表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
A.Q.U.A.R.I.A  作者: Ирвэс
第三章 水と時間は螺旋の様に
26/44

第25話 水は我が友(結)

今回は短いです。

 女子200m自由形において、真理愛と更紗の2人は見事に予選を突破しました。最初は並入るライバル達に負けそうになりましたが、決して挫ける事無く最後まで泳ぎ切ろうと言う強い意志に内なる水霊(アクア)が呼応。その導きの下、ゾーン状態に突入する事で自身の秘めたる力を解放する事で結晶への駒をどうにか進める事が出来ました。

 結果として真理愛は1位で更紗は4位。これは先にゴールした順位であると同時に、タイム上でのそれでも有りました。蛇足ですが真理愛の知り合いである貝塚サリアは2位。

 因みに午後の決勝でも、真理愛と更紗はまた同じ1位と4位の結果で標準記録を破り、関東大会への進出を決めたのでした。



 さて、2人が決勝に駒を進めていた時の事です。葵は瑠々に連れられてテンプレと言うべきか、蒼國総合スポーツセンターの裏側に連れて来られていました──────。


 「あんた何やってんのよ!?この前皆1人も欠けないで地方出るって約束したのに!!」


 瑠々に乱暴に壁の方へと追い遣られ、厳しくなじられた葵は申し訳無さそうに目を逸らし、俯く事しか出来ませんでした。


 「ごめんなさい、瑠々先輩――――でも……」


 「“でも”も何も無いでしょ!?あんたがあの藤本って奴と何が有ったって、そんなのはわたし達にも大会にも何の関係も無いんだから!!」


 折角水霊仲間(アクアメイト)となったのを機に互いに距離を縮め、あまつさえ『1人も欠ける事無く関東大会、延いては全国に進出する』と誓い合ったばかりなのにこの体たらく……。

 瑠々の瞳には、失望と怒りがメイルシュトロームの如く激しく渦を巻いていました。


 「瑠々、気持ちは分かるけど葵は未だ1年なのよ?私達と比べてもメンタル的に未熟なとこが有ったってしょうがないじゃない。」


 「そうですよ瑠々先輩。葵だって辛かったんですから……。」


 「あんた達………。」


 それぞれの相方の深優と水夏に弁護され、怒れる瑠々の震えはほんの僅かですが緩和されました。ですが、やはりどうにも腑に落ちない所が有り過ぎる位有り、故に表情は未だ険しさを残していました。

 尚も険しい表情の瑠々をどかし、水夏が葵に話し掛けます。

  


 「葵、その藤本って子は貴女にとって何?自分から好きな男子を奪った、憎たらしい泥棒猫なの?」


 改めて水夏から問われ、葵は黙ってしまいました。確かに珠得(ジュエル)は自分が好きだった陸奥が、彼の進学先の龍洋で何時の間にか恋仲になった子です。

 然し、だからと言って葵に彼女を責める資格なんて有りません。本人もその気が有った筈なのに結局自分から想いを伝えようともせず、また、知らず知らずの内に彼から想いを伝える気を奪っていた原因は自分に有ったのです。

 結局、彼に対して何時もテンパって正面から堂々と向き合えなかった自分の弱さが原因で今のこの結果になったのに、珠得を責める資格なんて葵に有る筈も無い訳です。


 「………そんな事は無いです……。全部、全部ハル君に気持ち伝えられなかった私が悪いんです……。」


 「じゃあ今日会ったその藤本って子のお姉ちゃんはどうなの?貴女が藤本に苦い想いを持っていても、姉の方には何の関係も無い筈よね?それなのにそんな勝手に取り乱すのは可笑しいんじゃない?」


 「それは……あの子が…珠得って子が……今度は水泳でも私から何もかも奪ってくみたいに思えて…」


 「あんた馬っ鹿じゃないの!?」


 葵がそう言い終わる前に瑠々が再び口を開きました。


 「さっきから黙って聞いてりゃ、それって結局あんたの勝手な被害妄想じゃん!惚れた男に向き合えなくって他の女に取られた弱さを認められなくて、その姉なんて分かり易い奴の所為に都合良くして逃げてただけでしょ!?そんなんだからあんたあんな酷い泳ぎしたのよ!!分かってんの!?お陰でわたし達も良い迷わ……」


