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A.Q.U.A.R.I.A  作者: Ирвэс
第三章 水と時間は螺旋の様に
27/44

第26話 広がり深まる心の海

今回は総体の後日談。水霊(アクア)の新たな生態が明かされます。

同時に最後、あの子とあの子のキマシタワーが建ちます!タグにも有るガールズラブの要素もしっかり入れて行かないとね。

 総体を何とか勝ち残り、リラ達霧船女子が皆何らかの形で関東大会に進出を決めたその日の帰りの事でした。


 「いや~何とか皆関東出れて良かった……ッ!」


 「何だか嬉しそうね星原。」


 「そりゃ『1人も欠けないで関東大会に出るんだ!!』なんてってあれだけ言ってたんですから、目的が何とか果たされて嬉しいのは当たり前でしょうね。」


 みちるの言葉を受け、喜ぶ瑠々の様子をそう分析する幼馴染の水夏ですが、此処で忍が瑠々に釘を差します。


 「星原、気持ちは分かるが落ち着け。お前の目標の全国(インハイ)行きが決まった訳じゃ無ぇんだから、浮かれるのは未だ早いだろ?」


 「それはそれ!これはこれですよ忍先輩♪」


 「ったく、口の減らねぇ後輩だぜ…。」


 そんな様子を傍で笑いながら眺める他の霧船女子のメンバー達ですが、そうした遣り取りにリラが参加します。


 「でも皆凄いですよね。予選や決勝で先輩達も……深優ちゃんや更紗ちゃん、メドレーでの葵ちゃんも皆泳いでて水霊(アクア)が現れて、凄く良く泳ぐんですから。」


 リラがそう言うと、忍が返します。


 「何言ってんだよ汐月?お前だって予選でも決勝でもクラリア見えたんだろ?地元蒼國じゃねぇのに其処まで集中して泳げるお前も大したモンだと思うぜ?」


 「忍の言う通りよ汐月。貴女もそうだけど、皆が体験したあれって、もしかしたら水霊(アクア)の“ゾーン”だったのかも知れないわね。」


 「水霊(アクア)の……ゾーン………?」


 忍に続くみちるの言葉にリラはキョトンと首を傾げます。それは葵や深優、更紗、それに潤や真理愛達も一緒でした。



 ゾーンとは、一言で言えばスポーツ選手達が体験する極度の集中状態です。この状態に入ると、他の全てを忘れて競技に没頭する特殊な感覚を覚えます。そして優勝込みで最良の結果を残す一流のアスリートでこの状態に入ったと言う話は多く聞きます。


 リラックスと極度の集中の同居―――――。

 自身が試合(ゲーム)を支配している感覚になり、敗北など意識の外―――――。

 心身の完全なる融合と、それに伴う浮遊感―――――。

 そしてそれ等を含めて最高に絶好調でワクワク感すら有る―――――。


 リラ達が泳いでいて体験した内なる水霊(アクア)との追い掛けっこは、まさしく水霊(アクア)の力を大なり小なり内に持った彼女達の身に起きたゾーンの1つの形だったのかも知れません。


 「わたしも泳いでる時、あれはゾーンだったって思う様な事は何度か有りましたけど、あんなゾーンは初めてでした。」


 「でも何だか楽しかったわよね。本当に子供の頃にキラキラ光る水の中を泳ぎ回ってたあの頃みたいな気持ちが蘇って来てた―――。」


 潤と真理愛が口々にそう告げると、他のメンバーも納得と言わんばかりに頷きます。だけど、此処でリラに1つ疑問が生じます。


 「あれ?でもゾーンってそう何度も入れる物なんですか?私もそうですけど他の皆だって予選や決勝で入ってましたけど……って言うか星原先輩、予選じゃゾーンに入ってなかったみたいでしたよね?」


 確かに自分も含めて2日目以降、リラ達は皆予選や決勝で内なる水霊(アクア)達によるゾーン体験をした結果、何とか標準記録を破って関東への進出を決めました。然し、ゾーン体験とはそう都合良く何度も体験出来る物ではありません。どんなに厳しい練習を課したアスリートでも、そんな極限の集中状態には常に入れる訳では無いと言うのに、何故自分達はこんな状態に入れたのでしょう?

 然し、リラのその疑問は次の瞬間、あっさり瓦解しました。



 「多分あたし等が蒼國市民だからだろ?」


 「え………?」



 蒼國市民?どう言う事でしょう?みちるが解説します。


 「だって私達、生まれた時からずっと水泳やって来たのよ?小さい頃からそうやって鍛えて来たんだから、他所の人達よりかは体力に自信が有るわ。」


 「ゾーンって極限の集中力だろ?そして体力=集中力だ。地方や国体に手が届くだけのポテンシャルの蒼國市民(あたしら)なら、体力とそれに裏打ちされた集中力だって他より有る方だぜ?」


 「まぁ、それを言ったら私達だけじゃなくて他の井澤や玉藻みたいな選手の子達だって同じだけどね♪」


 みちると忍の回答で最初の疑問はあっさり解消。続く瑠々の疑問も水夏があっさり答えます。


 「それはね汐月、瑠々がペース配分下手糞で、予選で余計な体力使って泳いで決勝まで続かないから、何とか予選を或る程度余裕以て突破出来る様に練習した結果よ。つまり予選はゾーンに入る程集中してなかったの。まぁ、それでも結構ギリギリだったからあの時は肝を冷やしたけどね。」


 「るっさい!てか悪かったわねペース配分下手で!!」


 突っ込みを入れる瑠々に苦笑いしながらも、それだけの事で片付いてしまうのかとリラは思いました。然し蒼國市民では無いにしても、考えて見ればリラも体力は人より有る方でしたし、水霊士(アクアリスト)としてクラリファイイングスパイラルを形成する為にかなりの集中力を培って来ました。そんな自分が水泳で少し自分の心身を鍛えれば、ゾーンにだって入り得る。

