第42話 Clearing Time
今回から時系列は現在に戻ります。同時に、色々と本編の謎が明かされますのでお楽しみに!
「これが皆と会う前に私がして来た事……。蒼國に来てからの事は、皆の知ってる通りです。」
自身の過去に関する一連の話を終え、リラは一息吐きました。水霊仲間達が集まった霧船女学園の中庭では、尚も水路の水が変わらぬせせらぎを奏でています。
一方、リラに起こった一部始終を聞いていた葵達は只々絶句したまま、じっと今回の主役であるリラの顔を見つめていました。
彼女の過去を聞いて何を思ったかはそれぞれバラバラでしょうけれど、全員に共通していた事実は1つだけ。
そう―――――目に大粒の涙を浮かべたまま、リラの話に聞き入っていたと言う事でした。中にはリラへの悲しみで身を震わせる子もいました。
「今でも私、時々思い出すの。理緒奈ちゃんが最後に残した“厄病神”って言葉を……。私がいなかったら理緒奈ちゃんも西堀さん達も、表向きだけでも皆、平和で暮らして…」
「そんな事無い!!」
沈黙を破り、声を上げたのは葵でした。
そして次の瞬間、葵と深優と更沙の3人は立ち上がり、優しくリラの事を抱擁しました。
「えっ?ちょっと、葵ちゃん?深優ちゃんも更沙ちゃんも――――?」
突然の抱擁にリラが戸惑う中、更に忍が言いました。
「おい、お前等だけじゃなくってあたし等にもやらせろ!」
忍のこの鶴の一声と共に葵達がリラから離れると、今度は入れ違いに忍…そしてみちると瑠々と水夏も何も言わず、無言のまま優しく抱擁を重ねました。
無論、潤と真理愛の2人もです。
「リラ………漸く全部話してくれたね。」
「お前も辛くて大変だったんだな、汐月………!」
「何でリラっちがアクアリウムなんて魔法みたいな力が使えるか、ずっと気になってたけど、まさか自殺まで考える様な辛い事が有ったなんて思わなかった………!!」
尚も目元を涙で潤ませながら葵と忍と深優がそう言うと、潤と更沙とみちる、そして真理愛と水夏と瑠々も同じく涙ながらにそれに続きます。
「リラちゃん、言ってたよね?“水霊士になるって、人間の汚い所が一杯見える”って……わたし、その意味が分かんなかったけど、リラちゃんの話聞いて直ぐ理解出来た!自分も虐められてたから、痛い程良く分かった……!」
「リラが厄病神…?そんな事無い!リラは自分を守ろうとしただけ!」
「そうよ!汐月は虐めに対抗出来る力を手にして、それを使って戦っただけ!私が貴女と同じ立場だったら絶対そうした!」
「本当に悪くて、恥ずかしくて最低なのは、他人の気持ちを考える頭を持ちながら、それをしないで平気で人を傷付ける人達よ!」
「お父さんが言ってた……。『人間は例え相手にどんな非や問題が有ったとしても、常に相手の立場に立ってその人の事を考えなきゃ行けない。その為には先ず、相手の弱さと愚かさと醜さを認めるべきだ。相手も自分と同じ、不完全で至らない対等な人間であると言う前提に立て』って。それを“何となくムカつくから”とか“周りと違うから”とか、それっぽい理由で思考停止して他人を傷付けて、自分が酷い目に遭えば直ぐに被害者面して誰かの所為にするなんて、人間として……って言うか生き物として最底辺のクズよ!そう言う奴こそ下等動物って言うべきだわ!」
「汐月、あんたは何にも悪くない!虐めてたその理緒奈って奴が、勝手に自滅して堕ちてっただけ!!結果論かもだけど、あんたが手を出さなくたってそいつは、父親のスキャンダルの所為でどの道、転落してた!汐月が気に病む事なんて全ッ然、100億パー無いから!!」
「皆……!」
水霊仲間達からの励ましの言葉に、今度はリラがその藍色の瞳を潤ませながら葵達の顔を見回します。
孤独と虐めの過去を背負って生きて来たリラにとって、今日程救われたと思う日は無いでしょう。
目を潤ませながら、リラは忍達先輩の方を見て上目遣いで言いました。
「あのっ…先輩達にお願いが有るんですけど……良いですか?」
「頼み事?何だよ?言ってみろよ。」
「今のわたし達なら、出来る範囲で聞いてあげるわよ!」
