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再会



私がリリーシュアとして再び生を受けたのは、それから100年が過ぎた頃だった。


リリーとしての記憶を持ったまま、新しくリリーシュアとして生まれ変わったのだ。


まあ、その私も前世の記憶を取り戻したのは少し前の17歳の誕生日のときだった。


鏡を見ても、リリーとして過ごしてきた頃と姿形はあまり変わらない。


金色の髪に、ローズピンクの瞳。


本当にあのときのままの姿だ。


前世と違うのは、リリーシュアの生まれが純粋な貴族家であることだった。


リリーは、平民として生まれ、親を亡くしたあとに孤児院に引き取られた後、男爵家に引き取られた。


しかしリリーシュアは、伯爵家の娘として生まれた。


ほとんど変わらないが、名前も、貴族らしく『リリーシュア』になっている。




記憶を取り戻したそのときから、ハルクがどこにいるか、ということを考えていた。


前世と少し違うことがあるのなら、ハルクも生まれた環境や名前が多少なりとも違う可能性がある。


ハルクのことについて、お父様にもそれとなく伝えてみているけれど、私をお嫁に出したくないのか、婚約者候補をもう決めてあるのかわからないが、あまり乗り気になって探してはくれない。


魔術師で「ハルク」の名がつく人はいないか探してもらったけれど、それらしい人は見つからなかった。


魔術師になっていないなら、何をしているのだろう。


でも、どうやって探せばいいのだろうか。



「何か考え事ですか?」


そんなことをぐるぐると考えていると、侍女のアンジーににこにこと満面の笑みで聞かれてしまった。


「何か考えているような顔に見えた…?」


「恋する乙女!って感じの表情をされてましたよ!」


恋バナが大好きなアンジーは、目をきらきらと輝かせながら言った。


「お嬢様が考えている方って、この前の夜会で会った方ですか?それとも騎士様ですか?それともずうっと昔に話しかけてもらって気になるっておっしゃってた…」


どれだけ候補があるんだ、と思いながら聞いていて、ふと引っかかる。


「そういえば、私騎士様の練習場へ行ったことがあるかしら…?」


私が行く夜会では、あまり騎士の方は参加していない。どちらかといえば警備の方に回っており、お話をする機会は少ないのだ。


ひと通りの夜会には通って探したけれどハルクは見つからなかった。


私も境遇が違う以上、騎士として働いている可能性もある。


「そういえば、お嬢様はあまり行かれないですよね。ニックもぜひ見に来てほしいと言っていましたし、一度練習場に行かれてはいかがですか?」


ニックとは、私の護衛騎士の名前だ。

最近腕を上げたらしく、お嬢様に来ていただけたら張り切って頑張れます!!と元気よく言っていたので、行ってみるのもいいかもしれない。


「アンジー、練習場に行く準備を手伝ってもらってもいい?」


「もちろんです!」

アンジーは目をキラキラさせながら言った。




          


             ♦︎ ♦︎ ♦︎

  



「あ、お嬢様!来てくださったんですね!」


練習場に着くと、私の姿を見つけて嬉しそうにブンブンと手を振るニックに釣られて笑みが溢れる。


ニックはもともととても優秀な騎士だったのだけれど、家柄の低さから相応しい場所で働けていなかった。


そこで、私は護衛の1人として配属したニックを騎士団に紹介したのだ。


彼は晴れて騎士団へ入団し、私の護衛も務めながら日々鍛錬に励んでいるらしい。


その恩を感じてか、ニックは私に懐くようになった。

その姿はまるで大型の犬のようだ。


「差し入れにね、クッキーを作ってきたの」


その言葉にニックの笑顔の輝きがさらに増した。しっぽが揺れているのが見える…。


「いいんですか…!?俺に…!?」


「ニックは騎士団の訓練も大変なのに、護衛としてもすごく頑張ってくれているから。ちょっとしたお礼のつもりなんだけど…」


「すっっごくうれしいです!他の仲間たちがよく差し入れとかもらってるのをみるんですけど、羨ましいな、と思ってたので…!」


自慢します!!と言いながら袋を抱きしめるニックを見て、アンジーが釘を刺した。


「リリーシュア様が作ったたいっせつな差し入れなんですから、大事に食べてくださいよ! 私だって欲しかったのに…!」


ぷんぷんと頬を膨らませている。最後の方に心の声が漏れてしまっていたが。



私の周りには感情表現豊かな人が多いみたいだった。


3人でそんな話をしながら盛り上がっていると、遠くの方がざわざわと騒がしくなっていた。


「ああ、あれは…うちの団長と、近衛騎士団ですね…」


「近衛騎士団?ここにはよく来るの?」


「たまに訓練して行くんですよ。最近は手合わせをしてもらうことも多くて…」


ああほら、とニックは1人の近衛騎士を指差した。


「特に、副団長のレインハルク様にはよく見てもらうんですよ。近衛騎士団の中では最年少らしいですが、実力は副団長になれるほどで…。すごいですよねえ、近衛騎士団なんて、王家の方々をお守りするから、かなり実績のある人じゃないと入れないのに…」


