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拒絶

遅くなってすみません…!




あれから、諦めないことを決めた私は騎士団の練習場に足を運ぶようになった。


毎日ハルク様がいたわけではないけれど、私にとって彼との接点はここしか見つからなかった。


そうして何度も足を運んでいたある日、一際大きな人だかりの中で、ニックと手合わせをしているハルク様を見つけた。


真剣での戦いだった。

緊張感も段違いだ。

試合を観戦している人たちが、固唾を飲んで見守っているのがわかった。


ニックの攻撃をハルク様は簡単に受け止め、どんどん技をかけていく。

攻撃を繰り出す数は多いニックが押されているのがわかった。


ニックはハルク様の攻撃を受け止めるので精一杯になり、防御一線の戦い方に切り替わる。


その隙を、ハルク様は見逃さなかった。


「どうした、ニック?」

ハルクが一気に間合いを詰める。


そして

「…………———」

耳元で何かを呟いた。


「…!」

その言葉にニックが反撃しようとしたとき、ハルクの剣はニックの首元にあった。


ニックも幼い頃から努力しているだけあって優秀な騎士だけれど、ハルク様は次元が違う。


無駄のない動き。静かで、美しい太刀筋。


圧倒的だった。


これが、近衛騎士団の最年少副団長、レインハルク様———。


魔術師だった頃のハルク様とは戦い方が違う。

ハルク様は天才的な魔術の持ち主だったけれど、今の彼は魔法を使わず周りを圧倒する力を持っている。



私が知らない、彼だ。



ふと王女様の姿が頭をよぎる。


きっと王女様は、私が知らない彼の姿を知っているんだろう。

きっと彼女は一番近くで見ている。

自分を支えてくれる彼の笑顔を。


「もしかしたら、ハルク様は王女様のことをお慕いしているのかも……」


そんな考えを言葉にしてしまって、慌てて口を押さえた。


今度こそ幸せにすると誓ってくれた彼を疑うなんて、そんなことしちゃいけない。


私にできるのは、彼を信じることだ。



そう決意したとき、大きな歓声と拍手があがり、ニックとハルク様の手合わせが終わった。


こちらをみて、手を振ってくれるニックが私を呼ぶ。


それに誘われ、私はハルク様と対面を果たした。


「リリーシュア様、こちらがこの前にも紹介した、近衛騎士団の最年少副団長であるレインハルク様です!」



「あの、えっと……」


目の前にいる彼の姿から目が離せない。


会えて泣きたいほど嬉しいのに、言葉が出てこない。


何を言うのがいいんだろう。


何を伝えるべきだろう。




「ハルク様、私のこと、覚えて、ますか…?」




咄嗟に出たその問いかけに込められた期待は




「申し訳ないが、人違いではありませんか。俺はあなたのことなど、見たことがありませんが…」


あっさりと、砕けた。




ハルク様は、私のことを覚えていない。


ということは、あの約束も、覚えていないということで。




「そう、ですか…」

うまく、言葉が紡げない。


ちゃんと笑顔を作れているだろうか。

ぐっと唇を噛んで、なんとか涙を流さないように堪えた。


静かな時間が流れる。


どうしよう。

会話が続かない。


せっかく、彼とまた会えたのに。


「あの、ハルク様…」


「あと、俺は王女殿下の専属護衛ですので、女性との接触はなるべくないようにしているんです。俺は彼女を守るために騎士をしているので」



明確な、拒絶だった。


これ以上自分に話しかけないでくれ、と暗に伝えている。


それを無視して、嫌われても彼に縋り付く勇気は、私にはなかった。


「私、レインハルク様のファンなんです!あの、だから……これからも、頑張ってください…!応援してます」


震える唇を噛み締めて、精一杯の笑顔を作ると、急いで話を切り上げて、足早に練習場を後にした。


本当に私は、今の彼を知らない。


こんなに拒絶されても、彼を嫌いになれないなんて。


「でも、ほんとうに、だいすきなの……」


思わずこぼれた言葉は、彼には届かなかった。


そんな私を睨みつける視線があったことなど、私は知る由もなかった。




            ♦︎ ♦︎ ♦︎






「あれは、どういうことですか…?」


リリーシュアと別れた後、ニックは思わずレインハルクに尋ねていた。


その内容は、手合わせのときにレインハルクが間合いを詰めた後に言った言葉のことだ。




『それでリリーを守れるのか』



ニックには、初対面のはずのレインハルクがなぜリリーシュアのことをリリーと呼んだのか、ずっと疑問だった。


そもそも、レインハルクは自分に「リリーシュアをしっかり守ってほしい」と何度も言っていたのだ。


初めは王女付きの護衛として、先輩の立場からアドバイスをくれているだけかと思ったが、よく考えてみるとこんなにも彼女のことを気にするのは何かあるような気がしてならなかった。


第一、この騎士団にはニックのように護衛をしている騎士もいるのだ。しかし、ニックは彼らに対してレインハルクが特に手合わせをしよう、とも、しっかり守ってやってほしい、とも言っているのを見たことがなかった。


実際、ここに来たときにレインハルクが手合わせをするのはだいたいニックか、ニックが所属する団の騎士団長くらいだ。


それに、リリーシュアが「自分のことを覚えていないか」と問いかけていたことも疑問だ。


そしてそんな彼女を拒絶するレインハルクの行動にも矛盾があるように感じてならなかった。


「俺、は……」


レインハルクがぽつりと話し出した。


「幼い頃に、彼女に会ったことがあるんだ。そのときの彼女の幸せそうな笑顔を見て、俺は自分の生きる道が分かった」


懐かしむように目を細めて、レインハルクは続けた。


「ずっと、救われてきたから。今度は俺の番だ」


「それが、どうしてリリーシュア様を拒絶することに繋がるんですか…?」


レインハルクのその言葉に、ニックは納得がいかない。

だって、ニックの大事な主人はレインハルクの冷たい言葉に傷ついていた。

彼女に助けられて護衛をしているニックからすると、彼女を傷つけられたことへの怒りはずっと燻っていた。


しかし、次の瞬間、ニックは驚きのあまり息が止まった。


「俺では、彼女を……幸せに、できないから…」


くしゃり、とレインハルクの顔が歪む。

こんなに苦しそうなレインハルクの姿を、ニックは見たことがなかった。


「どうして……」


「リリーに、言っておいてくれないか。こんな男など追いかけるのはやめろ、と」


「でもそれじゃあレインハルク様は…!」


「俺はいいんだ。それに約束したから。『絶対に幸せにする』って」


レインハルクがニックの肩を掴んだ。


「だから、お前がリリーを守ってやってほしい。俺ができない分まで」


レインハルクの手が小さく震えているのが分かる。

肩に痛いほど力を込められ、その思いを受け取ったニックは、真剣な面持ちで頷いた。


「必ずや、彼女を守り切ってみせます」




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