5月8日 篠木雄大
体温計を見ると、38.6℃。これは、高熱だ。体温計を置いて、氷嚢を頭に載せた。私は、電気を消して、部屋の外へと出て行った。昨日から、ずっとしんどかったのだろうか?二人は、15時過ぎに家に帰ってきた気がする。
そこから、ひと息ついて17時頃に、近所の公園でピッチング練習に行ったところまでは覚えていた。その頃は、まったくしんどそうには見えなかっただけに、今日の雄大の体調不良には驚いた。
昨日に続き、今日は、蒼大のチームが2回戦を戦っていた。しかし、私は、雄大の状況見て、とてもじゃないけど応援に行くことができていなかった。蒼大は、「大丈夫」と一言だけ言って家を出発して行った。本当にこれでよかったのかはわからないけど、今日だけは雄大のそばにいることに決めた。
蒼大は、今日も勝てると意気込んでいた。それも、そのはず。今日は、蒼大が先発ピッチャーとして投げるから。レギュラーの自信なのか、ただの強がりなのか。私にはわからない。それでも、昨日の試合だけ見てると、準決勝くらいまであんまり心配する必要がないと思っていた。
蒼大が言うには、春季大会は負けても次の夏があるからそんになに気にしないらしい。たしかにそうだと思う。結局は、夏の大会で負けたら意味がないし、そこで勝てたら春の大会はどっちでもいいと思う。そのくらいの温度感なのだろう。
私は、勝つと信じて台所でおかゆを作り始めた。おかゆなんて久しぶりだな。鍋をコンロに置いた時に思った。たしか、前回作ったのは、4年前だっけな。あの時は、蒼大が39.4℃と高熱が続き、一日中何も食べられない日があった。そこで、作って食べさせた記憶があった。
あの日、以来だと思うとどこか懐かしく思う。私は、スマホをとりだし、おかゆの作り方を検索していた。4年前は、まだ料理が全然できなかったけど、今は、あの頃とは全くと言っていいほど違う。
一番シンプルなものの方がいいと思い、卵とネギを使ったおかゆを作ることにした。冷蔵庫から、卵、ネギ、味噌などを取り出した。水道水で手を洗い調理を始めた。あの頃の蒼大は、まだ静かな性格だった気がする。中学校に入ってから、性格も大きく変わった。みんなで何かをすることに楽しさを覚えたみたいだ。
包丁で切ったネギを皿に移し替えた。蒼大とは対照的に、雄大は、昔から変わらない。ずっとあの性格なままだ。真っ直ぐに突き進むあの感じはこれからも変わらないでほしいと思っていた。




