夏の終わりの今日。
夏休みも終わり、ミンミンと煩かった蝉も静かになり、ジリジリとした暑さも段々と引いてきて、長袖シャツを着ている人が多くなった。
夏。
それは自分にとっては嫌いなもののひとつであり、反対に好きな季節でもある。
と言っても高校が始まってすぐの夏休みに出来たばかりの友達と遊んだのか、と言われるとそれもしていない。
こんなクソ暑い中、青空の下でスポーツなんて御免だし、何よりゲームをしていた方が圧倒的に気が楽なのだ。
そして正に陰キャ生活を送っていた俺は始まった学校でも特に人と話すことはなかった。
周りには自分と同じゲームをしている男子もいるのだが、話しかけに行く勇気などさらさらないし、もうグループが出来上がってしまっている。
あんな所に入れるわけないだろ!と中学から仲のいい友達に話をかけようとするが、彼は他にも友達ができたらしく、目は合わせてくれたもののそちらの話に夢中らしい。裏切り者め。
夏休み明け早々授業はすること無く、掃除や始業式等終わればどやどやと教室から人は出ていく。
このタイミングを見計らって図書室へ。借りてた本を返しに行くのとバスが来るまでの暇つぶしだ。教室にいると部活の生徒が飯を食べるのに使うのでできるだけいないようにしている。
この時間にバスに乗ろうとすると混んでいて吐き気がするから部活の生徒以外が居なくなったタイミングのバスを狙う。我ながらカンペキな作戦だ。
図書室に着くと見慣れた顔を見つける。茜という少女だった。彼女とは中学が一緒でその時にはマドンナと影で呼ばれるレベルには男子に人気だったが、高校からはあまり名前を聞かなくなった。噂によれば虐められたとかだが、真偽は定かではない。
「あら、翔くん」
ニコリ、と笑顔で返される。下の名前で呼んでくるのは相手をよくわかっているから。女性経験のない俺はこの顔を見せられるのに弱い。そしてそれは相手もよく知っている事だった。
「うん、久しぶり。茜さんはどうしてここに?」
「?貴方を待ってたのよ、当たり前じゃない」
コイツはこういう奴である。友達がほとんど居ない俺に付きまとってくる女。
「だって夏休み中全く会えなかったもの」
いわゆるストーカーという部類の女。
しかし、無念なことに男という生物はかなりチョロい。特にやばいと知っていようが知らなかろうが、勉強ができて気遣いができて優しくてそれでもってかわいくて俺を好いている女の子。そういうものにめっぽう弱いのだ。
「......そうかよ」
さすがにそこまで予想していなかった俺は押しの強さに負け、結局許してしまうのだ。どこか彼女へのいじめが本当ではありませんように、と思って閉まっているのだ。
涼し気な風が窓から吹き込む季節。こんな少年と少女のどこかおかしな共依存の話。