!!」
「.....」
「ご、ゴリラ女....!!」
「誰がゴリラよ!」
男の言葉に一瞬身構えた朱音だったが、男の言葉を聞いた瞬間、空いていた片方の手でパンチを繰り出す。鼻が折れ、鼻血を噴き出しながら男は吹っ飛ぶ。起き上がろうとした男の腹を、朱音は踏みつけて上から冷たく見下ろした。
「ひいぃ....っ!?」
「あんた、倒れてる仲間を連れてとっとと出ていきなさい。それとも、今度は腕か足の一本折ってあげましょうか?」
「い、いえすぐ離れますサヨナラ!」
朱音が男を睨みながら脅すと、男は倒れて動けない仲間を連れて、他の仲間達とほうほうの体で店から出ていく。
それを見た朱音は後ろの白羽へと振り向く。
「白羽、大丈夫?」
「う、うん...朱音ちゃん、ありがとう」
私は助けに来てくれた朱音ちゃんにお礼を言う。朱音ちゃんは「気にしないで、私こそついていってあげれば良かったわね、ごめん」と後悔を滲ませながら言った。
「それは...朱音ちゃんが謝ることじゃ...」
「でも...白羽に怖い思いさせたから」
「私は...大丈夫だよ。それと、私こそごめんね、朱音ちゃんに守ってもらってばっかりで...」
「白羽を守るのが私の仕事...なんだから。気にしないで」
朱音ちゃんはそう言って私の頭を優しく撫でる。私がさっきのことで不安になっていると思ったのか、まるで慰めるように。実際、少し怖かったけど...でも、朱音ちゃんが来てくれた時、不安や怖さは一瞬で吹き飛んでいた。
「それじゃ...青谷さん達の所に戻りましょ」
「うん」
朱音ちゃんが手を差し出してくれる。私はその手をぎゅっと握って、朱音ちゃんの手から優しい温もりを感じながら、美海ちゃん達の所に戻ったのだった。
...なお、美海に買ったコーラは、白羽が男に腕を掴まれた時に落としたせいで、開けた瞬間に勢いよく美海の顔に噴き出し
「うわーー!?」
「ご、ごめん美海ちゃん―――!?」
と、美海の顔をコーラまみれにしたのだった。
―――――――――――
「いえーい!皆ーー!盛り上がっていこーーー!!」
「...マイク越しに大声出すなバカ美海」
「あ、ごめんごめん!」
舞桜ちゃんに怒られ、美海ちゃんはマイクから離して謝る。さっきのことは、二人には話してはいない。余計な心配をかけたくなかったし、それに、朱音ちゃんが一人で大人の男の人達を倒したと聞いたら疑問に持たれる可能性があるから。
「それじゃあ、まずは私から行くねー!」
美海ちゃんが歌い始める。美海ちゃんが歌っているのは、最近の流行りの曲だ。確かアイドルの曲だったかな...?曲に合わせて、と言う感じはあまりなく、美海ちゃんのペースで歌っているけど、元気がもらえそうな、そんな歌声だ。
「えーと...ここを...こうして...」
「舞桜ちゃん、入れたい曲あったら言って。私が入れるよ」
美海ちゃんの歌を聞きながら、私達は自分が歌う曲の準備をする。機械の操作が苦手な舞桜ちゃんの代わりに、私が機械を操作して曲を入れる。
「...ありがとう白羽」
「ううん、気にしないで」
舞桜ちゃんから視線をふと朱音ちゃんに移すと...朱音ちゃんはものすごく緊張した表情でカラオケの機械を前に固まっていた。
「朱音ちゃんも操作が分からないの?」
「いや...操作は大丈夫なんだけど...」
「?」
「(わ、私も歌わないといけないの忘れてたーーー!?)」
すっかり観客気分でいた朱音は、自分も歌う順番のじゃんけんに参加させられたことで、自分も歌う数に入れられていることに気づいたのだった。ちなみに順番は、美海→舞桜→朱音→白羽の順番である。
「(ど、どうしよう!?な、何を歌ったら...!?)」
そんな朱音の苦悩は知らず、白羽は首を傾げるのだった。
「みんなーー!ありがとうーー!」
「...すっかりアイドル気分ね」
少し様子のおかしい朱音ちゃんに一瞬気を取られたけど、美海ちゃんの歌が終わっていた。私達の拍手が響く中、次の舞桜ちゃんがマイクを持った。