突然のリラからの頼み事に忍と瑠々は首を傾げますが、直ぐに受け付けます。
「私の事……「汐月」じゃなくって「リラ」って呼んでくれませんか?」
それまで名字で呼んでいたのを、下の名前で呼ぶ様に請願するリラに、忍達は直ぐに口元に笑みを浮かべます。
「あぁ、良いぜ……リラ!」
「勿論よリラ……って言うかわたし達、ずっとこの日が来るの待ってたんだからね!」
「私も……ずっと貴女の事を下の名前で呼びたいって思ってた!」
「改めて宜しくね、リラ!」
忍と瑠々と水夏とみちるがそう言うと、真理愛と潤もニッコリ笑って頷きます。
「それと出来る事なら葵ちゃん達の事も、名前で呼んであげて欲しいです。もう皆、私にとって水霊で繋がった大事な仲間なんですから、何時までもそんな他所他所しいのは嫌です!」
「こいつ等の事もか?お前がそこまで言うってんならそうするぜ!」
「同じ1年生として、リラの事お願いね?葵!深優!更沙!」
「「「はい!勿論です!」」」
自分だけでなく、同級生の葵達の事も名前で呼ぶ様にリラが頼んだ事で、霧船女子学園水泳部の水霊仲間達の繫がりはより深く、強固な物となって行きました。
すると其処へ、テミスが人間態を取りながら前に出て言いました。
「リラ、本当に最高で素敵な人達に巡り会えたわね。」
「テミス?」
そして改めて葵達、霧船女子水泳部の水霊仲間達を見回しながら言いました。
「葵さん、深優さん、更沙さん、潤、真理愛さん、瑠々さん、水夏さん、みちるさん、そして忍さん……。有り難う。リラの事を此処まで大事に思ってくれて。貴女達のお陰で、リラは漸く前へ進む事が出来そうです。繰り返して言うわ。本当に有り難う!」
葵達に感謝の言葉を述べながら深々と頭を下げるテミスの姿に、一同は思わず顔を赤らめます。2,3年生の先輩達に至っては両手を後ろ手に組んでもじもじしていました。
そんな彼女達を見て、テミスは更に言葉を紡ぎます。それは葵達にとっては或る意味、お待ちかねと言うべき内容の言葉でした。
「それでは皆さん、リラの昔話に付き合って下さったお礼に、貴女達の水霊や水霊士に関する質問にお答えして差し上げますわ!」
「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」
突然のテミスからの報酬に、葵達9人の水霊仲間達は驚きを隠せません。
「し、質問って……?」
「本当に何でも答えてくれるの?」
葵と瑠々がそう尋ねると、テミスはニッコリ笑ってそう頷きました。
「おい、何訊くよお前等?」
「“何”っていきなり言われても困るわよ、忍……。」
「ぶっちゃけ聞きたい事、一杯有るんですけどねぇ~。」
「いざ“何でも答えてくれる”って言われても直ぐに浮かびませんよね……。」
「じゃあさじゃあさ、こう言うのどうですか?」
「深優、何か思い付いた?」
リラ以外の9人が固まって何を質問するか話し合うと、直ぐに9人を代表して深優が前に出て来てテミスに尋ねました。
「じゃあテミス、早速質問して良い?」
「どうぞ、深優さん。」
テミスに促されると、深優は待ってましたとばかりに声を上げてこんな初歩的な質問を投げ掛けます。
「どうしてリラはアクアリウムの力を使えるの?って言うかどうしてリラなの?潤先輩もテミスのお陰でそうなったって聞いたけど、水霊士になるには何か資格みたいなのが必要って事?それこそ生まれつきの才能とか素質みたいな……。」
至極真っ当な深優の質問に、一同はうんうんと頷きます。霧船女子の水霊仲間全員が共通で抱いていた疑問なのですから当然でしょう。テミスは真っ直ぐ深優の目を見て即答します。
「答えは、彼女や潤が『海の瞳』の持ち主だったからよ。」
テミスの口から発せられた『海の瞳』と言う新たな単語に、一同はキョトンと首を傾げます。
「海の瞳?」
「そう言えばリラっちや潤先輩、綺麗な藍色の目をしてるけど、これが水霊士になる資格って事なの?」
