夏祭り
火華は悩んでいた。屋台にあるのは2つの飴。片方は赤くて大きなりんご飴。大きくて食べ応えがありそうな真っ赤な果物。りんごはそれ程好きではないが、飴にした時は別だ。隣にはこれまた真っ赤ないちご飴。こちらは小さめだが食べやすそうだし、3つ入り。大きくない分数がある。いちごは好物だし、いちご飴の方がいいかもしれない。
「お嬢ちゃん。さっきから飴をじっと眺めてるが、買わないのかい?」
「あ、えっと、え、うっ、こ、こっちの…いちご飴ください……」
屋台の店主に声を掛けられ、消えかかった声でいちご飴の方を指す。
「いちご飴ね、はいどうぞ」
「あ、ありがとう……ございます…」
受け取ったいちご飴を持って足早に離れる。顔に付けたお面を口元まで外し、飴を1口食べる。甘い。幸せ。あっという間に1つ目を食べ終わり、2つ目に手を伸ばした所で隣を歩いていた人とぶつかり、いちご飴が宙を舞った。
あっと思ったのも束の間落下した飴はそのまま人混みの中に消えて行った。
「わたしの……私のいちご飴が!!!!」
火華はフラフラと道の端に寄れて座り込んだ。
座ってから食べれば良かったのに……はぁ……最悪だ…
お祭りとは言えども、そもそも火華はあまりお金を持っていない。それにさっきの所まで戻って飴を買い直す勇気は火華には無かった。暫くしてからお面を付け直し、また屋台を回り始める。
今更ながら、火華の格好の説明をしておこう。今日の火華は祭りという事で浴衣を着ている。ついでにお気に入りのケツァールのお面(自作)と鹿の角やらなんやらが付いたカチューシャを付けている。これのおかげで羽人の見た目を隠す事もできるし、周りの人達に溶け込むことも出来る。
「でも……人混み怖い…帰りたい……」
座り込んだのも間違いだった……周りに人が集まってきてる……羽人ってバレたのかな?やだな。帰りたいな。
「ちょ、ちょっと……通ります…」
立ち上がって人混みを掻き分けながら前に進む。横道の屋台エリアを抜けて大通りに出ると一気に人が減る。
「……楽になった…」
火華は散々な目に遭ったと思いながら帰路についた。二度と祭りなんか行かない。あ、でも飴は食べたい…………また今度祭り行こ、今度は屋台の終わり際に………あ、でも時間ズレたら……帰りにお菓子屋さんにでも寄って行こう………
お菓子屋に寄った火華は呼羽のみんなの分もお菓子を買ったが、結局誰にも渡すことが出来ずに1人で食べることになったそうだ。