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A.Q.U.A.R.I.A  作者: Ирвэс
第一章 始まる水の廻り
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第3話 Clarifying Spiral(前編)

第3話 Clarifying Spiral(前編)

 「飯岡」と呼ばれた先輩の少女の上履きと靴下を、2階の窓から投げ捨てた3人の先輩達。彼女達の姿を見た飯岡の怯えた表情から判断しても、この3人から飯岡が虐められていると見て間違いは無いでしょう。

 虐めっ子と思しき3人の先輩達を前に、リラは意を決して周囲の水霊(アクア)達へとテレパシーで呼び掛けます。


 (皆、あの3人の周りを取り囲んで!)


 彼女がそう呼び掛けると、周囲を泳いでいた小型の水霊(アクア)達が瞬く間にその場に集まり、虐めっ子の3人を包囲する様に泳ぎ始めました。その光景はまるで鰯の群れの様です。

 当然ながら虐めっ子の3人にはそんな水霊(アクア)達の姿など見えていません。


 (えっ?えっ……?何これ……。)


 ですがちょっと待って下さい。飯岡と呼ばれる先輩の少女には薄らと輪郭程度ですが、自分達の周囲に居る者達の姿が霊視出来る様ですよ?

 可笑しな光景に戸惑いを隠せない飯岡がリラに尋ねようと試みます。


 「ねっ、ねぇ、貴女!この魚みた……。」


 「ってかさ飯岡、そいつ誰?」


 「もしかして、そいつにでも上履き拾って貰ったって訳?」


 「ヒッ……!!」


 けれど、その言葉を言い終る前に虐めっ子3人の内2人が高圧的な態度で飯岡を問い詰めます。


 「そうですけど、だったら何だって言うんですか?」


 リラが負けじとそう言い返すと、3人のリーダー格と思しき女子がリラの胸倉を掴んでなじります。


 「てめぇ、私等のゲーム邪魔して何の心算だよ、おい!余計な事してんじゃねーぞ!!」


 そう居丈高な態度で罵るリーダー格の女子。すると取り巻きの1人が言います。


 「あれ?砂川、こいつ1年だよ?」


 「ふーん、そうなんだぁ……1年のヒヨッ子の癖に私等の“玩具”に手ぇ出そうなんて良い度胸してんじゃんさぁ?」


 取り巻きにリラが1年である事を指摘されるなり、砂川と呼ばれたそのリーダー格の女子は昏い笑みを浮かべてリラを睨み付けました。

 然し、リラは怯みません。何故なら、この様な修羅場は過去にもう幾度も潜って来たのだから……。

 ですが、それ以上にリラが怒りを覚えたのは“ゲーム”、“玩具”と言う単語でした。

 今し方出会ったばかりで、上履きを窓から投げ捨てる以外に彼女達が飯岡をいじめた現場をリラは目撃した訳では有りません。ですが、それでも先の2つの単語だけで確信出来てしまうのです。目の前の3人が、この飯岡と言う少女の事を人間(ヒト)扱いしていない事を……。

 そして弱者を虐げ、その心と身体を踏み躙り、苦痛で歪ませておきながら、それを『単なる遊び』で済ませると言う連中の腐り果てた性根を……!!

 

 「玩具……ですって?」


 怒気を込めた声でそう言うと、リラは力ずくで砂川の腕を振り解きます。他者を虐げるその腐った性根も、穢れの産物と言うのならば浄化しなければなりません。

 相手がサイコパスと呼ばれる様な反社会的な人格でもない限り、他者を傷付け、踏み躙るのは心と身体の水が穢れて優しさを失っただけなのだから――――――。

 相手を思い遣る優しさも、人を愛して慈しむ気持ちも、全ては穢れの無い水が身体の中を駆け巡り、例え穢れが発生しても、それを浄化する水霊(アクア)と言う濾過フィルターが正常に機能している状態から――――――!!