「察しが良いですね深優さん。その通りよ。彼女達や今日出会った内海レンの様な海の瞳の持ち主は、私達水霊やウンディーネの様な水の精霊と心を通わせる精霊使いの末裔で、生まれ付き水を属性とする霊力を潜在的に秘めているの。瞳を見れば、その人間が水霊士の素質を持っているかどうか、私達には直ぐに分かる。そしてその力を私達上級水霊が呼び覚まし、増幅させる事で海の瞳の持ち主はアクアリウムが使える様になるのです。」
前々からリラや潤の藍色の瞳は神秘的で、深い海を連想させる物でしたが、まさかそれが水の精霊使いの素質だったとは……。目から鱗の回答に、葵達も納得です。
「水霊士の素質を持った人間の目って、海みたいに澄んだ綺麗な藍色の瞳をしてるかどうかなんだ……。」
「リラ、知ってた?」
「うん、そう言う基本的な所はテミスから教えられてたから。」
(し、知らなかった……。まさかこの瞳の色にそう言う意味が有ったなんて……。)
テミスからの回答に深優が納得する中、葵がその事を知ってるか尋ねるとリラは「知っている」と回答。やはり水霊士として、リラもそれ位は知っていて当然でした。尤も、水霊士になりたてだった潤は知らなかった様ですが……。
「まっ、水霊士として基礎中の基礎みたいだしな。知らねぇ方が潜りって話だからリラも知ってて当然か。」
納得した様子で忍がそう言うと、徐にテミスはリラの方を向いて言いました。
「そしてリラ、ユラはずっと貴女に黙ったままだったけど、ユラもまた水霊士でした。若い頃はこの蒼國に住んでいて、アクアリウムで多くの人や動植物を癒していたのよ。リラ、貴女もユラに癒された記憶があるでしょう?」
「お祖母ちゃんが……水霊士!?」
テミスから告げられた真実に、リラ達は驚愕するしかありませんでした。まさか、自身の祖母までが水霊士だったなんて……!!
ですが彼女からそう告げられると、リラには思い当たる節が幾つも浮かんで来ます。
体の具合が悪い事をユラに伝えれば、彼女は言っていました。
『じゃあリラ、目を閉じて横になりなさい。私が直ぐ元気になるおまじないを掛けてあげるから!目を開けたらまたやり直しになるからそれだけ気を付けてね?』
横になって目を閉じる様に言って来た物ですが、その後まるで身体が宙に浮く様な奇妙な感覚を覚えた物です。そして全てが終わった後で目を覚ますと、身体は至って元気で気持ちもリフレッシュしていました。
あれは今思えば、自分にクラリファイイングスパイラルを施していたのでしょう。漸くリラの中で全てが繋がって来ました。テミスが自分をユラの住んでいたこの街に導いたのも、きっと何か理由が有る。それは未だ分かりませんが、同時にリラはそう直感していました。
「リラのお祖母ちゃんが水霊士だったって事は、その下のお父さんかお母さんも水霊士だったの?」
テミスの言葉を受け、更沙が次の質問を投げ掛けます。中々に鋭い質問ですが、テミスは淡々とこう答えました。
「水霊士である以上、ユラも海の瞳の持ち主だったは当然ですが、残念ながらユラの娘、つまりリラのお母さんのミラには引き継がれませんでした。そもそも海の瞳は子々孫々と受け継がれる物では無いのです。下の代に引き継がれる事も有れば、隔世遺伝するケースも多々あります。そして多くの場合は女性に引き継がれ、男性に受け継がれる可能性は低いの。だからユラの娘=貴女のお母さんには受け継がれなかった。それだけです。先日会った内海レンと言う人間の様に、海の瞳を持った男性なんて極めてレアなケースなのよ。」
更沙の質問を受け、次に明かされたのは水霊士の血筋について。続いて忍はこんな質問を投げ掛けました。
「成る程な…。だがよ、もっと大事で気になる事が有るだろ。あんた、汐つ…リラが自殺しそうになった時に出て来てアクアリウム使える様にしたそうだが、何で自殺しそうになったタイミングで都合良く出て来たんだよ!?今までこいつが苦しんでんの見て見ぬ振りしてたってのかよ!?」
確かに、テミスがリラの事を見守っていたと言うのなら、理緒奈達に虐められていた時にもっと早く出て来て助けても良かった筈なのに、何故追い詰められて川に身を投げる寸前で都合良く現れてアクアリウムの力を授ける様な事をしたのでしょう?
