第十二話 生徒会と麗しの君(ジルベリオ視点)
あれはまだ学園長を追い出す前の出来事
この学園における生徒会は各学年ごとに有り各自独立して運営していて、月に一度だけ全学年の生徒会が集まっての会合を開き予算分配などのすり合わせをして学園に申請する
まだ組織されていない一年生の生徒会の会長に是非!と二・三年生からの猛プッシュありがたい話では有るが正直言うとやりたくない。既に王族としての公務をしている状態これ以上仕事が増えるのはキャパオーバーになりかねない、それに私が生徒会の会長になれば月イチの会合に…今年の三年生の生徒会長は女性…近づかない訳にはいかないだろう、頭が痛い、、、
そんな時だった、私の女性恐怖症はいわば公然の秘密学園の令嬢たちも近寄っては来ないのだが、衝撃的だった廊下の角を曲がったその時、余程急いでいたのだろう一人の女子生徒と出会い頭にぶつかってしまった、、、
「申し訳有りません、、、その、大丈夫でしょうか」
眉尻を下げ謝罪してくる少女、つかつかとその後ろからやって来るあれはクロード家のジュリア嬢、、、思わずビクッと身体が硬直すると同時のルーカスが目の前の少女と私の間に割って入る
ジュリア嬢も少女を私から遠ざけ
「指導が行き届いておりませんでした申し訳有りません殿下」
私は固まったまま、、、それを見て気を利かせてくれたのだろう少女を連れて足早に且つ優雅にジュリア嬢は離れていった
「殿下、殿下?」
「あ、ああ大丈夫だ。サイファスあのご令嬢の名は?」
「あれが例の誘拐されかけたアリシア嬢ですよ」
「そうかルーカス、サイファスさっき彼女がぶつかった時」
「ぶつかった時に何か有ったのですか?怪我でもされましたか?」
ルーカスが異常がないか私の身体を見る
「そうではない大丈夫、、、大丈夫だったんだ」
ルーカスは首を傾げ、サイファスはハッとする
「勘違いと言う事はありませんか?それかとっさのことで反応できなかったとか?」
「なんの話です?」
鈍いルーカスを放置して
「その後にやってきたジュリア嬢のときは固まってしまった、確かにとっさのことで反応できなかった可能性もあるのだが、こんな事は今までなかった、確かめたい、しかしどうやってもう一度会うか、、、」
「殿下、ここは先程ぶつかったことへの謝罪ということにしてみてはどうでしょう」
なるほど、確かに不自然じゃないかもしれない
「だが王族がそう簡単に謝っても良いものだろうか」
ルーカスだけが一人話題に付いてこれてないがそれどころではない放っておこう
「殿下、ここは学園です。学園内であれば身分の差は有りません。規則を有効に使いましょう」
アリシア嬢が唯一の希望とばかりにサイファスがグイグイ来る
「その、まずは確認を取るのだが大丈夫だった場合、もしも大丈夫だった場合!私が、その、生徒会に入って彼女も生徒会に入ってくれると他の女性達にも耐性が出来たりは…」
後半は後付の言い訳になってしまったが、、、今まで会ってきたどの令嬢達にもない純粋で垢抜け切っていない顔を思い出すだけで心が弾む、一目惚れとはこういうことか
「動機が不純ですが、そこは見なかったことにしましょう。肝心なのは殿下が克服し妃を娶る事が出来る様になることですからね」
「き、妃!それは少し飛躍し過ぎではないか?」
「それにしては殿下先程から嬉しそうに見えますが?」
やっと話の内容を理解したルーカスが早速茶化してきた
くっ!お見通しか
「では殿下、早速アリシア嬢に話を付けてまいりますので教室の方でお待ちいただけますか、ルーカス行くぞ」
私よりもサイファスの方が張り切ってないだろうか?それだけ心配させていたということか本来ならサイファスが私を一人にして護衛なしなどという行動は考えられないのだが、私は大人しく言われた通り教室に戻り
「殿下、アリシア嬢をお連れしました」
早くないか?まだ心の準備が!
