6【古吉仁の近況そして思い付き】
ギャルゲーをプレイしていた仁は、ふと腕の時計に目をやりゲームを終了した。
PCを亜空間にしまい込み、肉体を作り変えて一五歳の少年━━古吉仁━━になる。
スウェットをジャージに変え、校長室から転移した。
♯
人工島を一つ丸ごと使用している国際魔法学園。
その敷地は三〇〇〇㎢にも及び、学園内には様々な施設が存在する。
そして学習区の地下であるここには。
ファンタジー小説に登場する冒険者ギルド宛らに、武器や防具を身につけた人々が行き交う防衛区が存在した。
「こんちは、林さん。なんか情報ある?」
防衛本部に転移で現れた仁は受け付けへ行くと、朗らかな笑顔で問いかける。
受け付けには美しい女━━林━━が座っており、林は仁に腕輪を手渡しながら柔らかな笑顔で答えた。
「こんにちは、仁さん。危険情報、周知事項はございませんが、七種の魔物に討伐推進ボーナスが掛かっております。お聞きになりますか?」
「いや、大丈夫。じゃ行ってきまーす」
「行ってらっしゃいませ」
手を振り前線へ向かう仁に、林は九〇度のお辞儀をし名簿に仁の名前や出発日時を記録した。
♯
辺りには人も物も何もない砂漠を仁は歩いていた。
気温は九〇度を超えていて、焼ける様に乾いた空気と舞い上がる砂に、常人ならば呼吸は愚か立ち尽くす事すらできない死の砂漠。
この砂漠を越えて防衛本部に突撃する魔物はそうそう居ないが、今日は違った。
仁に向かって右方より、三メートルはあろう鬼が全身でソニックブームを生みながら高速接近し拳を振り上げる。
仁は気の抜けた顔で歩きながら、右手のひらを鬼へ向けて突き出す。
数十メートルの距離を一瞬で詰めた鬼は拳を振り下ろし━━
━━意識を失った。
仁は手首の動き一つで鬼の拳を右下方へ去なし、勢いのままに体勢を崩した鬼の頭部をビンタで消し飛ばしたのだ。
それは今日、仁が砂漠へやって来てから三〇回以上繰り返された駆除活動だった。
♯
防衛本部の応接室。
寛ぎを追求されたその部屋で、仁は一人の男と話をしていた。
「ご協力ありがとうございました。情報提供への謝礼は私共の調査が終了してからとなります、ご了承下さい」
そう言いながら男が立ち上がり九〇度のお辞儀をする。
「別にいいけど、精算が終わるまでここで待たせてくんない?」
そう返した仁は一人用の柔らかな椅子に深く腰掛け、両腕両脚を大きく開いていた。
男は変わらぬ微笑みを湛えたままそれを了承し、退室した。
それから一五分程が経過するとノックの音が響き、林が入室する。
「失礼します。お待たせ致しました、仁さんの今回の防衛報酬は四億八七三〇万円となります。明細はこちらです」
と、タブレット端末を差し出す林だが、仁は端末を気に留めず笑顔で言う。
「いつも通り、オマケは俺の口座で残りは寄付で頼む」
「畏まりました。それでは七万二三八九円を仁さんの口座へ━━」
♯
あれから四時間程かけ、仁は前線を見回り軽い調査をしたが特に異変も得るものも無く、砂漠に限った異常であると結論付けたその時。
「おいガキ」
「はぁ?」
不躾に呼び止められた仁は苛立ちを顕に振り返る。
そこに居たのは小柄な少年と大柄な男、そして美しい女だった。
仁に声を掛けた一三〇センチ程の少年は不快感を顔に出し、少々早口に低い声で続ける。
「テメェ腕輪も装備も無しに一人でナニヤッてんだァ? 何処から侵入しやガッた。答えネェと殺すぞ」
「・・・・・・キモイ餓鬼だな。腕輪はさっき━━」
答えを遮ったのは問い掛けた少年自身だった。
少年が振り抜いた拳は先程まで仁の頭が有った位置に置かれ、仁の頭は少し横にズレており、その右手は少年の手首を握っていた。
