第四話 契約の果てに
姿勢を低くしたリリィスの背中に飛び乗り、その首を軽く叩いて準備が出来たことを知らせる。軽くひと唸りすると白龍がゆっくりと身体を持ち上げ、強く大きく地面を練り上げる。
思わずつんのめりそうになるのを何とか耐えて、リリィスの飛行が安定するまで彼女の首にしがみつくようなして耐えた。
「気分はどう?」
「あまり良くない」
飛行が安定し、揺れなくなってから改めて身体を起こす。魔法の連発で体力を消耗していることもあるが、離陸の揺れもかなりのものでドッと疲れが出てきた。
「こちらとしては慣れてもらわねば困る。離陸の度に気分を害しては、貴方の意識を通して私にも弊害が出る」
リリィスとシュクアの、二人の意識は奥深いところで繋がってる。それぞれが感じる痛みや感情といったものも、当人達が抑えようとも多少なりとも漏れ出てしまうものだ。
「そう言えば、お前はガテムを見つけられるのか?」
話題を変えてシュクアがそう言う。彼が眼科へと目を向ければ森はずっと下に見えて、今もなお離れ続ける地面を見て目眩までしてきそうだった。
それでも殆ど揺れていないことを疑問に思い、よく見ればリリィスは殆ど翼を動かしていなかった。
「私の目は貴方達人間よりも遥かにいい」
上昇気流に乗っているのだろうかと、更なる疑問が脳裏を過った時、リリィスがシュクアの疑問に答える。
「頑張れば貴方も私の目でものを見られるようになるはず」
心の繋がりを通してシュクアも彼女の目で景色を見られるようにると、そう言うリリィスに彼は納得いかないように眉を顰めた。
「どうして、そう思う?」
「私がそうだった」
かつてシュクアの記憶や感情が垂れ流しになっていた頃、リリィスは彼の目を通してその一日を追っていたと言う。
今でこそリリィスが接触してくれば感じられるが、当時はその見分け方を知らなかった。知らず知らずのうちに自分が見られていることに身震いする。
「…………まぁ、いい。それで、ガテムは見つかったのか?」
「ええ。下降するから、しっかり捕まって」
捕まるものなどないだろうと口にしかけた時、ガクンッとリリィスの身体が沈み込み、それと同時に一瞬の浮遊感を感じる。
すぐにその首にしがみつくようにして身を屈めると、耳元で風が切る音が響く。
「ほらあそこ。ここまで来れば貴方の目でも見えるはず」
そう言われて、シュクアは上体を起こすとリリィスが示す方へと目を向ける。前世でも目が悪い方ではなかったが、悪魔の肉体を得たことで跳ね上がった視力がそれを捉える。
「どう降りるか?」
「木々の中に突っ込んでもいい」
「やめてくれ。それじゃ俺が耐えられない」
「何と脆弱な」
小馬鹿にしたように鼻を鳴らすリリィスを睨め付けて、シュクアは降りられそうなところを探す。──と、丁度ガテムが向かう先に少し開けた場所が見えた。
それでも多少枝に引っかかることは覚悟しなくてはいけないが、木々が密集した所に突っ込むよりは遥かにマシだろう。
「あそだ。あそこに降りてくれ」
「了解」
シュクアが指を向ければ、リリィスは一瞬首だけで振り返って頷く。間も無くその身体が傾き、方向を変えるとシュクアが命じた地点に降り立つ。
「はい到着」
「助かった」
枝が何本か肌を引き裂いことは置いおて、一刻も早く大地を感じたいと、リリィスが身を低くするよりも早く彼女の身体から飛び降りる。
ドシっとした感触と共に足裏に大地を感じて、安心したように息を吐き出す。やはり人と言うのは、地面から離れては生きていけないのだ。
「随分と早い帰りだな。それで、大狼はどうなった?」
「一応は倒した。少し、手こずったがな」
背後で再び飛び立つリリィスに一瞥もくれず馬に乗り移りつつ、説明を求めるガテムに事の顛末を話して聞かせる。
それを聞いた老兵はどこか表情を曇らせると、ゆっくりと言い聞かせるように言葉を続けた。
