明け方、おかしな夢を見た
明け方、おかしな夢を見た。
まあ、誰にでもよくあることだろう。
夢の中で、私は女子高校生だった。
遠足だか校外学習だかで、グループで有名な観光地をめぐっているようだ。
ハッと気づくと私は、たまたま一緒に巡っていた級友の一人と、グループからはぐれていた。
おまけにその子は何故かリカちゃん人形ほどの大きさになっていて、私が下げていた籐のバスケットの中にちょこんと入っていた。
私たちは相談し、何はともあれ帰らなくては、ということになった。
最寄り駅へと急ぐ。
最寄り駅はJRらしいターミナル駅だった。
急いで自分たちの地元へ向かう路線を探し、案内板を見ながらエスカレーターを幾つも乗り継ぎ、縦横に伸びる通路を行く。
しかし、これも何故かわからないが、行けども行けども目的地に着かないのだ。
気付くと再び、駅の中央改札の前に立っている。
そんな馬鹿なと、再び案内板を見ながらチャレンジするが、何度慎重に確認しながら進んでも、たどり着くことはない。
リカちゃん人形大の級友は、だんだん無口になってくる。
どうやら彼女はひどく疲れているらしいし、どんどん人形に近付いていってる気配もある。
心なしか彼女の身体が、ゆっくりと縮んできているようでもある。
私は更に焦りつつ、地元へ帰らねば! 帰らねば! と、小走りで駅の構内を行くが、目的地にたどり着くことはない。
彼女の身体はどんどん小さく、どんどん固くなってゆく。
シルバニアファミリーの人形大に変化した一瞬後、レゴブロックの人形大にまでなった。
すでに彼女は口もきけない。
彼女の顔は、単純な黒い線で描いたものでしかなかったから。
ああ、間に合わなかった! 間に合わなかった!
そう絶望した瞬間、
ピピ・ピピ・ピピー!
炊飯器の炊き上がりを知らせる音が、遠くから暢気に響いてきた。
朝食用に仕掛けたご飯が炊きあがったらしい。
なんだ夢か、と、身を起こす。
奇妙な夢を見たものだ。
明け方、おかしな夢を見た。
まあ、誰にでもよくあることだろう。
夢の中で私は、ゲームの勇者だった。
しかしレベルが低いので、ろくに戦えもしないのだ。
レベル上げをする間もなく、何故か我々のパーティは最終ステージまで来ていた。
私の旅の仲間たちはとても優秀らしく、勇者が何もしなくても道中で困ることはなかった。
だがその弊害で、勇者である私のレベルが上がらなかったのは本末転倒ではないかとうっすら思いつつ、最終局面へと向かう。
ラスボスと対峙する。
と、何故か突然、旅の仲間たちがその場から逃げてゆく。
あっけに取られていると、ラスボスたる魔王がにやりと笑う。
「愚かなる勇者。いや、勇者と持ち上げられし憐れなる生贄よ。お前は100年の安寧をその身と魂で支払うため、まんまとここまで運ばれてきたのだ。食われるのが嫌ならば……伝説の通り、我を滅ぼしてみよ!」
レベル一桁の勇者が、ラスボスに敵う筈もない。
指一本動かす間もなく絶命した私が最後に思ったのは
「だから人間は嫌いだ!」
という、全身全霊の怨嗟……
目が覚めた。
ひどい動悸と寝汗。
窓の外でカラスがギャーギャー鳴き交わしているのが、妙に耳につく。
朝焼けに染まったレースのカーテンが赤い。
夢か、と思い、身を起こす。
なんとも後味の悪い夢を見たものだ。
明け方、おかしな夢を見た。
まあ、誰にでもよくあることだろう。
夢の中で私は、年若い新妻として家事にいそしんでいた。
隅々まで美しく掃除し、大量の洗濯物を外にある物干し台まで持ってゆく。
さわやかに晴れた青空のもと、きらきらと輝く陽光を浴び、真っ白なシーツが風にはためく。
心地よい疲労感と達成感。
私は、風に揺れる洗濯ものを眺めつつ、よく冷えたお茶を飲み……、
そこで目が覚めた。
奇妙な夢を見たものだ。
青空? 輝く陽の光? 風に揺れる洗濯物?
なんだそれは。
洗濯物を外に干すなど、そんな野蛮なことなど出来る訳がないではないか。
身を起こし、レースのカーテンを開けて外を見る。
地平線を染める鮮血のにじむ包帯のような赤と、砂色のグラテーションのどんよりとした明け方の空。
自業自得のつけを払わされている我々は、もはや不用意に外へは出られない。
これは、映像だけで知る世界への郷愁なのだろうか?
くだらない。
つぶやくと、私は朝のルーティンへ移る。
まったく、おかしな夢を見たものだ。