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好きだと伝える五秒前

作者: NEET0Tk

 俺は絶賛迷っている。


 伝えるべきか、伝えざるべきか。


 学校で習う数式の答えは分かるのに、この気持ちの伝え方は分からない。


 いや数式もわかんねぇや。


 ……本題に戻ろう。


 詰まるところ俺は迷っている。


「どうしたの?朝から変な顔して」

「迷ってるんだよ」


 俺は通学路を歩きながら考える。


「悠太が迷うなんて珍しいね。どうしたの?恋でもした?」

「は、はぁ!!ぜ、全然ちげぇし!!」

「あはは、図星じゃん絶対」


 ケラケラと笑うのは、幼馴染の優奈。


 俺と同じバカだが、愛想も良く、密かに人気がある。


 もちろん例外ではなく


「恋……か……」

「何?本当だったの?」

「なぁ優奈。好きな奴っている?」

「え!!ガチなの!!これマジな感じ!!」


 ちょっと待ってと言われる。


 心臓を抑え、優奈は何度か深呼吸をし


「来い!!」

「何?今から戦闘でもするの?」

「恋は戦争だよ、悠太」

「怖いな恋愛」


 ……今言うべきか。


 雰囲気としてはまぁまぁだが、そうだな


「実は俺」

「よ!!二人とも!!」

「はぁ!?」


 突然乱入してきたのは


「タイミング悪ぃな慎之介」

「ホントにね!!」

「え、なんかごめん」


 こいつは慎之介。


 家は少し遠いが、通学路が一緒のため時々こうして三人で登校している。


「ホントに最悪!!状況考えてよ!!」

「うお!!優奈ガチギレじゃん!!どしたの生理?」

「死ね!!」


 プンスカと優奈は早足で歩いて行った。


「俺お前の友達やってけるか心配なんだが」

「さすがに反省してる。てか、悠太お前まだ言ってなかったのか?」

「緊張すんだよ」

「速くしろって。そしたら諦めがつくだろ?」

「分かってるよ」


 実は慎之介は優奈が好きらしい。


 それを聞いた俺は、慎之介に俺の気持ちを打ち明けた。


 結果


「伝えろ」


 真剣な顔で言われた。


「タイミング悪いなホント」

「マジかよやっちまったな」


 慎之介は悪いと言いながらどこか寂しそうにしていた。


 ◇◆◇◆


「ちょっと悠太、あんた何したの?」

「俺?」


 優奈の親友の桜が喋りかけてくる。


「優奈今日学校来てからずっと怒ってるんだけど」

「いやそれ俺悪くねぇから」

「でもどうせ悠太が原因でしょ?あんた達いつも一緒にいるのに」


 桜はどこか不満気に腕を組む。


「優奈はクラスで別にパッとしない悠太と違って太陽なの。太陽が沈んでちゃみんなも元気出ないんだって」

「酷くない?わざわざ俺のことディスる必要あったか?」

「慰めろって言ってんの」

「へいへい」


 お嬢様方の機嫌取りは大変だな全く。


「優奈ー、生きてるかー」

「無理、死んでる。甘いもの食べないと無理」

「でもお前ダイエット中だって言ーー」

「無理!!死ぬ!!」

「チョ、チョコあるから!!これ結構高かったんだぞ!!」


 俺は昨日密かに楽しみにしていたチョコレートを取り出す。


「……食べさせて」

「いや、それはちょっと恥ずかしいと言いますか」

「ん」


 目を瞑り、優奈は口を開ける。


 クソ!!