彼女はカーテシーをして
「あの、先程はろくにまともな謝罪も出来ず申し訳ございません」
距離が近い。サイファスの奴わざとだろ、いや確認なのだから近くないと意味がないのだから仕方がない
「いや、こちらこそ不注意だった。双方の不注意なのにご令嬢だけに謝らせるのは心苦しい、こちらかもらも謝罪させていただきたい」
「謝罪だなんてそんな」
大丈夫だ!!問題ない!あぁなんと美しい顔、きらめく瞳
「いや申し訳ない、ぶつかってしまった事そちらにばかり謝らせてしまった事重ねて謝る」
「大丈夫です、大丈夫ですので殿下これ以上は」
あたふたしている姿も微笑ましい
「すまない、実は謝罪は方便で、いや本当にすまないとも思っているのだが、良ければ君も一緒に生徒会に入っては貰えないだろうか、幸い君もBクラスということは成績も優秀なことは確かだ、私は一学年の生徒会長に立候補する、いや成る!その時に君が隣りにいてくれると嬉しい、まだ時間は有る、時間を掛けてじっくり考えて返事をして欲しい、待ってる」
「あの、私…」
アリシアがあたふたと返事に困っていると予鈴が鳴り
次の授業が有るのでと彼女はもう一度頭を下げBクラスへ戻っていった
「殿下どうでした?」
にやにやとルーカスが聞いてくる、判っているくせに
「問題…なかった」
「殿下おめでとうございます」
サイファスは目を潤ませている、大袈裟な、、、いやそうでもないか
三人で盛り上がっていて私は気づいてなかったがルーカスが
「教室の連中、とんでもないものでも見たって凍りついてましたね」
「しかし、ここまで注目されてしまってアリシア嬢は迷惑に感じてしまうかもしれませんね、、、そんな目で睨まないで下さいちょっとしたジョークです」
サイファスが冗談?それこそ私が凍りついて固まってしまった
「慣れないことするなよ殿下かたまっちまったじゃねぇか」
ハッとして
「もう一つ確認してみたいことが有るのだが二人共付いてきてくれるか?」
居た!ジュリア嬢を見つけ私は歩みを早め近づいて行く、ススス…と間合いに入らないように避けられる…もう一度!ススス…何度近づこうとしても一定の間を保って進むジュリア嬢、後ろに目でもついているのか!?
学園内の規則では平等なはずなのだが彼女達は自分達からは話しかけてこない、彼女達はあくまで公爵令嬢と第一王子殿下としての関係を崩そうとしない、それと私がこうなってしまった事に責任も感じているのだ、かといってこちらから声をかけるのは…まだ気が引けるそれに他の令嬢達の事はよく知らない顔見知りの令嬢は彼女達しか居なかったから
そうしてどの公爵令嬢にも華麗に避けられ時間はもう放課後になってしまって居た
「殿下、もう放課後ですしここは鍛錬場に行ってみませんか?」
「鍛錬場?」
「ええ、この時間ならフェリシア嬢が来るでしょう、自分もこれから鍛錬ですし上手い事誘導できると思います」
ルーカスが助け舟を出してくれた。確かに鍛錬場なら避けることは出来ないしフェリシア嬢は騎士科で装いも騎士の格好をしているのでハードルは低いかもしれない
鍛錬場に行くとフェリシア嬢は集中して素振りと型を繰り返していた男性顔負けの迫力のある型だ、これなら行けるかもしれない
こちらに気づいたフェリシア嬢が跪き男性と同じ礼をする
鍛錬が始まり、稽古用の木剣を持ちルーカスがフェリシア嬢とペアを作り地稽古を始めルーカスがこちらに目で合図をする視線の動きにフェリシア嬢は気づいた様だ、どんどんと近づいて私を見て彼女は窮屈な稽古を強いられる
「ルーカス、何を考えてる」
小さなつぶやきだが公爵令嬢とは思えない低い声
「いやなに、殿下のためだ付き合ってもらうぞ」
ルーカスはあの手この手で鍛錬場の舞台の端、私の居る方へと追い詰める、一瞬彼女と眼が合った彼女の眼には申し訳無さそうにしていた、見なかったふりをして彼女に更に近づく
駄目だ…冷や汗が吹き出してくる
「殿下!ぐっ」
こちらに気を取られたせいだろうフェリシア嬢が肩にルーカスの一撃を食らってしまった
「すまない」
一言だけ彼女に声を掛けくるりと踵を返して鍛錬場を後にする、彼女には悪いことをした
なんでこんな事をと思ったに違いない
「殿下、大丈夫ですか?」
「ああ、もう問題ない、どうやら理由は解らないが大丈夫なのは彼女だけの様だ」
「その様ですね」
「フェリシア嬢にはすまないことをした…」
「いいのですよ、あれらの所為で殿下は今こうなっているのですもう少し痛い目に合わせても良いくらいです」
これは私のことを思ってなのは解るのだが少々彼女達への当たりが強い、私と違いこれは謁見の間での彼女達を見ていない、私の側近になる際にも大人たちから令嬢たちの事は聞かされているだろう、あれから三年私は手紙のやり取りや視察で彼女達の人となりを知っているつもりだ。もう少しサイファスには噂や聞いたことだけでなく自分の目で彼女達を見てもらいたい
幸いにも学園生活は三年もあるのだから
彼女の一度目の誘拐未遂の状況からして学園内に犯人もしくは内通者が居ると考えて内偵を進めていた。そして宰相から渡された数々の不正の証拠を手に入れ明日にでもと思った矢先二度目の誘拐未遂が起きた
絶対に許さん!!学園長もその裏にいる奴も捕まえる、待っていてくれアリシア嬢君が安心して暮らせる未来は私が作る
そう私は決意して学園長室の扉を蹴破った
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