第十話 それぞれの思惑とアリシア…嬢?
学園長がゲロった
案の定アリシア嬢は現在絶賛王位継承者争いで骨肉のバトルを繰り広げているグリムワルド王国、前国王陛下の落とし胤で開戦派で暗殺された第一王子の代わりの神輿としてアリシア嬢を担ぎ上げるべく二度の誘拐未遂を起こしたというものだった
学園長は学園の設備管理を任されている商家や業者とズブズブ、賄賂に水増し請求に不正会計と不正のオンパレード、それをネタに脅され学園の警備の穴をリーク
ジルベリオ殿下は一度目の誘拐未遂の時点で怪しんで網を張っていたそうだ。二度目の誘拐未遂で設置されたばかりの防犯扉の仕組みを犯人たちが理解していたことでほぼ内部の犯行だと確定、宰相に頼んでいた学園の設備に関わっている商家や業者を洗い直してもらった結果からも不正も発覚
学園長は強請られて情報をリークしたのとは別に自分のお抱えではない業者が使われた事への逆恨みで、防犯扉を提案してきたセレーナも貶めてやろうと浅はかにも考えた様だ
殿下は学園長の裏に黒幕がいると確信し乗り込んでみたらあの騒動になったという顛末だった
肝心の黒幕については判らずじまいだが状況から見てグリムワルドの開戦派と見て間違いないだろう
悪役令嬢ものでも他国の後継者争いに巻き込まれる展開は有ることには有るけどヒロイン自体が落とし胤ケースは全体でも少ない方の部類じゃなかろうか
サウストン伯爵とフェネル男爵も事情聴取で呼ばれ隠し立てするかと思われたが意外とあっさり認めた。
今回の一連の騒動で自分たちの力では守りきれないと判断したようだった。
伯爵も男爵も前国王の落し胤であるアリシアが後継者争いに巻き込まれぬように最初は平民として育て、幸せを願い裏で支援しようと考えていたが年々高まるグリムワルドの継承者争いに平民のままでは守りきれないと思い今度は男爵家から伯爵家と戸籍ロンダリングを繰り返し身分を高めることで手出しできない様にするつもりだった。だが自分の家よりもセキュリティの万全な王立学園に入れれば安心だと思っていた伯爵たちの思いは甘かった。一度ならず二度までも誘拐されかけしかも関係のない男爵家まで巻き込んでしまった事を悔いたのだった。
他国の落し胤を匿い国際問題になりかねない事態を作ったとして伯爵も男爵も王城の一室で裁きを受けることになったが国王陛下から
「そなたらの行いは他国と戦争を引き起こしかねないものとして看破できぬ、、、だが、予がグリムワルド前国王と同じ立場であったなら、血を受け継ぐ我が子を対立するかも知れぬ他国で十五に成るまで隠し通し育てた忠義を誇りに思い労いの言葉の一つも送るであろう。サウストン伯爵並びにフェネル男爵、アリシア・サウストン改めアリシオス・サウストンは今後シェフィーリア王家の庇護下に入る汝らには以後アリシオスとの接触を禁ずる」
アリシアが王家の庇護下に入る、これは彼らにとって彼女を護る最高の盾になる事を意味する
「国王陛下、寛大な処置感謝申し上げます」
伯爵も男爵も俯いたままで表情は見えないが、アリシアと二度と逢えない悲しみとアリシアが王国の庇護のもと生きて行ける喜びの感情がまぜこぜになっているに違いない
「サウストン卿、フェネル卿、グリムワルド前国王の代わりに成れるとは思わないが、、、言わせてもらおう、、、大儀であった」
王の退席の後すすり泣く二人の姿があった
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「流石にこんな事態想定してなかったいくらなんでも設定盛り過ぎでしょ、あんのクソ女神!乙女ゲーに悪役令嬢七人、女性恐怖症のメイン攻略対象、ヒロインは男の娘なんでも有りかよ!!」
アリシアは第一王女ではなく第三王子だった、最初は存在を知られないための女装だったのだが
いつもは取り乱すこと無く完全無欠完璧な淑女のジュリアがめずらしく憤慨している
「次は攻略対象に男装女子とか入れてくるかもね」
「フェリシアとキャラダブらない?」
「あたしとしては強いんなら歓迎かなー」
「脳筋は黙ってて!」
ジュリアの怒りは収まらない
「確かに想定外だったけど乙女ゲーに限定しなければ男の娘や女装男子に惚れる作品は有るから想定に入れておくべきだったわね」
「ふふふ…いいじゃないそっちがその気なら受けて立とうじゃない、負けてなるものですか」
ジュルアは黒い笑みを浮かべて拳を握っている
「それはそれとしてどうするの?私達公爵家の何処かが後ろ盾になるんでしょ」
ジュリアとは対象的にいつも通り冷静にティナレが言う
王家の庇護下と言っても王族にするわけにはいかない、王家がサポートしつつも表面的には王族に次いで力を持つ公爵家の下に入ってもらう事になったのだ
「お父様達は渋るでしょうね、他の貴族たちから不満も出るでしょうし、いずれは彼女の…彼の正体に感づく者も出てくるでしょうね」
ティナレの発言にみんな眉をひそめる
ひんしゅくを買うのは必至、貧乏くじでしか無い
「お父様達から連絡が来るでしょうね、学園内であの子のサポートするのは私達だもの」
「私はどちらでも構わないわ」
「私も、というかみんな構わないんじゃない?」
「そうねあの子いい子だし…」
やっと冷静さを取り戻したジュリアがしれっと会話に交ざる
そうなのだ実際、礼儀作法で覚束ない部分は有るが、失礼という程ではないし愛嬌も有って申し分ない顔も何処から見ても女性にしか見えない十五か十四のはずだが、喉仏も出てないし声も男のそれではない
だが、男だ!