「ほ、ほらよ」


 俺はゆっくりと優奈の口にチョコを一粒入れた。


 その際、一瞬柔らかな唇に触れた。


「美味しー!!」

「よかったな」


 心臓は未だにドクドク唸っているが、どうやら元気が戻ったらしい。


「なんかごめんね、めんどくさい女で」

「バーカ。何年一緒にいると思ってんだ」

「そっか。そうだよね……そうだ!!全部慎之介が悪い!!もう少し空気読め!!」


 クラスが別の慎之介に向かって怒りの声を上げる優奈。


「よかった」


 桜も安心したようだ。


「ホント、私が何言っても聞かないのにあんたがちょっと言っただけで元気になるんだから」

「ツボを押さえてるんだよ」

「さすが幼馴染」

「カチコミじゃ!!桜ちゃん!!慎之介をボコリに行くぞ!!」

「おー!!」


 二人は楽しそうに教室を出た。


「南無阿弥陀仏、慎之介」


 とりあえず、いつ伝えようかな。


 ◇◆◇◆


「であるからして、卑弥呼は実は江戸幕府を設立したというーー」


 授業をボケーッと聞いていると


「ん?」


 肩を叩かれる。


 横を見ると


「シー」


 優奈がウインクしながら何かを手渡す。


「何だこれ?」


 折り畳まれた紙だ。


 中を開くと


『手紙です。返事を下さい』


 簡潔で綺麗な文字だった。


「なるほどな」


 何だか童心に戻った気分になる。


 ふむ、これは話題展開が大事だな。


「そうだな」


『実は俺、豊臣秀吉の子孫なんだ』


 めちゃくちゃ嘘だが、まぁいっか。


 手紙を渡す。


 授業の黒板を見るフリをしながら、優奈の様子を伺う。


 あ、驚いた。


 おもろ


 優奈は凄い形相で何かを書き始める。


 そして


「フン!!」


 少し鼻息荒気に渡す。


「はは」


 少し笑ってしまった。


『それ本当なの!!何かそういう物が家にあったの!!』


 字が凄い勢いで書かれているのが分かる。


 大分興奮してるな。


 てか信じてるのかよ。


 そうだなぁ


「あ!!」


 いいこと思いついた。


『俺は自然と冬に誰かの靴を温めたくなる習性があるんだ』


 これでよしと。


 隣を見ると、もう授業なんて聞かずに速く寄越せと優奈がこちらを見ていた。


 本当に飽きないな


 俺は優奈に渡す。


 破くんじゃないかという速さで開く。


「!!!!」


 優奈が驚いた顔をする。


 そりゃそうだろうな。


 だって


『もしかして、この前私の靴が温かくなってたのって』


 実は以前、イタズラで慎之介と一緒に優奈の靴にカイロを仕込んだことがある。


 いつ気付くかと思ったが、最後まで優奈は気付かずに次の日の下駄箱で慎之介と笑ったのは懐かしい思い出だ。


 あの時の温かいのと勘違いしてるんだろうな。


『その通りだ』


 俺はドヤ顔で返信した。


 だが思っていた反応と違い、優奈の手は止まった。


 どうしたのだろうか?


 ゆっくりと優奈は字を書き、俺に渡してくる。


 なんだ?なんて書いたんだ?


 ペラリと捲ると


『変態』


 一言


 そう書かれていた。


「確かに変態だ」


 言われ気付く。


 いや普通に何書いてんだ俺!!


