逮捕代理
奇妙な世界へ……………
俺は八木航平。馬鹿な事をしてしまったダメ男だ。
俺には金が無かった。昔から遊んでばかりでいて、大学生の頃、金遣いの荒い俺を親父は俺を勘当した。
今ではボロアパートに住む馬鹿な無職だ。
しかし、こんな俺にも優しくしてくれる奴もいた。
そいつの名は新井寛。このボロアパートの隣の家に住む資産家の爺さんだ。
新井は俺がここに来たばかりの時に会った男で、腹がへった見ず知らずの俺を助けてくれた男だ。
新井は優しく、食糧難の俺に色んな食べ物を恵んでくれた事もあり、ガスや電気を消された時は、大家さんに金を渡し、ガスや電気を戻してくれた事もあった。
なぜ資産家なのかと言うと、この間、新井は俺を家に入れてくれたのだ。どうやら新井は妻に先立たれ、一人娘は結婚を理由に外国に行ってしまい、今は1人なのだ。そして、自分が死んだ時の保険金を俺に渡したいんだとか。
その額は1000億。俺が扱いに困る量だ。勿論、俺はこの話に断る事は無く、俺は直ぐに新井に保険を掛けた。
しかし、問題はここからだった。新井は意外と長生きだった。俺は直ぐに新井の金が欲しかったのだ。
そして、俺はこんな事を考え出した。それは新井の殺害計画。恩を仇で返す様だが、仕方ない。計画の内容は、『①覆面を掛け、手に使い捨て手袋を付け、包丁を持った俺が深夜に新井に渡された合鍵で侵入。②悲鳴をあげさせられないように、ガムテープで口を封じる。③新井を殺す。④家に戻り、血がついた包丁と使い捨て手袋を洗い、手袋を捨てる』これが計画の内容だ。
そして、某日、深夜、俺は新井家に侵入した。寝室に入ると、そこには新井がスヤスヤと幸せそうに眠っていた。俺はガムテープで新井の口を塞ぐと、新井の頸動脈を切ってやった。
俺は直ぐに新井家を出て、アパートに戻った。俺は念には念を入れ、包丁と手袋を洗剤で洗い、手袋を捨てた。
次の日の朝、俺は小鳥のさえずりで……………ではなく、パトカーのサイレンやら救急車のサイレンやらで目覚めた。
「何だ、何だ!」
俺は外に出ると、新井家の前には野次馬が集まっていた。(先に断っておくが、この事件の犯人は俺だ。)
俺は野次馬の1人に事件の事を聞こうとした。
「一体何が起こったんですか?」
「さぁ、警察の話ではこの家の爺さんが殺されたんだってよ」
「はぁ…」
俺は家に戻ると、何故か笑みを浮かべた。理由は分からないが、何故か笑っていた。
次の日、俺は通帳を見ると、確かに『100000000000』とあった。そして、俺は1つの事を思った。それは犯人の事だ。
通常、老人が頸動脈何て切れるはずが無い。たとえ事故だとしても、新井はボケていない老人。事故も防いでいる筈だ。という事は1番仲が親したかった且つ、保険金を貰った俺が1番怪しまれる。俺はその事を考えると体が震えてきた。
俺は新井から貰ったパソコンで試しに『逮捕 代理』や『代わりに捕まってくれる』等と検索をした。そして、俺はあるホームページに辿り着いた。
それは『逮捕代理』。
俺は直ぐに逮捕を変わってもらう依頼をしようと思ったが、どうやら沢山の質問があるらしい。
『質問1 あなたの罪状はなんですか?(複数可)』
俺はこれに住居侵入罪や殺人罪、銃刀法違反等と選んだ。
『質問2 あなたの罪の理由は?(複数可)』
俺は『金を貰うため』と書いた。
『質問3 凶器は何を使ったか?下に書いてください』
俺は『包丁・ガムテープ』と書いた。
『質問4 殺した人はあなたの身内ですか?はいかいいえかで答えてください』
俺はいいえと答えた。
『質問5 金はいくら貰いましたか?下に書いてください』
俺は『1000億』と書いた。
『質問ありがとうございました。逮捕には数日かかりますのでお待ち下さい』
俺はこの文面を見たとき満面の笑みを浮かべた。
それから数日立っても、あの時の事件の犯人が捕まった事がまだ報道され無かった。
(全く、警察の奴らは何やってんだろうねぇ…クククッ…まぁ…犯人は俺だけどさ…にしても、あの逮捕代理の人達も仕事が遅い事だ。まぁ…数日かかるって書かれていたし…これぐらいの事はしょうがないな)
それから、数日、数週間、数ヶ月、数年経っても、あの事件の犯人が捕まった報道はされ無かった。
(オイオイ!いつになったら捕まってくれるんだ!数年経っても、捕まってくれないじゃないか!全く、頼むんじゃなかった!)
