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アウターヘイヴン  作者: 黒百合
11/18

11.『私の嫁にしますわ!』

次の日。今日からまた登校日になるのだが...私と朱音ちゃんは朝ご飯を食べながら、あることを話して合っていた。

「榊原さん...大丈夫かな」

「...それに、私が『アウター』であることも知られちゃったからね...」

朱音ちゃんは少し重い空気で呟く。

「ごめんね...私のせいで...」

「白羽のせいじゃない。...まあ、クラスの皆が受け入れてくれるかは分からないけど、私も...諦めずに話してみる。でも、白羽に危害が及びそうだったらその時は...」

私は朱音ちゃんの言葉を遮った。

「朱音ちゃん、その時は私も一緒に皆とお話するよ」

「白羽...」

「朱音ちゃんを...友達を見捨てるなんて私はしたくない。それは絶対、嫌だから」

「...本当、強情なんだから。...でも、そういうところが...」

朱音ちゃんは私の言葉を聞いて、苦笑しながら何かを呟く。

「...?朱音ちゃん、何か言った?」

「な、何でもないわよ。...そろそろ行かないと遅刻するわね」

「そうだね...」

私達は時間を見て、学校へ向かう。

「(榊原さん...あれからお話できなかったけど...大丈夫かな...)」

――――――――

教室に着いた私はクラスメイト達から『怪我大丈夫だった?』『え?もう治ったのか?そのお医者さん凄いな...』と声をかけられながら席につく。

「(榊原さん...まだ来てないみたい...)」

私が教室内を見渡していると、一人の女の子が近づいてくる。

「あの...水月さん...」

「笹木さん...?どうしたの?」

近づいてきたのは笹木さんだった。笹木さんは申し訳なさそうな、泣きそうな顔で私に突然頭を下げた。

「ごめんなさい...!私...水月さんにすごく迷惑かけて...!!」

「笹木さん...」

「私、お父さんを...家族のために水月さんを売って...!本当にごめ――」

私は言いかけた笹木さんの言葉を遮った。

「笹木さんは悪くないよ。家族のことを大事にするのは当たり前だし、すごく大切なことだと思う」

「水月さん...」

「私はほら、見ての通りぜんぜんピンピンしてるでしょ?だから、そんな顔しないで、ね?」

私が微笑むと笹木さんはようやく顔を上げてくれた。

「...水月さん、ありがとう...」

「ううん、私こそ...朱音ちゃんに知らせてくれてありがとうね」

「うん...そ、そう言えばあの熊って赤坂さんが追い払ったの...?」

「?うん、そうだけど...?」

「ど、どうやって...?」

「どうやって...って...」

私はふと気づく。

「(そ、そういえば朱音ちゃんが追い払ったのも不自然だよね...?)」

あの場に熊が出たことを知っているのは私と朱音ちゃん、笹木さんに榊原さんの四人だ。朱音ちゃんが『アウター』であることを知っている私と、知った榊原さんはともかく、そのことを知らない笹木さんが不自然に思うのは当然だ。

「(えっとえっと...ど、どうやって説明しよう...!?)」

「水月さん...?」

笹木さんが黙った私に少し訝しげな目を向けている。

「...たまたま熊避けのスプレー持ってたのよ」

そこに朱音ちゃんが助け船を出してくれた。

「そ、そうなんだ...?」

笹木さんはそう言うも、まだ納得しきれてない様子だ。スプレーを当てるのも、けっこうな距離近づかないといけない。女子中学生ができたと信じるのは、少し無理があるかもしれない。