 「うおっ、てめぇ……!?」


 後ろにジャンプして距離を取ると、リラは右手に10体近い水霊(アクア)を集めました。すると、集まった水霊(アクア)達はコバルトブルーの光球へと変貌し始め、見る見る大きくなり出したのです。幻覚でしょうか?気付けば彼女の周囲の空間にも青いオーバーレイが掛かり、薄らと気泡の様な物も見え始めています。

 

 「ねぇ、ちょっと……何あれ?手品?」


 「いや、私が知るかよ!」


 「おい、砂川こいつちょっと変じゃね?周りにも何か魚みたいなの見えるし……。」


 「ねぇ、さっきから気になってたけど一体何なのよ貴方?」


 コバルトブルーの光の球を始め、リラに起こった現象はどうやら虐めっ子3人にも、そして飯岡にも視認出来る様でした。アクアリウムを発動すると、力の解放度に応じてリラを中心に周囲の一般人でも水霊(アクア)が見える様になるのです。現在リラの発動レヴェルは未だ5~6%程で、この程度だと半径3m以内の人間にしか見えません。4人に見えるのはその射程内に彼女達が居たからなのですが、何故飯岡にはリラが能力発動前なのに水霊(アクア)が薄らと見えたのでしょう?

 それは此処では割愛しますが、とうとうリラのアクアリウムの能力がその全貌を見せるか―――――と思われたその時でした。



 「あっ、居た!」



 不意に背後から響く更紗の声。何事かと思わず振り返ると、其処には葵と深優と更紗と言う3人のクラスメイトの姿が有ったのです。


 「えっ?皆、どうして……?」


 突然響いた更紗の声を受け、リラは反射的に能力を解除していました。先程まで見えた水霊(アクア)は忽ち消えてもう見えません。呆気に取られたまま葵達を見つめるリラを他所に、葵が虐めっ子3人の前に出て頭を下げました。

 

 「御免なさい!喧嘩してるみたいだったですけど、この子が何か迷惑になる様な事したなら謝りますから!」


 突然の葵の謝罪の言葉に、その場にいた虐めっ子3人組及び飯岡の先輩達は目が点になりました。当然リラもそれは同様です。


 「私達、落ちて来た上履きの持ち主を探しに来てただけなんです!それで……あっ、その濡れた靴下の跡……もしかして見つかったのリラっち!?」


 「リラっち!?」


 突然深優からそんな風に呼ばれ、リラは唖然とした表情を浮かべます。そんな彼女を横目に更紗は「良かった……」と呟き、続け様に砂川達に向けてこう言葉を紡ぎます。


 「兎に角、上履きの持ち主も見つかった事ですし、私達はこれで失礼します。もう直ぐ授業も始まりますしね……。」


 「ホラ、行こ!」と葵がリラの手を掴むと、そのまま3人は足早にリラを連れて1年2組の教室へと向かいます。因みに1年生の教室は校舎の3階に有りました。

 そして、その場に取り残された砂川達虐めっ子3人と飯岡は、只々呆然とした様子でその場から去って行く1年生4人の後姿を見送るだけでした。



 1年の教室の有る階段を駆け昇りながら、リラは3人に向かって文句とも取れる言葉を投げ掛けました。


 「ねぇ、いきなり出て来て何なの?先輩達と大事な話してたのに邪魔なんかして……」


 「邪魔って何よ邪魔って!?」


 リラの言葉に対し、葵がキッと睨み返してそう声を挙げました。


 「だってリラっち、あの状況どう考えたってヤバかったじゃん?」


 葵に続き、深優もそう言って続けます。


 「事情は良く分かんないけど、窓から訳も無く上履き飛んで来るなんて有り得ないでしょ?あれって2年生の中で起きた虐めじゃない?靴下まで中に入っててしかも水路に落ちるかも知れない中庭に放るなんて、遊びや悪ふざけで普通そんな事する?どう考えたって悪意100%の虐めでしょあれは!」


