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A.Q.U.A.R.I.A  作者: Ирвэс
第四章 嵐の前の静かなる凪
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第40話 忌まわしき記憶の奔流 File.4

新年明けましておめでとうございます。と言う訳で、2022年最初の『A.Q.U.A.R.I.A』をどうぞ!

 西堀を癒し、味方に付ける事に成功した翌日の事でした。

 何時もの通り、アクアリウムの力で虐めようと絡んで来る取り巻き達を退けつつ、リラは無事にその日の放課後まで過ごしていました。

 西堀と時折アイコンタクトを交わし、磯山達を引き離す算段を付けながら―――――。



 「リィィラァァァァ~~~~ッ………!!許さない……絶対に嬲り殺してやるんだから……!!」


 (……んな事出来る訳無いだろ。あいつは正真正銘の化け物なんだから…。)


 何時までもリラを虐められず、逃げられてばかりの状況に、理緒菜は業を煮やすばかり。そしてそんな彼女の言葉を無言で首肯する磯山達のイエスマン振りを横目に、西堀は内心呆れていました。


 (斐子達も斐子達よ。こいつ等も本当は理緒奈から逃げたいって思ってるのに、切っ掛けが無くって逆らうのが怖いからって理由でペコペコしちゃってさ。まぁ、気持ちは分かるけど……。)



 さて、そんな理緒奈達にも放課後、チャンスが廻って来ました。リラはどうやら1人でトイレに向かう様です。

 その様子を物陰から窺っていた理緒奈達は、今度こそリラにたっぷり水をぶっかけ、同時に彼女の全身を便所掃除用のモップで雑菌塗れにしてやろうと画策します。


 「良ーし……今度こそあいつに思い知らせてやるわ……。皆、準備は良いわね?」


 すると突然、西堀が理緒奈にこう進言しました。


 「それなんだけど理緒奈、今回は私等4人だけで行かせてくれない?」


 「はぁ!?」


 「ちょっ、何で!?」


 突然の提案に困惑する理緒奈と磯山達ですが、西堀は御構い無しにこう続けます。


 「だって、もしまたあいつの近くに来て息が苦しくなって何も出来なかったらどうすんの?理緒奈が苦しい想いするとこ見るなんて、私はもう嫌よ?」


 「小梅、あんた……。」


 自分がリラのアクアリウムの力で息が出来なくて苦しい想いをするのが嫌―――――そんな風に気遣う西堀の言葉に、理緒奈は一瞬心を動かされました。西堀がそんな優しさを掛けてくれる相手と思うと、理緒奈も友情を感じずにはいられません。

 然し、当然ながら西堀の言葉は理緒奈への思い遣りとか友情から来ている物などでは断じてありません。全ては理緒奈から磯山達を引き離し、リラのアクアリウムに掛ける為の計算ずくです。現に西堀はリラがトイレに向かう直前、こっそりスマホのメールで此処までの流れを理緒奈の目を盗んで彼女と打ち合わせしていたのでした。


 「何言ってんのさ小梅!?私等が苦しい想いしたって良いっての!?」


 「そっ、そーよそーよ!冗談じゃないわ!」


 そう言って抗議する磯山と鹿瀬の2人ですが、金森は落ち着いた様子で西堀に尋ねます。


 「何か考えでも有って言ってんの、小梅?」


 すると西堀は不敵に笑いながら言いました。


 「あいつがどんな手品使ってるか知らないけど、近付いて息が苦しくなるってんなら最初から息止めて襲い掛かれば良いだけじゃん?流石のあいつもそうすりゃ何も出来ないでやられるでしょ?」


 「あぁ~、成る程ね……。」


 「梅ちゃん、ナイスアイディア!」


 西堀から秘策を聞かされ、納得する磯山達3人ですが、其処へ理緒奈が口を開いて言います。


 「そんな手が有るなら、私も一緒に行っても良いんじゃないの?」


 「駄目駄目!理緒奈も虐めたくってしょうがないんだろうけど、私はそれ以上にあいつの事ボコボコにしたくってしたくてしょうがないんだよね。もうフラレ溜まりまくりでさぁ……!!」


