第十一話 歓迎会(ティナレ視点)
結局神殿に行ってもらうのは一抹の不安は有るもののフェリシアに決まった
彼女の体力と脚ならリミッター(公爵令嬢としての表向きの制限)を解除すれば学園の週に二日の休みで行って帰ってこれるのが決め手になったわ
夕餉の時間、歴代公爵令嬢専用フロアの四階の食堂、この専用フロアには全生徒が使う食堂とは別に厨房が有り今は歓迎会用のディナーを作ってる
今日の主役は父達の話し合いの結果、私の家メルダルス家が後ろ盾になったアリシア
そして今日の当番は私、本来は各公爵家の料理人が毎日交代制で調理する。互いの領地の郷土料理を知ることで他領への理解を深める目的で代々続く学園の伝統だ、だが今代の様に稀ではあるが令嬢自ら調理をして学ぶ代も過去に在り、前例が無いというほど珍しいものでもなかった
主に調理するのは普通科の私とヘレネとセレーナ、放課後にも授業の有る魔法科のメリーナ・スザンナ・騎士科のフェリシアは基本的に免除、休みの時にはやってくれるけど
ジュリアは、、、完全無欠の淑女と呼ばれる彼女にも欠点は有った、彼女いわく「前世ではちゃんと出来た」との弁、それに「公爵令嬢なんだから調理なんて出来なくてもいいのよ」と、でも確かにあれはおかしい焼き物は一瞬で黒焦げになるしサンドイッチを作っても具が腐る、貰う分には問題なく調理は見るも無惨な姿になる…私達にチートが有る代わりに極端なウィークポイントが有るみたい
全員魔力自体は尋常じゃない量を持っているのだけど…
セレーナなら私達の中で群を抜いて情報収集のスペシャリストで念話も使える、でも彼女にはスタミナが全くない並みの令嬢、いやそれ以下か?投げナイフの腕は確かだけどね
メリーナは圧倒的な治癒魔法と支援魔法の使い手だけど一切の攻撃魔法が使えない初歩の攻撃魔法でも発現できない
スザンナはその逆で一切の治癒・支援魔法が使えない。ただ彼女には前世で高専に行っていたみたいと言っても私はよく解らないんだけどね、父親もお兄さん達も高専出でやたらとメカ?機械に強いロボットアニメ好きのヘレネと馬が合うみたいで領地の垣根を超えて共同で何かを開発してるらしい、私にはちんぷんかんぷんな言葉で盛り上がってるのも見慣れた光景ね、ちなみに私達の黒ずくめのコンバットスーツもこのマッドエンジニアどもの作品
私とヘレネのウィークポイントはまだ解っていない、私も素手ゴロが得意だけど魔法もそれなりに使うことが出来るし初歩くらいなら攻撃魔法も治癒魔法や支援魔法まで使える
ヘレネは彼女が得意とするのは弓や投げナイフの様な飛び道具、拳銃やライフルがこの世界に有れば100発100中のスナイパーだったでしょうね。一応は剣も使えるし
フェリシアはまんま体力全振り、力こそパワー、魔法は一切使えない、だけど魔力自体はさっきも言った通り化け物クラスで持っている
そう考えるとジュリアのウィークポイントは戦闘では戦力ダウンにならないからマシなのかも知れない。サバイバルになったら真っ先に死にそうだけど…
さて今日のメインディッシュはデーモンピッグのワイン煮込み、前世のイノシシのような魔物で肉は旨いけど臭みが強いから臭み取り下処理を仕入れてくれた私の料理人に前もって指示してある。一口大に切ってから水で血を何度も洗い流し、赤ワインベースのマリネ液と一緒にガラスの容器に入れて密封、それを魔石冷蔵庫に入れて10時間以上寝かせてから乾燥ハーブのローズマリー、タイム、セージ、ビャクシン、有れば月桂樹の葉も入れて、他にはトマトペースト・にんにく・生姜を入れて煮込む。私はこの煮込みに付きっきりだから今日は料理人に前菜のトマトとしめじのブルスケッタや副菜の海老とブロッコリーのアヒージョは任せてる
異世界だけど食材に前世と同じものが多くて助かる。中には魔力でしか育たない食材とか魔物のきのことか希少な魔物の肉なんていう前世じゃ存在しないものも有るけどね