 「駆け付けた時に見たけど、もしかしてあの眼鏡の先輩が上履きの持ち主で、リラ以外の他の3人の先輩が上履きを投げた犯人なの?」


 理路整然と説明する深優の姿に、リラは「賢い子だな」と思いました。昼食を食べていた時に「もう勉強分かんないとこ有ったって教えてやんないぞーッ!!」と言っていた所からも、少なくとも葵よりは勉強が出来る様ですし、相応に頭は良いのでしょう。

 そんな深優に続く更紗の問い掛けに対しリラは答えます。


 「うん、昇降口に行った時にあの眼鏡の先輩―――飯岡って言う人が裸足で歩いて来たから間違い無いわ。そしてあの3人も、飯岡先輩の上履きを投げたのをゲームだって言ってた…。」


 リラがそう説明すると、真っ先に憤慨して見せたのは葵でした。


 「何それ酷い!先輩達にリラが絡まれてて「まさか」って思ったけど、やっぱり深優の通りあれって虐めだったんだ!!って言うか人を虐めてゲームだなんて許せない!!」


 ですが、それを真っ先に諭すのは当然と言うべきか、聡明な幼馴染みの深優です。


 「でも、そんな事先生に言ってどうなるの?どうせまともに相手なんてしてくれないし、下手したらあの3人から仕返しで酷い目に遭わされるだけよ?」


 「うぅ……そっか……」


 「悔しいけど、あの先輩達の事に首を突っ込むのは止めた方が良いよね……」


 そう言って肩を落とす葵と更紗。ですが、葵は直ぐに気を取り直してリラに向かって言いました。


 「でもあんな虐めっ子の先輩に絡まれてたんだもん。助けに入って正解だったよ。それを邪魔だなんて言い方無いじゃんリラ!!」


 「って言うかさっきから気になってたけど、皆私の事「リラ」とか「リラっち」って呼んでるけど何で?」


 至極真っ当な問い掛けをリラが発すると3人はキョトンとなり、「どうしてそんな事を訊くの?」と言わんばかりの表情を浮かべました。3人を代表して葵が言います。



 「え?だってリラ、もう『友達』でしょ?」



 (―――――――え?友達?)



 その言葉に、リラは自分の心臓が緊迫の内に大きく脈打つのを感じました。今まで自分の事を友達と呼んで近付いて来る人間はいましたが、皆自分の事を体良く利用するだけの上っ面の連中ばかりだったのです。

 だからリラは、その言葉に対して少なからず抵抗感と言いますか不信感と言いますか、そうした拒絶の感情を抱く様になっていたのです。


 「……そ、そんな……今日1日一緒にお昼ご飯に食べただけでしょ?それで友達だなんて……」


 「あれ?でも「同じ釜の飯を食う」って言うし、一緒に食事するってそれだけで仲良しの友達になる儀式みたいな物だって思うけどなぁ?」


 中学時代の虐めから、友達を作る事に対して臆病になっていたリラ。然し、葵と深優の言葉がその『心の壁』と言う名のダムを決壊させる小さな穴を開け始めていました。


 「直ぐにはそんな仲良くなれるなんて思って無いよ?これは言ってみれば『形から入る』とか、もっと近い言い方すれば『関係の前借り』って言うのかな?」


 そう言うと更紗はリラの顔を真っ直ぐ見つめ、そしてこう続けます。


 「形だけじゃなくって中身もちゃんとそれらしくする為にも、これから私達、貴方の事が色々と知りたいんだ。良いでしょ、リラ!」


 「そんな訳だからリラ、改めて宜しくね!」


 「私もリラっちと色々とお話したいな♪」


 一切の悪意が感じられない顔でそう言い放つ3人。恐る恐るアクアリウムの能力を発動して見ると、葵も深優も更紗も穢れの無い水で満たされていました。仮に穢れが有ったとしても、それは内なる水霊(アクア)が浄化してくれるでしょうけれど、その水霊(アクア)も決して弱くは無く寧ろ強い力を秘めている様でした。

