2話 剣を拾う
土と石の通路を進む。
どうやら、ここは地下墓地のようだ。
通路の側壁には3段の窪みが作られ、そこに骸骨が横たわっている。
俺に手持ちの魂があれば、この骸骨達は俺の下僕になるが、残念な事に俺はまだ魂を持っていない。
俺は前方に向けて歩いてゆく。
微かな風を感じる。
きっと出口があるのだろう。
◇
いくつかの交差点を過ぎ、幾人かのゴーストとすれ違った。
この地下墓地は予想以上に広い。
ここに埋葬されている骸骨共を下僕にできれば、大軍団ができそうだ。
魂を集めなければ。
だが、虫や鼠の魂では役に立たない。
人が望ましい。
大型の獣でも良い。
待てよ。鼠の魂を鼠の死体に入れれば、鼠の魂でも十分に役立つか。
仲間だからと、人型の骸骨を増やすことを考えていたが、混成部隊でも良いな。
そうだ、あのゴーストの魂は、吸えるのか?
別物、と認識したが、あれは人の魂が魔物となった物だ。
俺の頭は固かった。
柔軟に考えなければ。
俺は振り返り、先程すれ違ったゴーストの場所に戻る。
いた。
青白い揺らめきの身体が、通路の脇に浮いている。
こいつの視線は、一体の骸骨に向いている。
どうやらこの骸骨に何らかの未練があるようだ。
さて。
「吸魂」
俺の伸ばした左手にゴーストの揺らめきが吸い込まれる、ことは無く、奴はそこに居る。
どうやらゴーストは死に瀕した状態の魂より強いようだ。
残念だが、今の俺にはゴーストを弱体化させる術は無い。
俺は再度、出口を探して通路を進んだ。
◇
周囲の骸骨に皮膚が残っているエリアに来た。
彼らは新しい。
という事は、出口が近いという事だ。
俺は先へと急いだ。
ふと、一体の亡骸に目を留めた。
彼の亡骸の上には、金属製の方形盾が置かれ、さらに鞘に収まった剣が置かれている。
周囲を見ると、同じように葬られている亡骸が複数ある。
剣を手に取り、鞘から抜いて見る。
錆の無い、綺麗な剣身だ。
ありがたく使わせて貰おう。
左手に方形盾を持ち、右手に剣を持つ。
鞘は捨てた。
腰骨に括り付けようとしたが、上手くいかなかった。
◇
微かな風を頼りに地下墓地の内部を彷徨ったが、どうやら出口らしき階段を見つけた。
石の階段を登ると、幅3m奥行き6mの石造りの部屋に出た。
部屋には扉の付いていない出入り口がある。
外は闇だ。
そして、森の中の様だ。
森の中を一本道が延びている。
ここは岩山の地下墓地なのだろう。
そして、道の先には、石造りの高い壁が見えた。
人間の街だ。
俺は盾と剣の具合を確認し、道を歩き始めた。
◇
闇夜を照らす月の光は、今夜は隠れている。
俺は闇の中、街の出入口の前まで辿り着いた。
石壁の高さに比較すると、小さな両開きの木の扉が付いている。
馬車1台が通れるようなサイズだ。
こちらは正門ではないようだな。
忍び込むには好都合だ。
両開きの木の扉だが、一方の扉の中央には片開きの扉も付いている。
人だけが通り抜けるには、これを使うようだ。
その扉の上方には長方形の穴が空いている。
確認用の覗き穴だ。
今は内側から木の板で閉じられている。
これは好都合だ。
俺は剣先を覗き穴に合わせてから、盾で木の扉を叩いた。
ドッドッ
拳で叩くより重い音が響く。
足音が聞こえる。
一人だ。
スッ
覗き穴の木の板が開けられる音が聞こえると同時に、俺は右手の剣を突き込んだ。