TURN.4 『魔王・圧倒する』
「せーの!」
レオとシャーリーは地下牢の出口にかぶさっていた瓦礫を押しのけ、何とか地上に這い出る。
「うそ・・・」
シャーリーは目の前の光景に戦慄した。
地上に出た僕らの目の前には瓦礫の山になった王宮と燃え盛る炎だった。
満点の星が煌めく夜空を背景に、王宮と城下町が赤い炎に包まれている。
「これは、一体なにが・・・」
そう言いかけて、レオはあの変な名前の女神の話を思い出す。
滅びかけた世界に勇者を派遣するのが仕事だ・・・と。
「そうだよ~!これを何とかするのがレオ君の役目なんだあ☆」
突然背後から声が聞こえる。この何だか腹立つ話し方は・・・
「あんたは・・・まゆぽん!?」
レオは突然現れた思わずまゆぽんを睨みつける。
「や~っと見つけた! そ~んな怖い顔しないでよお☆」
「ふざけるな!!勝手にこんなところに送り込んだくせに!!」
「アハハ~!こわ~い☆」
「早く僕を元の世界に帰してくれ!」
「だーかーらー☆・・・それはレオくんが役目を果たすまで無理なんだって~☆」
あくまでこの変な女神は帰してくれるつもりは無いようだ。
「あなた・・・何者・・・? この王都に何が起こっているか知っているの?」
レオとまゆぽんのやり取りを見ていたシャーリーが不意に声をかける。
「あらら~☆ レオ君てば早速現地の女の子を連れまわしちゃうなんて隅に置けないね~☆」
「ふざけてないで!私の問いに答えて!!」
シャーリーが腹を立てて言い返す。
「あ~?冗談通じねーのかよ・・ったり~な★」
一瞬、まゆぽんの口調が変わる。こっちがこの女神の【素】のようだ。
「あーしの名前は女神まゆぽん。この世界を守護する女神様だよ★」
「女神・・・様・・・?(変な名前・・・)」
「そそ~!そしてこの王都は今魔王に襲撃されてボロボロになってるって感じかな★」
「この事態・・・やはり噂の魔王の仕業ということなの・・・!
あなたが世界を守護する女神様だと言うなら何故その魔王を野放しにするの!?」
「あーし達は、この世界じゃあんた達人間より多少強いくらいの力しかないからね~☆
それに野放しにしてなんてないよ?」
「こうして異世界から『異界勇者』を連れてきてあげたんだからね~☆」
「『異界勇者』!? ではやはりレオの言っている事は・・・」
シャーリーがそう言いかけた瞬間、何かが飛んできた。
『ズザアアアアアア!!』
「・・・!?まさか・・・騎士団長!?」
飛んできた何かは騎士団長アレックス・サザンデルだった。
手にした剣は砕け散り、鎧もボロボロになっている。
「この俺様を手こずらせるとは、只の人間にしては楽しめたぜえ・・・」
そう言いながら七大魔王・デモリウスが飛翔する。
「あいつが魔王・・・許さない・・・!」
シャーリーが剣を抜く。
「あはは~☆じゃあ頑張ってね~☆」
「そうだ、レオくん。これを渡すのを忘れてたあ★」
まゆぽんが何かを投げてよこす。
「これは・・・?」
それは獅子の意匠をした手甲のような装備だった。
獅子の口の部分にはカードの束がはめ込まれている。
「(これはデュエル・ファンタジアのカードデッキ?
いや、違う。あの時拾った女神の紋様のカードか・・・?)」
「『異界勇者』の証。女神の加護を受けた『異界宝具』だよお!大事に使ってよネ★」
「危なそうだから、あーしは帰るねえ★バイバーイ♪」
そういって変な名前の女神は異世界ゲートで姿を消した。
「こんなものでどうしろっていうんだろうか・・・・。」
「ファイア・ボール!!」
突然シャーリーがそう唱えると剣先から火球が現れ、魔王デモリウスに直撃する。
「これが・・・魔法!?」
レオは初めて見る魔法に驚いた。やはりここは彼が知っている世界ではない異世界なのだろう。
しかし爆煙の中から無傷のデモリウスが現れる。
「ククク、この程度かムシケラめ!」
「手本をみせてやるよ!!ファイア・ボールってのはこうやるのさ!!」
デモリウスもシャーリーと同じ魔法を使用する。
しかし、火球のサイズが圧倒的に違っていた。
『ドォォォォォン!!』
着弾点を中心に爆風が起こる。
シャーリーの放った火球の10倍の威力はあるだろう。
「く・・・魔力が違いすぎる・・・! キミ、勇者なんでしょう!魔法で援護して!!」
「(魔法・・・? 前見た漫画に異世界へ転移した主人公がチート魔法で無双したりするのがあったな・・・もしかしてこの異界宝具とかいうのを持ってると滅茶苦茶強くなってるとか・・・?)」
「よし!喰らえ!!!ファイア・ボール!!!」
レオは先ほどのシャーリーの真似をして勢いよく魔法の名前を唱えた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
何も起きない。
「ちょっとキミ、ファイア・ボールも使えないの? こんなの子供でも一応火の粉くらいは出せるのに!」
シャーリーは呆気にとられながらそう言った。
「(あの女神・・・何が女神の加護だ!)」
レオは顔を若干赤くしながら女神の事を思い出していた。
「アッハッハッハ!!!何だオマエ。そんな初級魔法も使えねぇとは初等学校からやり直してくるんだな!」
魔王デモリウスも大笑いしながらそう言い放ったあと何かに気付いてこう言った。
「いや、その感じ。てめぇ異界人か? そりゃあ魔法も使えねえはずさ!!」
「どういうことだ?」
「冥土の土産に教えてやるよ!てめぇは女神のやつに連れてこられたんだろうが・・・あいつらの連れてくる『異界人』ってのはな!