リラを可哀想だとは思わない薄情な対応に、半ば怒りの込もった詰問にも似た厳しい問いを忍からぶつけられますが、テミスは取り乱す事無く至って冷静に回答します。
「順を追って説明しましょう。と言っても理由は簡単。それは私がユラの中に宿っていた内なる水霊だったからです。」
「お祖母ちゃんの……?テミスって、元々お祖母ちゃんの中に宿ってた水霊だったの………!?」
いきなりテミスがユラの内なる水霊だったと告げられ、リラは唖然となりました。自分でも全く知らない驚愕の真実に触れたのですから、それも無理からぬ話でしょう。
そんなリラの様子を一瞥すると、テミスは改めてその場にいる一同に語り掛けます。
「本題に入る前に、水霊と人間の魂の関係性について説明しておきましょう。内なる水霊として生き物の身体に宿る水霊はその宿主の死後、彼等の魂と一体化して人間が霊界とか冥界、彼岸と呼ぶ世界へと死んだ宿主達を送り届けるの。大自然の精霊の中で、最も死や人間の魂と近しい場所に居るのは私達水霊なのよ。」
「言われてみれば幽霊って水場に良く出るよね。砂漠とか乾燥した地域でそう言う怪談は聞かないし…。」
得心の行った様に深優が呟く中、尚もテミスは滔々と言葉を紡ぎます。
「但し、余りに現世への未練が強かったりすると、死者の魂は水霊との一体化を拒んでその場に留まってしまい、地縛霊や浮遊霊となって残るの。場合によっては暴走して一体化した水霊を逆に支配して取り込み、スペクター等の悪霊となってしまう。そう言う人間は基本的に今わの際まで内に穢れを特濃で溜め込む物ですから、一体化する水霊も当然穢れ水霊だし当然でしょう?こうなってしまうと、上位の水霊やその他の精霊、延いては強い霊力やそれに匹敵する異能を持った人間に頼るしか有りません。私達水霊の役目は、あくまでこの星を循環しつつその穢れを浄化する事のみ。それ以上の事には基本的にノータッチなのですから。とは言え、そう言うケースは余り無いですけどね。多くの場合、余程強い想い以外は一切薄れて抜け殻の様になります。例え犯罪者や悪人の様な穢れ水霊の持ち主でもです。然し同時にその中に宿る水霊も、漸く穢れの苦しみから解放されると共に周囲にいる仲間の水霊から浄化され、改めてそうした輩の魂を彼岸に運ぶのです。」
長話になってしまいましたが、不思議とリラ達はテミスの話に聞き入っていました。死んだら人間はどうなるのか?意識とか自我は消滅して無に還ってしまうのか?生きている人間である以上、全員に関係する事なので俄然興味深く聞き入るのも当然と言う物です。
「じゃあさじゃあさじゃあさ!前世の記憶の話や漫画とかに有る異世界転生って言うのは一体何なの?」
サブカルに詳しい深優がそう興味本位で尋ねると、テミスは更にこう答えます。
「それは死者の魂と水霊が一体化したまま一緒に来世に向かった結果起きる現象です。この世界に於ける前世の記憶は、そうして再びこの世に生を受けたケースなのよ。けれど異世界転生については正直、私達水霊も分かりません。私達が知り尽くしているのはあくまでこの地球の諸々の出来事だけ。異世界の事と地球外の事は門外漢です。宇宙やその周辺の星の事も、長い時間を掛けて人類が調査や観測を行って得たのと同じだけの知識しか有りません。」
