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1話

「ああっ、くそっ!なんて日だ!援軍!援軍はまだか!」 

 銃砲撃から身を守るために掘った塹壕の上からは銃弾が飛んでいる。

しかし、こちらからの発砲音は聞こえない。

「もう誰もいねえのかよ!ここが崩れたら敵がなだれ込んで終わりだぞ!」 

敵軍が新たに開発した連射できるスナイパーライフルの「キーン」という高音のリロード音が聞こえた。

 連射するスナイパーライフルと言えば聞こえはいいが、リロード時に音が聞こえる知ったとき、

俺はわざわざ無防備な自分の位置を知らせるなんてと思ったが、数を揃え、

リロード時のスキをカバーするほどの物量で銃撃されれば欠点など無いに等しい。

それからは前線は崩壊。だが、それだけの物量を用意し続けることは不可能だと上層部は判断し、そのまま

の戦力で戦いは継続された。

しかし、ここを落とせば戦争の終結が決まる。敵が全戦力を投入することは明白だった。

しだいに音は大きくなってきている。

「くそっ、こんな所で死にたくねえ!撮影係だから生きて帰れると思ったのに畜生!」

徴兵の手紙が届いたとき、俺はとことん絶望した。ジャーナリストとして新聞社に入社して一年、ようやく慣れてきたと思っていた。

そんな中でも希望はある。新聞社に勤めていたということから、戦況を録画し、プロパカンダ映画の映像を録画する役割を与えられた。

持ち運ぶ武器は少ないし、精密な撮影機材を運ぶからと色々と優遇された。わが軍が圧倒する場面を撮影しなければ意味がない。

比較的安全な戦場に飛ばされるだろう。そう思っていた。

「人生うまくいかないもんだなぁ」


ブロロロロロロと戦闘機の音が聞こえる。

「こんなところにまで飛行機が来ちゃあ、もう終わりだよなあ……っておいおいおい」

 背後を見ると人影がぽつりと立っている。よく見ると鉄棒を一本持っていた。

「お前!死にたいのか!逃げろ!!にげろろろろろ!」

人影は鉄棒を構え、狙いを構えていた。

「ああ、ダメだ……おかしくなってる」

海の向こうの同盟国では飛んでくる飛行機を槍で落とそうとしていると聞いたときはバカにしたが、

こういう事だったんだなと理解できた。

しかし、槍投げの要領で投げられた鉄棒は遥か上空に飛んで行き、飛行機は撃墜された。

「は?」

遠く、墜落して敵軍のど真ん中に落ちたらしく、銃撃が止んだ。

遠くに見えた人影が走ってやってくる。

弾丸が飛び交う戦場のど真ん中、目の前には5メートルに届きそうなフルフェイスマスクの巨人が鎧を着て立っていた。

「お前、撮影係だろ。撮影はどうした?」

マスクからこもった声が聞こえる。低く、肉食獣のように語りかけてきた。


「ひぃ」

慌てて、撮影機材を回し、撮影をおこなう。

そこには巨人が敵軍を圧倒していた。

人の身体にも関わらず、対人地雷などでは怯まず、突き進み、素手で戦車を引き倒し、鉄の装甲を紙の如く引き裂いていた。

「す、すげえ……こ、これなら勝てる!勝てるぞう!」

敵軍が小銃で応戦しているが鎧を貫通することはなく、巨人は武器も無しに肉体のみで蹂躙していく。

次第に銃声よりも悲鳴の声の方が大きくなっていった。

「一人で全部殺しちまった……もしや、これが噂の秘密兵器の正体か?」

ぐぎゅるるるるうるるるるるる!!!

どこからか音が聞こえる。それはまるで徴兵前、配給が足りなかった時のすきっ腹の声のような音だった。

「ハラヘッタ……」

「え?」

巨人はマスクを外すと近場にあった死体を引きちぎり、腕と足をしゃぶるように食べ、腹にかぶりつき、内臓は避けて、

器用にバラ肉だけを食べていた。

身体のどこにそれだけの肉が入るのか十数人の死体を食べ終わるとチラリをこちらを見た。

「ひぃっ」

知らず知らず汗が目に入り、しみて目をつぶってしまった。

どすんどすんと足音が近づく、身体が軽くなる。

「お、俺は味方だ!敵じゃあない!」

鉄の匂いが鼻をくすぐる。

「やめてくれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」





撮影カメラのレンズが赤く塗れるのを俺は冷や汗をかきながら映像を見ている。

この研究発表会に持参する録画映像を確認していなかったのは俺の落ち度だ。

しかし、研究資料をまとめられるのは俺だけ、忙しいので助手に前の実験の観察映像の事を聞いたら。

「最高傑作がまたできましたのじゃ。実験体は戦車を持ち上げ、戦闘機を打ち落とし、くっそ重いチタン合金の鎧も軽々着て

敵兵もキッタキタのメッタメタにしましたのじゃ。懸念点だった消費カロリーの過剰消費も実験体がその場で解決しましたのじゃ!