 先程ゾーンはどれ程自身に厳しい訓練を課したアスリートでも常に入れる物では無いと述べましたが、考えて見れば別にゾーンはアスリートでなくても普通の一般人だって入れる物なのです。

 勝ち負け等の結果に拘泥せず、その活動の中に感じる喜びを感じる事。そして自分のやる事への本質的な価値を見出している事。そうした境地こそゾーンに入る要です。

 そして今回、リラは忍に言われた通り、初めての大会の舞台に対して変に気負わず、勝ち負けに拘泥せず思い切り楽しもうと言う気持ちの下、目の前のレーンを思いっ切り泳ごうと言う気持ちで取り組んだからこそ、クラリアはそれに応えたのでしょう。他の忍やみちる達も同じ理由からだとすれば納得です。


 (葵ちゃんは藤本さんへのしがらみから、『絶対勝とう』なんて余計な気負いに囚われた所為でゾーンから遠ざかっちゃったのね…。)


 本人に気付かれない様、リラは葵を見てそう自己完結しました。

 とは言え、先程みちるが答えた通り、何も霧船女子以外の蒼國の水泳選手だって幼少から水と親しんで来た水の民で泳ぐのはお手の物。それをスポーツで真剣に打ち込んでいるならばその多くがゾーンに入り得るのです。

 それでも内なる水霊(アクア)と通じ合う術を得た忍達霧船女子は、他の選手達と比べても水泳への集中力が高まり、より深いゾーンへ入る事が出来る様になっていたのは間違い無いでしょう。

 けれど全員が全員1位になれなかったのは、やはり個人の技量や練習量における彼我の多寡である為、今後はそれを如何に埋めて行くかが鍵だと彼女達は納得していました。それは幾ら標準記録を突破したとは言え、余り芳しくない結果に終わった瑠々の『わたしならもっとやれた筈!』と言う表情や、個人の背泳ぎで予選落ちした葵の悔しげな表情からも窺い知れます。


 「潤先輩、同じ背泳ぎの選手として私、悔しいです……!!」


 「じゃ明日から一緒に練習しよ?葵ちゃん!」


 「はいっ!」


 「やっぱ悔しいよな五十嵐……おっし、あたし等も関東目指して気合い入れて練習すっぞ!」


 「皆、分かってるけど明日から練習もっと激しくなるから、今日はゆっくり休まないと。良いわね?」


 みちるの言葉に一斉に『はいっ!!』と答える一同に、リラは感心させられっ放しでした。ゾーンは極限にまで集中しなければ入れない状態ですが、それでも常に入れる訳では無い気紛れな物。然し殊水との触れ合いの場である水泳でなら、内なる水霊(アクア)の働き掛けで彼女達は幾分入り易くなりました。尤も、あくまで入り易くなっただけであり、勝つ為にはより練習に身を籠め、自身の肉体強く鍛え、体力とそれに裏打ちされた高い集中力を付けなければならないのです。

 蒼國市民…いいえ、水泳選手として彼女達は大事な事が良く分かっているなとリラは感心させられます。高校に入るまで水泳から離れていた葵達ですら、1回の大会を経てもうそこまでの心境になっているのだから猶更です。

 

 (凄いな、皆…先輩達も葵ちゃん達も、水霊(アクア)の力でゾーンに入れる確率が上がってもそれに頼んないで自分の泳ぎに磨きを掛けようとしてる……。)



 「所で汐月、お前に1つ訊きたい事有んだけど良いか?」


 リラが霧船の仲間達に感心していると、不意に忍がリラに話し掛けて来ました。思わず面喰らうリラですが、間髪入れずに尋ね返します。


 「えっ?何ですか忍先輩?」


 「昨日、決勝で井澤と泳いだ時の事なんだがよ――――」


 (決勝での井澤との試合…?)


 みちるを始め、他のメンバーが脳内に疑問符を抱く中、忍が話し始めたのは昨日の午後の決勝の事でした。再び井澤とバタフライで競っていた忍ですが、やはり予選と言う事もあって井澤は80%程度の力でしか泳いでいなかったらしく、忍をあっと言う間に引き離して行きました。恐らく井澤もゾーンに入っていたと見て間違いは無いでしょう。

 予選では幾等ブランクを埋め、ヴァルナの導きも手伝ってゾーンに入り、ギリギリ2位に躍り出た所で肝心の井澤自身はゾーンに入っていなかった。それが決勝で忍を叩き潰す為にゾーンに入ったのですから、さしもの忍もどうしようもない位引き離されるのも無理からぬ話でした。


 (ハハッ、やっぱ井澤の奴、予選じゃ本気じゃなかったんだな……!)


 引き離されているのに、忍は妙に嬉しそうでした。何故なら彼女はもう勝ち負けなんかに固執せず、相手との勝負を思いっ切り楽しもうと決めていたからです。


 これが今、自分が超えたいと思った相手の本気―――――だったらそれに全力で応えたい!

 また身体を壊す心算は無いが、明日はもうバテにバテて動けなくなっても良い!

 寧ろそれは最高に気持ちの良い疲労だし、後でまたリラから癒して貰えば良い!

 過去の自分を乗り越えて前に進む為、今は多少無茶してでも限界を超え、自分の中で最速で最高の泳ぎをしたい!

 何より一緒に泳いでいるリラの為にも、自分を信じて応援してくれる親友や可愛い後輩達の為にも、過去の自分に決別してより強い自分に生まれ変わりたい!