「ふ~ん……流石に宇宙とかあの世を含めた異世界の事は水霊でも分からないんだね。」
「…それでも私達人間からすれば十分過ぎる位色々と知ってるからやっぱり水霊は凄いでしょ。」
深優と水夏がそう感想を零すのを横目に、テミスはリラの方を向いて本題に入ります。
「――――では。話を戻しましょう。ユラが死んだ後、本来なら私は彼女の魂と一体化する事でユラを霊界に送り届ける予定でした。然し、ユラは逝くのを拒んだのです。それはリラ、貴女の事が心配で仕方が無かったからよ。だからこそ私はユラと一体化した状態のまま、貴女の事をずっと見守っていたの。」
「えっ?それってまさか――――」
テミスの言葉を受け、一同はそれが何を意味するのか即座に理解しました。代表して葵が声を上げます。
それを受けて次の瞬間、テミスはリラにとって最大級の真実を告げたのです。
「そう、ユラは死んで魂だけとなっても尚、貴女の傍にいたのよ!」
「お、お祖母ちゃんが……私の傍に…………!?」
テミスから告げられた衝撃の真実に、リラは驚きを隠せません。その両目には大粒の涙が浮かんでいました。
「リラ……!」
「リラっち……!」
「リラちゃん…!」
「リラ、お前は………!!」
葵、深優、潤、忍が声を挙げてリラの方を向きます。他の更紗、瑠々、水夏、真理愛、みちるも無言でしたが同じリアクションを取りました。全員、その目に大粒の涙を浮べていました。テミスはリラの前に顔を近付け、両肩に手を置くと、更に力強く真実を熱弁します。
「貴女が八十島理緒奈達の心無い虐めによって生きる気力を失い、死を選ぼうとした時、ユラは私に言ったの。『リラを助けて欲しい!』って……。然し、如何にユラと繋がりが深いからとは言え、何の関係も無い普通の人間でしか無かった貴女の為に何かしてあげる理由は私には元来無かった。其処で私は条件を出したの。『リラにアクアリウムを授け、この星の穢れを浄化する濾過フィルターとしての使命を背負わせる』と言う条件を!」
リラが自殺しようとした時、テミスが彼女の前に都合良く現れたのは、全てユラの意思の導きによる物――――この話だけでも、リラにとっては驚愕でした。
テミスは尚も続けます。
「最初はユラだって一瞬、躊躇いましたよ。当然でしょう?貴女も経験が有るから分かると思いますが、水霊士は水の穢れを浄化してその命を癒す仕事柄、人間の愚かさや醜さ、弱さと言った見たくも無い物が多く目に付く物だと言う事を。そんな物、不快でストレスにしかならないでしょう?ユラは貴女にそんな想いを味わう事無く、普通の女の子として生きて欲しかったの。ですが、今にも入水自殺しそうになった貴女の姿を見て、“背に腹は代えられない”と思ったユラは了承しました。それであの時、私は貴女を助けて水霊士に仕立て上げ、今に至ったのです!」
自分がテミスに救われてアクアリウムを授けられた裏側の真実は、さながらノアの大洪水の如くリラの頭の中を駆け巡りました。他の葵や忍達も絶句して、言葉が出なかったのは言うまでも有りません。
(リラちゃんの話を聞いてて薄々感じてたけど水霊士の使命って、思った以上に凄く重いんだね。わたしに務まるのかな………?)
