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異世界魔術札 ~ 運命のカードと異界の勇者 ~   作者: 兎壺 かずーら
第1章:『魔術札の勇者』
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TURN.5 『騎士見習い・慟哭する』

「ん・・・ここは・・・私助かったの?」

シャーリーはそう言って目を覚ました。


「良かった、目が覚めた!」

目が覚めるとレオの顔が視界に入る。



「!!・・・私たち何で生きてるの!? あいつの大きな岩に潰されたんじゃ・・・」

魔王デモリウスの巨大隕石を召喚した大魔法・・・その光景を思い出したシャーリーは驚きながら声をあげる。


「彼に助けてもらった。」

レオが指を指した先には、顔立ちの整った少年がいた。

その顔は女性のように美しい。


「え!?ありが・・・!?」

シャーリーはその少年を見てギョっとする。


「こ・・・国王陛下!?!?!?ご無事でしたか!!」

その少年はユリエル・ファストランド・ヴェルニル。

この国の国王だった。


「国王陛下がギリギリの所で大魔法『スフィア・シールド』を展開してくださったのだ。」

自身の応急手当をしながらサザンデル騎士団長がそう話す。


「!!・・騎士団長もご無事で良かった・・・」


大魔法『スフィア・シールド』。

国土防衛を目的とした絶対防御魔法。

本来は100名単位の魔導士で同時発動して都市全体に球形の防御壁を貼る防御用魔法だ。


今回はユリエルが単体で発動したので、直径5メートル程のシールドを展開したらしい。



「やつがあの魔法を詠唱した瞬間、私はたまたまお前達のそばの瓦礫の陰に隠れていてな。防御魔法がギリギリで間に合った・・・危ないところであった。」


「国王陛下、私たちの命を救って頂き誠に有難うございます。陛下も騎士団長もご無事で良かった・・・」

シャーリーは安堵したように言う。


「気にすることはない・・・国民の命は国の宝。騎士団員とはいえ、それは変わらぬ。それを守るのが我ら王族の務めだ。」


「それにしてもこんなに小さいのに王様とはね。最初聞いた時は驚いた!」

レオが何気なく話題を出すが、それを聞いたシャーリーに睨まれる。


「レオ!陛下に向かって失礼でしょ!」


「騎士見習いよ。よいよい、私が幼き王なのは事実だ。せめて私がもう少し大きければここまで被害が拡大する前に何とかできたかもしれん。」

ユリエルは悲しそうな顔で廃墟のようになった周囲を見渡した。



「!!ここって、城下町の市街地・・・?」

シャーリーはハっとなって辺りを見回す。


「王宮からかなり吹き飛ばされたようだな・・・陛下の防御魔法をもってしても、衝撃までは消せなかったらしい。」

騎士団長が話す。その時の衝撃でみんな気絶してしまっていたらしい。


「ふむ。恐ろしい破壊力だった。この辺りですら余波でこのような有様だ。王宮は跡形も残ってはいまい・・・。」

「ここにいた民達は無事だろうか・・・避難が間に合っていればよいのだが・・・」

ユリエルは国民の安否を心配する。



その瞬間、顔が真っ青になったシャーリーが走り出した。

「陛下、騎士団長、私は避難民捜索を行って参ります。」


「お、おい・・・ガーネット君!?・・・ぐっ」

騎士団長はシャーリーを制止しようとするが傷が痛むようだった。


「ふむ。レオ殿だったかな?サザンデルからそなたには王宮宝物庫に盗みに入った嫌疑がかかっていると聞いたが・・・」


「え!!・・・いや、それは誤解で・・・無実なのです。」


「ふむ。分かっている。私は人を見る目はそれなりに自信があるが、そなたは嘘は言っていないように見える。」

「そこで取引だ。あの騎士見習いを手伝ってやってほしい。そうすれば此度の嫌疑は不問としようではないか。」


「え!!ありがとう・・・ございます!!シャーリーを追いかけます!」

レオは慌ててシャーリーの後を追う。


「国王陛下よろしいのですか? まあ、先ほどの話を聞く限り彼はおそらく『異界勇者』でしょう。言っている事も嘘ではないでしょうけど・・・」


「『異界勇者』か・・・。先ほどの戦いぶりを見るに彼に戦いの心得は無かろう・・・。女神様もひどい事をなさるものだ。」

「まあ、それより今は民の安否が心配だ・・・人手は多い方がよかろう。それに・・・あの騎士見習いの者は一人にしない方がいいと思うてな。」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「誰か!誰かいませんか!?」