 「そ、そうなんだ………。」


 自分以上の下衆顔を作りながらそう答える西堀の気迫に押され、理緒奈はそう返すしか出来ませんでした。


 「まぁ、他にも理緒奈には私等の手でボコボコにされたあいつの馬鹿面を真っ先に見て貰いたいって言うのも有るからさ!楽しみにしててよ?私等、友達じゃん?」


 「友達……そ、そうね!」


 白々しく自分達が友達だと念を押す西堀の言葉に磯山達は嫌悪感を抱きましたが、肝心の理緒奈当人は全く気付いていませんでした。それ処か、その言葉に納得して頷く始末。我が儘で傲慢な暴君気取りの悪女としか言い様の無い理緒奈でしたが、その様子は端から見ると哀れを通り越して滑稽と言う他有りません。これを“裸の王様”と言わずして何と言うのかと言う話です。


 「それじゃ皆、張り切ってあいつボコりに行っくよ~ッ!!」


 そんな理緒奈を他所に、1人無駄にテンションを上げながら、西堀は磯山達を連れてリラの待ち受けるトイレへと入って行きました。



 「あれ?リラの奴、いないじゃん?」


 「馬ー鹿!あそこでしょ?」


 果たして、西堀達がトイレに入り込むと、其処にはリラの姿が見えません。然し、トイレのドアが1つ閉まってるのを見て、直ぐに其処にリラがいる事を察した一同は、すぐさまそのドアを取り囲みました。

 すると突然、周囲に青のオーヴァーレイが掛かったかと思うと、磯山達の息が苦しくなりました。


 「うッ…くぅっ、苦しい……!?」


 「また、この…感じ……ゴボボボッ!!」


 「何…?周りに泳いでるのって……ゴボッ…魚!?」


 気付けばリラのブルーフィールドに捕まった磯山達の周りには、複数のグッピーやプラティ達が泳ぎ回っていました。尚、既にアクアリウムで穢れを癒されていた西堀はもう苦しさを感じていません。

 すると次の瞬間、トイレのドアが開くと同時に中から現れたのは両手にコバルトブルーの光球を携えたリラの姿。


 (リッ、リラ!?)


 (まさか、これってリラの仕業だったの………!?)


 (この息苦しさ、CGやVRじゃない!?もしかして、本物!?)


 全てが分かった時には何もかも手遅れ。そのままリラは無言でクラリファイイングスパイラルを展開し、そのまま3人の中の水霊(アクア)の穢れを癒します。因みに3人の内なる水霊(アクア)ですが、磯山はマゴチ型で鹿瀬は鮎型、金森はクサガメ型でした。

 優しく、温かい光の螺旋の中を揺蕩い、3人は自分達のこれまでを振り返っていました。皆、親子関係が冷え切っていたり、或いは親が過保護だったりと言った問題の有る家庭に生まれており、その弊害でまともな育ち方をしていませんでした。学校でも何時も孤立し、落ちこぼれとして落伍しかけていた者もいましたが、そんな彼女達の心の隙間を埋めるかの様に都合良く現れた理緒奈と出会い、今に至ったのでした。

 其処から廻り廻ってこんな所まで来てしまい、彼女達も正直ウンザリしていたのです。リラを虐めていたのだって、個人的に彼女が気に食わなかったのも勿論有りますが、それ以上に理緒奈にマウントを取られた状態で学園生活を送る日々に嫌気が差しつつ、其処から脱却出来ない自分達への苛立ちからと言うのが大きい。

 そうした自分の姿を見つめ直した直後、クラリアに自身の身体を貫かれた事で磯山達は見事に癒され、心のしがらみから解き放たれるのでした!



