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4月30日 ずっと笑いなさい

 今日は、いつもとは違う起床だった。普段と異なり、どこかいろいろなことを考えてしまう朝だった。弟の雄大を野球の練習に送り出した後、父と私で祖母の家を目指した。蒼大は、昨日から合宿に参加中で頑張っている様子だ。

 祖母の家に着くなり、父が祖母は話を始めていた。私は、家の中に入っていた、線香を持って、家を出た。祖母の家から約30メートル先にある階段を登り、森の中に入って行く。

 春の陽気に照らされた私は、シャツについていた虫を取っ払った。弟2人からお願いされたこの謎の箱を片手に持った。すぐ近くに、目的地はあった。ここに来るのも、もう慣れてしまったのかもしれない。本当は、よくないのかもしれないけど、自然と悲しい気持ちもなくなっていた。私は、線香と箱を置いて、花を持ったまま、立ち尽くしていた。

 あれだけ、弟が立派に生きているのだから、母がやってきたことは間違っていなかったと証明できる。そう思うようになったのも最近のことではある。母が亡くなってから、私は、泣くことがなくなった。あんなに悲しかったことは、これからの人生でもないと思う。

 だからこそ、死に対する恐怖は減り、毎日この一瞬を大切にしようと思ったのだ。墓の前で手を合わせて、目をつぶった。どうしても、ここに来ると、母から言われたいろんな言葉を思い出す。"大丈夫"、"諦めない"、"心配しない"。どれも、幼き日々に私が言われた言葉だった。その中でも、最も大事にしている言葉があった。

 "ずっと笑いなさい"。これは、小学6年生の運動会で言われた言葉だ。当時、リレーをしていたが、練習でコケてしまいチームが最下位になったことがあった。そのまま泣いて帰った時、母は優しく呟いてくれた。

 6年生の時は、なんとも思わなかったが、今となれば、優しくて思いやりのある言葉であることに気がついた。それから、幾度となく思い出して自分を奮い立たせた。その言葉を最も言い聞かせたのが、中学校3年生の陸上競技会だった。

 怪我をして病院に運ばれて、もう走らないと医者から告げられた時、絶望と不安で、自分の中にある全てのものがシャットダウンしてしまった。そんな時、母から言われた言葉を思い出すと、勇気が湧いた。一歩前に踏み出せた。あの日の思いを忘れなければ、これからもみんなと一緒にやっていけると考えていた。

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