同僚
土曜日の夜は一番忙しく、ひとパをしたい日である。この夜はいつもスズちゃんが入っている。私の唯一の同僚にして大将と女将さんの一人娘だ。娘は嫁にやらん、が大将の口癖だ。遺産は私にください。
今日のひとパ、なんにしようかな~、と思いつつ仕事を進めると、いつものようにナオコさんとサヨリさん、連れだってアンナさんも来た。
サヨリさんとアンナさんが仲良さそうにしていて、ナオコさんがちょっぴりふてくされてる。二人はそろって外人ぽい見た目だからお似合いなのもあるかもね。
「いらっしゃいませー!」
「いらっしゃいませ!」
接客を二人で回り、一人がテーブルを片付けている間にもう一人が案内をする。店内の地図が頭に入っていてお客様の位置や進行状況まで見えている。私ももはやベテラン店員である。
「お席の準備をしております、しばらくお待ちください。お次の方はこちらにお名前をお願いします」
順番待ちのお客様には名前を書いてもらう。しかし居酒屋はそんなに回転率が速くなく、名前を書いたものの帰ってしまうお客様もいる。この辺りは飲食店が多い通りなので、それなら他に行こう、ともなりやすい。
お客様の飲食速度のコントロールはできないからね。
「四番オッケーです!」
「お待たせしました、奥右側のテーブル席へどうぞ!」
「ぷっ、仕事してんなあ」
「そりゃしてますよ。じゃあお冷やお持ちします」
ナオコさんに笑われつつも速やかにお冷やとおしぼりを用意して四番テーブルへ向かう。その間スズちゃんは他のお客様のオーダーを取り、配膳をする。忙しそうだ、早く応援に行かないと。
こういう時に転んだり他のお客様に接触するのは素人である。お客様の位置はほぼ把握している。異世界人みたいだが本当にできるんだから仕方ない。サッカー選手だってできるじゃん。
「相変わらず変な勘してますね、アカネさん」
「変なて。まあやってるうちに動線が見えるようになったんだよ。お店の作りがいいんだね」
大きく弾みをつけるとせっかくの大将の綺麗な盛り付けが歪んでしまう。あらかじめ動きを予測して動かないとダメなんだよね。だから上位のスポーツ選手か。バスケかなんかやってたっけ? 運動部入ったことないけどアイちゃんを見るとやっといた方が良かったかな。
私はとにかく夢も色気もないつまんない人です。
おっと、三人は仲良く飲んで帰ったみたいです。ナオコさんとアンナさんも仲良くなったみたいで良かったね。三人ともいい人だもん。
ちなみにいいお客でもある。毎回お会計が万を超えるってどういうこと? お支払はもちろん、黒いカードが閃いた。かっこいい!
さて、今日のひとパはなんにしよう。サザエとか安いけど庶民の食い物ではない。うん、タイでなんか作りたいけど、今日は本当に疲れたし明日は休みだから、お魚で残った白ワインとビールでもいただこう。ここはタイのお刺身とー。
スルメとー。イソガイとー。サラミとー。
手抜きー。でもなんか作りたいな。アイちゃん起きてくるかも知れないし。そういえばアクを取った山菜が残ってたな。よし、いつものルーティーンの方を少し変えてみよう。
まず山菜を細かく刻み甘辛く炒めます。一味大好き。醤油とみりんで甘じょっぱく。タイのお刺身を少しだけ(このために二パック買ってきた)みじん切りより少し大粒に切って、火を止めた山菜と混ぜます。きざみのりとかかつおぶし、砕いたアラレを入れてもいいかもね。ご飯に乗せたら別口で作ってた濃いめの出汁(お湯に粉末出汁に薄口醤油)をかけて~、山菜タイ茶漬け~。
わはは、手抜きこそ我が本懐よ。アイちゃんが起きてきてすでに味つけの終わった山菜と出汁でご飯を食べはじめた。ちなみにアイちゃん用のジャーがなぜかある。アイちゃんが買ったらしい。だから、お小遣いの使い方よぉ……。じょしこおせえ……。
二人で茶漬けで和んだあとはアイちゃんはそのまま寝にいって、私はタイのお刺身でひとパを開催。
まずはビール。かきゅ。とぷとぷとぷ……。おっと、白ワイン白ワイン。けっこう残ってる。この重さの嬉しさよ。ちなみに気に入りすぎてもう一箱買ってきて冷やしてある。
「まずはビール様、お疲れさまでーす。……ん、ん、ん、ごきゅり。ふぅー!」
いやあ、これですなあ!
イソガイもツンツン。貝の苦味が美味しい。スルメは鉄板だね。噛めば噛むほど味が出る。ビール。ごきゅっ、ごきゅっ。ぷぅー! 一気に飲んではもったいないけど温くなるのももったいないからついつい飲んじゃうよね。サラミもかじる。ビール。そろそろ白ワイン。
お刺身を白ワインでいただこう。安いのに謎の高級感。シメは残った山菜を……。残ってるわけなかったわ。……アイちゃん……。
今日もいいひとパができました。
応援よろしくお願いします!