 そうした想いの1つ1つを練習の時から今この瞬間まで、リアルタイムで堆積させながら忍は今日まで泳ぎ続けて来ました。今こそその真価が問われる時なのです。元々負けず嫌いな所の有る忍ですが、負けるのが怖いのは井澤よりも自分の弱さである事を彼女は良く分かっていたのでした。


 (けどあたしは白旗なんか降らねぇ!汐月の為にもみちる達の為にも…あたしは……あたしはぁっ!!過去(きのう)自分(あたし)を超えるんだアァァァァァ――――――――――ッ!!!)


 忍自身は気付いていませんでしたが、そう強く想って水を掻き分けていた彼女の集中力は予選の時以上の深さでした。再び彼女の目の前に予選の時と同様、ヴァルナの姿が浮かび上がって来たのです。


 (えっ?ヴァルナ――――?)


 アクアヴィジョンを使っている訳でも無いのに、再び泳ぐ忍の眼前に姿を現した自身の内なる水霊(アクア)のヴァルナの幻視(ヴィジョン)。しかし、ヴァルナの様子が何か可笑しいのです。みるみる自分から遠ざかって行くヴァルナですが、予選の時より速く遠ざかるヴァルナに忍は付いて行けません。

 

 (駄目だ、追い付けねぇ!つーか何だよ?急に身体が鉛みたく重たくなって来やがった!?クソッタレ、これじゃあ―――――)


 それ処か、体を襲う妙な重い感覚。これではヴァルナに追い付く処か、井澤すら捉える事は出来ません。それ処か、リラや他の選手達にすら抜かれて無様に敗退しかねない。この土壇場で万事休すかと思った時、遠ざかって行くヴァルナが不意に身体から眩い光を放ち始めました!

  

 (なッ、何だ!?急に光り出して―――――)


 その刹那、遠ざかって行くヴァルナの身体から浮かび上がる様に出て来たのは、昨日の夢に出て来たマンタの姿をした新たな水霊(アクア)でした。


 (こ、こいつは昨日夢で見た――――!?)


 泳ぐ忍の前からグングン遠ざかって行くヴァルナでしたが、逆に今度はマンタ型の水霊(アクア)が忍の方に泳いで来ます。そうして忍の中に入って1つになったかと思うと、不意に忍は自身の身体に異変を覚えます。


 (か、軽い!?つーか重さを全然身体が感じてねぇ!?)


 さながら身体の余計なリミッターが全て外れ、水の抵抗が一切無くなったかの様に身体が軽くなった様な感覚に忍は包まれました。

 これなら行ける―――――そう確信した忍はヴァルナを追い、再度夢中で水を掻き分けてレーンを先程の比では無い程の速度で大驀進!スーパーキャビテーションを施された魚雷の如き忍の泳ぎに、会場は思わず目を奪われます!

 そして気付いたら自分は既にゴールであるレーンの向こう側の壁をタッチしており、井澤がゴールしたのは何とその3秒後の事でした。



 「えっ?し、忍先輩、あの決勝の時にそんな事が有ったんですか!?」



 昨日忍に起こった出来事を聞き、リラは驚きました。然し、それも無理からぬ話です。

 その時一緒に泳いでいたリラは、全てが終わった後に井澤と言葉を交わしていた忍との遣り取りを横目に、ギリギリでも何とか関東への切符を手に出来た自分の成功体験に酔っていた事もあり、水を差すのも野暮だからと知ろうとも訊こうともしませんでした。それ以前に試合が終わるまではアクアヴィジョンで水霊(アクア)を眺める例外を除き、アクアリウム自体を封印していたのですから水霊(アクア)関係にはノータッチの姿勢でいたのです。忍自身も、そんなリラの心中を察してか、総体が終わるまでは水霊(アクア)の話はすまいと思っていたのでした。


 「あぁ。けどお前は基本アクアリウム封印してたみたいだったし、自分が水霊士(アクアリスト)だって事忘れて、一選手としてこの3日間過ごすみてぇだったから余計な事は言わない気でいたんだよ。全部終わった今なら話せると思って話したまでだ。」


 「でもさっきの話、本当なんですか忍先輩?」


 「忍、本当にマンタの水霊(アクア)を見たの?」


 リラに説明する忍でしたが、葵とみちるは信じられないと言わんばかりにそう口を開きます。他の2年生の面子も忍に視線を向けてまじまじと見つめます。


 「いや、気になるならアクアヴィジョンで見た方が早くないですか?」


 深優からの的確な指摘に一同が「あ…」、「確かに…」と納得した様に返します。

 気を取り直してリラ達がアクアヴィジョンで忍を見ると、確かに忍の内側にはヴァルナ以外にもマンタ型の水霊(アクア)が存在しているではありませんか。


 「うわっ、本当にマンタみたいなのが忍先輩の中にいる…!」


 「先輩の言ってた事、本当だったんだ………。」


 「リラ、人の中から新しく水霊(アクア)が生まれるなんて事が有るの?」


 「えっ?そ、それは…」


 1年生の葵、深優、更紗が口々にそう言ってリラに尋ねますが、リラは言葉に詰まってしまいました。今まで水霊士(アクアリスト)としてそれなりに経験は積んで来ましたが、人間が内なる水霊(アクア)を新たに生み出すなんて話は今まで聞いた事が無かったのです。