「う~ん、私達は大丈夫なんだからあとはお父様達次第じゃない?妙齢の娘の側にどう見ても女性にしか見えなくても男だからねぇ~私的には美味しいんだけどねぇ~」
妄想の世界に飛び立っているヘレネはにへらと笑いながら言う
「そうね、これ以上考えても私達にはどうしようもないわ、この件はお父様達に任せてグリムワルドの動きについて情報共有しましょうか誰か報告すること有る?」
「いいかしら?」
一番手に名乗りを上げたのはメリーナ
「私の開発した上級ポーションだけど、西のミスタリア公国の商人達が嗅ぎ回っていたわ、販売元が何処か聞きながら製法も聞き出そうとしてきたみたい」
「それだけなら何処の国でもするんじゃない?それが東のグリムワルドとどう繋がったの?」
「ミスタリアにはグリムワルドと違って正規で卸しているし十年後には製法を公開する趣旨の条約を結んでいるわ。条約を破ってまで製法を聞き出すメリットがないのよ、それに条約を破ったら公開取り消しまで含まれているからミスタリアは正規品以外の流通にはかなり敏感に対応しているの、見つける度にこちらに報告を寄越すくらいにね」
「ふーん」
フェリシアは興味なさそう、いや実際無いのだろう
「そこまでしてるのに自国の商人がそれを聞き出そうとしているのならその商人もう国に居場所無いんじゃない?」
「だったらまだ良かったでしょうね。後日領地の境の森で顔の皮を剥がされた遺体が六体発見されたわ」
「げぇ」
あまり現場に行かないからだろうセレーナが自分達の所業を棚に上げて嫌な顔をする
「見ただけで相手をコピーして変身出来る魔法を使えるのはかなりの上級魔法の使い手よ」
「私は出来るけどね!」
ヘレネは得意げだ
「ヘレネの自慢話は放っておいて、それなりの諜報部員なら顔の皮を使って変身することが出来るのはみんな知っているわね、身体的特徴から嗅ぎ回っているはずのミステリアの商人達の可能性が高まって製法を餌に捕縛…したかったんだけど全員自爆、遺体さえまともに確認できる状態じゃなかったわ」
「十中八九グリムワルドか」
スザンナがぼそっとつぶやき続けて
「あのさ、最近荒っぽいと言うか手段を選ばなくなってきてない?どうしてそこまでして開戦したいのかしら?それともこれも女神の差金なの?」
「それなんだけどさー、あの女神すっごいやる気なかったじゃん。うちらをめんどくさいからって七人まとめてこの世界に放り込むくらい、でもこの世界きっちりしてるっていうの?楽しむ気満々で作られてない?ほんとにあの女神が作ってんのかなーって」
全員驚愕の目でフェリシアの目を見る
((((((脳みそ有ったんだ))))))
「なんか失礼なこと考えてない?あたしだって乙女ゲーやり込んでるんだからこれくらい思いつくよ」
「い、いい着眼点ね。だとしたら誰が?誰か転生後にあの女神に会ったことある人いる?」
全員無言
「天使…女神が言ってたわよね、私達のことをスペシャリストだって天使が言ってたって」
セレーナはあの日の記憶を手繰り寄せて言った
「もし勝手に天使がこの世界弄くり回しているんなら直談判すればこれ以上設定マシマシ全部乗せを防げるかも!」
スザンナが振り返りジュリアの肩を掴み
「ねぇ、ジュリア北の領地の山に女神を祀る神殿有ったわよね」
「え、ええ有るわ」
「交信できたりしないかしら?異世界転生者で有るじゃない転生させた女神と神殿とか協会で交信するパターン」
「でも、かなり遠いわよ、私の家からでも着くまで数日もかかるし七公爵家の令嬢全員が学園休んで行くのは無理じゃないかしら」
「う~ん、じゃあジュリアに夏季休暇中に行ってもらうとか」
「わたしはいいけど、学園入学から一ヶ月も立たないうちにイベント盛り沢山なのよ、早く行かないとノリノリでイベント増やして来そうじゃない」
「あたしが行こうかー?」
やってくれるのはありがたいがこの脳筋がちゃんとメッセージを伝えられるのか…フェリシアを除く全員の考えは一致していた
「ありがたいけど、何で行くの?ワイバーン貸そうか?」
「絶対乗らない!ワイバーンだけは勘弁な!」
フェリシアの唯一の弱点それは魔法が使えないことではない、大抵のことは力こそパワーでゴリ押しできるから、そう彼女は空飛ぶ乗り物が一切駄目なのだ
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