「よいか? お前さんも分かっていると思うが、リリィスと全く連携が取れていない」
それはシュクアもリリィスも感じていたことで、ガテムがこうして指摘をしたことを考えれば、話を聞くだけでも分かるほど酷いのだろう。
「ドラゴンと龍騎士は一心同体。お前さんの軽率な行為が彼女を傷つけ、また彼女は危うくお前さんを踏み潰すところだった」
例え戦闘中であれ二人の意識を繋げ、絆を結ぶべきだと彼は言う。そうすれば自ずと互いの考えていることが理解できるようなり、伴侶にとって最善の動きが出来るのだと。
「空を飛ぶ時も同じじゃ。リリィスの動きがお前さんにどう影響するか分かるようになれば、彼女の動きも変わるし……お前さんも彼女がどう動こうとしているか分かれば、それに沿って抗うことなく身を委ねられる」
なるほどなと思う反面、二人の意識が混濁するだろうと考えればなかなかに難しい。使いこなせれば比類なき武器となるだろうが、互いの意識がそれぞれの動きを邪魔してしまえば、返って足枷になる可能性も孕んでいた。
「でも……ん?」
疑問を口にしようとして、ふと地面を見たシュクアが言葉を止める。それに気がついてガテムもまたそちらへと目を向けると、二人は顔を見合わせて無言のまま頷く。
彼等が目を向けた先、地面に残るのは馬の足跡と馬車の跡だ。更には先ほどの大狼の足跡も続いており、二人はそれを辿って馬車を探す。
──やっぱり……
間も無くそれが見えてくる。木々の向こう……半壊した馬車が横倒しになっていて、その前に一人の男が困ったように馬車を見下ろしていた。
「助けるべき?」
「お前さんがそうしたいのなら、そうすべきじゃ」
聞くまでもなかったかと目を回すと、馬を走らせて馬車の側まで行く。
「どうかなさいましたか?」
「おお……おおっ! まさか、人がいるなんて!?」
まるで救いを得たかのように顔を綻ばせる男が、縋るような目でシュクアとガテムを交互に見遣る。
「足跡を見たところ、巨大な獣に襲われたと見受けられるが?」
遅れてやってきたガテムがそう男へ声をかければ、彼は繰り返し頷く。
「ええ、全くその通りでさぁ」
地面に残る大狼の足跡を忌々しげに睨みつけるも、すぐ諦めたように肩を落とすと馬車へと視線を移す。
「馬がやられましてな。私は何とか生き延びられましたが、このままでは街まで辿り着けず……」
途方に暮れていたと言う男を見て、シュクアは馬車の方へと目を向けた。魔法を使えば起こせないことはないが、まだ先の戦いから回復しきっていない為にあまり気が進まない。
「このままではまたあの大狼が戻ってくるやも知れません」
「その大狼なら、向こうで息絶えていましたよ」
安心させようと放ったシュクアの言葉の言葉に、その男が大きく目を見開く。わなわなと両手を震わせて、そいして意図的に力を抜くと努めて冷静に尋ねる。
「何があってアレは死んだのでしょうか?」
「周囲にはドラゴンの足跡もありました。恐らく、帝国の竜騎兵が倒したのでしょう」
それっぽい理由をつけて言えば、男はそれを信じた様子で嬉しそうに頷く。──とは言え、目の前にある問題が解決したわけではない。
「男三人で起こせると思う?」
「はて、な。反対側から馬にも引っ張ってもらえばいけるやもしれん」
軽く三人で話し合った結果、取り敢えず三人で起こせないか確かめてみることにした。
「ふむ、やりダメか」
結果から言うと、ダメだった。
多少は浮き上がるのなだが、どうしても起こし切るまでには至らない。そうなればガテムの案に従って、馬に引いて貰うしかないないだろう。
一度馬車の中へと潜り込んだ男がそこから縄を取ってくると、屋根部分に巻きつける。その間にガテムが反対側を馬に括り付けた。
「屋根が浮かび上がったタイミングで馬に引かせよう」
「馬が合図を理解してくれるのか?」
シュクアの疑問に老兵は鋭く目を光らせた。