まさか、まさか……。


ニックの説明がちゃんと頭に入ってこない。




さらさらと揺れる銀髪と、その髪色と同じ儚い

銀色の瞳には、見覚えがあった。




「ハルク、様…?」



ああ、やっと会えた。



早く会いたい。会って話したい。



彼のあたたかい笑顔を、もう一度見たい。


あの時みたいな悲しい顔じゃなくて、告白が成功したときみたいな、花が咲くような優しい笑顔を。



そんな思いから、一歩足を踏み出したときだった。



「レイ…!」


ふわりと舞うピンクブロンドの髪。甘い蜂蜜色の瞳。


彼女は、この国の王女だった。


「姫様…、どうなさいましたか?」


ハルクに抱きつく彼女を簡単に支え、微笑むハルクその姿に、目の前が真っ暗になる。


どうして王女様とそんなに親しそうに笑顔を向けているのか。


息がうまくできない。


目を逸らしたくても逸らすことができない。



「レイの姿を見に来たの…。いつも私を守ってくれてるレイが、どんなに大変な訓練をしてくれているのか、ちゃんと知っておかないとと思って」


恋する乙女のような瞳で話しかける王女に、ハルクはゆっくりと微笑んだ。





ああ、彼に微笑みかけてもらえるのは、私だけだったのに。



暗い感情が心を覆っていく。


それに気づいて、私ははっと顔を上げた。


こんな、醜い嫉妬なんかしちゃいけない。


もしかしたら、ハルクは前世のことをまだ思い出していないのかもしれない。



あの頃のことを思い出してくれたら、きっと…。



私は、淡い希望を捨てられないまま、無理に笑顔を貼り付けて、そのまま練習場をあとにした。




             ♢ ♢ ♢



リリーシュアを見送り、その後の訓練が終わったニックは、もらった差し入れを大切に腕に抱きながら歩いていた。


「あれお前、その手に持ってるやつなんだよ」


そしてその『差し入れ+満面の笑み』という見たことないニックの姿を怪しく思った仲間たちが、わらわらとニックの周りに集まった。


「はは、これはお前たちにはやらない」

「なんでだよ!なんかすっげえいい匂いするんだけど!それをくれないとか悪魔か!?」


わあわあとわめく仲間に、ニックはずっと言ってやりたかった言葉を口にした。


「差し入れなんだ…俺が護衛してるお嬢様が、俺のために作ってくれたんだよ。どーだ?羨ましいだろう?」


ふふん、と得意げにふんぞり返るニックに、仲間たちは一瞬固まった。


「お嬢様ってお前…まさかリリーシュア様か!?」

「あのめっちゃ綺麗な!?」


「え…なんで知ってるんだよ」

ぐいぐいと押されて、ニックはやや困惑気味である。


「リリーシュア様、めっちゃ有名だぞ?」

「夜会では滅多に話せないから、せめて練習場に来てくれたらなあってみんなで話してただろ!?」

「来てたんなら言ってくれよ!俺も話したかった!!」

「というか手作り!?それリリーシュア様の手作りって言ってたよな???」

「食わせろ!!絶対食わせろ!」


リリーシュアから他の皆さんとも食べてね、と言われていたため、本当は分け合ってやろうと思っていたのに。


そんな思いはどこへやら、ニックもムキになって

「おおおお、うるさい!これは俺のだ!」

と叫んでいた。


そんな騒ぎの中、1人の近衛騎士が通りかかった。


「元気だな…なんの騒ぎだ…?」


この訓練に参加していたレインハルクだ。


「レインハルク様!お疲れ様です!」

多くの騎士から慕われる、近衛騎士団の最年少副団長である彼は、皆の憧れでもあった。


ああ、お疲れ、と言いかけて、レインハルクの動きが止まる。


「それは…?」


「ああ、これですか?ニックが護衛してるリリーシュア様の手作りのクッキーです」


「おま…っ、なんで広めるんだ…!」


すぐにリリーシュアの手作りクッキーを広める仲間にニックがグーパンチをきめようとしていたときだった。





「リリー……シュア、様、…の…?」






予想外のレインハルクの反応に、一同は首を傾げた。



「どうなさいました…?」



その言葉にはっとしたレインハルクは、少し焦ったように咳払いをした。




「いや、ただ、懐かしい匂いがしただけだ」



「『懐かしい家族の味』ってやつですか…?」

その言葉に、レインハルクは小さく笑みをこぼした。


「まあ、そんなところだ」


お互いに頑張ろう、と言ってから、レインハルクは去っていった。





「なあ、レインハルク様、家族と何かあったのかな…?」

「ニック、そのクッキー、差し上げた方がいいんじゃないのか」

「俺たちはあとでいいからさ」

「あとでいいってなんだ!?」


そんなことを言いながらも、尊敬するレインハルクのため、ニックはクッキーを持ってレインハルクのあとを追うのだった。








「レインハルク様!」


「?…どうした」


ニックが自分を追ってきた理由がわからず、困惑するレインハルクに、ニックはクッキーを差し出した。


「あの、懐かしい、とおっしゃってたので、少し、よかったらと思って…」


しどろもどろに話すニックに、レインハルクは笑いながら言った。


「ああ…心配かけていたならすまない」


ただ本当に、懐かしいな、と思ってただけだから、と遠慮するレインハルクに、ニックはさらに心配になってクッキーを差し出す。


「ほんとに、遠慮とかいいんですよ!他の奴らも、レインハルク様に渡してこい!!っていうくらいで」


勢いよく力説するニックに、レインハルクはおかしそうに笑った。


「ありがとう……でも、俺にはそれをもらう資格はないから」


「え…?」



「ああそうだ、今度また手合わせをしよう。絶対強くしてやるから、騎士団の仕事だけじゃなくて、護衛としての仕事も頑張ってほしい」


真剣なレインハルクの眼差しに、王女つきの護衛騎士の立場から、先輩としてアドバイスをくれているんだろうと思ったニックは、背筋を伸ばして言った。


「もちろんです!リリーシュア様の護衛が俺の本業なので。絶対守ります!」



その言葉に、レインハルクは何故か寂しそうに笑った。




「ああ、頼んだ」







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