第23話 水は我が友(承)
今エピソードから他の子達のライバルキャラが登場します……と言っても水泳で活躍させる描写は無いけどね(苦笑)。代わりに今後の水霊関係のエピソードで活躍して貰う予定なので、今回は顔見せと言う事でお許し下さい。
A決勝で瑠々が見事4位に躍り出、関東大会の標準記録を打ち破った時の事でした。
「やった…破れた……標準記録………!!」
会場の電光掲示板に大きく映し出された、4位の座に刻まれた自身の名前と、女子400m自由形の標準記録4:42.63を2.50秒も上回った『4:39.13の記録』。
去年超えられなかった壁を乗り越え、見事自分の力で関東大会に於ける個人戦の切符を手にした瑠々の目には、感涙の涙が浮かんでいました。
「やったッ!!瑠々先輩、地方進出だよ!!」
「あぁ、そうだな。」
葵と忍がそう言葉を紡ぐ中、みちるは黙ったまま優しい眼差しでモニターに映った瑠々の姿を見つめていました。
(おめでとう、星原。貴女は見事に限界を打ち破ったのよ─────。)
そんなみちると同様に、幼馴染みの水夏もまた瞳を潤ませながら自分の相方を見つめていました。同時に彼女も強く決意します。『自分も彼女に続く』と言う決意を─────。
(瑠々─────負けるもんか!私だって絶対に!!)
その瞳が強く輝いた時、水夏の中で彼女の内なる水霊であるレインが蠢きました。ですがこの時、宿主の水夏は勿論、リラや潤達水霊士も気付いていませんでした。水夏の中で、レインがより太く、大きく成長していた事を─────。
一方、関東大会進出を決めた瑠々に対して麗湖が歩み寄って来て言いました。
「結局決勝でも私の勝ちだったわね、瑠々?」
「麗湖……。」
ともすれば嫌味とも皮肉とも取られかねない言葉ですが、瑠々は目を閉じながら首を振って言いました。
「別にわたしはあんたと勝負してた訳じゃ無いわ。只、今いるメンバー皆と一緒に地方、それから全国に出たいだけ。そんで、その為に標準記録破ろうって必死だったってだけよ。」
「………。」
あれだけ啖呵を切っておきながら、まるで自分なんて最初から眼中に無かったと言う物言いにムッと顔を顰める麗湖。
そんな彼女に対して瑠々は続けます。
「去年駄目だったのだって、『あんたに負けない』だの『絶対勝つ』だの、下手に意識した所為で余計な力が入って、そんでペース配分間違えたからだったからね……。でもそんなわたしだから分かる。水泳は自分との戦い!他人に勝とうなんて考える前に、先ず昨日の自分を超えなきゃ駄目だって思ってやって来た。その結果がこれなら納得だわ。」
そうして背を向け、手を後ろ手に組みながら瑠々はこう締め括ります。
「麗湖、わたしはあんたの事、友達だって思ってもライバルだなんて思わない。だけど、あんたの見てる世界に興味が有るからわたしは頑張って付いてくだけ。関東大会であんたと一緒に自由形泳げば、また違う景色が見れるかな?」
その言葉に対し、麗湖はフッと笑みを浮かべて答えました。
「だったら頑張ってまた私に付いて来なさいよ。でも、モタモタしてたら置いてっちゃうから其処だけ注意してね?」
会場からフェードアウトして行く友人の背中に対してそう声を掛ける麗湖。一方、背を向けたまま手を振って返す瑠々の顔には、『今日為すべき事をやり切った』と言う笑みが薄らと浮かんでいました─────。
さて、その日の日程を終えて村上先生が仕事で学校に戻り、霧船女子一同が帰宅の途に就いた時の事です。
「瑠々先輩、水夏先輩、今日はお疲れ様でした!2人とも関東進出おめでとうございます!」
「其処まで才能無いって言ってたのに、練習の時より速く泳いでましたよね2人とも。」
1年の幼馴染みコンビである葵と深優の2人がそう言うと、瑠々と水夏はこう答えます。
「有り難う、葵、深優。わたしだって信じらんないよ。まさか標準記録破れて、個人戦で関東出れるんだからさ。」
「1年間の努力が報われて良かった……。」
「そうだな。星原も濱渦も、間違い無く進化してたぜ。2年間近く、怪我であたしが水泳から離れてた間もずっと頑張ってたのが分かる泳ぎだった!」
『1人でも欠ける事無く全国へ行く』────自分達2人がその目標を果たす嚆矢となれたとして、瑠々と水夏の目には嬉し涙が薄らと浮かんでいました。
そんな2人の言葉に対し、忍が頷きながらその成長を祝福する言葉を投げ掛けると、次に口を開いたのはみちるです。
「でも本当に驚いたわ。星原も濱渦も、予選の時もそうだけどA決勝でも凄い泳いでた。まぁ泳ぎ終わった時に相当疲れが溜まってたみたいだったから、後で汐月からアクアリウムで癒して貰ってたみたいだけど、まさかあれだけの力を秘めてたなんて驚きね!」
総体1日目を泳いだ瑠々と水夏────2人が自身の内に秘めたる力を解放し、まさか4位に浮上して標準記録を打ち破れる程の実力を発揮した事実に、みちる今でも興奮を隠し切れません。此処までバスト90も有る胸がときめいたのは、忍と一緒に泳いだ時以来でしょうか?
