6月5日 PK戦
私は、陸上部の二宮や若林たちとサッカー部のPK戦を見ていた。さっきまで、こんな感じになるなんて想像すらできなかった。私が PK戦を知ったのは放課後だった。そして、PK戦の発端は、サッカー部の内部分裂だとか。問題児の宝来とサッカー部副キャプテンの唐沢がモメテしまったそうだ。今、サッカー部は、沢田、工藤、宝来が欠けており、なかなか大変だということは聞いていた。そんな中で、宝来に問題を起こされたら、そりゃあ困るだろうな。俺でも理解できる。
サッカー部のグラウンドには、野球部、ソフトボール部、バスケ部などたくさんの生徒がいたのだった。私が聞いた話だと、宝来と唐沢が二人でPK戦をするみたいだ。この勝負の行く末がどうなるのかわからないけど、私も気になっていた。たまたま、野球部の練習が自主練になっていたためか、いろんな生徒が見ているのがわかる。真波、颯希も遠くだが誰かといるのはわかっていた。今日の主役である宝来はというと、一人で、リフティングをしている。久しぶりに練習に来たのか、浮いている様にも感じる。そして、その宝来の対戦相手である唐沢は、真剣な表情そのものだった。上着を脱ぎ、足を鼓舞するように叩く。普段、唐沢とはあまり関わらないか、どんな性格かは知らない。いつもは明るいのか?それとも今日が普通なのか?神妙な面持ちでボールを持った。
審判の中沢は、唐沢と宝来の両者を呼び出した。
宝来は、リフティングをしながらゆっくり歩いてくる。そういえば、奴が見えないな。奴とは、サッカー部キャプテンの沢田亮二だった。何をしているのだろうか?もしかしたら、来ないのだろうか?私は、奥の方を見ながら、二人の様子を見守っていた。すると、中沢は全て説明し終えた様子で、コイントスを上げた。辰巳からボールを受け取った中沢は、そのまま動き出した。最初のキッカーは、唐沢。一方の宝来は、ゴールキーパーの手袋をはめていく。
中沢は、ボールをセットして、唐沢に任せた。中沢が離れるのを見て、もう一度セットしたボールをセットし直したのだった。すると、グラウン内に"ピピッー"と大きな笛が鳴り響いた。唐沢は、3.4歩ほど下がっていく。これは、助走だろうか?どれくらい助走をつけるのが普通か知らない。いつも騒がしいグラウンドと同じとは到底思えない。私の隣にいた二宮と若林は、どっちが勝つか予想している声が聞こえたのだった。




