5月20日 バッティング手袋
昨日、蒼大が言っていたことがあまり信じられず雄大の足を止めた。
雄大「お姉ちゃん、この手袋洗える?」
手渡されたのは穴が空いていた。
私 「あー、バッティング手袋ね。これ臭そうね」
雄大「いや、臭いね」
野球のバットのグリップの匂いがする。
私 「洗濯回したらなんとかなると思うからやっとくよ」
雄大「ありがとう」
雄大は、口にこそ出さないけど、いつも私のことを思って生活をしてくれている。一見自分勝手にも見えるけど、そこには優しさが散りばめられていた。
私 「蒼大は、何してるの?」
雄大「まだ、バット振ってるよ」
私 「まだ、振ってるの?戻って風呂入りなさいって言ってきて」
もう22時。いつまで振るんだろうか?絶対、こんな男と付き合いたくない。
雄大「えー。めんどくさいよ。俺、早く漫画読みたいし」
私 「いいでしょ」
雄大「もうー」
窓から、外にいる蒼大の姿を探しているみたいだった。
私 「それより、八代北って大会勝てそうなの?」
雄大「まぁ、蒼大いればある程度いけると思うよ」
野球って、そんな一人でやれるスポーツだっけな?
私 「毎回思うんだけど、蒼大ってそんなに上手いの?」
雄大「上手いね。あれは」
やっぱりそうなんだ。それでも信じがたかった。
私 「アンタも小学生の時MVPでしょ?」
雄大「俺なんて全然だよ。蒼大の足元にも及ばないよ」
私 「ホント?」
雄大は、ああいうけど、私はそう思わない。雄大が小6の時に行われた大会を見たけど、あの日グラウンドにいた誰よりも輝いていた。そして、誰よりも結果を残していた。今は、蒼大がすごいかもしれないけど、同じ年齢になった時、同じレベルまできていてもおかしくないと勝手に思っていた。
雄大「なんか俺なんか霞むくらいだよ。蒼大といたら」
私 「年齢もあるんじゃない?」
俯く雄大をフォローした。
雄大「まぁ、今はそれで言い訳できるけど、中3なったらそんなの絶対無理だろって思うよ」
意外と雄大は、現実を理解している。蒼大と比べるとビッグマウスっぽいが、彼は彼で何かを学んでいるのかもしれないなと思えた。
私 「そっかぁ」
雄大「でも、俺天才だから。ハハハハ」
楽観的なのか強がっているのかはわからない。それでも、雄大みたいな強さは、今の私に最も必要なのかもしれない。




