5話 騎士団寮廊下
寮内に入ると、寝ていると思っていた宿直当番の男二人が起きていた。
「サイクス。声が聞こえたが、何か・・・。」
「お前、その血は!」
サイクスの皮鎧は胸に穴が開いているぐらいだが、オルガは首から滴る血が上半身を赤く染めている。
血塗れの姿に驚いた隙に、サイクスとオルガの剣が二人の男の胸を突く。
「ぐぅ。」
うめき声を上げて倒れる二人。
「吸魂」
「授魂」
さらに宿直室で就寝中の二人を加えて、6人の下僕を入手した。
順調だ。
では、2階、そして3階の部屋を攻略しよう。
◇
侵略は静かに、確実に、進んで行く。
騎士団の寮ではあるが、それぞれの部屋には剣などの装備は持ち込んでいない。
あっても短剣ぐらいだ。
そして、多くの騎士が昼間の疲れで、深い眠りに就いている。
攻撃はサイクスら6人の下僕に任せ、俺は「吸魂」を使い魂を集めていく。
「血の匂いがしたから来て見れば、オルガ!てめぇ、魔物に堕ちたか!」
廊下の先で声が響いた。
どうやら3階の人間が様子を見に階段を降りてきたようだ。
3階から足音と声が響く。
「起きろ!」
「魔物だ!」
「何だと!」
「逃げるぞ!」
部屋の窓から逃亡を試みるようだな。
すでにサイクスとオルガの二人は3階で逃げ遅れた者に切り掛かっている。
俺は、まだ階段にいた4人の下僕を外の庭に出し、逃亡を阻止するように指示した。
俺は3階に向かう。
廊下に3人の死体があったので「吸魂」しておく。
サイクスとオルガは3階の廊下の先で攻めあぐんでいた。
どうやら部屋のベッド数台を廊下に出し、バリケードを築いた様だ。
バリケードは2人の男が支え、他の者が逃げ出す時間を稼いでいる。
ここは、俺が突破口を開こう。
「サイクス、オルガ、避けるのだ。」
下僕の二人を左右に避け、盾を構えた俺は、廊下を走り、そのままバリケードのベッドに激突する。
バキッ、メキィ。
木板が割れて軋む音がするが、破壊には至らない。
俺は剣先を木の割れ目に挿し込み、力一杯振り下ろした。
メキベキィ。
割れ目が広がる。
サイクスとオルガも俺に倣って、木板の割れ目に剣を挿し込み、割れ目を広げる。
立て掛けているベッドの底板が割れていく。
その割れ目から、支えている男と目が合った。
「骸骨剣士!貴様が魔物か!
アルベル、お前も逃げろ!逃げて骸骨剣士の事を皆に伝えろ!」
「しかし。」
「命令だ!アルベル。」
「はっ!御武運を、メイヤー隊長。」
そんな会話がバリケードの向こうから聞こえてくるが、こちらはガシガシとベッドの底板の割れ目を広げていく。
バキィ!
やっと、ベッドの底板が割れた。
「ふっ、十分だ。」
割れた状況を見て、メイヤー隊長と呼ばれた男が廊下を奥へと走り出した。
サイクスとオルガもベッドを越えて追う。
俺はバリケード脇の2人の死体を確認したので、「吸魂」しておく。
どうやら、アルベルとメイヤー隊長は窓から飛び降りたようだ。
サイクスとオルガも後を追った。
俺の下僕となり、その身体が屍人となった二人は、飛び降りても大丈夫だろう。
俺は、この高さでは足の骨が砕けるな。
寮内に人が残っていない事を確認する。
そして、階段で一階まで降り、入口から外に出た。
入口前の庭内に6人の下僕が揃っている。
その足元には8人の死体が置かれている。
サイクスは右足が砕け、オルガも両足が砕けて座り込んでいる。
無事では無かったか。
まぁ、一日寝れば、元に戻るだろう。
「吸魂」
8人分の魂が、俺の左手に吸い込まれた。
これで31人分の魂のストックとなった。
アルベルの死体はあったが、ネイマー隊長には逃げられたな。
他にも逃げた者がいるようだ。
寮の周辺が騒がしくなった。
この街の騎士団の情報は吸魂した魂の記憶から読み取れる。
隣の建物も騎士団寮だが、その各部屋から明かりが見える。
我々を確認し、討伐の為に騎士団本部へ向い、装備を整え出てくるだろう。
騎士たちならば、この私と6人の下僕で対抗できるだろう。
だが、ネイマー隊長ら6人の隊長と2人の副団長と騎士団長。
彼らは厄介な存在だ。
この知識が事前にあったなら、隊長クラスを最初に狙うべきだったか。
さて、どうしたものか。
31人分の魂を死体に戻しても頭数が増えるだけで、武器が無い。
素手では、蹂躙されるだろう。
それに、屍人部隊を率いるのも、違う気がする。
やはり、俺が率いるのは、骸骨軍団だろう。
よし、今夜はこれで引き上げる。
俺は6人の下僕に仮眠を指示した。
燃やされたり、浄化される危険が迫るまでは、普通の死体として倒れていろ、と。
そうすれば、彼らもあの地下墓地に安置されるだろう。
庭に横たわる6人を確認し、俺は裏口のラムデスと合流した。
こちらに来た騎士はいなかったようだ。
ラムデスの案内で夜の街を走り、北門から森を通り抜け、元の地下墓地に戻った。
◇
地下墓地に戻った俺は、供えられている剣の回収をラムデスと共に行った。
その結果、錆が無いか、あっても使えそうな剣が14本あった。
サイクス達が使っていた6本の剣も回収するべきだったか。
回収した剣を地下墓地の奥の白骨体の寝所に持ち込み、14体に「授魂」した。
変色したり一部欠けている骨もあったが、それら小さな傷は修復し、骨は美しい白い輝きを取り戻した。
黒い眼窩に赤の瞳を持つ14人の骸骨騎士の誕生である。
騎士の魂だからな。骸骨剣士ではなく、骸骨騎士だ。
いつかは骸骨馬も手に入れたいものだ。
それに騎士団に採用された人間だけあって、この魂たちは武技を持っている。
戦力として大いに期待できる。
その後、ラムデスに外の様子を確認させるが、地下墓地出入口周辺の森は静かだ。
サイクスたちの魂も開放された気配が無い。
人間共がここにやって来るとしたら、朝を迎えてからだろう。
魔物は太陽の光の下では能力が半減してしまう。
だが、この地下墓地の闇の中は別だ。
俺たちは通路に隠れて、奴らが来るのを待つことにした。
チュウ。
通路の隅を鼠が走っていく。