 「もう其処までにしてあげて下さい瑠々先輩。」


 口々にそう厳しく詰る瑠々の言葉を深優が中断させると、改めて彼女は自身の幼馴染と向き合って言いました。


 「葵、瑠々先輩も言ってたでしょ?“水泳は自分との戦い”だって……。過去がどうで周りがこうとか、そんなの関係無いよ。水泳って、そう言う昨日の自分を追い越す為に1番手っ取り早いトレーニングなんだよ。少なくとも蒼國市民(ジモティー)として私はそう思うよ?」


 「深優……。」


 「だから葵、この大会で乗り越えよ?今この瞬間しか出来ない、『葵らしい泳ぎ』で昔の駄目な自分を超えるの。その為に葵は泳ぐべきだって私は思う。」


 この幼馴染の言葉に、葵はハッとなりました。今まで自分はこの日の為に練習して来た。深優と更紗とリラ、瑠々と水夏と真理愛と潤、そしてみちると忍と一緒に全国大会(インターハイ)に出る為に頑張って来たのに……。

 終わった男の幻影をまだ心の何処かで引き摺ってた弱さが、この土壇場で出てこんな失態を犯してしまった―――――。

 珠得の姉の美珠(ビジュ)の存在はその切っ掛けでしか無いのに、彼女を通して自分の弱さと敗北を藤本の所為にしようとした―――――。

 でも、こんなのは“逃げ”でしか無い。そんな事ではこの先自分に成長も進歩も未来も有る筈が無い―――――。


 「深優、お願い……私の事、思いっ切り引っ叩いて!」


 葵の言葉を受け、コクリと頷いた深優は彼女の右の頬に強烈なビンタを喰らわせました。1年生の幼馴染コンビの突然の行動に、瑠々と水夏の2人は思わず目を丸くします。


 「どう、葵?目、覚めた?」


 「うん……スッキリ覚めた!」


 その目には薄らと涙が浮かんでいましたが、葵のその眼差しにはもう、先程の澱みは見られませんでした。まるで流れる清流の様な澄んだ眼差しに戻っていました。


 「瑠々先輩……水夏先輩………本当にごめんなさい!でも私、メドレーは絶対に足を引っ張りません!2人の所まで私がバトンをきっと繋ぎますから!」


 澱みが無くなっていたのは眼差しだけではありません。彼女の言葉も力強く、その声もハッキリと澄んでいたのです。瑠々と水夏がアクアヴィジョンで葵を見てみると、彼女の内なる水霊(アクア)のアンジュが強いオーラを放っているのが見えます。

 まだこれから本番にならないと分からないけれど、この分ならきっと大丈夫――――――葵の様子から2人の脳裏には、メドレーを勝ち進む自分達の未来像(ヴィジョン)が浮かんでいたのでした―――――。



(五十嵐さん……)


一方、そんな葵の様子を物陰から美珠は眺めていましたが、自分が出て行ったら何かまた拗れると本能的に察したのか、彼女は何も言わずにその場を去るのでした……。



 4人が戻って来ると、既に真理愛と更紗が予選の女子200m自由形を見事に泳ぎ切った後でした。


 「やっぱり2人とも予選突破したんですね!」


 「まっ、真理愛もそうだけど長瀞も遣ると思ったわよ!」


 2人が無事に予選を突破した事を知った4人ですが、葵と瑠々の言葉には確信が満ちていました。


 「それは良いが五十嵐よぉ、お前はもう大丈夫なのか?」


 エースの忍の問い掛けに対し、葵は力強く頷きました。改めて皆がアクアヴィジョンで葵を見ると、彼女の内に穢れは一切見当たりません。それ処か、内なる水霊(アクア)のアンジュは尋常ならざる水霊力(アクアフォース)を滾らせています。

 これなら葵も大丈夫だと、リラ達も皆思いました。


 「じゃあ…行って来るわね?」


 「おう!行って来いみちる!」


 「信じてますからみちる先輩!」


 続くみちるも予選の400m個人メドレーを見事に泳ぎ切り、ライバルと目されていた氷見野玉藻を抑えて1位で決勝進出を果たすのでした。

 因みに結果は標準記録の5:35.13を上回る4:40.72。充分に国体でも通じるレヴェルのタイムでした。因みに決勝でのみちるの記録は4:39.11で、見事に関東大会に進出です。

 そして―――――。



 「良し!行くわよ皆!」



 とうとう葵、深優、瑠々、水夏4人による400mメドレーリレーの時がやって来ました。 

 審判のホイッスルの音と共に先陣を切って飛び込んだのは深優でした。


 (負けるもんか……絶対に葵に繋ぐんだ……っ!?)