一緒に帰宅の途に就いていたリラと更紗、潤と真理愛も感慨深げに相槌を打って2年の幼馴染みコンビを見つめていました。
「その事なんですけど……」
すると瑠々が神妙な面持ちで語り始めました。予選と決勝の時、自身に起きた出来事を─────。
「最初は『負けるもんか!!』って……『絶対皆で全国行くんだ!!』って気持ちで思いっ切り泳いでたんです。でもそしたら、いきなり目の前にわたしの中の[[rb:水霊 > アクア]]────シュロが現れたんです。「アクアヴィジョン」も使って無いのに……。」
「え!?」
「どういう事!?」
「星原先輩の中の水霊が……!?」
これにはリラも驚かざるを得ません。競技中、リラはアクアリウムを封印すると決めていたので彼女は何もしていません。使うとしても全てが終わった後です。それが証拠に、予選が終わった後に瑠々と水夏にリラはアクアリウムを施していませんでした。それは同じ様に身体を疲労させながら泳いだ他の選手への冒涜になると考えたからです。
況してや瑠々はアクアヴィジョンで水霊が見えるとは言え、それ以外は特に何の異能力も無い一般人です。そんな彼女の目の前にシュロが姿を現した?一体どう言う事なのでしょう?
「いきなり出て来て、わたしの前をグングン泳いで先に行ったって思ったらシュロの奴、わたしの方を振り向いてまるで「早く来い!」って誘ってる様に8の字にグルグル泳いでたんです。それを見たら勝ち負けとかそう言うのが頭から飛んで、気付いたらシュロを追っ掛けて全力で泳いでました。標準破れたのだって、そうやって夢中で泳いだ結果って感じですね。」
瑠々の口から語られた事実に、皆開いた口が塞がりません。まさか内なる水霊が宿主の中から出て来てそんな事をしたのでしょうか?その時アクアリウムを封印して、意図的に水霊を見れなくしていたリラにはテミスに問うか、明日自身の目で確かめる以外に真実を突き止める術は有りません。
すると不意に水夏も手を挙げて、みちると忍に言いました。
「あの……私も同じ事が起きました。」
その言葉に、彼女以外の霧船水泳部のメンバー全員が水夏の顔へと視線を向けます。
「えっ?まさか……水夏まで!?」
残るメンバーを代表して口を開いた瑠々の言葉を受け、水夏はコクリと頷きつつ訳を話しました。
「そう……私が200m平泳ぎで瑠々と一緒に『絶対全国に行くんだ』、『瑠々の為にも絶対標準破るんだ』って気持ちで泳いでたら、目の前にレインが現れて私と一緒に泳ぐのが見えたんです。レインが私からどんどん遠ざかって行こうとしたのを必死で追っ掛けてたら、もうゴールしてしかも標準破ってました。瑠々と一緒でアクアヴィジョンなんて使って無いのに……。」
その言葉に一同は只々唖然とするしか出来ません。まさか水夏まで同じ事を経験していたなんて……。
「あの、星原先輩、濱渦先輩、1つお訊きしたいんですけど、本当にアクアヴィジョンは使って無いんですよね?自分の中の水霊以外、他の水霊の姿は見えませんでしたか?」
「そ、そうだよ2人とも!アクアヴィジョンを使ってるんだったら自分の中の水霊だけじゃなくって、プールとか周りを泳いでる沢山の水霊達が見える筈だけど?」
不意にリラがそう尋ねると、潤もそれに続きます。
2人に対する瑠々と水夏の答えはこうでした。
「え?ううん、シュロ以外の水霊は見えなかったわよ?」
「私も、レイン以外の水霊の姿はプールじゃ見えなかった………。」
これには水霊士のリラと潤は呆気に取られるしか出来ません。まさか2人の内なる水霊だけしか都合良く見えないなんて、そんなアクアヴィジョンが有るのでしょううか?仮に有ったとしても、水霊士ですらない2人にそんな芸当が出来る筈は無いのですが……。
「……こりゃあたし等が泳いで確かめるしか無さそうだな。」
2人の答えに対して周りが呆然となる中、口を開いたのは忍でした。