『冗談だよ!!あの時のはカイロなんだって!!』


 俺は必死に弁明し返す。


 だが手紙を渡す時に気付く。


「お前……」

「えへへ」


 優奈ははにかむように笑っていた。


「気付かないわけないじゃん」


 正直その通りだが、優奈ならあり得るかもと思ったのだ。


「……」


 俺は消しゴムで消し


 書き直す。


『大事な話がある』


 渡す。


 優奈は不思議そうに受け取る。


 そして中身を見て


「え……」


 僅かに声を漏らす。


 それからしばらく経った。


 多分五分も過ぎていないが、何時間も経っているような気分になる。


 そして


『どうしたの?』


 返事が返ってくる。


 優奈がどこか落ち着かない様子だ。


 このような形で伝えるのはどうかと思うが、こうして字にした方がもしかしたら楽かもしれない。


 ラブレターを書く気持ちはこうなのだろうか。


 俺は何度か書き直し、完成させる。


 伝えよう。


 さぁ


 俺はゆっくりと紙を隣に


「悠太、優奈、お前らが仲良いのは知ってるが授業に集中しろ」

「あ」

「す、すみません」


 俺と優奈の顔は真っ赤になる。


 周りもどこかニヤニヤとこちらを見ている。


 どうやらまたお預けのようだ。


 ◇◆◇◆


「ちょ!!それ俺の!!」

「慎之介はデリカシーないからいいんですー」


 優奈は慎之介の弁当のおかずを盗み取る。


「そんなんだから太るんだぞ!!」

「は、はぁ!!太ってないから!!体重計に乗るまでは分かんないから!!」


 ギャースカと喧嘩する二人。


「喧嘩するほどなんとかやらって奴か」

「おい悠太。今しれっと俺の弁当から卵焼き取ったよな」

「はんほほはら(何のことやら)」

「いいぜやってやるよ。お前とはそろそろ決着をつけるべきだったな!!」


 慎之介との弁当争奪戦が始まる。


「協力するよ悠太」

「背中は任せた優奈」

「クッ!!二体一とは卑怯な!!」

「そもそもお前がノンデリなのが悪い」

「女の敵サイテー」

「急にマジレスすんのやめろ!!」


 俺と優奈の協力プレイで慎之介の弁当を蹂躙する。


「ひ、酷いぜお前ら」

「悪い悪い。ほら、俺のこれあげるから」


 俺は弁当のおかずを乗せる。


 冷凍食品だ。


「私もこれ。一応手作りだから味は保証できないけど」

「え?優奈のか?」

「ん?うん。何?まさか料理出来ないと思ってた?」

「いや、出来るのは知ってたけど、まさか自分の分の弁当作ってると思ってなくてだな」


 慎之介はどこか感慨深そうにご飯を食べ始めた。


「美味いな」

「あ、それ冷凍食品」

「お前な!!」


 三人で笑った。


 あー


 でも


「続かないのか」


 俺が優奈にこの気持ちを伝えた後は、もうこうして食べれないんだろうな。


 なんか寂しいな。


「悪い、ちょっとトイレ」

「いってらー」

「途中で力尽きるなよー」

「誰が漏らすかい!!」


 慎之介はトイレに向かった。


 俺と優奈は弁当に手をつける。


「ねぇ悠太」

「ん?どうした?」


 優奈は食べる手を止める。


「今日の悠太さ、やっぱり変だよね」

「……」

「授業中の手紙ってさ、なんて書いたの?」

「……」


 今、伝えるべきなのか?


 あまりよい環境だとは思わない。


 だけど


「実は俺ーー」

「優奈、先生が呼んでたよ」

「え!!あ、部活のあれか」


 優奈は思い出したかのように立ち上がる。


「放課後、聞かせてくれる?」

「勿論だ」

「……じゃあね」

「おう。頑張ってこいよ」


 優奈は走って行った。


「ホント、可愛くて仕方ないよ」

「慎之介」


 トイレから帰ってきた慎之介。


「あー、やっぱ好きだなぁ」

「そうか」


 優奈から貰った卵焼きを美味しそうに食べる。


「付き合いてぇ」

「本人いないと自由だなホント」

「気持ちに歯止めがきかないんだよ」

「犯罪者の言いそうな台詞だな」

「いやさすがに大丈夫だから。ただまぁ、ジッとしてられないってのは確かだな」

「本当に好きなんだな」

「……お前だってそうだろ」

「……」

「気付いてるだろ。優奈もお前のことを憎からず思ってる」

「どう……だろうな。そうだと悲しいけどな」

「はぁ、なーんでこうも人生上手くいかないんだろうな」

「全くだよ」


 俺はどこか味のしないご飯を食べ終えた。


 ◇◆◇◆


「起立、気をつけ礼」

「「「「せんせーさよーならー」」」」

「はい、先生はさようならじゃないけどまたな」


 放課後になった。


 いつもと変わらぬ放課後のはずだ。


「……」

「……」

「空気が重い!!」

「桜ちゃんどうしたの?」

「どうしたもこうしたのないよ!!何その空気!!」

「いや、だって……なぁ?」

「うん……」

「だからそれがダメだって言ってるんでしょ!!ちょ、悠太こっち来て!!」


 俺は手を引っ張られる。


「何?お通夜か何かなの!!」

「いや別に」

「じゃああの空気は何なの!!」

「なんて言いますか……」


 どう言えばいいのだろう。


「もしかして、告白?」

「まあ」

「やっと?」


 桜は大きなため息を吐く。


「この際言っておくけど、優奈はメチャクチャあんたのこと好きよ。こう言うこと事前に言うのはあれだけど、正直そうやってウジウジして失敗される方がムカつくから」

「……」


 そっか。


 優奈は俺のこと


「嬉しい……か」

「意味わかんない。そんなんで上手くいくと思ってるの?」

「正直、上手く話せる気がしないんだ」

「意気地なし」

「そう……かもな」


 何やってんだ俺。


 このままってわけにもいかないだろうに。


 未だにビビってる。


「安心しなさい」


 背中を叩かれる。


「優奈を舐めないでよ」

「……そうだな」


 そうだ。


 大丈夫だ信じろ。


 何も死ぬわけじゃない。


 男ならガツンと決めろ!!