 そう強く想って水面に手を滑り込ませて前へ前へと進もうとする深優。すると彼女の前に現れたのは深優の内なる水霊(アクア)のブルームでした。


 (えっ?ブルーム……?)


 ブルームは深優の目の前で誘う様にレーンの先を泳いで行きます。まるで自分に追い付いてみろと言う様に―――――。


 (これが先輩やリラっちやサラサラの言ってた奴なのかな?良ーし!)


 深優はブルームの誘いに乗って何処までもレーンを泳ぎ、気付けばもう葵の所まで泳ぎ切っていました。


 「葵!!」


 「うんっ!!」


 そうして深優からのバトンを受け継いだ葵はそのまま背泳ぎで何処までもレーンを進んで行きます。すると彼女の目に飛び込んで来たのは、アクアヴィジョンも使っていないのに仲間のエンゼルフィッシュ型の水霊(アクア)達を率いて泳ぐアンジュの姿でした。

 

 (何よアンジュ……私にこの子達と一緒に泳げって言いたいの?)


 葵の問い掛けに応じる科の様に、アンジュは眷属の水霊(アクア)達と共にどんどん先へ進んで行きます。


 (あっ、コラ!待ちなさいよ~ッ!!)


 そうして気付けば葵は深優の勢いを落とす事無く、4位で何とか瑠々に繋ぎました。


 「瑠々先輩!」


 「任せろ!!」


 そうして瑠々と水夏も見事に泳ぎ切り、結果は3位でタイムの上では4位。どうにか彼女達は決勝に進出出来たのです!

 これには葵も目から涙を流して喜びましたが、それは観戦しているリラ達も一緒でした。



 午後のオープン決勝でも、同じ様に彼女達はそれぞれの種目を見事に泳ぎ切り、“余裕で”或いは“辛くも”全員が標準記録を破って地方進出を決めました。

 2日までの結果は以下の通りでした。


 1年のリラがバタフライ5位、更紗が自由形4位で地方進出。葵は背泳ぎ6位で予選敗退。

 2年は瑠々が自由形4位、真理愛が平泳ぎ3位、潤が背泳ぎ4位で地方進出。

 そして3年では忍とみちるがそれぞれでバタフライと400m個人メドレー共に1位で共に地方進出でした。尚、忍といがみ合っていた井澤はライバルだった忍相手に入れ込み過ぎたのか、ペース配分に狂いが生じて2位に転落してました。

同時にこの時、忍の中に“とある変化”が起こっていたのですが、それを話すのは次の機会に譲りましょう。


 残る団体でも400mメドレーで葵、深優、瑠々、水夏の4人が個人の部で振るわなかった分、予選以上の底力を発揮して決勝では2位入賞と、深優以外のメンバー全員が何らかの形で地方大会へ進出する運びとなりました。

 そして3日目の最終日、最後に残った深優も女子100m自由形で午前の予選を余裕で突破し、続く午後の決勝も4位でしたが難無く標準記録を破り地方進出。


 こうして瑠々の望み通り、霧船女子全員が一応何らかの形で関東大会に駒を進めると言う目的は達せられたのです!



はい、と言う訳で水泳大会の地区予選はこれにて終了!同時にこの四部作が令和初の投稿と相なりました!次回はまた水霊(アクア)達との日常パートの中でのリラの癒しを描いて行きたいと思います!


そしてそれを一通り書き終えたら次はいよいよリラの忌まわしい過去と、途轍も無い大事件を描いて行きますので乞うご期待!


キャラクターファイル26


シュトラーセ


年齢   無し

誕生日  無し

血液型  無し

種族   水霊(アクア)

趣味   人間の音楽の鑑賞

好きな物 真理愛の奏でるフルートの音


真理愛の身体に宿る内なる水霊(アクア)。白地に黒いグラデーションの入った身体に、赤と青のオッドアイをしたロリカリアの様な姿をしている。

複数に分身する事で一斉に浄化対象に吸い付き、穢れを吸い込み内側で浄化する。

潤の力でフルートの内側に宿る事によって、彼女の内なる水霊(アクア)のステラと共にリップルメロディーを奏でて広範囲の穢れを浄化して多くの命を癒す事が出来る。

真理愛の中で生まれた水霊(アクア)だが、彼女の強さと優しさと厳しさを持った気高い魂に磨かれて成長して来た為、その力は中級水霊(アクア)クラスである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