「丁度明日2日目はあたしとみちると飯岡と漣、それと汐月と長瀞と五十嵐の番だしな!あ、ついでにリレーで星原と濱渦もまた出るんだっけ?」
「そうね。リレーには五十嵐と吉池の2人も出るわ。まぁ吉池の方は最終日の女子100m自由形にも出るけど、実質明日はオールスター総出演よ!」
そう言葉を発する忍とみちるの顔には不敵な笑みが浮かんでいました。忍に至っては右掌に左拳を当てる抱拳を行い、闘氣を漲らせています。
「詳しい事はテミスに訊かなきゃ分かんないけど、多分わたし達が夢中で泳いだら自分の中の水霊が力を貸してくれるんだって思う。これから確かめて見なきゃ分かんないけどね!」
「きっとそうよ。2人の話を聞く限り、私もそれが1番妥当な答えだって思う。」
さながら海底の岩盤から漏れ出る海底温泉の如く、同じ様に2年の潤と真理愛も熱い闘志をその身体から立ち昇らせます。リラがアクアリウムを発動させて見ると、2人の中のステラとシュトラーセが蛍光色の光を放って輝いていました。言い忘れましたが同じ事はみちるのノーチラスと忍のヴァルナにも言えます。
因みに暗闇で光る魚は遺伝子組み換えによって実際に作られており、アメリカでは遺伝子操作を施した水生生物の扱いを2003年に禁じたカリフォルニアを除く全ての州に於いて、何とたったの5ドルで購入出来るそうです。
「私も……明日は頑張らないとね!」
「皆と一緒に全国行くって決めてんだもん!足引っ張んない様に頑張んなきゃ!」
「おっ、葵ったらやる気満々だね♪」
「何言ってんの?あんたもリレー出るんでしょ!」
同じく深優を除いて2日目の種目に参加する更紗と葵の2人の中のプラチナとアンジュも、彼女達の想いに合わせて光をその身から放ち始めていました。
「先輩達も葵ちゃん達もやる気満々ね。良し、じゃあ明日は私も頑張ろ!」
リラも無数のグッピーやプラティやモーリー型の[[rb:水霊 > アクア]]達を呼び集め、クラリアと共に自身の周囲を公転させます。
明日の競技に向けて闘志を漲らせる霧船女子ですが、彼女達は知る由も有りません。これから彼女達の前に、それぞれ縁の有るライバル達が立ち塞がる事になるとは………。
彼女達がそれぞれの家路に就いた時でした。
「星原も濱渦も頑張ったんだし、私も明日の個人メドレー……皆の為にも頑張って結果出さないとね!」
今日の後輩達の頑張りを見て、部長のみちるはそれに応えるべく明日は何としても関東大会への切符を掴まなければならない。
予選を突破するのは当然だけど、肝心の決勝でその為の標準記録である5:35.13を何としても破る必要が有ります。
けれど、百戦錬磨のみちるは焦ってなどいません。この程度の死線を彼女は何度も潜り抜けて来たのです。自分だってその水の都の並み居る猛者の1人なのだから─────。
暫く歩いて家が近くなって来ると、行き付けの喫茶店がみちるの目に飛び込んで来ました。『水底の森』と言う店名のその喫茶店で出されるミルクティーがみちるは好きだったのです。
「……リラックスも必要だし、寄ってこっか……。」
そうして店内に入ると、みちるは顔馴染みである店主のおばさんにミルクティーとミルフィーユのケーキセットを注文します。
「はいみちるちゃん、お待たせ!」
そうして運ばれて来た嗜好品に舌鼓を打っていると、不意にみちるに話し掛ける声が有りました。
「あら、みちるさん────?」
「えっ?」
声のした方を向くと、近くの席には自分と同じく体操着に身を包んだ、紺色の髪に黄色い瞳が特徴の少女が座っていました。アイスブルーのカラーリングと胸のオーロラと白鳥を象った校章のジャージ─────それは北静湖女学院指定の体操服です。
どうやらチェリータルトを食べている途中の様でした。一緒に頼んだドリンクのティーカップには、みちると一緒のミルクティーが半分程残っています。
