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001

 2作目(再挑戦)です。

 今後こそ完結させるのを目標に頑張ります。よろしくお願いいたします。



 ――目を覚ませば、何も無い空間が広がっていた。


 光が差し込んでいないのか、真っ暗闇で何も見えない。床や地面が無いのか、足から何の感触も伝わって来ない。不思議なことに、自分が呼吸をしている気配さえ無い。

 五感から得られる情報が何も無い空虚。そこに、僕だけが存在していた。


 ――死んだ?


 奇妙な世界を前に、ふと「死」という一つの単語が頭に浮かぶ。それは、心の奥深くに刻み込まれたような、鮮烈な実感を伴っていた。


 では、死とは何だろうか?

 この空間が死を体現しているものだと言われれば、どこか納得出来る部分もある。だが、死んでしまえば思考することさえ出来ないはずで、こうして考えを巡らせている現状とは矛盾している。


 ――え?


 そうして考えを巡らせている最中、不意に身体に異変が起こった。


 指先の一部があっさりと身体から剥がれ、しばし宙を漂ったかと思うと、何の抵抗も無く虚空へと呑まれて消えた。ただ肉体の一部を失っただけでなく、心の奥深くでも何かが欠け落ちたような感覚を伴って。


 呆然とその光景を見つめていると、今度は指先だけでなく、脇腹までもが音もなく剥がれ始める。剥離する箇所は次第に増えていき、気付けば全身へと及んでいた。


 肉体、感覚、記憶、感情――己を構成する全ての要素が、次々と削ぎ落とされていく。

 このままでは存在が完全に消え去り、何一つ残らなくなる――そう確信させる異常事態だった。


 頭で考えるよりも早く、身体は必死に足掻き始めていた。しかし剥離と消滅は容赦無く進行し、どれだけ足掻こうとも止まる気配は無い。

 確実に、冷酷に、己の全てを奪い去っていく。

 きっとこの先に待っているのは、本当の「死」だ。


 底知れぬ恐怖が胸を締め付けるが、その感情さえも徐々に薄れていく。


 ――死にたくない。


 この状況から脱却する術を考える余裕も無く、その一言だけが削られた意識を占める。


 僕は誰にでも優しく接するほど立派な人間ではなかったが、かといって罪を犯すような悪人でもなかった。ただ、ごく普通の平凡な日々を過ごしてきた、単なる一般人であるはずだった。

 そんな僕が、ここまで酷い目に遭う道理は無い。


 これは、己に課せられた罰なのか。それとも、生きとし生けるものは皆、生前の行いに関わらず辿る末路なのだろうか?

 もし死ぬことがこれほど辛いものだと知っていたなら、もっと必死に生に執着していたのに。どんな手を使ってでも、死なない術を探し求めていたのに。


 ――嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!


 僕は足掻く。気が付けば、足掻くのに使っていた手足はとうに失われていた。それでも、残された僅かな肉体を駆使して何とかもがく。やがて、肉体すら無くなった後も、精神だけで抵抗し続けた。