 「もしかしてリラちゃんも知らないの?」


 「は、はい。恥ずかしいですけど………。」


 潤からそう指摘されたのに対し、恥ずかしそうに首を垂れてリラがそう返した時でした。



 「その問いには私が答えましょう。」



 突然人間態を取って現れたテミスの姿に、霧船女子一同は思わずビックリしました。


 「テ、テミス!?」 


 「久し振りに見た……。」


 「3日間会ってないだけなのに妙に懐かしいわね…。」


 リラと葵とみちるが口々にそう言いますが、テミスは無視して言います。


 「リラ、それに霧船の皆さん、取り敢えず地区総体お疲れ様。そして関東大会出場おめでとう。これで次の全校朝会では胸張って報告出来るわね。」


 「えっ?まぁ取り敢えず有難うテミス……。」


 たどたどしくも一応礼を返すリラを横目に、テミスは忍の前に歩み出て続けます。


 「忍さん、貴女も大した物ね。まさかこの大会で人間として強く成長し、貴女本来の水霊(アクア)を生み出すに至るなんて――――。」


 「あ、あたし本来の水霊(アクア)!?どう言う意味だよ!?」


 「テミスどう言う事?このマンタが忍先輩本来の水霊(アクア)なら、先輩が生まれた時から内なる水霊(アクア)として忍先輩の中にずっと居たヴァルナは何なの!?」


 「一体どう言う事なんですか?説明して下さい!」


 リラ達の疑問は尤もでした。普通内なる水霊(アクア)はその人間が生まれてから死ぬまでの間、ずっとその人間の内側に宿り続ける物の筈。

 それは間違い無くその人固有の、そしてその人本来の水霊(アクア)では無いのか?

 そもそも人が水霊(アクア)を生み出すなんて事が有り得るのか?


 水槽のボウフラの様に次々と湧いて出る水霊(アクア)への疑問。然し、テミスは至って平常運転で答えます。


 「落ち着きなさいリラ、潤、そして水霊(アクア)の世界を知った人間達よ、貴女達の問いに特別に答えてあげよう。だけど此処じゃ人目に付くから一旦近くの公園に行くわよ?」


 「え、えぇ……。」



 テミスに先導されて人気の無い公園に霧船女子は向かいます。近くのベンチや遊具に腰を下ろすと、リラ達は改めて衆人環視でテミスに視線を向けました。

 周囲に誰も来ない事を確認すると、さっそくテミスは忍の中のヴァルナとマンタ型の水霊(アクア)を取り出し、声高らかにこう回答しました。


 「確かにリラ、貴女が良く知る様に、人間の内に宿る水霊(アクア)は本人が生まれてから死ぬまで存在し続ける物です。だけど、実はこれにも2種類のタイプが居るの。」


 「2種類のタイプ?」


 首を傾げるリラに対してコクリと頷き、テミスは続けます。


 「そう、1つはこのヴァルナや此処に居る子達を始め、多くの人間の中の水霊(アクア)同様、宿主となる人間の誕生と共にその内に宿り、宿主の成長と共に力を付けて進化、その死と共に身体から出て行き次の宿主を探す『渡りタイプ』。そしてもう1つが今回忍さんが生み出したマンタ型の水霊(アクア)、つまり宿主が誕生すると共に、その身の内に確固として存在する『原生タイプ』の2つのタイプが内なる水霊(アクア)には存在するの。」


 「わ、渡りタイプと……」


 「原生タイプ?」


 聞きなれない単語(ワード)を諳んじるリラと潤の2人の水霊士(アクアリスト)。他の一般人の水霊仲間(アクアメイト)の子達は余りに理解を超えた答えに唖然となるばかりです。

 そんな彼女達の心中を察してか、テミスはより詳細に説明します。


 「渡りタイプは貴女達以前にも様々な人間の内に誕生と共に宿り、その人間と共に成長して力を付け、その死と共に骸から出て違う宿主の人間へと新たに宿るタイプの内なる水霊(アクア)ですわ。」


 「じ……じゃあ忍先輩のヴァルナや私のクラリア、それに他の葵ちゃん達の中のアンジュやブルームやプラチナ達も、元は違う人間の中に宿ってた水霊(アクア)って事なの?」


 「そ、それでその人が死んでまた新しい人に宿って、その人が死んだらまた違う人に宿って、今度は皆葵ちゃん達を宿主に選んだって訳なんですか?」


 恐る恐るリラと潤がテミスに対してそう答えます。仮にそうだとしたら時間、いいえ、更に言えば歴史的に見て何とも途方も無いスケールです。葵達も葵達で何時の間にか自分達の内なる水霊(アクア)に対し、まるで悠久の大自然の光景を見る様な畏敬の眼差しを向けていました。


 「葵さんと更紗さん、瑠々さんと水夏さんの水霊(アクア)、そして忍さんのヴァルナはそうね。だけどリラ、潤、そして深優さんと真理愛さんとみちるさんと、今忍さんが新しく生んだ水霊(アクア)は原生タイプよ。」


 「えぇっ!?クラリアは違うの!?」


 「てか何だよ原生タイプって!?勿体ぶってねぇで早く教えろよ!!」


 自身の水霊(アクア)を取り出されて気が立っているのか、忍が思わずそう声を荒げますがテミスはさらさらと流れる小川の流水の如く華麗に流して答えます。


 「原生タイプとは、その人間を原産として生まれる水霊(アクア)。言い換えるなら、その人間の中で生まれたその人間固有の真の内なる水霊(アクア)の事です。」


 「し、真の内なる水霊(アクア)ですって……?」


 テミスの言葉に周囲が唖然となる中、一同を代表して部長のみちるがそう声を挙げました。



 「原生タイプの内なる水霊(アクア)を宿すと言う事は、その人だけの素晴らしい才覚を持った人間の証なの。唯一無二の個性を持ち、天才肌とされる人間の多くは、この原生タイプの内なる水霊(アクア)をその身に宿す人間と見て間違い無いわね。だけど勿論、多くの人間を遍歴して来た渡りタイプの水霊(アクア)を宿す人間にも素晴らしい才能を持つ者は居るわ。前者が天才なら、後者は秀才と言った方が良いかしら?それと、水霊士(アクアリスト)となる人間の内なる水霊(アクア)は例外無く原生タイプよ。」