「...私の祖父が猟師やってて、それで、熊のことも教えてもらったことあるのよ」

「そうなんだ...。す、すごいね...」

「(ごめん朱音ちゃん...!)」

私がうまい説明を思いつかなかったせいで、朱音ちゃんのおじいちゃんが猟師になってしまった...。

笹木さんは私にもう一度頭を下げてから自分の席に戻っていった。

「ふう...何とか誤魔化せたわね」

「ごめんね朱音ちゃん...」

「...白羽は気にしなくて良いわよ。元々は私の問題なんだから。と言っても...すぐにバレちゃう嘘かもしれないけどね...」

「それは...」

私は教室を見回す。榊原さんはまだ来ていない。

「...きっと大丈夫だよ」

「白羽...」

「榊原さんなら...ううん、私は榊原さんを信じてるから」

「...まったく、白羽らしいわね。でもまあ、今考えててもしょうがないことよね」

私の言葉に呆れ半分に笑いながら、朱音ちゃんの表情が少し柔らかくなった。

「しろはー!おっはよー!」

「きゃっ」

突然後ろから誰かに...いや、もう声で分かるけども、美海ちゃんに抱きつかれ、会話に集中していた私は驚いて短く悲鳴を漏らす。

「ふっふっふっ、背中が隙だらけだぞ白羽よ。そんな迂闊な奴にはこうじゃ――」

「...朝っぱらやめて上げなさいよ、白羽が可哀想でしょ」

「ぐはっ!?」

美海ちゃんが不敵に笑いながら何かをしようとしてたのを止めたのは舞桜ちゃんの容赦のないチョップだった。良い角度と手加減のないスピードで美海ちゃんの背中に入ったチョップで、美海ちゃんは背中を押さえながら私から離れる。

「ま、舞桜~...だんだんと舞桜チョップの威力が上がってない...?骨が砕けるかと思ったよ~...」

「...大袈裟ね。それに、その変な名前で呼ぶのやめろって言ったでしょ」

「良いじゃん、必殺技!実際舞桜のチョップはそのぐらいの威力はあるよ!」

「...ええ、本当に誰かさんのせいで、鍛えられましたよ」

「ふふん、舞桜のチョップは私が育てた!ってやつだね!」

「その分美海ちゃんへのダメージが上がるんじゃないかな...」

「赤坂さんもおはよ!今日も二人仲良く登校してきたの?」

「え、ええ...。青谷さんは相変わらず元気ね」

「舞桜にも『美海は元気なだけが取り柄』ってよく褒められるからね!」

「それ褒めてないんじゃ...?」

「白羽、赤坂さんもおはよう。...言われてみれば確かに最近よく一緒の時間に教室にいるわね。家近いの?」

「え!?ええと...た、たまたま通り道で...」

「.....」

突然舞桜ちゃんに聞かれて少し慌てながら答えた私を舞桜ちゃんはじとーとした目で見てきた。

「...まあ良いわ。...これが男だったらじんも――もう少し聞くけど」

「い、今何だか物騒な言葉が聞こえたような...」

「気のせいよ」

にっこりと微笑みながら言う舞桜ちゃんに気圧されて、それ以上は聞けなかった。

「ねえねえ、そういえば今度の休み、皆でどっか遊びに行かない?」

「また急ね...」

「ほら、前にどこか食べに行く約束したじゃん?」

「そうだね。美海ちゃん、どこか行きたいところあるの?」

「特にまだ何も考えてない!」

「おい」

舞桜ちゃんのチョップがまた炸裂しそうになるのを、美海ちゃんは腕で頭をガードしながら

「と、とりあえずカラオケの割引券があるからカラオケ行きたいなー、と思ってます!」

「カラオケね...まあ良いんじゃない?...久しぶりに白羽の歌声聴きたいし」

「うんうん!赤坂さん、白羽、歌すごくうまいんだよ!」

「そ、そうなの...?それは聴いてみたいわね...」

「ま、舞桜ちゃん...!美海ちゃん...!」

「それじゃ、今度の休みは皆でカラオケね!」

「カラオケ...は、初めて行くわね...楽しみにしてるわ。...白羽の歌声も合わせてね」

「も、もう...朱音ちゃんまで...。そ、そんなに期待しないでね...?」

朱音ちゃんがからかい半分に言うのを、顔を赤くしながら答える。

そうして私達が話していると

ガラッ

「.....」

「榊原さん...」

教室の扉を開けて入ってきたのは榊原さんだった。顔を下に俯かせながら入ってきた榊原さんは、私の席に視線を向けて、次いで朱音ちゃんに視線を向けた。

「.....」

朱音ちゃんの身体が緊張で少し強張った。『この子はアウターだ』だと、今この瞬間にも榊原さんがそう言ってもおかしくないからだろう。

でも、榊原さんは朱音ちゃんに向けた視線を私に戻すと――ズンズンと私に向かって真っ直ぐ進んできた。あっという間に私の席の前に立った榊原さんは、戸惑う美海ちゃん達には目もくれずに――