 一秒でも長く、僕が僕であり続けるために。


 だが、どれほど強く願おうとも、どれほど必死に足掻こうとも、この状況を覆す奇跡は起きなかった。

 喪失は無情に続き、僕から全てを奪い去っていく。


「……死にたくない」


 避けられぬ末路を悟ったその瞬間、僕は心の底から「死」というものを呪った。

 そして――この世界から消え去った。




  * * *




「あぁ、またこの夢か……」


 ランプから漏れ出る淡い光に包まれた部屋で、僕は目を覚ました。

 瞼を擦りながら身を起こすと、木製の机と山積みにされた本の数々が目に飛び込む。どれも確かな実体を有しており、ここが決してあの虚空の世界でないことを示している。


 どうやら勉強の最中に、そのまま眠り込んでしまったらしい。


「はぁ……」


 訪れるであろう嫌なことを予見して、思わず溜息が漏れる。

 暗澹たる思いで身を起こせば、案の定、汗で湿った服が背中にベッタリと張り付き、不快な感触を生じさせていた。あの夢を見た後はいつもこうだ。そう、あの悪夢。


 ――自らの存在が剥がれ落ち、虚空に呑まれて消えていく、死の記憶。


 僕は一度、確かに死んだ。命を失い、虚空に呑まれて、存在そのものが完全なる無へと還った……はずだった。

 それなのに、何故か今はこうして、前世の記憶を保ったまま第二の人生を歩んでいる。


 輪廻転生、生まれ変わり――僕が見舞われた現象は、かつて居た世界ではそう言い表されていたものだった。


 最初に目覚めた時、僕はこの不可解な現象に混乱し、ただ呆然とするばかりだった。しかし、時間が経つにつれ、少しずつ冷静さを取り戻し……そして、絶望した。


 人は例外なく、いずれ死を迎える。それは生まれ変わろうと、どれほど奇跡的な現象に巻き込まれようと、変わらない運命だ。

 このまま生き続けても、いつか再び死に、あの虚空へと戻ることになる。

 死後、あの世界へ行くという確たる証拠は無い。それでも、一度経験したが故か、絶対の確信が僕の中にはあった。


 これからの長い時を、死の恐怖に怯えながら生きることになるのかと、気付いた当初はただ途方に暮れるばかりだった。

 今振り返れば、何と呑気な考えだろうか。僕の身に起きていた異変は、それだけに留まらなかったというのに。


 最初に覚えた違和感は、生まれたばかりの僕を抱きかかえる母らしき女性の外見だった。

 銀髪に碧眼という、前世では決して見慣れない特徴。その姿に驚きこそしたものの、その地点では、異国の地に生を受けただけだろうと考え、前世と同じ世界にいるのだと疑うことはなかった。

 しかし、その違和感は次第に積み重なっていく。


 この地で生まれてから、前世とは異なる景色が次々と目に飛び込むようになった。耳慣れない言語、見覚えのない地図、石や煉瓦で造られた古めかしい街並み……。

 ここだけであれば、文化や時代の違いと捉えれば、まだ納得できたかもしれない。


 ――ここは前世とは異なる世界なのではないか。


 そう薄々抱いていた疑念が確信へと変わったのは、母らしき女性が、何もない空間から水を生み出す――すなわち、魔法という存在を目の当たりにした瞬間だった。


 僕はただ生まれ変わるだけに留まらず、魔法というものが実在する、ファンタジーな異世界に来てしまったのである。

 そして、シリウス・ヴィータ・ストロフ。これが転生した先の世界で与えられた、二つ目の名前だった。




 この世界の大地は、一つの巨大な大陸によって形作られている。その大陸の西部には、レスト王国という大国が広がっている。


 その国には、網の目のように張り巡らされた川が流れ、国土の西側は広大な海に面している。土地は肥沃で、草原や森が点在し、農業と漁業が盛んに行われている。

 自然の恵みに満ちた、穏やかで豊かな国。それがレスト王国だ。


 僕はこの国に生まれ、育てられた。


 固まった身体をほぐし、開かれたままの学術書を片付け、部屋を出る。出た先には、赤い絨毯が敷かれた長い廊下が広がっていた。

 廊下を歩くたびに、ふと一回り小さくなった手足が目に入る。前世と比べて幼さを感じるその肉体にも、今ではすっかり慣れてしまった。


 転生した以上、第二の人生は赤子からのスタートだった。

 最初は満足に身体を動かすことすら叶わず、他人に介抱される日々に苦痛を覚えたが、やがて自力で立ち上がって動けるようになった。そこからは未知の言語を習得し、この世界の基礎知識を身に付けながら、着実に成長を重ねている。

 現在は八歳を迎えたばかり。声変わりの兆しも見えない幼い身体ではあるが、今日も目的の達成に向けた行動を開始する。


 目的とは当然、いずれ来たる死の運命から逃れること。つまり、不老不死の実現だ。


 僕は死にたくなかった。人並みの感性を持つ者でもそうだろうが、一度死ぬ苦しみを味わった僕は、輪をかけてその想いが強い。

 あんな思いを二度も味わうのは御免だ。だから僕は、第二の人生を死から逃れる為なら何だってやると決めた。

 幸い、この世界には魔法を筆頭に、前世には無かった要素が沢山ある。前世では不老不死の実現は不可能とされていたが、この世界特有の要素と前世の記憶を組み合わせれば、望みはあるはずだ。