 テミスの説明に、リラ達は再度愕然となりました。確かに深優は何やらせてもハイスペックな天才肌だから原生タイプなのは納得だし、こんな水の精霊と交信してアクアリウムなんて魔法みたいな力を使うリラや潤の様な特別な才能を持った人間の内なる水霊(アクア)が、原生でこそあれ渡りだなんて天地が覆っても有り得ない。真理愛も水泳でも見事な才能を持ってましたが、フルート奏者としての才能も認められているマルチな才の持ち主だし、みちるも忍同様に水泳では国体に出る程の実力で大学からもオファーが来始めています。

 天才か秀才かの違いは内に宿した水霊の違いで決まる―――――遺伝子上、世界的天才科学者と知的障害を抱えた子供の違いは僅か0.1%で納得行かないでしょうが、この違いなら納得と言う物です。どんなに頑張っても、自分固有の原生タイプの水霊(アクア)じゃない渡りタイプの水霊(アクア)の持ち主じゃスターにはなれない。葵や更紗、瑠々や水夏の4人は少しショックでした。それは自分の才能を始めとした資力の限界を突き付けられた様な感じなのもそうですが、他の6人がそんな天才肌で肩身が狭いと感じたのもそうです。


 「そっ、そうだよね……リラもそうだけど深優だって私とは大違いだって思ってたけど、やっぱ水霊(アクア)が違うからこんなに凄いのね。」


 「なっ、何言ってるの葵!?」


 半ば自嘲気味にそう切り出す幼馴染に深優が口を開きますが、瑠々と水夏も止まりません。


 「まっ、そりゃそうよね…。世の中、皆が皆スターになれる訳じゃないわよね。幾等頑張ったって人より上手い人止まりで、それ以上上に行けない人の方が多いのは当たり前か……。」


 「別に良いじゃん瑠々?世の中その人より上手い人にすらなれない人だって大勢いるんだから……そう言うのは原生タイプの人に任せて、私達みたいな人よりちょっと何かが出来るだけの凡人は、普通の暮らしをどう楽しく過ごすか考えて生きるのが1番よ。」


 乾いた笑みを浮かべながら、同じく自嘲気味にそう笑って言う瑠々と水夏を見て、更紗も無言のまま俯き、3人と同じ様な気持ちになりかけます。結局人生なんて、持って生まれた物だけが全ての出来レース。スポットライトの光を浴びるスター街道を歩み、周りから持て囃されて生きる。世界を変えたり、歴史にその名を刻む活躍をして見せる。そんなのは原生タイプの水霊(アクア)をその身に宿し、才能や環境の全てに恵まれた人間だけで勝手にやれば良い。そう言うのが無い持たざる者は、如何に自分の人生を楽しく生きるかだけ考えて生きれば良い。皆が皆凄い可能性を秘めている訳では無いのだから、身の程を弁えぬ野心や欲なんて持たず、収まるべき場所に収まって分相応、身の丈に合った道を歩むだけ。それこそが社会に於ける人間1人1人の正しい在り方と言う物でしょう。

 然し、そこへテミスが鋭く切り込みます。


 「葵さん、更紗さん、瑠々さんに水夏さん、私の話を聞いて少しガッカリしてるみたいだけどね、貴女達のアンジュ、プラチナ、シュロ、レインは多くの人間を渡り歩き、今生で貴女達に宿った時にはもう中級としては充分上級に近い所に居る水霊(アクア)なのよ?」


 予想外のテミスの言葉に、思わず葵達は顔を上げて食い入る様に目の前の上級水霊(アクア)の顔を見つめます。そんな彼女達の視線など、気にも留めずテミスは続けました。


 「まぁもっと上級に近い中級なら他にも居るけどね、それでもそんな十分強い力を持った水霊(アクア)を宿す貴女達の資力や可能性がちっぽけな訳が無いわ。人間の貴女達が自己成長の為に何の行動も精進も投資もしない様なら、渡りや原生関わり無く水霊(アクア)は成長しないし、将来の可能性も無いに決まってる!」


 その言葉は、4人の胸にダツの如く突き刺さります。いいえ、葵達渡りの水霊(アクア)を宿した子達だけではありません。リラや深優達原生タイプの水霊(アクア)を宿した子達もそれは一緒でした。


 「それ以前に、例え原生タイプの水霊(アクア)を宿してても、切っ掛けが無かったらその才能を目覚めさせる事は絶対に出来ずに普通の一生を送る事もあるわ。リラや潤がそうであった様にね。」


 テミスの説明を受けて、全員がリラと潤に目を向けます。確かにリラと潤の水霊士(アクアリスト)としての才能は唯一無二の物であり、一般人の彼女達からすれば一生死ぬまで無縁の代物です。それに水霊士(アクアリスト)でなければ彼女達は、人より勉強等の諸々の事が多少出来る程度の一般人。葵達と何も変わりません。


 「更に加えておくとね、原生タイプはどんな人間の中にも宿ってる!!生まれた時に渡りタイプが宿った際にそれに取り込まれただけで、確かに存在し続けてるの。今回の忍さんの様に自分自身の成長に伴い、渡りタイプに取り込まれたその人間本来の原生タイプを切り離して再誕させるケースだって、稀にだけど有るの!」


 次々と繰り出される言葉に、リラ達は返す言葉も無く只押し黙ってテミスの言葉を噛み締めるしか出来ませんでした。普通の人間が口にしても綺麗事だの理想論だのと一蹴し、まるで説得力が無い言葉達ですが、水として多くの人間を見て来た人ならざる精霊のテミスが言うと、それはマリアナ海溝の水圧の如き重みを以て彼女達の心に圧し掛かって来るのです。気付けば葵や瑠々の目には薄らと涙が浮かんでました。