 それから5分近く経ったでしょうか?暫くしてトイレのドアが開くと、外で待っていた理緒奈が嬉々として近付いて来ます。リラの虐めに成功した物と思ったのでしょう。


 「皆、上手く行ったの!?あいつの事、ズッタボロに…って、え………?」


 ですが、ドアから出て来たのはずぶ濡れにすらなっていないリラの姿でした。これには理緒奈も開いた口が塞がりません。


 「どうしたの理緒奈ちゃん?トイレなら早く行ったら?」


 思考が停止して絶句する理緒奈に対し、いけしゃあしゃあと何等悪びれる事無くそう言い残すと、リラは足早にその場を後にします。

 リラがトイレから出て行った直後、磯山達が遅れてトイレから出て来ました。


 「こ、小梅!斐子!友紀に絹江までどうしたのよ!?あんた達、リラの事虐めてたんじゃなかったの!?」


 「信じられない」と言わんばかりの表情で声を上げる理緒奈に対し、西堀が口を開いて言いました。


 「御免……やっぱ無理だった。」


 「やっぱ無理って…あんだけ大口叩いといて今更そんな勝手な……」


 「しょうがないじゃん!だってあいつ、本物の化け物なんだもん!」


 開き直る西堀の言葉に、理緒奈は思わず気圧されました。今まで自分に決して逆らう事の無かった相手から、表立って反目されたのです。飼い犬に手を噛まれたのが生まれて初めてだった理緒奈は只、動揺するしか出来ません。

 そんな彼女の隙を突く様に、磯山も思いの丈をぶつけます。


 「あんな魚の幽霊みたいなの操るなんて、リラは本物の化け物よ!あんな奴を今まで虐めてたなんて、その内私等あいつに殺されちゃう!」


 「魚の幽霊って…一体何の事よ!?そんなの居る訳…」


 「それがいるのよ!あいつに手ぇ出そうとした時、いきなり何処からか沢山現れて襲って来たの!!」


 「その後何されたか覚えてないけど、兎に角今度またリラを虐めたら、あのお化け達に今度こそ殺されちゃう!」


 恐怖に駆られるまま、魚の幽霊などと訳の分からない妄言を並べ立てる取り巻き達の言葉に、理緒奈の混乱はますます強まるばかりでした。2年になってからリラを虐めようとしたら息が苦しくなって出来なくなっていたけど、その原因が魚の幽霊?全く意味が分かりません。

 すると次の瞬間、金森は理緒奈に対してこう告げます。それは彼女にとって、余りに残酷な言葉でした。



 「兎に角、もう私達……リラ虐めるの辞める。」


 リラを虐めるのをもう辞める―――――理緒奈にとってそれは裏切りにも等しい宣言です。無論、理緒奈は口を開いて抗議します。


 「はぁっ!?あんた達…そんな事、許される訳……」


 「別に許して貰おうなんて思ってないよ!!」


 然し、それは次の瞬間、西堀によって阻まれてしまいました。


 「…正直私等ウンザリなんだよね。今まで散々あんたのトモダチごっこに付き合って来たけどさ、もう良い加減限界…!」


 「限界ですって?ふざけんな!!あんた達、私が声掛けなかったら周りからハブられてぼっちだった癖に、其処から救ってやった恩を仇で……」


 「それはもう感謝してる!でも、その恩なら今まであんたの遊びや買い物とかに付き合って返して来た心算だから…!仇で返すなんて筋違いな事言わないでよ!」


 「ぶっちゃけリラの事虐めて楽しいって思う反面、内心怖かったわよ……リラの次は私の番じゃないのかなってさ……。そう思うとずっと怖くて怖くて………!!あいつ虐めるのだって楽しくなくなって来ちゃった……。」


 「もう私、リラにも理緒奈にも関わりたくない……って言うかもう絶交したいよ!」


 西堀と磯山、鹿瀬の口から放たれる本音の前に、理緒奈は凍り付かざるを得ませんでした。その時の理緒奈の心境は、まるでバスタブ一杯分の液体窒素を頭からモロにぶっ掛けられるのに酷似していたのです。