「水月白羽!」

「は、はい?」

「――(わたくし)を殴りなさい!」

「「「は???」」」

そう声を漏らしたのは私ではなく朱音ちゃん達だった。...もちろん、私も戸惑ってはいたけれど。

「ええと...?」

「私は貴方に手を上げました。だから、貴方には私にやり返す権利がありますわ。さあやりなさい!!」

そう言って榊原さんは、さあ叩けと言わんばかりにグッと私に顔を近づける。

『お、おいおい...?どうなってんだ...?』

『あの榊原が...自分を叩けだって...?』

『な、何があったの...?』

ざわざわとざわめき始める教室。私は一瞬戸惑うも――榊原さんの言葉に手を動かす。

「――――っ!!」

榊原さんは衝撃に備えて目をぎゅっと瞑る。

私は――両手で榊原さんの頬を挟み込んでそのままぎゅむ~と押し込んだ。

「...はい、これでおしまい」

「.....え?」

「あの時のことは、これでもうおしまい。だから、榊原さんも、もう気にしないで」

私の言葉に榊原さんは唖然とした表情をしていたが

「な...っ!?あ、あれだけのことをした私にこの程度で――」

「...それに私は、榊原さんにやり返したいとか、そういう気持ちであの時、榊原さんとお話ししたわけじゃないから」

「.....っ!!」

榊原さんは私の言葉に一瞬目を逸らしてから――私の目を見てそして、頭を下げた。

「あの時のこと...本当にごめんなさい!」

『『『っ!!??』』』

クラスメイト達が信じられないものを見たかのように、さっきの比じゃないぐらいにざわめく。

「私...あんな風に叱られたの初めてでしたわ...。貴方に言われて...そして、あの子が泣きながら貴方に謝ってたのを思い返して...自分がどれだけ酷いことをしてきたんだろうって...気づけましたわ...」

「榊原さん...」

「それなのに貴方は...あんなことをした私を助けようとしてくれて...変われるって信じてくれて...それを見た時に私は、自分がどんなに小さくて、情けないことをしていたのか分かりましたの...」