 すると次の瞬間、彼女達の沈黙を打ち破ってヴァルナの身体が眩く光り始めました。


 「なっ、何だ!?」


 「テミス、忍先輩のヴァルナが変よ!?」


 思わず声を挙げる忍とリラですが、テミスは静かに告げます。


 「忍、ヴァルナは貴女から解放されようとしているの。」


 「か、解放だと!?」


 再び訳の分からない言葉に再び一同は呆気に取られます。


 「内なる水霊(アクア)が人間から解放されるのはその人間が死んだ時だけ。ですが1つだけ例外が有ります。それはその内なる水霊(アクア)が渡りタイプで、宿主の人間が成長と共に原生タイプを生み出した時、その原生タイプを新たな宿主とする事で肉体から解放されるのよ。」


 「つ、つまり今回忍は昨日の大会でこのマンタみたいな水霊(アクア)を生み出したから、それまでずっと忍の中にいたこのヴァルナって言う水霊(アクア)は晴れて自由の身になれるって事?」


 みちるの問いに対し、テミスはコクリと頷きます。そしてテミスはヴァルナを水の球体に変えると、そのまま忍の頭部に埋め込みます。


 「あっ!あれって……アクアレミニセンス?」


 そう、それはリラが入学と共に砂川達に虐められていた潤を助けた際に使った術と同じ物でした。水霊(アクア)を相手の脳に埋め込む事で、その水霊(アクア)の情報を脳に直接流し込むと言うアクアリウムの術法。

 忍の脳内に流れ込んで来たのは、ヴァルナがこれまで宿って来た人間達の記憶でした。或る時は戦国時代の侍でまた或る時は中世ヨーロッパのキリスト教の司祭、また或る時は屈強な漁師でまた或る時は人間魚雷で特攻したイタリア兵と、ヴァルナが如何に男勝りな忍の性質に通底する人間に宿って来たかが分かる追憶でした。


 (ヴァルナ、お前、こんなに沢山の人の中で―――――)


 頭の中でそう呟く忍に対し、ヴァルナはテレパシーで答えます。


 (忍、あたしはお前の前にも色んな人間に宿って来た。お前に宿った時にはもう、あたしは中級としては既に十分な力を秘めた。生まれた時のお前の身体を依り代に選んだ時、あたしは知ってたよ。忍が水泳に対してかなりの才能を持ってて、それを開花させて来た事を。でも――――)


 (でも?)


 (お前が成長と共に自分の能力を伸ばしてく一方で、あたし自身が忍の成長に蓋をする存在になっていた事に気付いたんだ。だけど今回、リラとの出会いでお前は自身の内面と向き合い、その偽りの無い魂を以て水泳に臨んだ。だからこそこの子――――サラキアがお前の中で生まれた。あの決勝での最後の泳ぎは、まさしく忍が鍛えて来た本来の力の覚醒であり、完全解放だったんだよ!)


 そう言い残した次の瞬間、忍の視界がホワイトアウトし、気付けば忍の周囲は元の公園に戻っていました。近くには忍の新たな水霊(アクア)のサラキアが泳いでいます。


 「あっ、サラキア……。」


 「忍先輩、サラキアって……?」


 「まさかこの水霊(アクア)の名前ですか?」


 リラと葵の問い掛けに対し、忍は思わずコクリと頷きます。然し次の瞬間、突然頭上からダークブルーの飛沫が降って来たかと思うと、そのままヴァルナが何処へとも無く飛び去って行く姿が視界に飛び込んで来ました。


 「ヴァルナ!!」


 (お別れだ忍。あたしは新たな人間の宿主を見つけて、穢れに負けない強い水霊(アクア)へと進化し続ける。お前はサラキアと共に、自分だけの海路を征くんだよ!)


 空の彼方、方角的に太平洋へと続く蒼國海岸の方へと消えて行くヴァルナの姿を、忍は目に涙を滲ませながら見つめているのでした。

 ですが、直ぐに自身の新たな内なる水霊(アクア)であるサラキアを抱き、忍は誓います。


 「あたしは今まで、ヴァルナから守って貰って生きて来た……でも、これからは自分の中の穢れには自分で打ち勝たないとな!」


 ヴァルナが巣立った後、忍の内なる水霊(アクア)として彼女の中の穢れを浄化するフィルターの役を担う彼女の原生水霊(アクア)・サラキア。嘗てのヴァルナ同様、ダークブルーの輝きを纏うサラキアは、忍の周りを旋回しながら彼女をクラリファイイングスパイラルで包むと、再び彼女の内に入って行きました。


 「宜しくな、サラキア―――――!!」


 そんな忍の様子を、リラとみちるは微笑ましそうに見つめているのでした。気付けば空はすっかり黄昏の色となり、闇の帳が静かに降りようとしていました。



 その後、解散した霧船女学園水泳部の面々はそれぞれの家路に就きます。

 ですが彼女達の内、葵、更紗、瑠々、水夏の4人は同じ事を考えていました。


 (テミス言ってたな。原生タイプの水霊(アクア)は誰の中にも生まれる可能性が有るって………。)


 (でも、それってどうすれば目覚めるんだろう?)


 (少なくとも忍先輩みたいに水泳普通に頑張ってたってわたしのは目覚めないだろうし……。)


 (水泳じゃなくても、自分が本気で一生捧げたいって位好きな何かに打ち込めればもしかしたら……!?)


 何時の日か、自分だけの水霊(アクア)が生まれる瞬間を夢想しながら家路に就く4人。


 (でも今は私、アンジュと一緒が良いな……。)


 (プラチナ、貴女が私の水霊(アクア)で良かった……。)


 (何時か自分だけの水霊(アクア)が生まれる日まで、改めて宜しくシュロ!)


 (今はレイン、貴女と一緒の時間を大事に自分の道を極めて行くだけ!)