この世界で魔法を使うための魔力器官が発達してねえのさ!! 」
「シャーリー、そうなの?」
思わずシャーリーにも確認する。
「この世界では精霊に祈りを捧げて大気中の魔力と自分の中の魔力を反応させることで初めて魔法を行使できるの・・・・・。
あいつの言う事が本当ならキミはこの世界で魔法を使う事はできないってことね・・・」
「(なんてこった・・・生物レベルで魔法が使えないってことなのか・・・こんな剣と魔法のファンタジーな世界でそんなのって・・・)」
「レオ、キミの世界に魔法使いはいる?」
ふと思い立ったようにシャーリーはそう問いかけてきた。
「いや・・・魔法自体がない。おとぎ話の世界の話だ・・・。」
「そう・・・」
「じゃあ、キミは一刻も早くここから離れて!私が何とか時間を稼ぐ!!」
レオとまゆぽん、そしてデモリウスの話が全て真実だと悟ったシャーリーは覚悟を決める。
「そんな!君を見捨てて逃げろと?」
「この世界で魔法が使えないなんて、戦いでは圧倒的に不利・・・」
「退くのは君もだ。シャーリー・ガーネット。」
シャーリーがそう言いかけた時に割り込んできたのは満身創痍の騎士団長サザンデルだった。
「騎士団長!?無理です!そんな体で!!」
「ガーネット君。先ほど言い渡した指示、もう忘れてしまったのかい? 君の任務はやつと戦って犬死にすることではなかろう。」
「・・・!! 申し訳ございません・・・」
「それにやつは悪名高き『七大魔王』、騎士見習いの君に勝てる相手ではない。」
「(魔王だって・・・いきなりそんなのとぶつかるなんてこの世界どうなってるんだ・・・)」
レオはそう思い体が震える。今更だがほんの半日前までは日本で平和を謳歌していたのだ。
さきほどまでは勢いで体が動いていたが、冷静になると恐ろしい状況である。
「ほう、生きてやがったか・・・ムシケラ騎士。なかなか骨があるじゃあねえか。次でトドメにしてやるよ?」
「私とてこの王国最強と呼ばれた騎士。ただでは負けはせん。貴様こそ一軍のトップが1人でこんな敵地の最前線までノコノコやってきた事を後悔させてくれようぞ!!」
サザンデル騎士団長は折れた剣を構えた。
「俺は『傲慢』なのさ!徹底した現場主義でね。無能な部下共の仕事なんざ信じちゃあいねえ!!俺の力で、てめえらムシケラを蹂躙するのは最高に楽しいぜえ?」
「まあ、どの道この国の人間には全員死んでもらうからな、ムシケラが増えてきて面倒臭くなってきたから一気に決めさせてもらうぜ?」
そう言い放つと手のひらを上に掲げ魔法を行使する。
「-天空に煌めく魔の星よ 我が祈りに応じ地上を焼き払いたまえ-」
「・・・これは!?まずい!!!逃げろ!!!!!ガーネット!!!」
騎士団長が叫ぶと同時にデモリウスの極大魔法が発動する。
「 悪 魔 王 の 隕 石 (ロイヤル・デモン・メテオ)」
「(それに『異界勇者』か。今のままだと雑魚だが『異界宝具』を使われると少し厄介だしな。使い方もわからんようだし今の内に消し炭にしておこう。)」
夜空が一瞬煌めいたかと思うと天空に現れた魔法陣から、巨大な隕石が現れて瞬く間に王宮に落下する。
隕石は落下地点をえぐり取り焼き払い、その衝撃波は王宮を中心に広がり全てを破壊した。
【※読者の皆様へ】
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