 今まで色んな人間の事をアクアリウムの能力を通して観察して来た手前、彼女達に穢れが無いのは入学してから一週間の調査の中で分かっていましたが、実際話してその心に触れなければ、内なる水霊(アクア)の何たるかまでは判別出来ません。


 内なる水霊(アクア)の強さは、そのまま宿主たる人間の心や肉体の強さに比例します。『健全な肉体には健全な精神が宿る』と言いますが、健康的で力強い心身には強い水霊(アクア)も宿るのです。

 どうやら彼女達はリラの中で“当たり”の様でした。そして同時にリラの中での友達の条件も、『穢れの無い水霊(アクア)を内側に宿すか否か』に改めて定まりました。



 「うん……宜しくね、葵ちゃん!深優ちゃん!更紗ちゃん!」



 そう言って微笑み返すリラの顔を見て、3人も一際嬉しげな顔になりました。



 キーンコーンカーンコーン!!



 おっと、どうやら昼休みはもうこれで終わりの様です。急いで4人は元の1年2組の教室へと向かい、次の授業に備えるのでした――――――。

 

 (そう言えばあの場所に乱入した時、私がアクアリウムの力を顕現させてた所、3人は見てたのかな?)



 午後の授業の間、教室でリラは机に向かいながら、テレパシーでテミスに呼び掛けます。


 (テミス、貴女にお願いが有るの。)


 テミスが返します。


 (分かってるわ。あの飯岡と言う少女、そして彼女を虐めている砂川と言う少女とその取り巻きの2人に関してでしょう?)


 (流石テミス!水霊(アクア)達は情報が早くて良いわ!)


 水霊(アクア)は水其の物。そして水の惑星である地球では膨大な量の水が陸海空と、世界中の隅々まで液体、固体、気体と形態を問わず循環しています。

 水は空気と並んで地球誕生以来の全てを見て、知っていると言っても過言では無いのです。

 当然水霊(アクア)達はその全てを知っており、知りたい事を即座に検索及び即答が可能。その速さと情報の精度の高さは、人間の築き上げた情報網(インターネット)の比では有りません。

 

 (飯岡と呼ばれた少女―――――フルネームは飯岡潤。家は蒼國市のウォーターフロントに在るマンションの2階。両親と兄がいるけれど、親が共働きで家には殆ど居ないし、兄が大学に去年進学して家を出てから1人で過ごす事が多いわ。本人も何時もオドオドしてる気弱な性格よ。)


 テミスはリラの脳の中に虐められっ子の少女、飯岡潤の情報を映像付きで流しました。最初は具体的なプロフィールですが、次に流れてくる情報はリラが気にしている彼女の近況でした。

 リラから伝えられる潤の近況は悲惨の一語でした。砂川とそのグループによる虐めは、1年の2学期頃から始まっていたのです。「トロい」だの「胸がデカくて生意気」だのと言う罵倒に始まり机に画鋲、今回の上履きの様に私物を窓から校庭、時には通学路に流れる川へと投げ捨てられ、体操着に悪口の悪戯書きをされ、教科書にも同じく酷い落書き。

 挙句の果てには嫌がる彼女の胸を執拗且つ乱暴に揉みしだき、太腿を撫で回すセクハラ三昧と、それに対して嬌声を挙げれば殴る蹴るの暴行―――――。


 (何これ……?酷い……!!)


 聞くに堪えない悪口雑言……。目を覆いたくなる様な、悲惨な虐めの映像(ヴィジョン)……。リラは心を痛めると同時に激しい怒りを覚えました。虐めの手口もそうですが、家庭環境も嘗ての自分と何処と無く似た所が有る手前、余計に強い同情心と悲憤慷慨の念が込み上げます。

 

 (虐めはそう言う目に遭う人だって悪いなんて言うけど、どんな人にだって欠点も有れば駄目な所だって有るのに……。それをお互い認め合って補って、助け合って行くのが人の筈なのに……!!)