言葉を続ける榊原さんの目から涙が溢れ、それがポタ...ポタ...と床に落ちていく。

「本当に...本当にごめんなさい...っ!」

私は、立ち上がって榊原さんの近くまで行くと、ハンカチを出して榊原さんの涙を拭った。

「...うん、榊原さんの気持ち...伝わったよ」

「水月...白羽...」

嗚咽しながら泣き始めた榊原さんを私は優しく抱き締める。

「...私もあの時は言い過ぎちゃった。ごめんね」

しばらく榊原さんの嗚咽が教室に響くのだった。

――――――――

あの後、榊原さんは笹木さんにも謝った。笹木さんはまだよく状況が飲み込めてない様子だったけど、それでも榊原さんを許した。

涙が収まった榊原さんは、私達の方に戻ってくると――

「水月白羽!」と言って私をビシッ!と指差した。

「ど、どうしたの?榊原さん――」

「貴方を――わ、私の嫁にしますわ!!」

「「「..........」」」

榊原さんの言葉に一瞬教室が静まり返り

「「「はあっ!!?」」」

美海ちゃんや舞桜ちゃん、朱音ちゃん含めて教室の皆が声を上げた。朱音ちゃんが狼狽した声をあける。

「な、なな何言ってんのあんた!?よ、よ嫁ってどど、どういうことよ!?」

「言葉通りの意味ですわ!私、聞いたことありますの!気に入った相手を『俺の嫁』と呼ぶと言うことを――私、水月白羽に惚れましたの!」

「ほ、ほほ惚れっ...!?」

「私のことを真剣に想って叱って、諭してくれたこと...そして何より、私の立場にも物怖じせずハッキリと伝えるその堂々な立ち振舞いに!!」

「え...えっと...あ、ありがとう...?」

何となく褒められてるのかと思った私はお礼を言うが、それを聞いた榊原さんは目を輝かせた。

「それでは...私の求婚を受けてくださるということですわね!?」

「そ、それは...そもそも、私達女の子同士...」

「恋に性別は関係ありませんわ!」

「それに、わ、私達まだ中学生...」

「ならば今はまだ婚約者ということで、結婚できる年齢になったら結婚しましょう!」

「う...(み、皆、助けて...)」

私は助けを求めてクラスを見回すが、勢いのある榊原さんは止められないと思っているのか...はたまた関わりたくないのか、皆はサッと顔を背ける。その間にも榊原さんは話をどんどん進めていく。

「まずは同棲から始めましょう!貴方、今独り暮らしですわよね?」

「そ、そうだけど...でも、い、家が...」

「人を雇って定期的に掃除させに行かせますわ。プロに頼んだ方が貴方も楽ですし安心でしょう?」

「お、お父さん帰ってきたらビックリす―」

「貴方のお父様が戻ったら連絡が来るように手筈しておきますわ!私もご挨拶しないといけませんし!」

「あ...あうう...」

榊原さんは言葉と共にぐいぐいと私に迫ってくる。反対にじりじりと後退りする私だが、ついに壁際に追い込まれてしまった。ドンッと榊原さんは私が逃げられないように壁に手をついて、私の逃げ道を塞ぐ。私より身長が高い榊原さんは、私を上から見下ろすような格好になった。

「さあ、早速今日ウチにおいでませ。まずは私のお父様とお母様に紹介しなくては」

「さ、榊原さん...わ、私の話をき...」

「やっぱりお部屋は同じが良いですわね!いずれはふ、夫婦となるのですし...」

顔を少し赤らめて言う榊原さん。その姿は可愛らしいものだったが...このままだと榊原さんの家で暮らすことに――榊原さんの婚約者として紹介されてしまう。な、何とかしないと...!

「ま、待ちなさい!!」

どんどん話を進める榊原さんに声をかけたのは...朱音ちゃんだった。

「赤坂朱音...貴方にも助けていただいたことに感謝はしていますわ。ですが!それとこれとは話が別!だいたい、貴方は水月白羽の友達でしょう?人の恋路に口を挟まれる謂れはありません!」

「そ、それは...」

口ごもった朱音ちゃんを見て、榊原さんは勝ち誇った顔を浮かべた。しかし、朱音ちゃんはキッと榊原さんを睨むと――

「い、謂れならあるわ!だって、わ、わわ、私は――白羽と一緒に暮らしているもの!!」

朱音ちゃんは顔を真っ赤にしながら叫ぶ。その言葉を聞いて、しいん...と静まり返る教室。朱音ちゃんはハッと、自分の失言に気がついた顔をするが――

「「「「ええええええええっ!!?」」」」

――もう、遅かった。

『あ、赤坂さんと水月さんって――ど、同棲してたの!?』

『仲が良いとは思ってたけど...まさかそこまで進んでたなんて!』

『ということは、二人は今同じ屋根の下で....!!』

クラスの皆が口々に言うのを朱音ちゃんは必死に「ち、ちがっ...!!い、今のは言葉のあやというか...!!」と弁明しているけど、もはや皆の耳には届いていなかった。

「白羽、赤坂さんと一緒に暮らしてたの!?」

「そ、それは...」

「いつから!?一緒に暮らそうと思った切っ掛けは!?というか、そうか!だから、最近二人で登校してくること多かったんだ!」

美海ちゃんは一人納得する。もうここまでバレちゃったらしょうがない、と私はチラッと朱音ちゃんに視線を送る...朱音ちゃんは私の視線を気にしている余裕がなさそうだった。