大柄な男と美しい女は興味無さ気にそれを眺めていて、拳を躱された少年は満面に獰猛な喜色と怒りを浮かべて言う。
「言ィ訳が長ぇしテメェは怪しィ。第一級防衛隊員として、取りアえず捕縛する。死ななキャなぁ」
「・・・・・・お前ら馬鹿だろ。何時間も尾け回す位なら本部に確認なり報告なりしろよ━━」
仁のその言葉に、興味無さ気だった男が反応した。
瞬間的な挙動で腰の太刀を抜き放ち背後から仁に斬りかかる━━
「━━挙げ句いきなり攻撃するとか、不良じゃん」
━━が、男が気付いた時には振り上げた右手首を仁の左手に握られていた。
太刀で斬りかかったにも関わらず、一歩も動いていない仁に手首を握られ。
男が顔色を変えた次の瞬間、先程男が蹴りつけた地面が大きく爆発した。
♯
両手で顔を覆い軽く背け、真横で爆発した地面から飛んで来る石や砂をやり過ごす。
その行動を選択した女は腕や足、胴体や頭部にまで傷を負ったが、苦痛を感じた様子は無く平然としている。
飛来物の勢いが弱くなり女が顔を正面に戻した時、視界に映ったのは先程と変わらぬ状態の三人だった。
手首を握る仁と、手首を握られ動かぬ二人。
それにすら興味を示さない女だったが、次の瞬間その顔が驚愕に歪んだ。
小柄な少年と大柄な男が、干からびる様にして白骨化したのだ。
血も肉も、髪の毛すら無くなり、身に付けていた衣服や装備品を纏うだけの骨となった。
そうして女が驚いている間にも骨すら塵となって消えてしまう。
━━消えた。死んだ。
女が驚きから立ち直り理解したと同時。
高速で接近した仁を女は認識できず、気付いた瞬間には首を掴まれ宙吊りにされていた。
そして女の体も先程の男達同様、少しずつではあるが干からびてゆく。
しかし女は動揺も抵抗もせずに燥ぎ嗤った。
「なにそれぇ? すっごぉい! スッゴイですぅ! それ知りたぁい!」
それを見て仁はつまらなそうに呟いた。
「傍観者気取ってっとお前も死ぬぞ?」
「アァハハハハッ、ムダですよォ〜アナタが何をしようとムゥ〜ダッ! スゴイけどッ! でもムダァァァァァッハハハハハッ!」
哄笑を上げる女だが、その体はもはや骨に薄汚い皮が張り付いている状態だ。
それでも嗤い続ける女を冷めた目で見やる仁は苦笑いを作り言う。
「まあ何にしろ殺すんだけどな」
しかし女は答えることなく、最期まで嗤いながら死に絶えた。
仁は女の死体を右手に持ったま視線を宙に彷徨わせる。
その左隣に。
今も仁の右手に白骨死体となって握られている女が、先程までの美しい姿で現れ楽し気に囁いた。
「ほらぁ・・・・・・む・だ・で・しょぉ?」
しかし仁は見向きもせず、虚空を見つめたまま動かない。
「あれアレアレぇ? どう・・・・・・」
喜色満面に言葉を重ねた女だったが、突如胸の辺りを押さえ苦しげに顔を歪める。
「どう・・・・・・な・・・・・・に、よ・・・・・・コレぇ・・・・・・」
そんな、苦痛に塗れた言葉を残し、女は霧散する。
そうして一人きりになった仁は嬉しそうに呟いた。
「そうか」
♯
彼女はその日も魔物を殺し続けていた。
施設に於いて六六六期生二番と呼ばれた少女━━アリス・ルーベン。
「アリスさん、こんちは」
午前四時一五分。
前線にて、彼女は面識の無い一人の少年━━古吉仁━━に声をかけられた。
「なに?」
無感情に返したアリスに、仁は人懐っこい笑顔で言う。
「アリスさんの知らないアリスさんの秘密、知りたくない?」
実はこれまで書いた内容あんまり覚えてないんですよ。
この6日間で気付いたんですが、1話書き終わったら直ぐ投稿って形だとストーリー繋がらない+覚えられませんでした。
なので書き溜めてから投稿って形に変えますm(_ _)m