そして流れ出したのは...演歌だった。
「相変わらず渋いね~舞桜」
「...好きだからね」
そして、舞桜ちゃんが歌い出す。私達は手でリズムを取りながら舞桜ちゃんの歌を聞く。舞桜ちゃんは、時々こぶしをきかせながら、力強い歌声を響かせる。普段のクールな舞桜ちゃんを知っている人ならビックリするだろう。実際、朱音ちゃんは驚いた表情をしていた。
「~♪」
「じょ、上手ね...」
「舞桜ちゃん、昔からよく近所の人達と一緒に歌ってたらしいから」
「そ、そうなんだ...」
「(というかや、ヤバい!?もう次、私の番じゃない!?こんな上手な人の後に歌うのすごいプレッシャーなんだけど!?)」
「~♪...ふう」
舞桜ちゃんが歌い終わって、スッキリした表情でマイクを戻す。そして次は朱音ちゃんの番になった。
「あ、これ知ってる。小学校の頃、歌ったことあるよね」
「...本当、懐かしいわね」
流れてきた曲の前奏を聞いて、美海ちゃんと舞桜ちゃんが呟く。朱音ちゃんが選んだのは、誰もが知ってそうな音楽の教科書に載っている曲だった。
「あ...えっと...わ、私その...」
マイクを持って緊張した表情で、言葉がうまく出せない様子の朱音ちゃんに、私は優しく声をかける。
「大丈夫、朱音ちゃん。落ち着いて。友達同士なんだからそんなに緊張しないで」
「うっ...でも私、こういう所で歌うの初めてで...歌、へ、下手だし...」
「朱音ちゃんは自分の思う通りに、いつも通り歌ったら良いんだよ」
「......わ、笑わないでよ...?」
「絶対、笑わないよ!」
「...遊びのカラオケなんだからもっと力を抜いたら良い」
「そうだよ、だから...朱音ちゃんも楽しんで歌って欲しいな」
美海ちゃんや舞桜ちゃん、私の言葉に朱音ちゃんは意を決した表情で歌い始める。その表情はまだちょっと恥ずかしそうで、所々、声が小さくなったり、つっかえながらも、何とか曲に合わせながら歌う。その姿は一生懸命で、とても可愛らしくて、朱音ちゃんらしい姿だった。
「~♪...ご、ご清聴ありがとうごひゃいました!」
朱音ちゃんが歌い終わると同時に私達は拍手をする。朱音ちゃんは、歌い終わると私達に頭を下げて早口でそう言ったが、噛んだことに顔を赤くしながらそれを誤魔化すように、私に「んっ!!」とマイクを差し出す。私は苦笑しながらマイクを受け取った。
「さ~て、今日の主役歌手が来たね!」
「あ、あんまり緊張させないで...」
「...録画しとこ」
「(白羽の歌...初めて聞くわね...)」
私は皆の視線を受けながらマイクを握る。表示された曲は、最近動画サイトで有名な曲だ。
「あ、この曲か~。私、聞いたことあるよ。ちょっと切ない気持ちになるけど、じーんとする曲なんだよね~」
「そうなんだ...」
前奏を聞きながら、私は歌い始めのタイミングを図り――そして歌い出す。
「~♪」
「...す、すごい...」
朱音ちゃんが呟く。私はその様子を横目に見ながら、歌に集中する。見られていると恥ずかしいけど...歌うことは、私は好きだ。
お母さんが亡くなる前、夜、眠る前に私に色んな歌を歌ってくれて、私はお母さんの優しい歌声の中、眠るのが大好きだった。だからだろうか、お父さんが海外へ転勤して、一人であの家に住むことになってしばらくは、自分でお母さんがよく歌ってくれた歌を口ずさみながら眠っていた。そうすれば、お母さんが傍にいて、一人でも眠れる勇気を貰える気がしたから。だから、一人の夜をいつも支えてくれて、そして、お母さんとの思い出を思い出させてくれる歌が私は好きだった。
「白羽の歌声はいつ聞いても綺麗だね~」
「...本当に、心が洗われるよう」
「......ええ」
そして、曲が終わると皆は拍手で私の歌を称えてくれた。
「白羽...その、綺麗な歌声だったわ」
「ありがとう、朱音ちゃん」
朱音ちゃんが感動した様子で声をかけてくれる。私はちょっと気恥ずかしさを感じながらも、嬉しくてつい顔を綻ばせる。