「行こ、優奈」

「うん」


 俺は優奈を連れて教室を後にした。


 ◇◆◇◆


「……」

「……」


 沈黙が続いた。


 喋ろうとは思わなかったし、喋るべきでもないと思った。


 ただ時の流れを待つ時間も大切だと思ったのだ。


「久しぶりにさ、あそこ行かない?」

「え?あ、うん」


 俺は優奈を連れてとあるお店に行った。


「すみませーん」

「あらいらっしゃい」


 駄菓子屋に入った俺らは中を物色する。


「見ろよ優奈。懐かしな」

「あ、ホントだ。これ楽しかったなー」


 二人で思い出に浸る。


「よく三人でこれやったな」

「大体私が外れ引くのなんなの!!」


 懐かしい思い出が蘇る。


 そう、あの時からもう俺は優奈のことが


「これ、下さい」

「あいよ」


 俺はいくつかの駄菓子を買う。


「公園ででも食うか」

「うん」


 二人で公園に向かった。


「美味いな」

「そうだね」


 いつもだったら盛り上がる会話も今はただ空気に流れていく。


 日が沈みかけてきた。


「そろそろか」

「やっと……だね……」


 夕陽が照らす。


「俺と優奈が出会って大分経つな」

「そうだね。十年以上なんて感動だね」

「最初は優奈も男の俺らに混ざってサッカーとかしてたのに、今では化粧が落ちるから嫌って何だよそれ」

「乙女の嗜みですー、男の子には分かんないなぁこの大変さが」

「へいへい申し訳ありませんね」


 少しずついつもの調子を取り戻す。


「もう一回、朝の会話をしてもいいか?」

「……うん」

「なぁ優奈。好きな奴っているのか?」

「……はい」

「そっか」


 いるんだな。


「大事な話がある」

「はい」

「本当はもっと速くに言うべきだったんだと思う」

「……そうなんだ」

「遅れてごめん言わせてくれ」


 俺は優奈と目を合わせ


「俺、実は」


 ◇◆◇◆


「準備できた?」

「ああ」


 俺は荷物を詰め込む。


「何だか実感わかないね」

「そうだな」


 俺は車の中に荷物を詰め込む。


「ごめんね急に」

「仕方ないだろ」


 俺は周りを見渡す。


 ここを見ることはしばらくないんだろうな。


「おう、行くのか」

「慎之介、悪いな急に」

「いいんだよ。お前と俺の仲だろ?俺らの間に言葉はいらねぇ」

「でもお前、最初話した時死ぬほどビビってたじゃん」

「そりゃ驚くだろ!!むしろ驚かない奴がいたら教えてくれよ!!」

「そりゃそうか」


 相変わらず最後までうるさい奴だったな。


「ほら、お前も速く言ってこい」

「来てるのか?」

「そりゃそうだろ」


 慎之介の後ろから現れる。


「優奈……」

「……本当に、行っちゃうの?」

「ああ。親の仕事だから俺はなんともな」

「……」

「ほら泣くな。何も二度と会えないわけじゃない。夏休みとか冬休みには帰って来るからさ」

「絶対……約束だよ」

「約束だ。俺が約束破ったことあるか?」

「俺との遊び時間遅刻した」

「慎之介今は黙れ」


 優奈は涙を流す。


 必死に、必死に涙を拭き


「行ってらっしゃい」


 目元を真っ赤にしながら笑った。


 だから俺も


「行ってきます」


 車に乗り込む。


 エンジンの音が鳴る。


「さよなら言わないの?」


 母親が言ってくる。


「いいよ、もう言葉は交わした」

「カッコつけてんじゃねー」


 母親は窓を開ける。


「ほら」

「……」


 俺は顔を出す。


「バイバイ悠太!!大好き!!」


 優奈が泣きながら手を振る。


 でも、少しずつその姿がボヤけてくる。


 そうだ。


 さよならの言葉を言われたら返さないとな。


「バイバイ優奈!!俺もお前が」


 好きだ

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