 リラがそう思った所で、哀しいかな世界と言う物は弱い者に対し、決して優しくないのが常と言う物です。


 この世界は、どんな理屈を述べようとも所詮は弱肉強食。弱い者は強者の糧であり慰み物以外の価値は無く、その価値すら無い物は死ぬしか無い。

 少なくとも野生の大自然は肉食獣、草食獣問わず餌に在り付けない者は生きる価値の無い無能者であり、特に後者は前者の脅威にすら怯えて生きねばならない。生存競争に落伍する者は即、死有るのみ!

 けれどそんな世界の摂理に逆らうが如く、人間は自身の非力さ故に他者への優しさ――――言い換えれば『心』を育み、文明社会と言う、弱者でもそれなりに生きて行けるシステムを作りました。然し、それだって敗北や落伍が直ちに死に直結しないと言うだけで、結局は強者から体良く奪われ、搾取され続け、死ぬまでの間ずっと底辺を這いずり回る事になるのが実態です。

 理想の上では人間社会と言うのは弱者救済、況してや近現代に於いては“基本的人権の尊重”と言う言葉の下、弱者が強者に痛め付けられず、見捨てられず、差別もされず、“生存権”とやらによって人間らしい健康且つ文化的な暮らしが営めるユートピアと言う事になっているのかも知れませんが、色々な格差を理由に虐げられ、差別される人間が少なからず存在する所からも、中々そうは行かないのが現状の様です。


 財力でも権力でも腕力でも何でも力の無い『非力』……。

 それと似ていますが、仮に力が有ってもそれを満足に活かせず、周囲の求める結果を出せない『無能』……。

 無知、無学で物の道理が分からぬ『愚かさ』……。

 形を問わず、他者が近くに居て不快と感じる多種多様な『悪性の性格』……。


 それ等の『弱さ』を、この世界は決して認めたりはしません。淘汰の名の下、そうした弱者は早晩滅んで行くだけです。忘れがちですが、人間だって動物。動物である以上、弱肉強食の摂理からは逃れられない。自然界に有る物を失敬し、加工して作った物を使って形成されている以上、所詮は文明社会もまた野生の大自然の一部であり、そのルールから逃れられないのは明白ではありませんか!

 先述した社会のシステムも、所詮は『人間の優しさ』と言う、世界のルールに反する感情故に生まれただけの物でしか無く、それ自体がこの世界、延いてはこの宇宙のルールと言う訳では決してないのだから当然の事でしょう?

 そもそも人類がこの世に現れてからの歴史は、地球全体のそれの中でも僅か1%にも満たない極小な物。然し、弱肉強食は地球誕生から46億年……いいえ、下手をしたらそれより遥か以前の宇宙誕生の時代より、この世界を支配し続けている[[rb:絶対の法 > 摂理]]なのです!

 地球の歴史の中に在ってポッと出のド新人でしかない人類が、幾等『弱者救済』などと言う正義の金看板(笑)を振り翳した所で、一体それが何程の物だと言うのでしょうか?どうにもちっぽけで、瑣末で、何の役にも立たない無意味で無価値な虚しい代物である事は分かり切っています。



 (リラ、貴女の悔しい気持ちは水霊(アクア)である私にだって分からなくも無いわ。だけど、私達の生き、存在する世界はそう言う物よ。弱者の存在に決して寛容じゃない。それは貴女が1番良く知ってる筈よ?)


 テミスその言葉に、先程まで憤慨していたリラは一転して遣る瀬無い気持ちになり、そのまま俯くしか出来ませんでした。テミスの言葉を聴きながらそれでも、教室の黒板に書かれているノートを書き写している辺りから、授業自体は真面目に受けている様です。


 (分かってる…。分かってるよリラ。でも…………。)


 折に触れて脳裏を過ぎる、あの虐めの忌まわしい記憶―――――。シャープペンシルを握った手が、やり場の無い怒りで震えます。


 (忘れないでリラ……貴女には力が有る。弱者の涙を拭い、内なる水を浄め、未来と言う大いなるうねりの中へと向かわせる。アクアリウムは、その為に存在するのだから……。少なくとも、その力のお陰で貴女は“弱者のまま”と言う流れ無き澱みから前へと進む事が出来たでしょう?)