 然し今の彼女達にとって、渡りタイプとは言え16年前後の時間を共有して来た自身の内なる水霊(アクア)が大事なのもまた事実です。

 何れ自分だけの原生タイプの水霊(アクア)を生み出す日まで、葵達は自身の渡り水霊(アクア)と共に歩む事を誓うと共に、「それまでの間宜しく」とスキンシップを取るのでした―――――。



 さて一方、同じ家路を行くリラと忍はと言うと……。


 「まさか忍先輩が新しい水霊(アクア)を生むなんて私もビックリです。本当におめでとうございます。」


 「何だよ汐月?お前今までそう言うの見た事無ぇのか?」


 「はい。そう言うの実際に見るのは今日が初めてです。それと、その最初の相手が忍先輩なのも嬉しいです!」


 2人きりになり、改めてリラは忍の中に新たな水霊(アクア)・サラキアが誕生した事を祝福していました。初めて原生タイプの水霊(アクア)を生み出すのを目の当たりに出来たのか、リラの声も心なしか弾んでいます。余り感情を剥き出しにしないリラなりのハイテンションなのでしょう。


 「そうかい、そりゃ良かったな…けど持ち上げたって何も出ねぇぞ?」


 そう返す忍ですが、その声音は上機嫌でした。自身が人間として、選手として、色んな意味で一皮剥けて成長出来たのですから当然でしょう。内心はとても嬉しいのです。するとリラは徐に走り出して忍の前に出ると、手を後ろ手に組んで微笑みながら言いました。


 「いいえ、先輩には私の方からお祝いのプレゼントをしたい位です。」


 「は?プレゼントだと?」


 「はい!どうぞ受け取って下さい♪」


 突然プレゼントと言われて首を傾げる忍の目の前で、リラは何故かアクアリウムを展開。全身から高濃度の水霊力(アクアフォース)のオーラを漂わせました。


 「おい、いきなりアクアリウムなんざ展開して何の真似だよ?つーかこれも何だか久しぶりに見た気がするぜ……。」


 総体の期間中、リラはアクアヴィジョン以外ずっとアクアリウムを封印していた為、それが今この瞬間に解禁された時にはもう忍も懐かしさを覚えていました。ですが、そんな彼女の事など御構い無しに目の前のリラはクラリファイイングスパイラルに使う水霊力(アクアフォース)の光球を、普段より一回り大きく生成。クラリアに注ぎ込みます。


 「忍先輩、直ぐ終わりますからどうか目を閉じてて下さい。」


 「目を閉じろ………?分かったよ。」


 訳も分からぬまま目を閉じるのを確認すると、リラはクラリアを口に含んで忍に駆け寄り、何とそのまま抱き着いて彼我の唇を重ねました!有り体に言えばキスです!


 「んぐッ!?ンンンン~~~~~~~~~~~ッ!!!!?」


 突然唇を奪われた為に当然ながら忍は大混乱!咄嗟に暴れて引き離そうとするも、アクアリウムの力による物なのか、身体に力が入りません。

 顔中がクマノミより赤く紅潮し、心臓も激しく脈打つと共に体温が急上昇して行く感覚に襲われる忍でしたが、次の瞬間その嵐の様な感覚は過ぎ去り、気が付くとまるで凪の海の様に穏やかな気分になって行きました。意識が遠のき、視界が暗転して行くのを忍は感じていました。


 暗転する意識の中、忍の目に浮かんで来たのはコバルトブルーの輝きに身を包んだクラリアがサラキアと一体化する様子でした。そうして一回り巨大化したかと思いきや、全身を光らせて天高く伸びる光の二重螺旋を展開。それは現実の忍の身体にもフィードバックしており、青白くも優しいクラリファイイングスパイラルの光が彼女を包み込みます。

 やがて光が消滅すると共に忍が瞼を開けると、周囲は元の夕闇に覆われて川のせせらぎだけが聴こえる何時もの景色が広がっていました。


 「汐月………。」


 「どうでした忍先輩?これがわた…」


 そう言い終わる前に忍は顔を赤らめながらリラに掴み掛ってがなり立てます。


 「てめぇ、いきなりどーゆー心算だよ!?何がププ、プレゼントだ!?ああああたしのくくく、唇なんか奪いやがってぇ~っ!!」


 それだけ言い終わると、忍は恥ずかしさの余り忍はリラに背を向け、そのまま顔を真っ赤にしてしゃがみ込みます。無論、両手を頬に当てて……。


 「あぁ~~~~!!気持ち良かったけど超絶恥ずかし過ぎだろこれぇッ!!」


 どうやらこれが彼女にとってファーストキスだった様です。するとリラは忍に対し、何故この様な行為に及んだのか説明します。


 「先輩、私は忍先輩の中のサラキアにクラリアを通して、私の水霊士(アクアリスト)としての力・水霊力(アクアフォース)を送り込んだんですよ。」


 「は?お前の力をサラキアに?」


 キョトンとする忍に対してリラは言います。


 「そうです。サラキアは新しく生まれたばっかりで未だヴァルナ程の力は無いです。だからそれを補う為に、クラリアから私の水霊力(アクアフォース)を送り込んで少しだけ成長のお手伝いをって思いました。」


 「成長のお手伝いねぇ……。」


 未だに顔を赤らめた忍は、半ば信じられない気持ちでアクアヴィジョンを発動し、自身の内のサラキアを見てみました。するとサラキアは最初の時より大きくなっており、最低でも人1人乗せられる程度のサイズになっているではありませんか。