「玉藻!?こんな所で奇遇ね!」
おやおや?どうやら「玉藻」と呼ばれたこの北静湖の女子は、みちると旧知の仲の様です。
「この様な所で出会うなんて本当に奇遇ですわね、みちるさん。まさか貴女もこのお店の常連だったなんて……。」
礼儀正しいお嬢様然とした振る舞いのこの少女の名は『[[rb:氷見野玉藻 > ひみのたまも]]』。先述した通り、蒼國でも北の外れの方に存在する北静湖女学院の3年生で、みちると同じく水泳部。但し、玉藻は部長では有りません。その代わり泳ぎの実力は彼女の方が上です。
「私達が泳ぐのは明日ですけれど、貴女も出場なさるのでしょう?去年と一緒で400m個人メドレーに。」
「えぇ、勿論その心算。去年は貴女に1秒差で負けたけど、今年は違う結果を見せてあげるから覚悟しておいてね、玉藻?」
「────喜んで受けますわみちるさん。貴女との勝負を。」
たかが1秒されど1秒。競泳の世界ではその差が勝敗を分かつ、決定的なまでに分厚い紙一重のそれになる事が往々にして有ります。
その差が2人の身体能力のそれなのかメンタルのそれなのかは今の所定かでは有りませんが、去年とは違うみちるの闘志を帯びた眼差しに、玉藻はフッと笑みを浮かべてそう返すのでした。
みちるがアクアヴィジョンを発動させて見ると、何の因果か玉藻の内なる水霊は自身のノーチラスに似た、漆黒の殻に紅い身体を持つアンモナイト型の水霊でした─────。
一方、所変わって今度は、海に面した蒼國の一級河川である『神船川』を帰宅途中に歩いていた潤と真理愛です。
「ねぇ潤、昨日お父さんからメールが届いたの。何でも、私の演奏するフルートが何処からとも無く聴こえたみたい。」
「えっ?それってもしかしてこの前の鯨の事件の後の事?」
「もしかしなくたってそうよ!あのセドナって言う鯱の水霊が本当に私の演奏を遠くの海の上にいるお父さんに届けてくれたのよ!」
先日の蒼國海岸で起きた事件の後、セドナに自身のフルートの演奏を聴かせた真理愛ですが、この時セドナはお礼として、彼女の父へとその演奏と真理愛の父への想いを届けてくれていました。
それは果たして、本当に遠い護衛艦いずもの乗員として勤務する父の中に届いていたのです。普段仕事で忙しく、中々連絡も取れない父がわざわざメールで真理愛にその事を伝えてくれた。
真理愛にとって、これ程嬉しい事は有りません。
そうして他愛も無い話に花を咲かせながら、潤が真理愛と歩いていた時でした。
「ねぇ、真理愛!真理愛でしょ!?」
不意に2人の後ろから真理愛を呼ぶ声がしたので振り返って見ると、其処には2人と同じ位の身長で、ベージュの髪にエメラルドグリーンの瞳が特徴の少女の姿が有りました。白いセーラー服に水色のリボンの制服は春湊高校の制服です。
「サリア?サリアじゃない!どうして此処に?」
突然現れた少女を「サリア」と呼ぶ真理愛に対し、潤は相手が何者か尋ねます。
「真理愛、誰なのあの子?」
「『貝塚サリア』。私と一緒の中学の同級生で水泳部のメンバーだった子よ。」
「貝塚さんって……あぁっ、去年国体で200m自由形に真理愛と一緒に出てたあの……。」
真理愛が潤に相手の事を説明すると、彼女は直ぐに相手が誰か思い出しました。どうやら地元でも有名な選手だった様です。そんなサリアが、嘗ての旧友の元に歩み寄ります。
「久し振り真理愛!今日会場の入り口で見掛けたけど、話す機会が無くってさ……。」
けれど、そう言い掛けた時でした。
「見つけたわよ飯岡潤!!此処で会ったが1億年目!!」
すると近くの茂みから突然誰かが飛び出して来たかと思うと、その人影は電光石火の速さで真理愛と潤の前に躍り出ます。これには先程現れたサリアも開いた口が塞がりません。
相手の女子は桜色のジャージに身を包んでいますが、これは蟹沢学園指定の体操着です。少女の外見的特徴としては紅い髪に紫の瞳の釣り目でした。