一方で潤だけが、水霊士としての責務の重さを強く実感していました。
そんな彼女達の胸中を他所に、テミスは更なる真実を伝えます。
「更に言いますと、私の普段取るこの人間態が少女時代のユラの姿なのも、その方がリラにとって親しみやすいと思ったからです。まぁ、元の老婆の姿で現れたら混乱しそうと言うのも有りましたけどね。と言ってもユラは老いても外見的に若々しかったですが。」
言われてみれば確かにユラは生前70過ぎの老婆でしたが、外見的にはまるでそうは見えず、40代半ばから50代前半にしか見えませんでした。
(((そっか。だからテミスはリラのお祖母ちゃんの若い頃にそっくりだったんだ―――――。)))
何れにせよ、テミスの人間態が少女時代のユラと酷似していた事に疑問を抱いていた葵と深優と更紗には大納得の答えでした。
「これが全ての真実よ。どう?納得出来ましたか?」
「うん、もう十分分かったから……。有り難う、テミス。これで全部スッキリした!」
テミスから告げられた答えの数々を受け、得心が行き過ぎる程に行ったリラの気持ちは、濁りの取り除かれたクリアな水の様に澄んでいました。
「「待ってテミス!」」
「葵ちゃん…?みちる先輩…?」
すると次の瞬間、声を上げたのは葵とみちるでした。
「何だよお前等?この期に及んで未だ何か有んのかよ?」
全員の視線が2人に集中する中、葵とみちるは或る意味、リラにとって最も重要な問いをぶつけました。
「テミス、貴女の中にリラのお祖母さんの魂が宿ってると言うのなら―――」
「お祖母ちゃんをリラに会わせてあげる事だって出来るんじゃないの?」
「お祖母ちゃんと……また会える?」
葵とみちるのこの問い掛けに、リラの心は海底地震の如く激しく揺れ動きました。死んだ愛する家族にもう1度会いたい――――誰もが1度は望んだ事ではないでしょうか?
「お願い、テミス!リラのお祖母ちゃんをリラに会わせてあげて!」
「そうよ!リラ、貴女だってお祖母さんに会いたいでしょ!?」
「そ、それは……。」
みちるからの問い掛けに、リラの心は尚も大きく揺れ動きます。
もう1度、死んだお祖母ちゃんに会いたい―――――。
もう1度会って、話がしたい―――――。
テミスから告げられた真実と、それを受けた2人の言葉を受け、そんな想いが海底の熱水噴出孔から湧き上がる温泉の如く沸々と湧き上がって来ます。
そんなリラの胸中を察してか、テミスは意を決してこう返します。
「会いたいかどうかを決めるのは私ではなくリラです。リラ、貴女が望むのならユラに会わせてあげる事が出来ますがどうしますか?ユラと会いたいですか?」
「私は―――――。」
テミスからの問い掛けに、リラは暫し沈黙します。
お祖母ちゃんには確かに会いたい。けれど、会ってどうする?何を話す?
そもそも出会った所で、何か未練みたいな物が残って結局「会わない方が良かった」的なオチが待っているのではないか?
会うか?会わないか?その二択の中でリラが逡巡していると、不意にテミスの中から声が聞こえて来ました。
『テミス、私を解放しなさい。』
「ユラ?」
「!!?お祖母ちゃん!?」
その声は紛れも無い、そしてリラにとっても決して忘れられない懐かしい声―――――最愛の祖母・ユラの声でした。
『リラがこうなってしまったのも、元を糺せば私の不始末による所だって大きいわ。あの日、何も言わずに死んだ時、私だってずっと後悔してたから―――――。』
ユラの声を受け、リラの脳裏には嘗て調布の河原に散歩に行った時、そのまま心臓発作で倒れて帰らぬ人となった祖母の姿がフラッシュバックしました。
気が付けば両目から止め処無く溢れる、滂沱の涙を浮かべながらリラは最愛の祖母を呼びました。
「―――――会いたいよ……お祖母ちゃん!!」
はい、と言う訳で世界観について、死後の世界も含めてネタバレして見ましたが、ぶっちゃけ死んだ後の事を考えるのは大変だった……。只、『異世界転生』に関して、自分なりの答えを出せたのは少し自画自賛なポイントであります。