さすがお師匠様は天才じゃ!我らが超人決死隊は最強なのじゃあああああああ!」

と、自身満々で答えていたし、上からブラック企業真っ青のスケジュールで実験体の発表を総督にしてくれと頼まれていたので

そのまま映像を軍のお偉いさんたちに発表したのだ。

真っ青でなんて発表を続けようか迷っていると、隣で頭から蜘蛛の身体を乗せた見た目は幼女、中身は老婆な

実験ナンバー3、個人名ミシェア・フローレンス。通称ゾンビメーカーが笑顔で興奮している。

「見て驚け、聞いて喚け!これこそ実験ナンバー6コードネーム!タイタンっ!そのまま人食い巨人という事ですじゃああああ!」

奇声に近い言葉で小っちゃい背と胸を張り、可愛らしい顔をニタニタとさせ絶頂顔を晒している。

 研究部は軍部ほど上下関係に厳しく言われていないし、俺も幼女も天才扱いされてマナーとか色々黙認されているが、

初老の男たちに某忍者ゲームみたいなアヘ顔を晒すのはマナーとか常識とかを置いておいても、止めた方がいいんじゃないかなあ

と心のなかで思っていても声が出なし、というかここの大人たちは一声で何千人もの命をもてあそぶ恐怖の上官たち。

変な事を言ってしまうと簡単に殺される可能性があるのだ。

「おっと、失礼。少々年甲斐もなく、興奮してしまいましたのじゃ、失礼」

(こいつ地雷原でダンスってやがる……)

映像を切り替え、変身前の実験体の姿を移し替える。

「これは実験体ナンバー6の変身前、名前はスティーブン・スコッチ。身長は130cm体重は28キロと貧弱マッチ棒なのじゃ。

しかし我が師匠が電気やら薬品やらでバババっとやるとぉ!」

カシャっとウキウキ声でゾンビメーカーは映像を切り替える。

「じゃじゃーん!身長5メートル体重350キロのムキムキマッチョマンに!映像をご覧になった通り、

戦車を引き裂き、戦闘機を叩き落とすスーパーな男になりますのじゃ!ちなみに下の方も大きくなるのかは秘密ですじゃあ♡」

(本当にこいつは……)

「しかし、超人的筋力を維持するためには、それ相応のカロリーが必要なのじゃが、

その解決方法として、特殊調理したカロリーバー、もしくは5人ほどの敵兵がいれば30分は活動可能!

最悪、その辺の味方も食えばいくらでも戦えるのじゃああああああああ!アヘッ!」

マヌケのような声を上げて、幼女は立ったまま気絶してしまった。

いや、幼女というのは外見、肉体年齢だけである。

彼女は実験によって若い肉体を得たとしても中身は80近い老婆、過剰な興奮は精神年齢にぴっぱられて、肉体にも影響を与えてしまう。

つまりは老人に高血圧はよくないのだ。

前世でもおばあちゃんは頻繁に血圧を測って、血圧を下げるジュースを飲んでいたのを思い出す。

「助手が高血圧で気絶してしまったようなので、続きは自分が説明します。

今回の実験目標は量産。平均以下の身体能力、体力検査ではじかれるような貧弱な国民であったとしても

徴兵できないかと考えたのがきっかけです。

個体の身体スペックは資料の5ページをご覧ください。これらの身体能力を持つ兵士がわずか農奴の平均月収ほどの金額で製造可能。

今までの実験体は偶発的な処置によって生産されたのに対し、今回は同じような個体を量産できると確信を得ています。

空腹による混乱の問題点は今回の実験体は筋力が想定以上に発達してしまったがために、持参したカロリーバーが足りなかった事が原因。

自由に超人化を解除することが可能ですし、実験を進めれば諸問題は解決できるかと……」

リリリリン

部屋に電話のベルが鳴る。会議室で一番偉い人、総督が手に取り、すぐに受話器を降ろした。

「博士、大変申し訳ないのだが実験は打ち切りだ。ちょうど今、報告があったのだが、空間転移装置が完成した。

これで超人を製造しなくても、兵士を自由に敵国に侵攻できる。1週間後までには荷物をまとめてくれ。今までの貢献、

ごくろうであった」



えっ……そんなそしたら俺は……





「なんじゃとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

ってお前がいうんかーい



部屋を後にし、自室に引きこもりビデオをまわす。

「俺の名前はジェームズ・キュリアン。前世はB級映画やゾンビモノ、ホラーゲームが好きな普通のサラリーマン。

過労によって死んだと思ったら、戦争真っ只中な異世界に転生、命が吹き飛ぶ世界大戦な国で悪の天才科学者をやっている。

だって異世界転生だもん。チートスキルはあるもんだよね。なんでこんな事が出来ちゃうのかわからないけど

人体実験したらみんなスーパーパワーを手に入れちゃうんだ。チートって最高だね。

この動画は一生隠すつもりだが、いつか誰かが見つけてくれることを祈る。

私と実験体、いや超人決死隊、フローレンホープとは無関係だという事を……いや、俺は彼女らを止めようとしていた……

止めようとしていたんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


そこで俺は映像は止めた。



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