「えっ?貴女もしかして……かすりちゃん!?」
「だから私をちゃん付けで呼ぶなアァァ~~~~ッ!!!」
突然乱入して来たかと思えば潤からちゃん付けで呼ばれて声高に逆上して叫ぶハイテンション少女に、真理愛もサリアは言葉も出ません。
「ねぇ潤、もしかしてこの子、貴女と同じ潮中の……」
「うん。確か『鎧かすり』ちゃんって言う子。確かあの制服も蟹沢のだったと思うけど……。」
「やっぱりね……。」
「ちょっと!!『確か』って何よ『確か』って!?って言うか中学卒業してから暫く経ってるけど、あんたの中でどんだけ私は曖昧な存在になってんの飯岡潤!?」
目の前の「かすり」と呼ばれた少女の事を真理愛が知っていると言う事は、少なくとも彼女も中学時代からそれなりに名の知れた選手なのでしょう。
「もしかしてかすりちゃんも明日の競技に出るの?」
恐る恐る潤が尋ねると、かすりは得意気になって応えます。
「フッ…当然よ!あんたの得意な背泳ぎでボコボコにしてやるわ!胸がデカくなったからって男子からからかわれただけで、水泳から逃げた腰抜けのあんたを今日の午前中、会場前で見掛けた時は驚いたけど、同時にまたと無いチャンスだって思ったわ。中学時代、潮の真のエースが誰なのか?そして高校に入った今この瞬間、あんたと私どっちが上かハッキリさせなきゃ行けないからね!!」
かすりの発した『胸がデカくなったからってだけで、水泳から逃げた腰抜け』と言う言葉を聞いた途端、潤は思わずかすりから目を逸らしてしまいます。悔しいですが、彼女の言っている事は間違いでは有りません。
胸の大きさがコンプレックスで水泳を逃げたのは、確かに潤自身にとって切実な弱さですが、周りから見たらどうしたってちっぽけで愚にも付かない物と思われてしまうのでしょう。その所為で真理愛処か、自分の旧友にまで敵愾心を持たれるなんて……。
「絶対に200m背泳ぎであんたから1位の座を奪って見せるから!!まーブランクの有るあんたを蹴落としても面白くないけど、勝負の世界は……」
「あのー……」
かすりの力説に対して潤が弱々しく手を挙げて話の腰を折りに掛かります。
「何よ、飯岡潤?もしかして怖じ気付いたの?」
「わたし、200m背泳ぎには参加しないよかすりちゃん?」
「はぁっ!!?」
この言葉に思わずかすりは口をあんぐりと開けて呆然と立ち尽くすばかりでした。補足とばかりに、真理愛がこれに付け足します。
「本当よ。潤は明日の100m背泳ぎに参加するの。って言うか200m背泳ぎは明日じゃなくって明後日の最終日よ?」
至って良識的な回答ですが、真理愛のその言葉を聞いた瞬間かすりは、さながら褐虫藻が抜けて白化した珊瑚の如く真っ白になりました。
「嘘……マジで?」
「マジなの……。」
その言葉にコクリと頷く潤。
「って言うか貴女、大会スケジュールの日程と相手選手が何処に参加するか位事前に調べておきなさいよ……。」
呆れながらそう突っ込みを入れる真理愛ですが、すっかり意気消沈したかすりはそのまま体育座りしてブツブツと、悔やみ事を口走りながら落ち込んでしまいました。
「かすりちゃん、そう言う無鉄砲で後先考えない所は相変わらずだね……。」
嘗ての旧友に対してそう苦笑いしながら言葉を投げ掛ける潤ですが、不意に違う所からも同様の悲し気な声が聴こえて来ます。
「酷いよ真理愛、折角久し振りに会えたのに後からいきなり出て来た子の相手なんかして私の事忘れるなんて……」
何事かと思って声のする方を再度向けば、かすりの登場に自身の存在を丸ごと喰われたサリアがかすり同様、体育座りをしてブツブツと何やら早口で独り言を宣いながら落ち込んでいます。
「ちょっとサリア!貴女まで何やってんのよ~~~~ッ!?」
「2人とも何しに出て来たの……?」