 テミスの言葉に、リラは思わず目を見開きました。


 (確かに、人間は弱者が大半かも知れない。だけど、将来に希望の持てる者――――可能性の有る者もその中には多く居るわ。弱い事は決して罪じゃない。人間にとって1番の罪は、弱さに寛容な人の優しさに溺れ、自身の弱さと言う澱みの中に沈み、安住し、そのまま一歩も動こうともせず朽ちて行く事よ―――――。)


 そう―――先述した通り、人間は誰もが弱さを持っています。然し、其処は同じ人間。誰も決して、それ自体を罪と責めて頭ごなしに否定したりはしません。弱さを抱えている事自体に、決して罪は無いのです。

 テミスが言いたいのは、「決してそれに甘えては行けない」と言う事なのです!弱さに寛容な周囲の人間の優しさに甘え溺れ、弱者としての自分に安住しては行けない。何故なら、それは人間が社会を形成する過程の中で後付けで作った建前としてのロジックに過ぎず、宇宙其の物の元々のロジックでは断じてないからです。

 この宇宙のロジックが何処まで行っても弱肉強食であり、弱者が淘汰される運命に在る以上、好むと好まざるとに関わらず人は誰しも強くなる責務が有るし、有って然るべきなのは当然でしょう。少なくとも、その姿勢だけはしっかりと持たねばならないのです!


 (弱い自分のままじゃいられないから、人は強くならなくちゃ行けない。そう言いたいのね、テミスは……。)


 実際、いじめを乗り越えたリラはアクアリウムを授けられる以前と比べ、間違い無く強くなった。それだけは確かでしょう。そんな強い彼女だからこそ、こうやっていじめを許さないと怒る事が出来、潤と言う自分と境遇の似た相手の事を想う事も出来るのです。

 

 (その為の希望を…、強くなる為の一歩を先輩が踏み出せる様に、涙を拭いて背中を押してあげる……。それが今の私の使命……!!)


 改めて自分の水霊士(アクアリスト)としての在り方を再認識したリラは、テミスと周囲の水霊(アクア)達に命じます。


 (テミス、そして水霊(アクア)の皆!飯岡先輩とあの虐めっ子の先輩3人の事を監視しておいて!分かってると思うけど、皆穢れが酷いから迂闊に近付いちゃ駄目よ!)


 (リラ、飯岡潤について説明したけど、砂川と言う人間の事はどうするの?)


 (その先輩の事は良いわ。放課後に浄化しに行くから、位置情報だけ伝えてくれれば良いよ!)


 使命感に燃えるリラですが、その様子を離れた席に座っている葵、深優、更紗の3人は授業に気合を入れて取り組んでいる物と思い込み、勘違いながらも感心して見つめていました―――――。 




キャラクターファイル4


吉池深優(よしいけみゆ)


年齢   15歳

誕生日  10月15日

身長   154㎝

血液型  B型

種族   人間

趣味   同人活動

好きな物 ゲーム全般、女の胸揉み


リラの同級生兼クラスメイトにして五十嵐葵とも幼馴染の眼鏡っ子。ヲタクな趣味をしているが成績優秀枠で勉強も運動も無難にこなす等、地味にハイスペックなキャラクターである。葵もそんな彼女には頭が上がらず、腐れ縁に飽きたと言いながらも何だかんだで何時も一緒に居る様だ。

巨乳大好物の胸揉み魔の一面が有り、手を合わせてから「揉みしだきます!」と言って毒牙に掛ける淫獣でもあるらしい。

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