それからまた数日経ったある日、家のチャイムが鳴った。
「はい…」
扉を開けると、そこには黒スーツを着た男がそこに立っていた。
「どうも、警察署の和田京太郎と申します。八木さん。署までご同行願いたい」
「は?」
俺は仕方なく取り調べを受ける事になった。
「貴方は、加松町に住む、新井寛さんを殺しましたか?」
「えっ?」
俺は冷や汗をかいた。
「おやおや、汗をかいてますねぇ…じゃあ、別の質問に変えましょうか。では、貴方は凶器に包丁を使いましたか?」
「は、はぁ?ちょっと待てよ刑事さん!俺はまず新井は殺しては無いし、そもそも凶器も使わない。それは何故か!そもそも殺ってないんだよ!」
「ほほう。貴方は事実無根を押し通しますか…………では最後の質問です。貴方は……………『逮捕代理』というサイトを使いましたか?」
「へっ?」
俺は体が震えていた。
「真実を話してください。早く話さないと、此処から出られませんよ」
「わ、分かりました…全て話します…」
俺は和田に新井を殺したことと、逮捕代理のサイトを使った事を全て話した。
「ほほう、これが全てですか」
「はい。そうです…」
「では私に付いてきてください」
「は、はい…」
俺は和田に付いていった。すると、和田は警察署を出て、パトカーに乗った。無論、俺もパトカーに乗った。そして、パトカーは走り出した。
「あの…」
「何ですか?」
「どこに着くんですか?」
「ん?まぁ…着けばわかります」
和田は一切話そうとしなかった。
それから数分後、パトカーが遂に止まった。
「降りろ」
俺は和田にそう言われるがままにパトカーを降りた。パトカーを降りると、そこには見知らぬ建物が建っていた。
「ここは?」
「拘置所だ」
「えっ?な、何故ここに?」
「今からお前を死刑にするからだ」
「ちょっ、ちょっと待て!普通、こう言うのって、裁判をやってからじゃ無いのか?」
「フフフ、付いてこい」
「い、嫌だ!俺はまだ死にたくない!」
「そうか。じゃあ、無理矢理にでも連れていくしかないな」
すると、和田は指を鳴らした。すると、拘置所の前にいた2人の警備員が俺を抑えた。
「お、おい!離せ!」
「連れてゆけ」
「はい」
俺は警備員に掴まれたまま、留置所に入った。そして、教誨室も通さず、前室に連れて行かれた。刑務官が扉を開けると、そこには首吊り用のロープがセットされていた。
俺はロープの前に立つと、扉の前には和田が立っていた。
「フフフ、どうだい?気持ちは?」
俺は皮肉げに和田に笑い返してやった。
「あぁ、肝が冷える様な気持ちだよ。おい!何故こんな事をする!」
「フン、じゃあ冥土の土産に教えてやるよ。まず、あの逮捕代理というホームページは国が管理するホームページだ」
「な、何故、国がそんなホームページを管理する必要があるんだよ!」
「それはな、お前の様な捕まりたくない奴を捕まえる為。要はトラップだ……………まぁ、これは建前で、本音はお上の人の娯楽の一種だ」
「は、はぁ?」
「それは、ただ単にお上の人が、お前の様な奴が死ぬ瞬間を見たいから、こうしてるだけだ」
「……」
俺は怖く感じ、唾を飲んだ。
「ほら、あの角に監視カメラがあるだろう?」
俺は和田が指差した方向に目を向けると、確かに監視カメラがあった。
「あぁ、お前が殺した新井さんも、この瞬間を見たい人の1人だったな……」
「へっ?」
俺はそんな言葉しか出なかった。
「後、裁判をやらないのは、単に面倒くさいだけだ」
「な、何?」
「もしも、裁判をやって、普通の有罪だったら、この事を世間に言うだろうからね。そうしてるらしい」
「うぅ………」
俺は頭の中が混乱してきた。そして、俺は気になった事を和田に言い放った。
「おい!」
「何だ?」
「な、何故、こんな事を話してやがる…」
「あぁ…これもまた一興らしい。そうお上が言ってたよ」
「……………」
「じゃあ、またね。まぁ、来世で会うと思うけど」
「おい!待てよ!嫌だよ!死にたくねぇよ!やだ!やだ!やだ!やだ!」
すると、和田が般若の目でこちらを睨み、こう言った。
「新井さんも死にたくないって思っただろうね。このゲス野郎」
そして、和田はここを去った。
「やだ!助けて!助けてくれ!死にたくねぇ!やだ、やだ、やだァァァァァァァァァァ…………」
俺の叫びも虚しく、執行ボタンは押された。
読んでいただきありがとうございました……………