 僕の一日は朝食から始まる。


 食卓に家族が集まり、それぞれが目の前の食事を黙々と口に運んでいる。食事の味は前世と比べると確かに劣るが、食べられないほどではない。

 もっとも、味など取るに足らない問題だ。さっさと済ませようと掻き込んでいると、上座から低い男の声が掛かった。


「シリウスよ、学問の進み具合はどうなっている?」


 いつもの問い掛けが耳に届く。慌ただしく動かしていた手を止め、顔を上げる。僕の視界が、部屋全体の様子を捉えた。


 華やかな装飾が施された窓枠から差し込む朝日が、色とりどりの光をシャンデリアに反射させて煌めいている。壁には見事な絵画が飾られ、その隣には高価そうな壺が目を引くように鎮座していた。床一面には繊細な意匠を凝らした絨毯が敷き詰められており、その豪奢な空間はまるで王侯の館を思わせる佇まいだった。


 前世の庶民的な感覚が未だ抜け切らない僕にとって、この空間はどうにも馴染めない。むしろ無駄遣いの極みとさえ感じられる。

 だが、そんな感想も吹き飛んでしまうほど、華美な服を纏った男が視線の先に座っていた。先ほど声を掛けてきた男でもある。

 悲しいことに、これが僕の父だった。


 父の体裁を保つ為か険しい表情をしているが、服越しに見える丸々とした肥満体で台無しだ。自堕落な生活を送っているのが容易に窺えて、僕はこんな奴から産まれたのかと、失望の念さえ抱いてしまう。

 もっとも、僕にとっては第二の親だ。血が繋がっているという実感は薄く、どこか他人のように感じているのだが。


 さておき、質問をされたのできちんと答えておく。


「もちろん、順調です。父上が与えてくださった本の内容は、おおむね理解しました。領地経営というのも、なかなか興味深いですね」


「そうだろう、そうだろう。その調子でストロフ伯爵家の子としての自覚を持ち、精進に励むがよい」


 内心を隠した色良い返事に、父は満足気に頷いてみせる。


 僕が生まれたのは貴族の家、それも伯爵という、中々に高貴な血を受け継いでいた。

 レスト王国は、典型的な封建制の国家である。

 身分間の格差が明確にあり、貴族は平民に比べて圧倒的な権力を有している。その象徴的な例が、貴族が自らの領地に住む民から税として金銭や農作物を徴収する権限を国から認められているという点だ。


 この世界で貴族として生まれたのは僥倖だった。

 豊富なお金により生活環境は整い、お陰で病を患うことも少ない。更に、勉強や研究に必要なお金も、領主である父に取り入るだけで容易に得られる。


 もしこれが辺鄙な農村で生まれたのなら、冬を越すのに精一杯だったろう。食事も十分に摂れるか怪しく、明日を生きる為に食いつなぐのがやっとで、不老不死の研究なんて大層なものは以ての外だ。


 恵まれた僕の惜しむべきところは、部屋の装飾や父の服装から分かる通り、父の散財癖だ。

 見栄っ張りな性格のせいで、裕福な印象を植え付けようと金目の物に目が無い。金遣いが荒過ぎるあまり、王都の屋敷に住めなくなってしまったほどだ。

 今はストロフ伯爵家代々の領地である、フェルシア州の州都に屋敷を構えている。王都の方が学術書の品揃えが良いのでそちらに住みたかったが、父は懲りずにこの屋敷の内装にもかなり無理な支出をしており、望みは薄いだろう。

 