「うん...朱音ちゃんはこっちに引っ越してきたけど、住む場所がなくて...それで私の家に一緒に暮らすことになったんだ」

私は以前から考えていた説明をした。それを聞いた美海ちゃんは、納得したように頷く。

「なるほど...白羽、今独り暮らしだもんね」

「うん。だから、ちょうど良いかなって...」

「聞いた時は驚いたけど、確かにおかしくはないね。白羽なら...そのぐらいやりそうだし」

『そ、そうか...?でもまあ、女の子同士だし別におかしくはないか...?』

『それに赤坂さんなら何か納得できるというか...』

『聞いた時は驚いたけど...この二人ならしててもおかしくはなさそうだよね』

私の説明を聞いたほとんどの皆は納得したようだった。...少し引っ掛かるところはあったけど、皆が納得してくれて私はホッと一息つくが――

「....み、水月白羽!?どういうことですの!?」

「...白羽、今の話本当?」

納得できない榊原さんと、今度は舞桜ちゃんにまで私は詰められていた。

「う、うん...」

「そ、そんな...既に婚約者がいたなんて...」

「ち、違うよ!?婚約者とかじゃなくて、ただ一緒に住んでるだけで...!!」

私は榊原さんに訂正するが、榊原さんはショックからか私の言葉が届いていないようだった。

一方、舞桜ちゃんは私や朱音ちゃんが嘘をついてないのが分かったからか、一瞬黙り込んで

「...ずるい」

「え?」

「...だったら私も白羽の家に住む」

「え、ええっ!?」

突然の言葉に私は驚きの声を上げるも、舞桜ちゃんの目は本気だった。

「ま、舞桜ちゃん?お、落ち着いて...」

「...私は落ち着いてる。でも、白羽の家に住んでるってことは、毎日、白羽の手料理が食べれて、白羽の寝顔も見れて、白羽とずっと一緒にいられて、そして、白羽の――」

舞桜ちゃんは捲し立てるように言葉を続けて、一瞬言葉を切り

「...とにかく、そんなの赤坂さんずるい。だから、私も一緒に住む。白羽、早速今日、荷物持っていくから――」

「いやいや!?舞桜、おじさんとおばさんには何て説明するの!?神社のこともあるでしょ!?」

美海ちゃんが舞桜ちゃんを押し止める。

そして、榊原さんは呆然とした表情をしていたが、朱音ちゃんに突然指を突きだして――

「――赤坂朱音!!」

「な、なに...?」

朱音ちゃんは突然呼ばれたことにビクッと肩を震わせる。『アウター』であることをばらされるか、そのぐらいの鬼気迫る表情だったからだろう。しかし、榊原さんが次に発した言葉は、それではなく

「貴方を...私のライバルだと認めて差し上げますわ!」

「ら、ライバル...?」

「ええ!水月白羽を巡って奪い合う――恋のライバルに!!」

「こ、こ恋っ!?ちがっ、私と白羽はそう言う関係じゃ...っ!!」

朱音ちゃんはそう言うが、榊原さんに耳には届いていなかった。

「必ずや貴方から水月白羽を奪い、私の婚約者として実家に紹介いたします!覚悟しておきなさい!!」

「...ほう、ずいぶん威勢が良いな」

「当たり前ですわ!私は榊原グループの一人娘、榊原李奈ですもの!ここで退いては名折れですわ!」

「そうか、で、今はとっくにホームルームの時間なんだが」

「....え?」

榊原さんはようやく話している相手に気づく。

榊原さんが後ろを振り返ると、教卓には久部先生が呆れた表情で私達を見ていた。

「とりあえず席につけ榊原」

「は、はい...」

久部先生の淡々とした言葉に榊原さんは大人しく席につく。

「それと水月と赤坂、異性...いや、同性交際はかまわんが、問題にならない程度にほどほどにしとけよ。お前らは一応まだ学生だからな」

「「誤解ですっ!?」」

私と朱音ちゃんは重なって否定するも、久部先生は気にした様子もなく、話を次に進める。

「ああ、それと来週からプールの授業が始まるからな、水着忘れんなよ。学校指定の水着以外を持ってきた奴、忘れた奴は裸で泳いでもらうからな」

「久部先生が言うと冗談に聞こえなくて怖い...」

ポツリと美海ちゃんが呟く。その後も久部先生は連絡事項を続け

「...それと水月、前に言った通り、反省文がある。放課後に生徒指導の安藤先生のところに行け」

「は、はい...」

「これで連絡事項は終わりだ。それと...さっきのばか騒ぎを続けても良いが、次は体育だからな。遅れたら、グラウンド20周に変えてもらうように安藤先生に頼んでおくからそのつもりで騒げよ」

