5月6日 大会前
GWも折り返しを迎えていた。宿題ももう少しで終わる。計画通りに進んでいる。今日からは、何も予定を立てていないし、何をするかも決めていない。朝食を食べながら決めようと思っていた。1階に降りると、既に長男の蒼大が何やらバットを持っていた。
私 「ちょっと!」
慌てて、声をかけた。蒼大は、鏡を見ながら、バットを肩の上に置いていた。
私 「こんなところでバット振らないでよ。壊れたらどうするのよ!!」
私の声に気付き、後ろを振り返った。
蒼大「あっ、ごめん。ごめん」
私 「バット振るんだったら、外行ってきなさいよ」
こんな朝からバット振るなんて信じられない。
蒼大「いいだろ、別に。誰もいないんだから」
至って冷静だったのは、蒼大の方だった。
私 「そういう問題じゃないから」
蒼大「まぁ、明日の試合で打つから見といてよ」
そうか。明日は、春季県大会初戦か。たしか、高田南中学校とだった気がする。
私 「投げないの?」
蒼大「うーん、どうだろ。初戦は投げないかな」
どうやら、ピッチャーをすることはないみたいだった。
私 「誰が投げるの?」
蒼大「えーっとね。山城」
山城くん、、、、。あんまり知らないな。
私 「そんな子いたの?」
蒼大「いるよ。ずっとエースだし」
ずっとエースなんだ。内心、驚いていた。
私 「えっ、エースってあの背が高い子じゃないの?」
蒼大「それは、細見でしょ?」
細見って、たしか、兄弟がいたはず。同じクラスではないけど、いた気がした。
私 「うーん。わかんないけど」
考えたが、言葉にすることはなかった。
蒼大「今日が、大会前最後だからね」
私 「気合い、入ってるじゃん」
バットを見ながら蒼大は答えた。
蒼大「当たり前だよ。明日は、1本は絶対ホームラン打つから」
ホームランなんてそう簡単に打てるものではないだろ。それを簡単に言うなんて、さすが我が弟だ。
私 「それは楽しみだ。応援に行かないと」
蒼大「別に、無理してこなくてもいいのに」
私 「お父さんの命令だから」
これは、嘘偽りない。本当のことだ。お父さんは、仕事で忙しい分、私が面倒を見てあげてほしいと言われていた。
蒼大「なんだよ、それ」
私 「楽しみにしてるよ」
蒼大は、楽しそうにバットを持ち、玄関へと向かったのだった。




