桜だ! 花見だ! ひとパだ! 7
嵐のような家パは終わりました。次は春のメインイベント、町内会の花見会です。
カズコさんと予定地の河川敷を訪れています。バーベキューの許可もすでに取ってあるらしいです。楽しみだなあ。
「この場所でやるんですね」
「ああ、当日のこの辺りの場所を押さえてある」
この河川敷では毎年場所の取り合いでトラブルになるそうで、今年からは許可制になったんだそうです。
ただ当日は場所取り要員は派遣するそうです。今年からですからね。
大きな川です。なにか釣れるでしょうか? アンナさんに釣らせるのも面白いかも知れません。
「当日はよろしくね」
「? なにかやるんですか?」
「料理、手伝ってくれるだろ?」
「いいんですか?」
「誰がアカネちゃんをとがめるって言うんだい? そんなやつは粛清だよ」
風が強くて最後が聞き取れませんでした。でもそうですか、とがめられないんですね。料理していいんだなあ。
もしいつかもっと仁の人が増えて料理人が増えてその人が支店を持つとなったら、私はたぶん派遣されるだろうな。そうなったら嬉しいような寂しいような。
そんな未来のことを考えていても仕方ない。花見は成功させたいな。
「橋の上に行ってみるかい?」
「はあい!」
春の風は強いですね。大声でしゃべらないと。こう見えて声には自信があります。……なんでだっけ?
橋の前の交差点にはコンビニがありますね。きっと流行ってるんでしょう。立地は大切ですね。当日はきっと混むんだろうな。品出しとかできなそう。
橋の真ん中についた。ふわあ、すごい風。広がる町並みがどこまでも続くように見えて。遠くの山は灰色で空に溶けているようで。眼下にはとても幅の広い川。どこまでも私たちを押し流していくようで。桜並木が一望できるここは公道じゃなければいい花見ポイントになりそうで。でもどこか懐かしいような。
「アカネちゃんは前にこの橋に来てたろ。四年か五年前の話さ」
「? そうでしたか?」
「覚えてないのかい? 私は覚えてるよ。ランニングの途中らしきアカネちゃんがここに立ち止まり、いらっしゃいませー、ご注文はお決まりですかー、ありがとうございますー、って叫ぶんだ。何回も何回も繰り返し繰り返し、私は覚えてるよ。一東中に響けと言わんばかりに叫ぶアカネちゃんの姿を」
「そ、そういえばそんなことしてましたねぇ、あはは」
「届いたさ」
「え?」
「一東中のみんなの心にさ。あんたはみんなの心をそうやって勝ち取っていったのさ」
「それはーさすがに大袈裟では~」
「大袈裟なもんか。そこのオヤジちょいとこっちきな!」
「はあ? なんだよ婆さん。お、アカネちゃんじゃないか」
「あ、ご無沙汰しています、確かコインランドリー前の」
「あはは、名乗ったことないのにおぼえてるんだ?」
「ほらごらんよ」
「えー、たまたま知ってる人だったとか?」
「そこのランニングの兄ちゃんストップ!」
「あ? はい、なんですかおばあさん。あ、アカネちゃんだ。おはよう」
「あ、いつもランニングしてる、おはようございます」
「名前は名乗ったことないからね?」
「なあ?」
「どういうこった婆さん」
「アカネちゃんが無自覚系主人公で自分の知名度を知らないって話さ」
「えええ?」
「マジで? アカネちゃんやばくね?」
「ヤバいんだよ! あんたらも言ってやれ!」
そのあと出てくるわ出てくるわ、私が橋の上で叫び続けた日々とか、それを見て胸を打たれた人たちがいたとか、どこそこでやらかしたとか誰を助けただとかたびたびうわさになるとか親衛隊がいるとか。いや、なにその無駄な労力。私なんて守ってもなにもできませんよ?
「わかりました、帰って仕事まで寝ます。ご迷惑をおかけしました」
直角のお辞儀で謝意を示したので帰ります。ダッシュで! なんだそれ私は知らんぞ!
「あ、アカネちゃん、今日も店に行くからねぇー!」
「お待ちしてまーす!」
「やれやれ、あれはわかってないね」
「そこがいいんですよ。僕らも気づかない振りしなきゃ」
「みんなで影から見守らんとな」
「そうしてやってくれるかい」
「あれ? もしかしてドン?」
「さて、なんのことかね」
「え? ええええ?」
「私ゃ酒のために昼寝するんだ。あんたらも帰んな!」
「自分で呼び止めたくせに」
「でも、アカネちゃんと話せてよかったなあ」
「伝説の、橋の上の少女、か」