そう言うと久部先生は出ていった。

クラスの皆は慌てて体育の授業を始める。舞桜ちゃんは美海ちゃんに説得されて落ち着いたようだけど...榊原さんは私と朱音ちゃん、特に朱音ちゃんを気にしていた。朱音ちゃんに対抗心を抱いているのは明らかだった。

「(何もないと良いけど...)」

―――――――――

「赤坂朱音!勝負ですわ!!」

私の心配は当たっていた。

体育の準備体操が終わった途端に、榊原さんは朱音ちゃんにそう言った。

「しょ、勝負...?」

「そう!今日の授業はバレー...私が勝ったら、水月白羽との婚約を認めてもらいますわ!」

「な、何を勝手に...」

「もちろん、自信がないのなら逃げてもかまいませんわ!その場合は水月白羽は、私のものですわ!」

「...上等じゃない、良いわよ。やってやろうじゃない」

「私は良くないよ...!?」

私は二人に言葉をかけるも、勝負に燃える二人には届いていないようだった。

「...水月も大変だな」

安藤先生はポンと私の肩を叩く。その声には何だか実感がこもっているような気がした。

そして二人はチームを組む。朱音ちゃんのチームは

「楽しそうだからやるー!」と美海ちゃん。

「...白羽は渡さない」と朱音ちゃんと同じぐらい気合いが入っている舞桜ちゃん。

そして私...

「え?わ、私も?」

「ええ。白羽を渡さないためにも...白羽も力を貸して」

「う、うん...?」

私は首をかしげながら頷くが、その後にふと不安になる。

「でも...私、運動苦手だし、足引っ張っちゃうかも...」

「...大丈夫。白羽が傍にいるだけで私は力をもらえるから。だから、そんな心配しないで」

「朱音ちゃん...」

朱音ちゃんは私の不安を和らげるように頭を優しく撫でる。

「こらーー!!そこ!勝負前にイチャつくな!!ですわ!!」

「だ、誰もイチャついてなんか....!?」

「くっ...!!余裕を見せてくれるじゃないですの!ですが、この私の最強チームに勝てるかしら!?」

榊原さんは胸を張る。榊原さんのチームは、バレー部の現役部員達ばかりだった。

「ごめんねー赤坂さん、水月さん。勝負に勝ったら榊原さんが今度好きな物買ってくれるって言うから...」

「それに、赤坂さんや青谷さんはもちろん、神奈崎さんも運動神経良いから油断したら負けちゃうかも...?...あ、み、水月さんもね」

バレー部のエースの根崎さん、それと根崎さんの友達の金伏さんが口々に言う。...金伏さん、無理にフォロー入れないで...。

「...ふん、ちょうど良いハンデだわ」

「その減らず口いつまで叩けるかしら?」

朱音ちゃんと榊原さんはバチバチと火花を散らしながら睨み合う。

「...ところで、まだ人数足りないけど...?」

私達のチームは四人、授業用に簡略化されたバレーだから五人でできるけど、あと一人は必要だ。

「良かったら...私が入ろうか?」

手を上げたのは笹木さんだった。

「笹木さん...ありがとう」

「...私も水月さんが取られるのは嫌だから...」

「笹木さん?何か言った?」

「な、何も言ってない!大丈夫!」

ともかく、これでチームが揃った。私達はコートを挟んで向かい合う。

「...くれぐれも怪我がないようにな。...それじゃ、試合開始!」

安藤先生が笛を吹く。

最初のサーブは榊原さんのチームだ。

「負けても恨みっこなし...ね!」

金伏さんがサーブを打つ。その球は最初から本気だった。コートの縁ギリギリを攻めた球だったけど

「こっちは任せて!」

美海ちゃんがボールを拾う。そして、流れるように舞桜ちゃんがトスを繋ぎ、朱音ちゃんが飛び上がり、そして、強烈なスパイクを放つ。

鋭く放たれたボールを榊原さんのチームは誰も拾うことができず、こっちのチームに一点が入る。

「くっ...!!やるわね...!!」

「バレー部として、情けない負け方はできないわ...!!」

しかし、それが向こうの勝負魂に火をつけたようで、根崎さん達の目の色が変わった。

「い、行くよ...!」

笹木さんがサーブを放つ。しかしそれを根崎さん達は難なく拾って繋げると、絶好の位置にボールを上げる。

「くっ...!!」

朱音ちゃん達はブロックをするも、それをすり抜けるように根崎さんのスパイクが放たれた。狙いは...

