6月13日 横断幕
聖淮戦まで、残り6日。サポートメンバーということで、私も手伝いをさせられていた。今日は、みんなで横断幕を作っていた。美桜は、黙々と進めていく。彼女の熟練した手つきで布地に文字が刻まれようとしていた。緻密に計算された寸法の白いキャンバスを広げ、慎重にチョークを手に取った。彼女の心の中では、横断幕に記す文字が鮮明になっていたのだろう。力強いスローガン、目を引く色遣い、大衆に感動を与えるメッセージを書こうとしていた。彼女の横にあった下書きには、「挑戦〜夢の向こうへ〜」と書かれていた。
たった8文字なのに、これを書くのには凄い時間がかかるんだろうな。美桜は、チョークをキャンバスに当てて、滑らかに線の輪郭を描き始める。彼女の動きはとてもゆっくりだが正確で、魔法のように記されていく。線と線が重なり合い、文字の形が作られていく。そんなことを思うと、陸上部のことが気になってしまった。陸上部では、リレーメンバーと駅伝メンバーが発表された。大して驚くことがなければ、妥当とも思うこともなかった。なんとなくで若林から聞いていた。駅伝の方は、おそらく負けてしまうだろう。すると、美桜が5文字目に入った。
【リレーメンバー】 【駅伝メンバー】
・菅山渉 3年生 ・若林宏太 3年生
・小笠康二 3年生 ・二宮新 3年生
・笹川賢太郎 3年生 ・藤井大輔 3年生
・赤木倫也 2年生 ・吉見海都 2年生
・駒野隆太 2年生 ・野中修平 1年生
・山笠瑠衣 1年生
陸上部のみんなは、どれだけ本気なのだろうか?野球部やサッカー部のみんなは"聖淮戦"にかけているといっても過言ではない。けど、陸上部のみんなはそんなことないんじゃないかと思っていた。どこまでいっても、部で勝つというより、自分の記録やタイムの方が大事だと思う。実際のところどうなのかはわからないけど。駅伝メンバーは、若林と二宮以外は、ほぼ戦力にならない。今年は、駅伝も出ないのかと思ったほどだ。なぜエントリーされたのかはわからない。小野、今宮は、短距離の選手だし、岩本にとっては、まだ入部2ヶ月という感じだ。そんなので勝てるはずがなかった。若林と二宮は、今日も淡々と走っていることだろう。陸上部のマネージャーになって、約2年。みんなには頑張ってほしいものの、どこかもどかしい気分になっていた。もしかしたら、心のどこかで本当だったら走れたのにというか想いがあったのかもしれないことに気がついたのだった。