「さあさあ、どんどん歌うよ~!私の歌を聴け~!!」
「...次はこれにしよ。白羽、ごめん、お願い」
「うん、分かったよ」
「って、皆はやっ!?わ、私は...えーと...次は...!!」
私が歌い終わると、美海ちゃんが入れていた次の曲が始まり、舞桜ちゃんが私に次の曲を入れるようにお願いをする。そして、次々と決まる二人に慌てる朱音ちゃん。その後も私達は、時間目一杯まで、カラオケを楽しんだのだった。
―――――――――
「はー!歌った、歌った!」
「...ちょっと歌いすぎたかも」
「舞桜ちゃん大丈夫?はい、のど飴あるよ」
「うう...最後には童謡まで歌うことになっちゃったわ...」
私達は帰り道を歩きながら、今日のことを振り返りながら話していた。あの後は皆、思い思いに歌って、時々、注文した物を食べてお話ししたりしながら、あっという間に時間が来てしまった。
「ふふ、童謡を歌う朱音ちゃんも可愛かったな」
「も、もう!やめてよ!...次はもうちょっと歌覚えてこないと――」
朱音ちゃんはハッとした表情で自分の口を押さえる。私はそんな朱音ちゃんに首を傾げる。
「どうしたの?朱音ちゃん」
「な、何でも...ない...」
そして頬をほんのり染めながら、私達の方から微妙に視線を逸らした。どうしたんだろう?
そんなやり取りがありつつも、美海ちゃん達と別れる道まで来た。すると、美海ちゃんが朱音ちゃんの方に来て
「ねえねえ、赤坂さん」
「な、なに?」
突然近づいてきた美海ちゃんに少し戸惑いつつも返事をする朱音ちゃん。
「もし良かったらなんだけど...赤坂さんのこと、名前で呼んでも良い?」
「え?」
朱音ちゃんは驚いた表情をする。でも、続けて舞桜ちゃんも
「...私も。もちろん、赤坂さんが良かったらだけど」
「そ、それはどうして...?」
朱音ちゃんの言葉に二人はキョトンとした表情で朱音ちゃんを見る。
「どうしてって...“友達”だから、名前で呼びたいなって」
「...理由を改めて聴かれても困るけど、赤坂さんともっと仲良くなりたいから、じゃダメ?」
「.......っ!!」
朱音ちゃんは戸惑いと、そして嬉しさが混ざった表情で私をチラッと見る。私は朱音ちゃんの背を押すように笑顔で頷いた。
「そ、それじゃ...私も、その、二人のこと、名前で呼んでも...良い...?」
最後の方は遠慮がちに言った朱音ちゃんの言葉に、二人は笑顔で頷いた。
「良かった~。断られたらどうしようかと思っちゃった!改めてよろしくね、朱音!」
「...私も、改めてよろしく、朱音」
「私も...よ、よろしく、み、美海...さん、舞桜...さん」
名前で呼ぼうとして恥ずかしくなったのか、さん付けで呼ぶ朱音ちゃんに美海ちゃんと舞桜ちゃんがニヤリと笑う。
「あれ~?まだ距離を感じるな~?」
「...朱音はまだ私達に心を開いてくれてないんだね...」
「ち、ちがっ...!」
「白羽のことは名前で呼んでるのに~。やっぱり嫁は違うんだね~」
「よ、よよ嫁とか違う!!そういうのじゃないから!!あのお嬢様じゃないんだから!!」と、朱音ちゃんが顔を真っ赤にして否定する。
「あはは!朱音は本当に反応が可愛いんだから」
「二人とも、そのぐらいにしないと朱音ちゃんが可哀想だよ」
「...ごめん、私もつい、からかいたくなっちゃった」
「私も、ごめんね朱音」
二人の謝罪を聞いて「...本当に分かってるのかしら」と朱音ちゃんはまだ少し怒り気味ながらも表情を緩める。
「それじゃ、私達こっちだから」
「...二人とも、気を付けてね」
「舞桜ちゃん達も気を付けてね」
「じゃ、じゃあね...」
美海ちゃんと舞桜ちゃんが手を振って別れる。私達もそれに手を振り返しながら歩こうとするが、美海ちゃん達は私達に振り向いて
「また遊びに行こうね!白羽、朱音!」
「...今度は曲のレパートリー増やさないとね、朱音」
と言った。二人の言葉に対して、朱音ちゃんは笑顔で
「...ええ。また、今度」
と答えたのだった。




