5月16日 準備
今日の寝起きは最悪だった。普段だったら見ない夢だっただろう。私は、あくびをしながら鏡に映る自分を見つめた。いつも傍にいてくれたお母さんがいなくなってから、毎日の生活が変わってしまった。当たり前と言えば当たり前なので、あえて語るということはしない。
私には、お父さんも蒼大も雄大もいる。失ったものにいくら目を向けてもそこにはないのだ。私は、暗くて、とても寂しい気持ちを胸の中に抑えて、いつものように明るく振る舞うことに決めていた。お母さんが亡くなってからは、朝起きると、いつも母が作ってくれた朝食を作ることにしていた。
お母さんのマネはできない。それでも、少しでもお母さんがいた頃と変わらない毎日を送るために。お母さんは私の一番の理解者であり、味方だった。聞いてもらえないようなことも、お母さんが耳を傾けてくれたから、乗り越えることができたということが何度もあったのだ。話をすることで、不安や心配は減っていく。私の夢や目標がはっきりと見えるようになっていたことが最近わかったのだ。
しかし、今では、私の話を聞いてくれる人はいなくなっていた。それは、BIG3の真波や颯希でも無理だった。それは、二人がその話せないということではなく、同じ境遇じゃない人に対して悲しみを増やしたくないから、話を打ち明けることができずにいた。
お母さんがいたからこそ、自信が持てた自分がいたというのはどれだけ当たっているのだろうか?最近、お父さんによく言われる。「七海は、自信もちだ」と。自分では意識したことがなかった。昔から、母が蒼大に「強い子だから大丈夫」と言っていたのを覚えている。たしかに、野球を始めた頃の蒼大は、本当に気持ちが弱かった。それが、今では、あれだけの青物になっているのだから、お母さんの功績は、デカいのかもしれないな。
私は、リビングの奥にある部屋に入って、お母さんの遺影に手を合わせた。そこには、もう、戻ってくることのないお母さんの満面の笑みが浮かべられていた。手を合わせてるこの瞬間、私の心が満たされる瞬間だった。部屋を出て、キッチンに向かった。弟とお父さんの弁当を作るために、冷蔵庫をのぞいた。
お母さんがいたことが、いまだに信じられない。ほんとうに、亡くなってしまったのだろうか?と。もしかして、今は、違うところにいるんじゃないかと何度も考えていた。そんな淡い期待は、すぐに崩れてしまったのだけども。




