梅の花の咲く頃 3
ここから始まります。接客モンスター、アカネ!
5/10 最低賃金がそのうち1000円まで上がるらしいですがこの時点で800→900円としておきます。このあと最低賃金が変わっても変更はありません。
「で、今日から入ってくれる金本コノミさんだ」
「よろしくおねがいしまーす」
「よろしくね」
「堅苦しくしなくていいわよ?」
「気楽にね! 同い年だし!」
つり目で金髪だけど香水や整髪料は付けてないね。料理自慢の飲み屋ではNG。整髪料自体は好感が持てるからきっちりしてていいんだけど匂いは絶対ダメ。たれの焼ける香り、魚の焼ける香り、揚げ物の香り、大切な香りがここにはたくさんある。
音楽にしてもうちは流してなかったりする。この店は喧騒こそがいい音楽なんだ。私はミュージシャン。ふふふ。
今日は初めてということで、フルメンバーでサポートする。これは私とスズちゃんが変わるリズムを受け入れるためのトレーニングでもある。
さっそくお客様への声掛けから指導されている。指導役はスズちゃんだ。やっぱり家族が出た方がいいという判断だろう。
「いらっしゃいませー! 何名様ですか?」
「ちょっと多いんだけど五人。赤ちゃん大丈夫?」
「大丈夫です、お座敷へどうぞー。五名様入りまーす」
「あいよー!」
すぐにおしぼりとお冷やをセット、そう思うタイミングではすでに完了してないと飲食店は回らない。すぐにお座敷へ向かう。先について待ってることさえある。
その時、厨房から大声が。止めなさい、接客なめてんのか?
「どーゆーことすかきゅーひゃくえんて」
「……面接で説明したが試用期間だからな」
「1200円て聞いたから来たのに!」
「……うーん。そうだな、あの子見える?」
「あのお嬢様ッスか。どこのご令嬢ですか」
「ちょっといいとこの子だけど、あの子とおなじだけ動けたらその日から1200円余裕で出す」
「はっ、あんな子くらいなら余裕っしょ」
「……言っておきますけど」
いいから仕事しろ。お客様来ましたよ。
「いらっしゃいませー! 何名様ですか? 四名様、奥右側のテーブル席へどうぞ!」
「……彼女の接客は規格外ですよ」
しゃべりながらお冷や完了、テーブルへ向かいお客様を待つ。お客様が座ってから素早くお冷やとおしぼりを各人の前へ。
「ご注文お決まりになりましたらお声おかけください」
「すみませーん」
「はい、お待たせしました」
「ぶふっ、待ってない。注文を」
「以上でよろしいですか? オーダー入りまーす!」
「……あの子どっかのプロ選手だったりします?」
「あいよー。……そんなものはない。うちのプロ店員だ」
「900円からやらせてもらいます」
「だよね」
「スズも動きなさい」
「はーい、今の時間ならアカネさん一人で回るんだよねー」
「こ、これは恐ろしいとこに来てしもーた……」
なんか片付いたみたいだね。一人で動いてるんだけど。
「オーダー入りまーす!」
「あいよー!」
コノミちゃん。彼女はお金目当てでうちに来たらしい。逃げるかなと思ったんだけど、なんか仕事自体にやる気が出たとかですごく燃えている。持ち帰ったお品書きメモも一晩で暗記して声かけ、オーダーもマスターした。
お冷や運びや料理の提供、飲み物の提供に不安はあるが頑張ってるのでよしとしよう。今度みんなとの飲みに誘ってあげよう。おごるのはサヨリさんだけど。
「オーダー入ります!」
「あいよ!」
(うちもあんな風にかっこよく動きたいな、お客様を笑わせるレベルってすごいやん)
めらめら燃えている。
「お待たせしましたー、ご注文お決まりでしょうか?」
(スズさんも速い! うち動けてないやん。石像か!)
かなり動揺してるね。試用期間だからメンバーは一人多く入ってて実は大将は損をしてる。研修費だから仕方ないのだけど。
「いらっしゃいませー!」
「(あ、きた)いらっしゃいませー!」
(て、またアカネさんの方が速かった。あの子壁の向こうのお客が見えるんか! 超能力者なん?)
お客さんが来ると当然車の音とか前兆があるし入店のチャイムも鳴る。耳をすませているとわかる。お冷やは完了しているのでコノミちゃんに案内を任せて席で待つ。奥から詰め込むのが基本なのでどこに来るかはわかっている。余裕がありそうなら盛りつけを少し手伝ったりする。常に手は洗う。洗い物もする。一個の動作でいくつもやらないとダメだ。
(そこまでできるのアカネさんだけなんだよなー)
空いたテーブルを片付ける。お会計にはもちろん入ることもある。その際必ず手洗いする。これは店で決まってる。
衛生が一番大事だ。アルコールもあちこちに置いてある。手すきの時間にはお盆とかも拭いている。
「み、見た目と作業量が全然違う。うちが通路の真ん中で突っ立ってたら視線誘導して軽やかにかわしていくし。これもうスポーツやん……」
「オーダー入りまーす!」
(行かな……!)
「いらっしゃいませー!」
「っ……いらっしゃいませー!」
(声も、うちより張れるな。でもうるさくない……奥が深すぎる)
「三番できたよー」
「あいよー!」
(うちのが近かったのに動き出したらすでに背中しか見えん! あれでまったくお料理にダメージなしって嘘やろ?!)
はー、そろそろ上がりかな。うん、なんかめっちゃ観察されてる。
はあー、なに食べよ。
アカネの接客は私がやってたので誰でもできます。五人入って調理もメイン以外やって忙しい時間一人で回してお客様がそれで笑って私以外の接客担当が怒られたまでリアルです。楽しかったです。