 カチカチに凍り付いた所をハンマーで粉砕すると言う追い打ちを掛けるが如く、金森は止めの言葉を投げ掛けました。


 「そう言う訳だから……リラ虐めたいんならこの先、理緒奈1人でやってよ。って言うか未だリラを虐めるのに付き合わせる気ならもう私達、理緒奈の友達続けてられない。」


 「んじゃ……サヨナラ―――――。」


 そう言い残し、西堀達は理緒奈の元から去って行きました。そして当の理緒奈は唖然としたまま、そんな4人を見送るしか出来ませんでした。

 一方、4人はホッと一息吐くと同時に、心の底から久し振りに嬉しい気持ちが込み上げており、気付けば口元には満面の笑みすら浮かんでいます。然し、それも無理からぬ話でしょう。自分達を支配して来た忌々しいフレネミーと縁切り出来た訳ですから……。


 (しめしめ、リラを利用したお陰でやっとあいつと縁が切れる!)


 (何っ時も偉そうに命令しやがってあの糞理緒奈!)


 (でもあんな間抜け面見れたお陰で今日までの恨み、全部チャラにしても良いかも♪)


 (これもリラのお陰ね。今まで虐めて来たけど、そのお詫びはちょっとはしよっかな?)


 

 此処で話はトイレで西堀以外の3人がアクアリウムで癒された所へ一時戻しましょう。

 それは、リラから西堀以外の3人がクラリファイイングスパイラルで穢れを癒された直後の事です。西堀が見守る中、3人は数分の間気を失っていましたが、やがて意識を取り戻します。

 

 「うっ…、私等、一体…?」


 「急に息苦しくなったかって思ったら周りが真っ暗になって、いきなり身体が軽くなってお風呂にでも入ってる気持ちになって……。」


 「そう言えば何だか、気分がスッキリした感じ…。」


 自身の心身に起きた良い変化を感じつつ身を起こすと、口を開いたのは西堀でした。


 「それはね、こいつがあんた達を癒したお陰よ。」


 「「「!?」」」


 リラを指差してそう告げる西堀の言葉を受け、磯山達は一斉にその視線をリラへと向けました。


 「は!?こいつ…」


 「馬鹿!声デカいわよ!理緒奈に聞かれたらどうすんの!?」


 思わず声を上げそうになる磯山を、咄嗟に西堀は静止します。自身がリラの協力者になっている事を理緒奈にバレたら、色々と厄介な事になるからです。と言っても、実際にアクアリウムを見ていない理緒奈が信じる道理など無い為、今トイレに入って来られても何等問題は無いのですが……。


 「…そう言えば小梅だけ、あの変な光の中に入ってなかったよね?」


 「あぁ、言われてみれば確かに…。」


 金森の指摘を受け、鹿瀬が納得した様に相槌を打ちます。磯山も黙っていましたがそれは一緒でした。すると西堀は此処で昨日の出来事をカミングアウトします。


 「そりゃそうでしょ。だって私、昨日こいつからさっきあんた達がされたのと同じ事されて、心も体もスッキリしたもん。確かアクアリウムとかって名前の魔法だってこいつ、言ってたわ。」


 「嘘、マジで!?」


 「小梅、昨日リラからあんな事されてたの!?」


 「って言うか、理緒奈抜きで私達だけでリラ虐めようなんて言ってたのも、全部この為だったの!?あんた達2人、昨日からグルになってた訳!?」


 西堀の言葉に、磯山達は驚愕するしか出来ませんでした。


 「まぁ、最初は信じられなかったけどね。でもお陰でずっと中に溜まってた胸糞な気持ちが一気に洗い出されて綺麗になったし、それからこいつにあれこれ言われて私も吹っ切れたの。もう理緒奈と縁切ろうってさ。」