 後は、父が僕を将来の領主に育てたいらしく、定期的に領地経営に関する勉学を課してくるところもだろうか。

 不老不死とは全く関係のない内容に微塵も興味は湧かないのだが、研究の資金を引き出す為には印象を良くしなければならず、渋々でもこなさざるを得ない。


 とはいえ、王都から物品を取り寄せることは出来るし、勉強や研究に必要な資金は父の散財に比べれば微々たるものなので、現地点では特に支障は無い。


 機嫌の良い父の姿に、好機を見出して頼み事を切り込む。


「それで、父上にお願いがあります。私に、もう一度奴隷を買わせてはくれないでしょうか」


 その言葉に父は食事の手を止めると、一転して批判する眼差しを向けてきた。一瞬、沈黙が場を包む。


「またか? お前は一度買ってやった奴隷を、一瞬で台無しにしたではないか」


「はい、仰る通りです。深く反省しております。今後こそ、従者として大切に扱います」


「シリウス、本当なのね?」


 横から別の声がする。父との会話に割って入ってきたのは、向かいに座っていた女性……僕の母だった。


 母は、自己中心的で傲慢な父とは対照的に、絵に描いたような清廉潔白な人物だ。

 食事の際の作法や振る舞いも洗練されており、その佇まいは前世で抱いていた理想的な貴族像そのもの。それでいて、平民に対しても分け隔てなく接し、執事やメイドからは深く慕われている。


 母は、いつも通りの柔らかな笑顔を浮かべ、穏やかな声で話している。周囲の者たちは特に気に留めていない様子だが、僕に向けられるその視線には、確かな指弾の色が滲んでいるのを感じた。

 金で簡単に動く父は対処が容易だが、優しさと芯の強さを兼ね備える母には、どこか油断ならないものがある。


「次の奴隷は決して死なせない、大切にするって、約束出来る?」


「出来ます。信じてください」


 嘘偽りの無い正直な言葉を述べて、母の瞳を真っ直ぐに見やる。目を逸らす真似はしない。


 ……前回は失敗だった。

 肉体がそれなりに育って来たので、不老不死の研究を本格的に開始しようと、父に懇願して奴隷を買った。研究の第一歩として、人体の構造を深く知ろうと、殺して解剖に使ったのだが……たちまち両親にこっぴどく叱られてしまった。

 奴隷とはいえ人間なのだから、そう身勝手な理由で、簡単に殺して良いものではないと。


 この格差社会では、貴族は当然のように平民を見下しており、奴隷に至っては同じ人間だと思っていない節がある。実際、父が粗相をした奴隷を全力で殴りつける場面を何度か目撃したことがあるし、奴隷をいたぶるのが趣味な貴族も居ると聞く。

 だから、奴隷はどう扱っても良いと考えていたのだが、どうやら限度があったらしい。父は、人使いを学ぶ為の従者として買うと勘違いをしていたようで、話が違うと憤っていたが……。


 まぁそうした身分や勘違い云々を抜きにしても、八歳の子供が研究と称して人間に手をかけるのは、異質に映るだろう。狂人と捉えられてもおかしくない。


 前世と異なる倫理観と死に対する恐怖や焦りが、僕から常識的な感覚を奪っていた。

 これ以上何か問題行動を起こしては、不老不死に向けた行動を悪影響と見なされて制限されてしまうかもしれない。まだ幼く自立してない今、親を敵に回すのは悪手だ。


 僕はこの反省を活かし、薬学や魔法といった子供でも学べて、かつ人間を必要としない分野に引き続き専念することを決めた。

 それならば、好奇心旺盛な子供に映るだろう。人体に手を出すのはもっと成長して自立してからで良い。


 ただ大人しくするにしても、人手は欲しかった。

 必要な器具や素材を用意するのにも、それらを管理や手入れするのにも、一人でやるには時間と手間が掛かり過ぎる。一人くらい助手が居たっていいだろう。


 そうした思考を経た結果、僕はこうして懇願するに至っている。


 決定権を持つ父へと視線を戻す。父は実際のところ何も考えていないのだろうが、しばらくの間、それらしく考える素振りを見せている。


「……良いだろう。お前も次期領主の候補だ。人の使い方というものを存分に学ぶがよい、許可する」


「なっ……」


 僕が返事をするより早く、父との間から掠れた声が漏れた。動揺からか、カチャカチャと皿とフォークがぶつかる金属音が鳴る。


 そこにいたのは、黙って僕らの会話の成り行きを見守っていた、赤髪に赤目と父の血を色濃く受け継いだ外見をした青年だ。

 彼はルーク、僕より四年長く生きるしっかり者の兄だ。


 兄と言っても、僕とルークは異母兄弟である。ルークの母である第一夫人は、僕が生まれる前に亡くなっていた。

 死因は明らかになっていないが、生前の外見や生活の様子が父と似通っていたそうなので、生活習慣の悪さが祟ったのだと推測している。


 兄が動揺を見せたのは、父の発言が原因だろう。僕とて許可してくれたのは有難いが、聞き逃せない言葉があった。


「ありがとうございます。しかし、父上。次期領主の候補とは、兄上に対して余りにも失礼ではありませんか? 何度も申し上げていますが、立派な兄上を差し置いて私を領主に据えようとは、買い被りが過ぎます。それでは、要らぬ騒動の種になりかねませんよ」