粗方調理し終わったので仕上げと飾り付けをお願いして私も席に座る。今日はアリシアの歓迎会なので私も席に着いていないといけない。
私達七人とヘレネの妹シンディと主役のアリシア、全員が揃って歓迎会のスタート
始めに私達を代表してジュリアが挨拶をする
硬いなぁ~と思わなくもないけど私達だけでなく料理人たちもいるから仕方がない、基本的に猫被ってるからね私達
挨拶が終わりジュリアがアリシアに挨拶を促す
緊張しっぱなしだけど噛まずに口上できてホッとしているのが初々しくてかわいい
これで男とか…信じられぬ
シンディも含めて私達八人は事情を知っているのでみんなでいる時はアリシオスと呼んだ方が良いのか歓迎会が始まる前に尋ねたけど完全な女声で
「アリシアと呼んでいただけると助かります。それと、あの、お姉様と呼ばせていただいてもいいですか?私ったら一体何を!すみません今言ったことは忘れて下さい」
最後は淑女であることを忘れて口調がらしからぬものになっていたけど、それでも声は女のまま、、、筋金入りだ
妹属性にめっぽう弱いヘレネが逝きかけシンディが必至に揺すっていた。私達も前世で男の娘耐性有るからまあ良いかとお姉様呼びを許可した。ただし人前では言わないようにと釘を刺しておいた
ちなみにシンディは私達の裏の顔を知っている。シンディが屋敷に来て間もない頃に誘拐されかけヘレネが単身で馬を走らせて誘拐犯達を全員馬に乗ったまま弓で射殺したのが切っ掛け
会って間もない義妹に乱暴な姉と思われたと思い込んで病み掛けて何度もどうしたらいい?と手紙が何通も何通も来た時は正直引いたけど、シンディの方から感謝されてからは今度はうちの義妹が可愛すぎてどうしたらいい?と手紙が来た時は張っ倒そうかと思った
アリシアは料理が口にあったみたいで
「これはティナレお姉様が作られたんですか?本当に美味しいです」
満面の笑みでそう言ってくれれば悪い気はしない
「口に合った様で良かった昨日から仕込んでた甲斐があったわ」
こちらもマナーとしてではない本心からの笑顔で返した。まるで男と喋っている気がしない、、、本当に付いているのか疑いたくなるレベルよ
ふと目をやるとスザンナがワインのテイスティングをしながら
「ねぇこのワイン、透明度と言い澱も無いし香りからして」
「御名答、あなたの領の物よ」
「やっぱり!」
「今夜の晩餐にはそれぞれの領の食材を使っているわスザンナのタダリア領のワインはデーモンピッグの仕込みにも使ったし他にもアヒージョに使ったエビ、しめじはジュリアのクロード領から、オリーブオイルはセレーナのスレイニモフ領から、トマトはフェリシアのマハラ領、ブルスケッタのパンはメリーナのシュルツ領、乾燥ハーブの類はヘレネのグレナド領産、そしてメインディッシュのデーモンピッグの肉とにんにくや生姜なんかは私のメルダルス領産、全部各領の特産・名産品よ」
それを聞いてアリシアとシンディが私の言葉を反芻している
「ね、美味しくて勉強になるでしょ?私達令嬢にとって知識は社交の武器よ」
「「はい!お姉様」」
二人仲良くハモってる
ジュリアが頭に手を当てながら
「その言葉そこの怪力女にも聞かせてやりたいわ…」
令嬢に有るまじき勢いで肉にがっついているフェリシア
「なんか言ったー?いやー騎士科の訓練でお腹と背中がくっ付きそうだったからさー」
「何ていうか騎士科のフェリシアお姉様らしいですわね」
クスクスとアリシアが微笑む
「でしょー!」
「アリシア、甘やかしちゃ駄目よ」
「ええー!表ではちゃんとしてんだからさー、いいじゃんさー」
「判りましたジュリアお姉様、、ふふっ」
最初の頃の緊張もだいぶ解けていい雰囲気、こうして張り切った甲斐もあってアリシアの歓迎会は大成功で幕を閉じた
ブクマやいいねをしていただけると作者が大変喜びます!続きを書く活力になりますのでページの下にある☆マークでの評価の方もぜひよろしくお願いします!