 「「「えぇっ!?理緒奈と縁切りすんの!?」」」


 「ちょっと!3人とも!」


 「あんた等声デカいっての!!理緒奈に聞かれてどうすんのよ!?」


 『理緒奈と縁を切る』―――――西堀の言葉は、磯山達からすれば国家の様な大局に逆らい、そのまま処刑される様な事をすると宣言しているに等しい物です。思わず声を張り上げる3人を咄嗟に制止するリラと西堀は、恐る恐るトイレのドアの方に目を向けます。幸い、ドアの窓ガラスを見る限り理緒奈らしい人影は見えません。どうやら彼女はトイレの入り口から少し離れた場所でスマホを弄って時間潰しをしている様です。


 「ほほほ、本気なの小梅!?あいつと縁を切るって……。」


 「もし逆らったら私達、理緒奈に何されるか分かんないよ?リラの代わりに私達、虐められちゃうかも……!!」


 「嫌よそんなの!リラを虐めるのもそうだけど、理緒奈を敵に回すなんてそんな、もっと嫌………!!」


 理緒奈の恐怖に怯える彼女達に対し、リラは再びアクアリウムをブルーフィールドで展開します。周囲に無数の魚やその他の水生生物が群がる光景に、4人は思わず目を奪われました。


 「皆落ち着いて。大丈夫だから…!」


 「大丈夫って……。」


 「心配しなくても、私が理緒奈ちゃんを癒してあげる。あの子の心の汚れを綺麗にすれば、きっと誰も虐めなくって済むと思うから!」


 そう言ってリラは右手にメダカ型の水霊(アクア)達を集めて光の球を再び形成して見せます。光から発せられる温かさと、魚達がすり抜ける度に肉体が感じる優しい爽快感に、これがCGやVRの類でない事を改めて4人は実感させられました。

 同時に彼女達は、改めてリラの顔を直視します。彼女の顔はもう、自分達から虐められていた時に見た、何かに怯えて縮こまっていた頼りない面構えではまるでなくなっており、藍色の瞳には薄らとですが目力を感じました。アクアリウムの力を得て、強くなった心算なのでしょうか?それは分かりませんが、西堀に続いて磯山達も思いました。


 そう、『理緒奈の事はこの化け物に全部任せて、自分達は安全な場所へ逃げれば良いんだ』と―――。


 「……分かったわよ。小梅も其処まで言うんなら、私達ももうあいつとつるむの辞めるわ。ぶっちゃけあいつの我が儘に付き合うのだって、最近ウンザリしてたし…。」


 「リラの事虐めるのだって、正直飽きて来たしね。って言うか、リラ自殺したら次私がやられるのかなって思ってたし、もう怖いよ……。」


 「兎に角、あいつから逃げられるなら何だって良いわ。でも学校居られなくなったらその時は責任取りなさいよね…?」


 (本当に皆、理緒奈ちゃんが怖かったんだ……。私の事を虐める横で、次は自分が虐められるんじゃないかって………。)


 西堀の言う通り、彼女達は完全な自分の意志でリラを虐めているのでは無く理緒奈への恐怖からそうしているのに過ぎない事をリラは確信しました。

 虐めは人間に限らず、群れで生活する動物ならどんな生き物にも存在します。イルカもすればディスカスと言う熱帯魚もしますし、有名な所では鶏もそうです。群れる生き物はそうやって優劣を付ける事で社会的弱者を作り、その秩序を維持しようと言う哀しい性を持っている物。予めそうした弱者と言う生贄(スケープゴート)を用意しておく事で、外敵に襲われた時の身代わりに使い、皆が逃げられる様にする為の存在を“群れ”は常に求めているのです。


 つまり、虐めとは『社会的動物が群れ=社会を維持する為の切実な生存戦略』なのです!想像してみて下さい。もし自分が群れで暮らす野生動物で、凶暴な肉食動物に襲われたとします。相手が単体にせよ集団にせよ、襲われたら自分が喰い殺されるかも知れない…。然し、代わりに喰われてくれる相手がいれば自身は殺されずに済んで生き延びられます。そう言う弱者を作り、安心したいが為に行う行為こそが虐めの本質なのです。であるからこそ、虐めは虐めっ子がいなくなった所で無くなる物では断じてありません。また新たな生贄(スケープゴート)が作り出されるだけ。虐めなければ自分が虐められる――――次は自分の番だと思うと、誰だって怖いのは至極当然の事でしょう。