「くっ...!!きゃあっ!?」

私だった。私はボールを拾おうとするも、強烈なスパイクを受けきれず尻餅をつく。ボールはコートの外へ飛んでき、榊原さんのチームに一点入る。

「大丈夫、白羽!?」

「だ、大丈夫...」

私は腕を動かそうとして顔をしかめる。強烈なスパイクを受けた私の腕はじんじんと痺れていた。

「おーほっほっほっ!流石は私の最強チームですわ!」

「私、おーほっほっほっ!って言う人、リアルで始めて見たよ...」

「お黙りなさいうるさい小娘!この調子で私達の勝利はいただきですわ!」

「勝負に集中してるから榊原さんは黙っててくれる?」

「あ、はい、ですわ...」

朱音ちゃんは厳しい表情で、根崎さん達を見る。

「くっ...やるわね...!」

「ふっ、赤坂さん達こそ。でも、勝負の世界は残酷...いつまで、水月さんを守りきれるかしらね!?」

「...ね、根崎さん?何か、変なスイッチ入ってない...?」

根崎さんはボールを掲げ、サーブの体勢を取る。

「さあ、まだまだここからが本番よ!」

その後の根崎さん達の攻めは苛烈だった。特に、足を引っ張っていたのはやっぱり私で、根崎さん達も、ここぞという場面で私の守備範囲を狙って打ち込んでくる。私はそれを受けることができずに失点を重ねていく。

しかし、それでも朱音ちゃんを筆頭に、美海ちゃんや舞桜ちゃん、笹木さんが奮闘して、何とか食らいついていく。特に朱音ちゃんは、流石に全力で動いてはなかったけど、その動体視力と反応速度で、根崎さん達のボールを果敢に受け止めていく。そうしてお互いに得点を重ね――

「...流石に他の奴らの試合の時間がなくなるから、次一点を取った方の勝利にするぞ」

一進一退の勝負を続け、一向に得点差が縮まらないのを見かねた安藤先生がそう告げる。

「次で...!」

「決着...!」

根崎さんと朱音ちゃんは視線を交わす。

「はあ...はあ...」

その横で私は息も絶え絶えで身体中、汗をかきながら呼吸を整えていた。

「(私...やっぱり足を引っ張ってばかりだ...)」

この試合中、何度も他の皆に助けられた。私のせいで失点したのも一点や二点じゃない。

「(せめてこの一回ぐらいは...!)」

「あ、狙いが...っ!?」

呼吸を整えて、身構えようとした矢先、根崎さんの焦った声が響く。スパイクを打った根崎さんのボールは、勢いよく回転しながら――私の顔に迫っていた。

「...白羽...避け...っ!?」

「水月さん....っ!?」

舞桜ちゃんと笹木さんの焦った声がやけにゆっくりと耳に響く。バレー部のエースの根崎さんが全力で放ったスパイクは強烈だ。それを顔で受ければ――タダでは済まないだろう。しかし、呼吸を整えていた途中だった私は、それに反応することができなかった。

「――っ!」

私は迫る衝撃に備え、身体を強ばらせる――

「――白羽!!」

――でも、そんな私の前に朱音ちゃんが滑り込んだ。

「こ...のおっ!!」

私の前に立ち塞がった朱音ちゃんは不安定な姿勢ながらも、ボールを受け止め、そして空高く打ち上げた。しかし、辛うじて受け止めたそれは、遠い場所へ落ちようとしていた。普通に走っても間に合わない距離、でも――

「ナイス!赤坂さん!!」

美海ちゃんが走る。朱音ちゃんが受け止めたボールを繋ぐために、全力で走った美海ちゃんはボールに追いついて、それをコートの方に飛ばして繋いだ。

ボールがネットの前へと飛んでいく。でも舞桜ちゃんと笹木さんは、後ろで身構えていて、ボールを打てる位置にいない。あと、そのボールを拾えるのは――

「――行って白羽!」

「朱音ちゃん...うん!」

朱音ちゃんの声を受けて私は走る。

「(皆が繋いだボール...絶対に!!)」

体力はもう底をついている。息が苦しい、足も重たい。でも、皆に助けられて、ここまで繋いだ――だから!

