6話 デ・ルー騎士団の様子
登場人物紹介
シグス :デ・ルー騎士団団長
オズマ :副団長
ガナベル:副団長
ベニー :1番隊隊長
マルクトー:2番隊隊長
ドット :3番隊隊長
タワー :4番隊隊長
サンシャ:5番隊隊長
メイヤー:6番隊隊長
デ・ルー騎士団本部、夜。
二人の歩哨の脇を走り抜け、開け放たれている入口を通り、メイヤーが本部内に駆け込んできた。
そこには夜警当番の男数人と、メイヤーと同じ寮から脱出した男が二人いた。
彼らがメイヤーの姿を認めて声を掛けた。
「メイヤー隊長、ご無事でしたか。」
「ああ、寮の窓から忍び出るのは得意だからな。それより、何人やられた。」
「詳しいことはまだですが、第三騎士寮の2階は全滅、では、ないかと。」
メイヤーの問いに答えた声は最後は聞き取りにくい程に小さかった。
「くそっ!なんで、骸骨剣士がこんな所に出たんだ!」
「骸骨剣士!?見張りが錯乱して暴れていると聞きましたが。」
「違うぞ!誰だ、そんな事を言った奴は!魔物だ!骸骨剣士が、少なくとも一体が、寮に侵入している。見張りのオルガと他の数人が、そいつに魔物堕ちさせられたんだ!急いで団長に知らせろ!おい、そこの!寮の連中を叩き起こして、全員に武装させろ!」
周囲にいた騎士たちに矢継ぎ早に指示を出し、自らも剣を手にしたメイヤーは第三騎士寮に戻るべく本部から駆け出す。
彼の後ろには6人の騎士が従っている。
だが、彼らが寮の入口に着いた時には、すでに骸骨剣士の姿は無く、庭に死体が並んで横たわっていた。
その中に、アルベルの死体があった。
そして、今夜の見張り当番のオルガ達6人の死体も並んで横たわっていた。
◇
デ・ルー騎士団本部、早朝。
騎士団長シグスは執務机に座り、副団長オズマから報告を受けている。
「つまり、見張りの連中は死体となって操られていたのか。」
「そのようです。シグス団長。」
「で、その骸骨剣士は見つからんのか?」
「はっ。ドット隊長が北門が開いているのを発見しました。地面には血痕があり、扉番の姿が無い事から、ここから逃亡したものと思われます。」
「北門か。」
「はい。その先の森には北の墓所があります。」
「わかった。ルー伯爵に報告に行く。オズマ、付き合え。」
「はっ!」
◇
デ・ルーの街、神殿。
「騎士様たちのご遺体はこちらに安置しております。ガナベル副団長。」
「ありがとう。ライファノン神官。」
騎士団のもう一人の副団長、ガナベル副団長は、床に敷かれた白布の上に寝かされた騎士たちを一人づつ、名前を呼びながら確認していった。
「アルベル。」
それは、彼の甥の顔だった。
そして、隣に横たわる男の顔。
「サイクス。」
騒動を起こした昨夜の見張り番の顔を見て、ガナベル副団長の体に力が漲る。
「彼も被害者です。ガナベル副団長。」
「ライファノン神官。」
ガナベル副団長は後ろに控えるライファノン神官を振り返り見た。
「なんでも、昨夜は骸骨剣士が目撃されたとか。ですが、骸骨剣士には死体を"歩く屍人"として操ることはできません。恐らく近くに"屍人操者"がいたのでしょう。」
「そうか。」
一言返すと、ガナベル副団長は騎士の確認に戻った。
ライファノン神官はその姿を見守った。
ガナベル副団長が去ると、入れ替わりに1番隊隊長ベニーと2番隊隊長マルクトーがライファノン神官を訪ねてきた。
◇
北の墓所、入口部屋。
デ・ルー騎士団の騎士たちと共にライファノン神官の姿がある。
「骸骨剣士がこの中にいるのは間違いないな。見ろ。」
「木の葉か。濡れている?」
「そうだ。付着している土も湿っている。つまり、昨夜誰かが足にこれを着けたまま、この墓所に入ったって事だ。」
「さすが。読み通りだな、ベニー。」
「だが、どうするよ、ベニー。この中の通路は狭い。骸骨剣士と一対一でやる事になるぞ。」
「だから隊長6人が揃ってんだろ。タワー。」
「違うな、メイヤー。誰が先頭取るかって話だ。一番隊隊長には殿で指揮してもらわないとな。」
ベニー隊長が他の隊長達の顔を見回し注意を促す。
「潜るのは12番通路までだ、タワー。その先は空気が悪いし、古すぎて通路が潰れるぞ。2人一組、俺とマルクトー、ドットとタワー、サンシャとメイヤーだ。手前の18番通路から順に見ていく。12番通路を確認したら、戻りながら通路に聖水を使う。いいな。」
「りょーかい。」
「では、お前達はここでライファノン神官をお守りしろ。」
「了解です。ベニー隊長。」
6人の隊長達は地下の墓所へ続く階段を降りていく。
入口部屋にはライファノン神官と、彼を守る騎士8名が残った。
「御武運を。」
ライファノン神官が祈りの言葉をつぶやいた。
チュウ。
その祈りの言葉に答えるように鼠が鳴き、階段の下へと姿を消した。
◇
ランプを手に、地下通路を進む。
"これだけ狭い通路だと、剣を振る時も気を付けなくてはならん。それに、左手にはランプを持っている。俺の盾は上に置いてきた。後ろにいるドットが盾を持っている。だからベニーは二人一組にしたんだ。状況としては不利だな。だからこそ、戦闘意欲は上がる。こういう状況だからこそ、日頃の訓練の成果が試されるのだ。"
4番隊隊長のタワーは逸る気持ちを抑えつつ、冷静に闇を見、気配を探り、慎重に通路を進んだ。
◇
"不利な状況だ。暗く、狭く、脱出経路は1箇所しかない。相手の骸骨剣士の数も不明だし、ライファノン神官の言葉から屍人操者の存在も予想される。もしも、ここに安置されている亡骸が、全て起きてきたら。教会から渡された聖水は一人一瓶だ。これでは足りない。無茶な作戦だ。"
1番隊隊長ベニーはこの作戦に反対だった。
しかし、行かねばならなかった。
誇りある騎士団が襲われたままでは、その威信が揺らぐ。
それは、あってはならない事だ。
そして、彼らはこの危険な場所に部下を遣る事が出来なかった。
だから隊長6人が集まったのだ。
失敗は許されない。
■■■
地下通路の奥。
チュウ。
屍鼠が戻ってきた。
人間共が、この地下墓地への侵入を開始したのだ。
人数は6人。
これだけでも、16人で2時間掛けて鼠を捕えた甲斐があるという物だ。
「吸魂」「授魂」が使えるのは俺だけだ。
下僕が倒した相手を「吸魂」するには、なるべく早く実行しなくてはならない。
時間が経つと魂は"幽界の門"をくぐり神霊界へと旅立つ。
肉体の死から10分が目安だ。
生け捕りはとても困難な作業だった。
よし、奴らを迎え討とう。