 「マジかよ?本当にさっきよりでっかくなってやがる……。」


 「フフッ、そうでしょ?でもそれだけじゃないと思いますよ?」


 「何?どう言う事だ?」


 “それだけじゃない”と言う言葉に疑問符を浮かべる忍に対し、リラは言います。


 「上級水霊(アクア)のテミスが潤先輩のステラに水霊力(アクアフォース)を注いだ事で、先輩は水霊士(アクアリスト)になりました。私が皆の水霊(アクア)に少量の水霊力(アクアフォース)を注いだら水霊(アクア)が見える様になりました。だけどもう少しだけ注いだらどうなるかなんて私もやった事無いから分からないんです。変わってないかも知れないし、もしかすると先輩に何か水霊(アクア)由来の力が身に付くかも知れません。あ、勿論私みたいな水霊士(アクアリスト)になる訳じゃないですけどね?それは上級水霊(アクア)じゃないと無理ですから。」


 「ふーん、水霊(アクア)由来の力ねぇ……。」


 忍が手を見ても何の変化も有りませんが、サラキアは身体からダークブルーとコバルトブルーの光を放ちながら嬉しそうに忍の周りを泳いでいました。


 「それと先輩、さっきは御免なさい。いきなりキスしちゃって。そんな事されたらビックリしちゃいますよね…。」


 申し訳無さそうにそう詫びるリラに対し、改めて忍は声を上げて再び抗議の声を上げます。


 「たりめーだバーロー!悪いと思ってんなら最初っからすんな!!あたしの初めて奪いやがって!!」


 するとリラは顔を赤らめながら言いました。


 「…でも私、他人にキスするの初めてだったから結構勇気振り絞ったんですよ?その相手が忍先輩で良かったです。先輩の方も初めてだって知ってもっと嬉しかった!」


 一切の悪意の無い、透明度1000%の笑顔をしたリラからそう言われ、忍は怒る気力が一気に萎えてしまいました。そればかりか、肉体的にも精神的にもこれまでにない充実感と快感を思い出すと、顔を赤らめつつ手を後ろ手に組んでモジモジしながらこう返します。


 「……ま、まぁ、最初に変な糞野郎から奪われる位なら、お前からされた方が億倍マシだよな。それにアクアリウム込みのキスってだけあって凄ぇ気持ち良かったし、色んな意味で良いプレゼントだったよ…その………有難うな。」


 最後にお礼をボソッと呟く呟く忍でしたが、それをリラは聞き逃しませんでした。

 全身を発光させる深海魚よりもパァッと顔を明るくさせると、リラは忍と腕を組んで言いました。


 「本当ですか!?やっぱり私達、良いパートナーになれると思います!!」


 「はっ、はぁっ!?何言って……」


 「私、忍先輩の事が大好きです!!これからも宜しくお願いします!!それと今回の総体、本当にお疲れ様でした!!」

 

 リラの口から迸る言葉の数々に、忍は顔は再びクマノミ以上に深紅に染まって行きます。心臓が早鐘を打つと同時に、バスト86の胸も揺れ動く始末です。


 「だ~~~~~ッ!もうッ!!余計な事駄弁ってねーで帰るぞ汐月ッ!!」


 数秒の沈黙の後、照れ隠しの心算なのか、忍はリラの言葉をスルーするが如くそう言い捨てて歩き出します。ですが、その一方でリラの手を忘れずにしっかりと繋いで強引に引っ張っていました。突然歩き出す忍の反応にリラも一瞬面食らいましたが、直ぐに微笑みを浮かべながら家路を急ぎます。


 それから別れて自宅アパートに帰宅した後、寝る前に忍は携帯にメールを送信して来ました。内容は以下の通りです。



 『バレンタインとかで他の女子からチョコ貰った事は何度か有ったし、告られた事も有ったがよ……此処まであたしをドキドキさせたのは汐月、お前が初めてだぜ?つーかお前、放っとくと色々面倒な事になりそうだからな。卒業するまで…いや、蒼國に居る限りあたしが監視してやる!逃げられると思うなよ?あたしの唇奪った罪の重さ、たっぷり分からせてやるから覚悟しろ!』


 意訳すると「あたしもお前の事大好きだぜ!どんな時でもあたしの傍に居ろ!絶対離れんなよ!?」と言った意味合いでしょうか。これを見たリラは、或る意味人生で1番幸せな笑顔になっていました。その頃忍は再び顔を赤らめ、ベッドで悶絶してましたとさ。めでたしめでたし♪


☆おまけ


忍とリラがすぐ自宅に戻って来た時の事でした。


忍&リラ「あっ……ヴァルナ?」


ヴァルナ(よぉ、2人ともお帰り!)


何とヴァルナが2人の自宅近所に流れる水路に悠然と佇んでいるではありませんか。


リラ「何で貴女が此処に居るの!?」


忍「お前、あたしから出てってそのまま遠く行ったんじゃなかったのかよ?」


ヴァルナ(蒼國の街は住み心地が良いからあたしはもう少し此処に居るぜ)


忍&リラ(えぇ~~~~っ………。)


折角歯切れ良く別れたばかりなのにこれじゃあ台無し――――2人は呆れて言葉もありませんでした。


END



キャラクターファイル27


ステラ


年齢   無し

誕生日  無し

血液型  無し

種族   水霊(アクア)

趣味   潤の乳房を吸う事

好きな物 吸い付き甲斐の有る流木


潤の身体に宿る内なる水霊(アクア)。ダークブルーの身体に白いスポットのプレコの様な姿をしている。

穢れを吸い込み内側で浄化する水霊(アクア)で、潤は同じタイプ=ロリカリアやプレコ、ドクターフィッシュ等の掃除屋系水霊(アクア)を集め、穢れを食べて癒すスタイルのアクアリウムを確立した。

更に真理愛のフルートの中にシュトラーセと共に宿る事によって、広範囲の穢れを光の波紋で浄化する癒しの旋律であるリップルメロディーを奏でる。

潤の中で生まれた水霊(アクア)で、未だ其処まで大した力は無かったが、宿主の潤が水霊士(アクアリスト)として覚醒して成長し始めた為、爆発的に力を付けて中級水霊(アクア)の中でも中堅の実力を一気に身に付けた。

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