 3人の言葉を受け、リラは改めて頷きます。そしてこう告げました。


 「じゃあ皆、私は先に帰るから。怖いかもだけど、理緒奈ちゃんには勇気を出して本当の気持ちをぶつけて逃げて。その後は私が何とかするから!」


 もう引き返せない所に来ている事を実感しつつ、リラはトイレの外へと出て行くのでした。



 さて、西堀達が理緒奈に絶縁状を突き付けている間、リラは教室の鞄を手に、1人下校の途に在りました。不意にそんな彼女のスマホがメールの着信音を響かせます。内容を確認すれば、それは西堀からでした。


 『アンタのおかげでアイツとの縁、バッチリ切れたわよ。それだけは礼を言っとくわ。じゃあ私ら、しばらく学校行かないから後なんとかしなさいよね。こっちはヤバくなったら転校して逃げるだけだし。』


 どうやらこれを機に理緒奈がどうにかなるまで不登校を決め込む心算の様です。最後の手段として転校まで考えている様ですが、結局自分に全てを体良く丸投げしようとする彼女達の身勝手さと狡猾さがありありと伝わって来る文面でした。それを見てリラは、思わず大きく溜め息を吐きました。


 (私って、結局何時も損な役回りなのね……。)


 自分がどちらかと言えば人に都合の良い存在として舐められ、下に見られる人間なのはこの1年間で嫌と言う程思い知らされましたが、改めてそれを再確認させられるとなると、どうにも遣る瀬無い気持ちになります。

 然し、その事で愚痴っていても何も始まりません。取り巻きを失い、理緒奈が黙っているとはとても思えないからです。

 其処へ突然、人間態のテミスが現れてリラに話し掛けて来ます。


 「リラ、戦いは此処からが正念場よ。これからあの虐めっ子は良からぬ事を貴女にして来るでしょう。」


 テミスの言葉に、リラは改めて表情を引き締めます。そう……理緒奈と言う虐めの悪魔との戦いは、彼女の取り巻きを引き剥がして終わりではありません。肝心の彼女の心の穢れを癒さなければ、戦いは終わらないのです。


 「ですが恐れる事は有りません。貴女には私達水霊(アクア)が付いています。必ずあの虐めっ子を退けさせてあげますから、安心して明日も学校へ行きなさい。良いわね?」


 自身の保護者の言葉に頷きながら、リラは1人家路を急ぐのでした。 



 一方、皆が帰った学校では―――――。


 「リィィィラァァァァァ~~~~~ッ……!!とうとうこの私を本気で怒らせたわね?良いわ、覚悟なさい。あんたをこれからあの裏切者共と一緒に抹殺してあげるんだから………!!!」


 誰もいない教室で、理緒奈はリラと自身の取り巻きだった裏切者達に対し、激しい憎悪の念を巨大な火柱の如く燃やしていました……………。

 そして後日、とうとう彼女は恐ろしい実力行使に踏み切る事となるのです……………。

過去編は次で終わりです!


アクアリウム講座3


水霊(アクア)について


作中における主な水の精霊。地球に遍く存在し、星全体を廻る全ての水の化身と言うべき存在でその循環を守り、穢れを浄化する役割を担う。

地球全体の水の化身ではあるが、その人格と現身は無限に存在しており、然も姿形は全て水生生物。そして人格も全て女性である。

下級水霊(アクア)から上位水霊(アクア)までおり、上位で有れば有る程当然力は強い。地球全体を現在進行形で循環している水其の物なので、地球全土で起こっている出来事や過去の46億年の間に起こった出来事の全てを知り尽くしている。そしてその情報を水霊士(アクアリスト)に対して必要と有らば、脳に映像と音声付きで直接流す事も可能。

川や海や雲等、水在る場所なら何処にでも出没し、回遊しているが人間を始め、体が水で出来た生き物の内にも宿っている。

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