私は床を蹴って跳ぶ。そして、ボールを真っ直ぐ見据える。根崎さんや榊原さんは、まさか返ってくるとは思わなかったのか、ブロックが間に合ってない。榊原さんは驚愕した表情で私達を見ていた。

私は、高く上げた手を力強く振り下ろす。ボールは、私の手に吸い込まれるように――とはならず、私の手をすり抜けて頭に落ちた。ぽーんと私の頭でボールは跳ね、そして一瞬遅れて私は重力に従って、ぺしゃ、と床に落ちる。私の頭で跳ねたボールはネットを越え...ることもなく、引っ掛かって、私達のコートへと虚しく落ちたのだった...。

「――勝者、榊原チーム!」

少し腰を浮かしかけて、飛び出そうとしていた安藤先生は座り直して、この勝負の勝者を告げた。

「あはは!まあ正直、白羽には無理だと思ったよ」

「...全然、跳んだ高さ足りてなかったし」

「うう...ごめんなさい...ごめんなさい...」

私は申し訳なさで顔を上げられなくて、皆にひたすら謝る。

「...白羽、それより怪我はない?」

「朱音ちゃん...」

「...見た感じ大丈夫そうね。ほら、そんな泣きそうな顔してないで、起きなさい」

朱音ちゃんは私の手を取って起こしてくれた。

「朱音ちゃん...ありがとう。その、さっきも庇ってくれて...ありがとうね」

「...白羽は私が守るって、そう言ったでしょ」

朱音ちゃんは顔を少し赤くして、私から顔をそらしながら言った。

「水月さん、大丈夫?ごめんね、手元が狂っちゃって...」

根崎さんが申し訳なさそうに謝りながら私の様子を見に来る。私は「大丈夫」と返しながら、榊原さんの方を見る。

勝負に勝った榊原さんは――何故かとても悔しそうな表情をしていた。

「くっ...!!ぐぬぬぬ...!!な、何ですの、今のは...!!私から見ても赤坂朱音が格好良く見えてしまったではないですの...!!...それに結局、盛り上がった根崎さん達に押されて私、ほとんどボールに触れてませんし、こんなので勝ったとは...!!いや、水月白羽への愛では、むしろ負け...っ!!」

「榊原さん...?」

ぶつぶつと呟く榊原さんに声をかけると、榊原さんはハッとした表情をして

「...ま、まあ、私も少々大人げなかったですし...この勝利はなかったことにして差し上げますわ!」

「...現役バレー部でチームを組むのは大人げないってレベルじゃなくない?」

「お黙りチョップ女!ともかく、この勝負はなしですわ!...ですが、いずれ水月白羽は私のものにいたします!覚悟してなさい、赤坂朱音!」

榊原さんはそう言って去ろうとして――

「あ、榊原さん。報酬は...」

「わ、分かってますわ!私、一度口にした約束は守りますもの。今度、好きな物買ってあげますわよ」

「わーい!私、新品のシューズ欲しかったんだよね!」

「ていうか、もしかして榊原さんならコート買えちゃったり!?」

「いや、いっそ専用の練習場作ってもらっちゃったり!?」

「調子に乗らないで下さいます!?」

根崎さん達に欲しい物を次々と言われ、困惑する榊原さん。

ともあれ、激闘のバレーボール対決は無事終わり、私の身もとりあえず守られたのだった。

――――――

「...あ、水月、放課後、反省文忘れるなよ。...一応、けじめはつけとかないとな」

「はい...」

私は放課後フラフラながらも、安藤先生と一緒に反省文を書き上げたのだった...。(安藤先生は大目に見てくれて反省文の量は少なくしてくれた)

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