 父は、僕が八歳の若さにして勉学に打ち込み大人びた言動をしているからか、歴代きっての秀才だと過大評価している節があった。

 だがそれは、前世の記憶と明確な目的があるからに過ぎない。僕からしてみれば、齢十二にして領主になる為の研鑽に打ち込んでいる兄の方が遥かに優秀だ。前世の僕が兄くらいの歳だった頃は、ろくに勉強もせず遊んでばかり居たのを覚えている。


 兄は勉強熱心な努力家であり、領地経営に必要な幅広い知識を着実に身に付けている。

 暮らしぶりは質実剛健そのもので、無闇に金を浪費することはないが、必要に迫られた時には大胆に金を使う度胸も持ち合わせている。

 加えて、領民の生活についても真剣に考え、周囲の意見に耳を傾ける度量や柔軟性も兼ね備えている。


 間違いなく贅沢暮らしに浸かっているだけの父よりも真っ当な統治が出来るだろう。今すぐに代替わりしても良いくらいだ。

 

「ふんっ、買いかぶりとは思わんがな……。ルークが不得手なのが悪いのだろう?」


「っ、父上……」


 だというのに、この酷い言い草である。

 全く、父は愚鈍な上に見る目も無いらしい。その見る目の無さのお陰で、僕の資金が捻出されている訳だが、これでは頑張っている兄が余りに報われない。


「兄上ほどの立派なお方でも不得手だというのは、父上が兄上に無茶を仰るからこそ、そのように見えるのではないでしょうか。兄上は立派な方ですよ」


 というか、兄の心が折れてしまったり父が強行手段に出たりして、僕が領主に据えられる事態になるのは困る。領地経営なんて大変なもの、不老不死の研究の足枷にしかならない。

 出来の良い兄に領地経営は任せて、僕は不老不死の研究に専念するのだ。資金の元手は自領から取れる税だから、領地経営の雲行きが怪しくなれば僕も真面目に手を貸すけれど、兄のことだから補佐として支える程度で済むはずだ。

 兄も苦労と努力が無駄にならず、僕も存分に研究に打ち込める。理想的じゃないか。


「ふん」


 僕のフォローに、父は不満を顕に鼻を鳴らす。どうせ数日も経てば機嫌は治るので、放っておいて兄に向き直る。


「兄上、私は心から貴方を尊敬しております。貴方が領主としての道を歩むために、微力ながら精一杯応援させて頂きます」


「あ、あぁ……そう言って貰えると嬉しいよ」


 兄は口元を引き攣らせながら笑みを返す。

 兄がそういうところだぞ、と言わんばかりの眼差しを向けているが、目を逸らして気付かない振りをする。それなりの優秀さを誇示しなければ父が中々資金を融通してくれないので仕方が無い。


 そうして、今日の会話はひとまず区切りを迎えた。


 愚鈍な父に温和な母、そして真面目な兄と、前世の記憶を持つ僕。

 それぞれに癖はあるが、それでも、悪くない家庭だと僕は思う。

 前作で宣言した通り、今作は前作と大筋を殆ど変えずに執筆しています。

 ただし、今作は貴族としての立場から物語が始まります。平民から始めて徐々に貴族社会とか関わらせる、という前作の形の方が色々な展開が書けて良いのですが、前作では話を広げ過ぎた結果、収集が付かなくなってしまいました。

 そこで今作は、出来るだけ簡潔に纏めて、テンポの良さを意識しています。貴族から始まるのもその一環です。

 簡潔になる分、他作品との差別化を図る場面も減りますが……尽力します。


 序盤は説明が多い為に文字数が増えていますが、基本的には一話辺り6000字程度で書く予定です。


 前作から追ってくださっている方も、今作から読んでくださる方も、私の作品を楽しんで頂ければ幸いです。

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