「当然じゃ。彼奴等と馬鹿でない」
そう言うなら信じるしかないと、シュクアは他二人に倣って馬車の下に手を入れる。そうして力一杯持ち上げ、それが肩の位置まであったと同時、ガテムが馬に指示を出す。
グッと持ち上がった馬車が重々しい音を立てて起き上がった。
「上手くいったな」
「ああ。しかし、問題はまだ終わっておらぬ」
馬車と男を街まで届けてようやく人助けが完了する。別段そこまでやる義理はないが丁度彼等の向かう街でもあり、そして何よりも自身の行いは必ず返ってくるも言う言葉があった。
「これも何かの縁。街まで馬車を引いていきますぞ」
「おお! それはそれは……本当に何と礼を言ったらいいのか?」
「礼など結構。まだ無事に街に着けると言う保証もありませぬ」
「ええ。どうか宜しくお願い致します」
馬を馬車に繋げれて動き出す。元々、馬四頭で動かしていた馬車のようで、流石に二頭では厳しいのかシュクアとガテムが後ろから押すような形で進む。
「リリィに頼めれば楽なんだが」
「彼女の姿を他の人に見られるわけにはいかぬ」
そんなことをぼやくシュクアに、ガテムが小さく叱責を飛ばす。彼もまた肩を竦める他なく、遥か上空からリリィスが愉快そうに見下ろしているのが感じ取れた。
進むこと暫く、日が間も無くくれる頃になってようやく街が見えてきた。日が沈むまでには辿り着けないが、それでも街の明かりを頼りに進み続ける。
「本当に助かった」
「いいや。当然のことをしたまでじゃ」
首を振って答えるガテム。そのまま別れようとした時、男は二人に駆け寄ると膨らんだ皮袋を手渡してくる。
「これは……?」
「ここまで連れていただいた代金でさぁ。お二人の旅路に幸あらんことを」
それだけ言って手を振る男に礼を言って、シュクアとガテムも街の奥へと入っていく。前回同様、先んずは腹ごしらえを終えてから宿を探す。
「儂はこれから皮を返ってこうと思っておる。お前さんも適当にぶらついていて構わんぞ」
何ならリリィスに会いに行ってもいいと、そう言われたシュクアは老兵と別れた後、すぐに駆け出した。
街を飛び出してもその足を緩めることなく、彼女が隠れていると言う低い崖の下まであっという間に辿り着く。
「リリィ、いるか?」
「ここに」
やはりと言うべきか、崖の上からリリィスが顔を出す。少し躊躇ったのち、シュクアも崖を登って彼女の下へと向かう。
「随分と器用に登る」
「こっちの世界に来てから身体が軽いんだ。前世では暫く片腕がなかったし、やっぱり五体満足と言うのはいいものだぞ」
瞬く間に登り切ると、その場に腰を下ろして息を整える。ここまで駆け込んで、休む間もなく崖を登ったのだ。
いくら肉体能力に優れているとは言え、流石に疲れたと顎を伝う汗を雑に手の甲で拭った。
「馬は使わなかったのか?」
「隠密行動を心がけるからこっちの方がいい」
軽く息を整えて立ち上がると、ゆるりと白いドラゴンを見上げる。地面に伏せて休んでいる彼女が透き通るような目でシュクアを見つめ返していた。
「それに、お前には言わなきゃいけないことも多くある」
「私も聞きたいことがたくさんある」
前のめりに言う白龍に少し微笑みかけ、シュクアは前世のことを話して聞かせた。家族を奪われたこと、その復讐の果てに自分は死んだと言うことまで……そうして黒い悪魔の話になった時、ドラゴンは露骨に嫌悪感を表す。
「その悪魔は信用なるのか? そもそも、存在するのかも甚だ疑問が残る」
「お前も俺の記憶を通して知っているだろう? アレは紛れもない本物だ。前世でも助けられたし、彼がいなければ俺はここにいない」
「それが怪しいと言っている。貴方の受けた境遇、その苦痛は心を通してよく分かっている。──言いたくはないが、貴方の受けた深い傷が原因でもう一つの人格を生成してしまったのではないか?」