シャーリーは廃墟になった街を走りながら声をかけ続けていた。


孤児院の先生や子供たち・フルーツ屋のおじさん・ミリィ・魚屋のおばさん・酒場のマスター・宿屋のお姉さん・冒険者ギルドのギルドマスター・洋服屋に務めている友人・食い逃げをしょっちゅうしてはシャーリーが捕まえてお説教していた悪ガキ・・・この街で暮らしていた様々な人の顔が彼女の脳裏によぎっていた。


「誰か・・・無事でいて・・・」

目に大粒の涙を浮かべながらシャーリーは走り続けた。


誰の声もしない。

きっと先ほどまで人だったであろう塊や欠片が辺り一面に転がっている。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



シャーリーは幼少期をこの街の孤児院で過ごした。

両親を亡くしてこの街にやってきた彼女に孤児院の先生や仲間達・周囲の人々は暖かく接してくれた。

今や自分の第2の実家のようなものだったその孤児院は、隕石の衝撃で半壊しデモリウス配下の魔物に襲われていた。


すかさず剣を抜き一瞬で魔物を討伐する。

デモリウスには近づくこともできなかったが、シャーリーは剣技の腕前はそれなりに覚えがあった。


剣を収め、あたりを見回すが、息のある者は誰もいなかった。

親代わりだった先生や小さな子供までが冷たくなって地面に転がっていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



友人の務めている洋服屋も倒壊していた。


その近くで見かけた人間の手のような何かが指輪をはめていたが、それに見覚えがあった。

来週結婚すると言っていた友人の持ち物と同じような指輪だった。


同じ孤児院で過ごした家族のような親友のような、そんな関係だった。


指輪はボロボロになっているが掘られているイニシャルも装飾も一緒だった気がする。

でもきっと似ているだけだと信じながらシャーリーは走り続けた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



仕事帰りに同僚とよく行っていた、行きつけの酒場があった場所は瓦礫の山だった。

シャーリーはここで飲むカクテルがとても好きだった。


今日もレオの取り調べが終わったら立ち寄ろうと思っていた。


もう二度とあのカクテルは飲めないのだと思いながら、シャーリーはその場を後にした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



昼間フルーツ店のおじさんと話しをしていた市場は火の海になっている。

毎日、活気のある市場でみんな優しい人ばかりだった。

今はあちこちから肉の焼けこげたような臭いがする。

シャーリーは吐きそうになりながら走り続けた。



「・・・たすけ・・・て・・・・」

小さな声だったが確かに聞こえた。



「・・・!!! 誰かいるの!?」

シャーリーは声のする方に近寄っていった。

そこには見覚えのある女の子が倒れていた。


「ミリィちゃん!!??」



「無事だったのね!よかった・・・お父さんとお母さんは?」


「きしのお姉ちゃん・・・?」

「あのね、こわいおばけがきて・・・おとうさんとおかあさんに言われておうちに隠れてたの」

よく見るとミリィが何か大事そうに抱えている。


「あたしね・・・おねえちゃんだから、がんばろうとおもって」


「おねえちゃんだから、まもったよ。」

ミリィが大事そうに抱えていたのは赤ん坊だった。


「あ・・・」

ふと、昼間弟が生まれたお姉ちゃんになったのだと話すミリィの笑顔を思い出した。


「すっごい・・・大きな音がして気が付いたらミリィお外にいたの」

ミリィの片足は膝から下が無くなっていた。


「あしが痛くて立てなかったけど。おねえちゃんだから、がんばらないととおもって」

ここまで必死に這って移動したのだろう、血の跡が地面に続いている。


「もう、大丈夫よ!! お姉ちゃんが二人ともお医者さんのところまで連れて行ってあげるから!!」

ミリィに必死に声をかける。


「うん、きしのお姉ちゃん来てくれたから、もうあんし・・・んだ・・・ね・・・」

ミリィはそう言って目を閉じた。もう二度とその瞼が開くことは無かった。


「あ・・・ああ・・・・・」

シャーリーは冷たくなったミリィと赤ん坊を抱きかかえていた。

シャーリーは途中から気付いていた。赤ん坊もその命の鼓動がとうに止まっていたことを。



度重なる惨劇を目の当たりにしてシャーリーの心は限界だった。


「・・・いやあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」



闇夜を街中で燃え盛る炎が照らす中、シャーリーの叫び声が街に響き渡った。

【※読者の皆様へ】

今回もお読み頂き有難うございます。


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