一応2人はライバルとして試合前の挨拶にでも来た心算なのでしょう。然し、普通に真理愛に会いたくて来たサリアは、後から現れたかすりの盛大なズッコケに出番を食われてしまい、結局有耶無耶になってしまうのでした。
尤も、後で近くのもんじゃ焼きのお店で同じ釜の飯を口にした後、他愛の無いガールズトークを交わしてそれぞれの家に帰宅しましたけどね。
因みに真理愛と潤の2人がアクアヴィジョンで2人の内なる水霊が何か気になって覗いてみると、サリアの水霊は桜色の身体にシアン色の水玉をしたハコフグ型、かすりの水霊は紫色の身体に紅い鰭と瑠璃色のストライプが入ったフレームエンゼルでした―――――。
そして最後にライバルからの宣戦布告は彼女の元にも来ていました。
「忍先輩、スマホ鳴ってますよ?」
「あぁ、けど誰からだ?」
不意に鳴り響くスマホからの着信音。リラの指摘を受けて忍が着信画面を見ると、其処にはこう書かれていました。
『いよいよ明日ね日浦。怪我で泣いてた空っぽの2年と私の2年、どっちが上か思い知らせてやる!』
「先輩、もしかしてこれって……。」
「井澤の野郎、あたしに喧嘩売ってんな……。」
挑発的な文面でしたが、相手はホオジロザメなんて攻撃的にも程が有る魚の水霊を宿した人間。こんな事して来ても可笑しくは有りません。
『上等!入念に首洗って待ってやがれ!』
八尋に対してそう返し、忍は帰り道が一緒のリラが見守る中、2人で帰宅の途に就くのでした。
道すがら、リラの内なる水霊のクラリアが、忍のヴァルナと何やら話をしていました。
その夜、眠りに就いた忍は或る夢を見ました。
(何だよ此処?まるで真っ暗な海の底みたいじゃん……。)
右を見ても左を見てもダークブルーの世界。時折立ち昇る気泡から、其処が深い海の中だと言う事が分かりました。
すると不意に、目の前を1匹のエイが泳いでいました。その姿はどう見ても忍の内なる水霊のヴァルナでした。
(ヴァルナ?けど……何だよあれ……?)
忍の見ている前で、ヴァルナは光に包まれたかと思うと、何と其処からマンタの様な姿の水霊が現れ、そのまま2体の水霊はゆっくり静かに海面へと浮上して行くのでした─────。
さて、それぞれの因縁の相手から明日の試合前の宣戦布告を受けた翌日、総体2日目の朝がやって来ました。
午前9時45分から競技が開催される2日目、最初に霧船が出場する種目は100m背泳ぎの予選。参加者は葵と潤でした。
「じゃあ、行って来ます!」
「葵、頑張ってよ!」
「潤、貴女もしっかりね!」
「トップバッターなんだから2人とも、しっかりやりなさいよ!」
深優と瑠々の声援を受け、試合会場のプールに向かう葵と潤。
「葵ちゃん、今日は頑張ろうね!」
「はい、飯岡先輩!」
「フフッ、わたしの事ももう潤で良いよ葵ちゃん♪」
そんな遣り取りを交わす2人の前に、不意に話し掛ける声が有りました。
「あれ?貴女、もしかして五十嵐さん?」
「えっ……!?」
声のした方を向いた時、葵は驚きに目を見開きました。何故ならプールサイド前で葵に話し掛けて来た相手は何と、この前苦い失恋を経験した片想いの男子である陸奥春馬のガールフレンド“藤本珠得”に瓜二つの少女だったからです!
キャラクターファイル24
シュロ
年齢 無し
誕生日 無し
血液型 無し
種族 水霊
趣味 無し
好きな物 仲間の水霊とのタイマン
瑠々の身体に宿る内なる水霊。青紫のベタの様な姿をしている。
闘魚らしく、穢れを体当たりや尻尾攻撃等で殴打する様に浄化する。その他にも口から無数の泡を放射して穢れ水霊の動きを封じて浄化する他、泡の巣を作る事で穢れの侵入をシャットアウトすると共に中に入った者を癒す事も可能。
瑠々以前にも多くの人間の宿主を渡り歩いて来たらしく、多くの水霊と知り合いらしい。位は中級水霊で、その中でも中堅程度の実力。