「もしそうだとして、お前はどうする? それじゃ自分の伴侶がイカレた奴だと言っているようなもんだぞ」
シュクアの言葉に彼女は悔しげに唸り、そうして重々しく口を開く。
「私と貴方の心は繋がっている。貴方の体験、苦痛も分かり合えるし……そうなればどうにか、元に戻せるかも知れない」
「元に戻すだと?」
静かながらもドスの効いた声が夜の闇に木霊する。目を見開くドラゴンの前、黒光りする瞳が鋭く細められた。
「心が繋がっていると言う割にはまるで俺のことを理解していないな。いや、生まれてまだまもないお前では理解も出来ないか?」
毒のある言葉に驚きつつも、リリィスは困っように身じろぎする。彼が何を言いたいのか、本気で理解出来ていない様子で彼女は説明を請うように目を向けた。
「わからないか? 俺はとっくに狂っているんだ。復讐の是非に拘らず、家族を失った日から狂気に囚われている」
どこまでも、見透かすことのできない狂気の渦がシュクアの中で戸愚呂を巻く。強い怒り、悲しみ……その全てを飲み込むような狂気が蠢いていた。
心を通して流れ込んだ狂気を振り払うようにリリィスが首を振って後ずさる。そんな彼女な一歩歩み寄り、黒光りする瞳が赤い瞳を覗き込む。
「一度狂った人間は元もに戻らない。ただ狂気を腹の奥に押し留めているだけで、死ぬまで忘れない」
「──私は貴方にそうなって欲しくない」
その言葉にハッとしたようにシュクアが足を止める。彼女の言葉は気休めでも慰めや哀れみでもなく……ただただ切実にそう願っているのだ。
それが分かってしまうからこそ、シュクアは言い募ろうと開きかけた口を閉じた。
「悪かった」
顔を伏せてそう言うシュクアへと、リリィスが心配そうに首を伸ばす。
「これはお前の所為じゃないんだ……これは俺の問題だ。──誰にもこの狂気を譲るつもりはないし、理解も求めていない。例えお前でも、俺の狂気を共有するつもりはない」
彼女の意識からどこか悲しむような感情が流れ込んでくる。それでもシュクアは否定するように首を横に振ると続けて口を開いた。
「俺は復讐を終えるつもりはない。無論、道半ばでくたばるつもりない。──お前も、付き合えきれないと思うのならいつでも降りていい」
「私と貴方は一心同体。例え貴方が狂気に呑まれようとも、私はその心を理解しようとするだろう」
言うだけで無駄だと、断言するような強い意志で言い切る。顔を顰めるシュクアも、流石にそこまで言われれば否定する気も起きない。
「はぁ……まぁ、俺を伴侶に選ぶほど何だからな。お前も正気じゃなかったんだろう?」
彼の言葉に白いドラゴンは赤い瞳を輝かせるだけだ。きっと彼女はシュクアの抱える狂気に影響されることはないだろう。
「話しを戻すが、悪魔は実在する」
「その根拠は?」
シュクアの言葉に食い下がるような言うドラゴンを横目で見遣り、彼は踵を返すと崖の上から街の方へと目を向けた。
「お前も見ただろ。黒い雷、黒い結晶……アレは悪魔の力だ」
「断言出来ない。貴方がたまたま新たな方術を編み出しただけかも知れない」
リリィスの言葉に、彼はくつくつと喉を鳴らして嗤う。
「面白いことを言うな。お前も俺の記憶を持つのなら別の世界が存在することを知っているだろう」
彼女は答えないものの、それは無言の肯定と問えていい。一つ瞳を閉じると、シュクアは天を仰ぐように顔を上へと向けた。
「……それとも、お前は俺の前世をも否定するのか?」
もし彼に前世があったことも否定するのなら、きっとこの話しはずっと平行線だ。しかしリリィスは無言のまま、それでも自分が言った言葉を振り返って後悔するように顔を伏せる。
「そのつもりはなかったが、確かに私の軽率な言葉は貴方の前世を否定するものだった」
「答えになっていないぞ」
シュクアとしては謝罪を聞きたい訳ではない。やや強めの言葉ではあるが、ここで一つリリィスの考えを確かめておく必要があるのだ。
