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ひとパ☆  作者: いかや☆きいろ
サクラサク
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桜だ! 花見だ! ひとパだ! 9

「ほれほれ、あんたたちもそろそろ楽しんだらどうだい?」


 そんな風にカズコさんが言ってくれたので楽しむことにしました。


「スタッフ、スタート」


 サヨリさんがトランシーバーに一言。突然現れた黒サングラス黒ジャケットの兄さんたちが焼き肉を監理し、そしてサーバーの設置を始めました。光里家スタッフですね。ジュースの用意までしています。


「せっかくですのでみなさんも楽しんでくださいな!」


 突然春のビール祭りが始まりました。


 私もまずは一杯! ごきゅっ、ごっ、ごっ、ごっ、ぷっはああっ!


 なぜか拍手が巻き起こりました。外だった。はずっ!


「見事な飲みっぷり!」


「素敵ですわ。私もごくっごくっごくっ」


「なにやっても絵になるなあ」


「素敵ですね」


「お姉ちゃんかっこいい!」


「ししょーはこれでモテモテねー!」


 いりません。私は仕事が恋人です。焼き肉をいただいていきます。


 ぺりっ。はむ、ん、うん。典型的なニンニク強めのたれですね。牛乳で舌を洗っておかないと接客できません。


 さて、桜を楽しまなくてはいけませんね。山盛りの焼き肉を持ってその場にシートをしいて座ります。ビールももらいます。


 ふわあ、すごい桜ですね。空が桃と青の二色です。この花見会は明日の朝まで続くそうです。まあ夕御飯が終わったら帰るんですが。


 アイちゃんはおひつを抱えて焼き肉をつついてますね。忙しい娘ですね。


 サヨリさんとナオコさんは仲良くやってますね。レモン酎ハイを。


 アンナさんは釣りをはじめました。なにを狙ってるのかルアー釣りのようです。


 スズちゃんとコノミちゃんは料理談義ですか。包丁のすごさについて語っているようです。難しいですよね、包丁。あとはデザート談義ですね。わかります。


 ぺりっ。ぱくっ。もぐもぐもぐ……。ごくっごくっ、ふう。もう一杯もらってこよ。


 次は桜の下で飲んでみよ。ぺりっ。ぱくっ。もぐもぐもぐ。ごくごく。っぷう! あー、しゃーわせ。


「妹さんもおいて一人で飲んでますの?」


「サヨリさんやほー!」


「やほーですわ。となりに座っても?」


 どーぞどーぞ。てかレモン酎ハイ六杯も抱えてるとかすごいですね。なにかお話かな?


「アカネちゃんはどうしてそんなに自由なのかなって」


「あー、それですか。そんなに面白い話ではないですよ」


「聞きたいですわ。ごっ、ごっ、ごっ、ごっ」


「一気にいったー」


 まあ本当に面白くないんですが、私は高一まで神童だのガリ勉だのと言われておりまして。まじめ一本槍だったわけですよ。そんなある日転機が訪れたというか転落したというか、一年の最後に事故をしてしまいまして。


「まあ」


「ひどかったですよ。全身十数ヶ所骨折、入院期間三ヶ月」


 学生が学年の変わる時にそんな期間休んだらどうなるかなんて火を見るより明らかです。勉強はまったくついていけない、周囲との距離は遠い。友達は別の友達を作ってるしそこにも入っていけない。


 いじめとかは一切ないのに孤立してしまったんですね。そのまま勉強も学年最下位独走でした。勉強はその頃にはもう投げてましたね。そしてあっけらかんとした性格になって友達は増えました。みんな忙しいんであんまり絡みませんけど。


 それでギリギリ卒業。進学なんかは望むべくもなく。父親のツテで仁に雇ってもらって今に至る。


「というわけです……てわあっ!」


「ふえええん、ぐしっぐしっ、そんなの、アカネちゃんなにも悪くないじゃない……ぐすんぐすん。グビグビ……」


 泣くのか飲むのかどっちなんだい? どっちも?


「まあそうですよ。私は悪くないし周りも悪くない。ただ、運が悪かった。あ、私もレモンチューもらってこよ」


「これをひとつ」


「あ、ありがとうございます。くぴり。それでですね、仕事は根っこがまじめなんでがんばりましたが、自由に生きてやろうと思ったわけです。せっかく解放されたんだから。そしたらこんな自堕落娘のできあがりですよ。わはは」


「ごきゅっごきゅっごきゅっ」


「……くぴり」


 うわあ……泣きながら猛烈に飲んでるよ……。焼き肉食べよ。ぺりっ。ぱくっ。もぐもぐもぐ。くぴり。くぴり。


「気にすることはありません。今、ここで世界は完成してる。私はなにも不幸じゃない」


「ごきゅっごきゅっごきゅっ」


「泣き声に聞こえる……だと?」


 最近楽しくて仕方ありませんよ。ありがとうございます。




「久しぶりにやります! 橋の上のボイストレーニング!」


「おお、なんか始めたな!」


「おはようございます!」


「おおお、ごくごくごくごく……」


「いらっしゃいませ! お客様は何名様ですか?」


「すげえ、これがあのボイスのひみつ!」


「こちらのお席へどうぞ! ご注文お決まりになりましたらお声おかけください!」


「アカネさん、こんなトレーニングしてたんですね」


「ご注文は以上でよろしいですか? オーダー入ります!」


「すごいすごい、すごいでーす!」


「お待たせしました! ご注文は以上でよろしかったですか? ごゆっくりどうぞ!」


「お姉ちゃんかっこいい!」


「ありがとうございます!」


 わああ、と歓声が上がる。ただの接客です。大切なのは叫んだりどなったりしないこと。これは接客なのだから。


 これが私の生きる道なのだから。






 接客、それは神様を招く仕事。


 なんて。



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