八重桜 6
人生の舞台。例えば橋の上が私の舞台であったように、あなたにもそんなシーンが一度や二度はあったかも知れませんね。
さて、私たちは公園下の施設に案内されました。なんか廃校になった小学校の体育館らしいです。サヨリさんのコンシェルジュ召喚で使えるようになったそうです。何者なんだコンシェルジュ。さらに光里家スタッフにより快適なセットがいくつも取り付けられ、宿泊施設のようになっています。
「着替えや寝巻きなんかも取り寄せるしアイちゃんの制服やカバンも用意してあるからお腹いっぱい食べてね。お風呂もあるから」
「うわああ、サヨリさんすごいー。ねえお姉ちゃん」
「サヨリさんは魔法使いだからねー」
本当に不可能は無さそうである。ファンタジーやSFなことは無理だと思うけど。……無理だよね?
サヨリさんの案内でのれんのある引き戸の前に通された。のれんに書かれている文字は「寿司屋、仁」だ。
サヨリさんの魔法で一夜限りの寿司屋が開店する。
……。
いややる気だしすぎでしょがい!?
でもスズちゃんの夢だしな。つきあおう。
ガララララ、とまあ昔ながらの音がする。中からは明るい元気な声が響いた。
「いらっしゃいませ!」
店内は明るい木のカウンターに八脚の背もたれのない丸椅子が並んでいる。完璧にお寿司屋さんだ。ごっこ遊びのレベルじゃない。
とりあえず席につこう。大将、今日のおすすめは? とか聞けばいいんだろうか? ガチャリ、と椅子が鳴る。
みんなの視線がスズちゃんを射抜くがスズちゃんは集中しているようで動じない。
「注文していいのか?」
「お酒なんかはスタッフが出しますわ」
「じゃあ、生中」
「私もそれで」
「私も生中でいいでーす。 ジャパニーズ寿司屋最高でーす」
「はいはい日本人日本人」
「ちょ、アカネちゃん、ナオコがおざなりよー」
「倦怠期じゃないですか?」
「夫婦か」
「生中で頼んます」
「私はお茶!」
「では私も生中で。お願いしますわ」
「はっ!」
あの板前さんももちろんスタッフだ。シャリはスズちゃんの希望どおりスタッフが用意したらしい。スズちゃんは握るだけだ。
「注文いい?」
「はいっ」
かなり緊張しているようだ。まあ仕方ない。仁で出すとしてもお皿に数種類握って「寿司、並」とかのメニューになるだろう。こんな事態は想定していなかったにちがいない。
「じゃあタイ」
「私はハマチで」
「私もタイですかねー」
「うーんハマチ」
「なんにしよう。お寿司なんて久しぶりだなあ。タイにする」
「私はイカ」
イカ大好きです。注文が入るとスズちゃんは手早く握り二貫ずつゲタにのせていく。ちなみに一貫で二個をあらわすこともあるようだ。もともとそちらが主流だったらしい。
手元に置かれた寿司はキラキラと輝いている。早く食べろと急かしているようだ。では、スズちゃんのデビューの味をいただこう。
ネタに少し醤油をつけて、と。ネタを下にして一口で。
ホロホロほどける実にいい握り加減です。ネタも厚すぎず薄すぎない。ん~、最高ですね! 私の舌ではプロとの違いを測れません。
……これはたくさん食べてみるしかありませんね!
「エビ!」
「エンガワを」
「イカをー、あとガリくださーい」
「しぶっ、タコで!」
「玉子くださーい!」
「コハダで」
みんな淡々と食べて注文している。スズちゃんは試食でいっぱい食べたらしい。お酒強いから飲みたいんじゃないかなあ。代わりに私が飲むね! ごくごくごくごく。ふー!
「ライムチューお願いします」
「お? ごくごく、こっちもライム!」
「レモンで」
「私もレモンでーす」
「イカで!」
アイちゃんにとってはお寿司も飲み物です。間違ってません。桶で取っても一人で食べそう。十人前は余裕。
「とり貝で」
「アカネ積極的だな、中トロ頼むわ」
「なるほど、タンパクなネタからせめてますね。イカで」
「タイくださーい」
「エビで!」
「私もエビで!」
こうしてスズちゃんは寿司を握ることしか考えない状態になったのでした。緊張なんて仁で経験済みですからね。
久しぶりのお寿司を深夜まで楽しんだ。スズちゃんお疲れ様!




