4【異世界も地球も地獄だった件】
━━周り見てみろ。一人くらい居ないか? 居たらそいつは魔法使いだぞ━━
それっきり三浦の声は聞こえなくなった。
「・・・・・・なあ田中」
「・・・・・・え?」
俺?
声に釣られて左を見ると、間の抜けた顔をした男。
誰だっけこいつ・・・・・・
「・・・・・・何だよ吉田・・・・・・吉田だよな?」
「え? ああ、うん。吉田で合ってる・・・・・・」
・・・・・・
「え? 話は?」
「ああ、あのさ、何やってんだあいつら・・・・・・?」
「いや、俺にも分かんないし、お前一条と仲良かっただろ? 聞いてこいよ・・・・・・」
「いや、でもさ・・・・・・」
・・・・・・でも何だよ。てか何だよあいつら。
何でいきなり学校壊したんだ? 瓦礫見た感じ意図的に壊してるよな・・・・・・?
めちゃくちゃピリついてたし、立ち位置が変わってるし、多分、戦ったのか?
三浦も居ないし、何も見えなかった・・・・・・
ッ!・・・・・・音を聞いてない・・・・・・学校が壊れる音と悲鳴しか聞いてない・・・・・・!
こいつら何十年生き残ったんだ・・・・・・ヤバすぎるだろ。世界征服とかできるんじゃないか・・・・・・?
「吉田」
俺たちの話が聞こえたのか、一条が吉田に声をかけた。
「な、なんだ?」
ちょっとビビりながら吉田が返事をすると、一条は俺たち━━置いてけぼりにされてた蘇り組を見回し、顔はこちらに向けたまま、その場にいる二九人全員に聞かせる様に言った。
「さっき三浦が僕たちの存在を公にした。つまり僕たちは良くも悪くも特殊な人・・・・・・特殊な存在として認識される。地球に特殊能力者が居るかは分からないけれど、魔力がある以上魔法使いなんかは居てもおかしくない。あの世界で手に入れた力を隠すも知らしめるも個々の自由だけど、地球の特殊能力者や権力者や、世論から家族、ご近所の人にまで、どう見られてどんな扱いを受けるかよく考えて行動して欲しい」
言葉を区切った一条は、今度は二九人全員を見回し少し強い口調で続けた。
「そして何より、今現在、僕ら三一人は全員、【異世界から帰って来た】という大きな括りの中に居る。だから自分の言動が、僕らお互いにも影響する事を理解してくれ。あの世界で暫く生き抜いた人は分かるだろう、僕らは例え家族だろうと、必要な殺しを躊躇ったりしない」
・・・・・・地球に帰って来て油断してた。
同じだ。変わらない。向こうもこっちも小さなミス一つで直ぐに死ぬ。
全部終わったと思ってたけど、これは終わらないんだ。
頭を切り替えなきゃいけない。ここは地球だけど、昔みたいに簡単じゃない。
ベクトルは違うけど、あの世界と同じかそれ以上に難しいのかもしれない。
早々に死んだけど、俺だって人を殺したしその肉も食った。
痩せ細ってたから何人も食った。
けど後悔も罪の意識も無い。
自分自身がそんなんだからこそ、最後まで生き残ったんだろう一五人が怖い。
・・・・・・あんなに帰りたかった地球がこんな地獄だったなんて・・・・・・
♯
あれから三年が経過し、彼ら三一人を取り巻く環境は概ね落ち着きを見せた。
彼━━山田仁━━は一年前に高校を卒業し、一九歳で教師となった。
教師となった彼は僅か一年で極めて優秀な教育者との評価を受け、今年から教頭を務める事となる。
彼の勤め先は国際魔法学園。
♯
━━歴史がこんなに簡単に、こんなにも大きく変わるとは。
以前から思っていたが、まさか組織にまで影響を及ぼすなんて。
俺の思い違いは組織と時間移動、どちらだろうか。
まあ、時間移動だろうな。過小に捉えていた。
「アリス・ルーベン。首席入学おめでとう。素晴らしい答辞だった」
執務室で俺が向き合っているのは白髪の少女。
施設に於いて六六六期生、二番と呼ばれた少女だ。
一五歳で丁度良い年齢且つ優秀。だからだろう。
二番にはまだ借りを返せていないから、近くに置けるのは都合が良いのかもしれないが、返す当ては消えたかも知れない。
「ありがとうございます」
二番は無表情に、無感情に、平坦な声で頭を下げた。
それを見て、前回の俺は死ぬまでこうだったのかと、変化を強く再認識する。
少し嬉しくなり、意識して柔和な笑みを浮かべたまま会話を続ける。
「君にはこれから一年間、学年に於ける代表として━━」
二番に説明を続けながらも、頭から離れなかったのは歴史の変化だった。
前回俺が死んだ日、地球は滅んだだろう。
あの豚男を殺せる奴が居たとは思えない。
もしも魔物の発生時期、発生場所が変わるのなら今この瞬間にも、あの豚男は現れかねない。
・・・・・・大物は半年後。首なし騎士が出て戦闘員が一七人死んだはずだ。
目を飛ばしてみるか━━