「私は貴方の前世を信じている。──いや、最初から話しの言葉を信じるべきだった」
ドラゴンと龍騎士。切っても切れない絆で結ばれていて、一生を添い遂げる伴侶なのだ。
望む望まぬに拘らず、少なくともリリィスはそれを望んで彼を選んだのだ。──にも拘らず、片割れの言葉を信じられないままでどうして、共に歩んで行けると言うのだろうか。
説得を諦めた訳でも、投げやりになった訳でもなく……リリィスは本心からシュクアの言葉を信じると言う。──であれば、彼も誠意を持って答えるのが義務であろう。
「さっきも言ったが、世界はいくつも存在している。あの悪魔がいた世界も……既に滅びてはいるが、存在していたんだろうな」
記憶の断片から悪魔もまた自分の世界があったと思う。しかしなんらかの不幸があって、アレの住む世界は既に失われていた。
「俺の姿を見てみろ」
振り返り、両手を広げてシュクアが言う。ドラゴンは何のことかわからずとも、言われるがまま彼の姿を上から下まで眺めた。
「俺は今や悪魔と同じ姿形をしている。お前、まさか気が付かなかったのか?」
その言葉を受けて、ドラゴンの意識から強い動揺の念が伝わってきた。改めて彼女へと悪魔に関する記憶を見せてやれば、リリィスは鼻を鳴らして立ち上がる。
「あの悪魔は危険だ!」
「俺がそんなこともわからずに、契約を結んだと思うか?」
契約という言葉を受けて、更に焦ったようにドラゴンが低く唸る。思っていた以上の嫌悪感を剥き出す彼女を訝しげな見上げて、シュクアは落ち着くように宥める。
「悪魔とはどんな契約を?」
彼女の言葉にシュクアは包み隠さずに悪魔との会話を教えた。
「悪魔は契約を守ると思うか?」
「あの悪魔との相違点があるかわからないが、俺の世界にある伝説は悪魔は契約に煩い。人間が契約を破れば相応の代償を求める傍ら、悪魔自身もその契約に強く縛られる」
それを聞いてもリリィスは納得いかない様子だ。無論、シュクアの言った言葉もあくまで伝説の一つでしかなく……何よりも彼の世界に属さない悪魔にそれが当てはまるとも言い切れない。
「どちらにせよ、今更だろう? 俺はもう悪魔の眷属だ」
「……………」
納得いかないと言った様子でシュクアを睨み付けるリリィスを見て、彼は安心させるように笑いかける。
「寧ろお前はあの悪魔に感謝するべきじゃないか? 彼がいなければ俺がお前を見つけることもなかったし、もしかすればとっくに狂気に呑まれていかも知れない」
前世で復讐を果たせずに死んでいた可能性もあるし、或いは途中で狂い死んでいたことも考えられる。
方でなくとも、こちらの世界に転生してくる可能性もない。あの悪魔がいなければ、こうしてリリィスとも出会えなかった。
「それとも、お前は俺がいないならいないで誰か他の者を選んだのか?」
「違う!!」
ガチンッと顎を閉じて否定するリリィス。そんな彼女を見上げてシュクアは柔らかく笑って首を振ると、彼女の肩を叩く。
「なら、そんな心配することはない。寧ろ、俺とお前を巡り合わせたあの悪魔には感謝するべきじゃないか?」
「…………」
それは出来ないと、口にしないもののその意識は伝わってくる。頑なに悪魔に嫌悪感を示すリリィスを見て、シュクアは軽く肩を竦めて街の方へて目を向けた。
「それでも、俺は感謝しているんだ。前世で復讐果たせたのは彼のお陰だし……彼がいなければ、俺の復讐が未完全で終わっていた」
シュクア同様、こちらの世界に転生しているであろう冒涜者。その一人に至るまで八つ裂きにして焼き払い、その灰を義父のばら撒いてやらねばならぬ。
「俺は必ず復讐を果たす」
家族の墓前で誓い、悪魔と契約した。彼の眷属としてリリィスを守り、そして必ずや──
「この話しはやめよう。取り敢えず今後の予定についてだが……」
そのあとは夜遅くまで話し込んでしまい、街に戻った時ガテムに叱られて一日を終えた。